宝塚で話題作連発の演出家・上田久美子が生み出す物語のオリジナリティ
上田が手がけてきた作品は、時代や国、その歴史的背景や社会情勢、主人公の身分や職業もさまざまだが、SF物の芝居は初挑戦となる。しかし近未来の物語は、実はかなり以前から気になっていた題材だと言う。
「10年ぐらい前にiPhoneをみんなが持ち始めた頃、検索結果とか健康状態とか、個人のすべての情報を、その気になれば一企業が閲覧できるのがちょっと不気味だな、みんなはこれで平気なのかなとうっすら思ったんです。それが今や当たり前で、ゆくゆくはスマホが生命を維持するためのデバイスになるのではないかと。実際、人と何かについて議論する時にスマホを持って検索しながらしゃべるのと、使わないでしゃべらなければいけない時では、脳の動き方が違うらしいですし、記憶をすべて携帯やパソコンにアウトソーシングするようになると、例えば道を覚えなくてもよくなって、動物としての感覚や機能も変わっていきますよね。その重大な変化が、持っていたほうが楽しいからぐらいの軽い気持ちでどんどん広がっていくのが不気味で、せめて自分は自覚しながら加わりたいと思ったんです。でも、そのうちみんなの情報や精神までがひとつの中心に吸い寄せられ、吸収されていく光景が思い浮かんで、そこからこの話を思いつきました。