雨の季節にふさわしい、しっとりと優しい人間ドラマ 「六月大歌舞伎」第三部『ふるあめりかに袖はぬらさじ』観劇レポート
「六月大歌舞伎」の第三部の『ふるあめりかに袖はぬらさじ』は、まさに雨の季節にふさわしい、しっとりと優しい一幕だった。坂東玉三郎が勤める芸者お園をはじめ、新しい時代に飲み込まれる人々が織りなす、もの哀しくてでもどこか滑稽で、心から愛おしくなる、そんな人間模様が描かれている。
舞台は安政六年横浜の遊廓「岩亀楼」だ。といっても華やかなお座敷ではなく真っ暗闇の行燈部屋。聴こえてくるのも賑やかな下座音楽ではなく、汽笛、カモメの鳴き声だ。芸者お園が窓をガタガタと開けるやいなや澄み切った陽の光が差し込み潮風が吹き込む。この幕開きの明かりが本当に美しくて、観るたびに息を呑む。暗闇に差し込む明かりひとつで「ここは海に近い港町」と思わせてくれるのだ。
この部屋には花魁の亀遊が長患いで臥しており、お園が何くれとなく亀遊の世話を焼いている。吉原から流れてきたお園は大の酒好きで三味線の名手。
気風が良くて姉御肌。ふたりは吉原時代の知り合いで、亀遊もお園を姉のように慕っている。明るく早口なお園の高い声と、ややゆっくりな亀遊の声。対照的な語り口のふたりのおしゃべりが耳に心地よい。
そこへ亀遊を見舞いに通辞の藤吉も現れる。