リストとショパンの絶妙リンク──阪田知樹の注目公演
「2016年にフランツ・リスト国際ピアノコンクール(ハンガリー・ブダペスト)で優勝したときに決勝で演奏した楽曲。思い出深い作品です。おどろおどろしいタイトルどおり、すごくデモーニッシュな音楽ですけれども、グレゴリオ聖歌の旋律をもとに書いているということもあって、古い音楽へのオマージュ的な部分が見える部分もあったり。きわめて興味深い作品です。先述の“天使と悪魔”の協奏曲第2番との組み合わせがいいなと思っています」
後半の2曲、《ピアノ協奏曲第1番》と《ハンガリー幻想曲》には、リストのピアニストとしての系譜やハンガリー人としての出自が映り込んでいる。
「リストはカール・チェルニーの弟子で、そのチェルニーはベートーヴェンのお弟子さん。つまりリストはベートーヴェンの孫弟子ですから、間接的にとはいえベートーヴェンから教えを受けているという自負を持っていたと思います。じっさいベートーヴェンの作品をたくさん演奏していましたし、ピアノ・ソナタ全曲の校訂版も手がけたぐらいで、ベートーヴェンの音楽に対する尊敬をつねに忘れなかった人です。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番《皇帝》を、数えきれないぐらい弾いたと語っている記述も残っているのですが、彼がこの《ピアノ協奏曲第1番》を、《皇帝》と同じ変ホ長調で書いたというのは、『私はベートーヴェンの伝統をもって存在する作曲家である』という決意表明みたいな意図があったと思うんですね。