先例となる裁判例等がないため考え方はわかれるかもしれませんが、遅延の原因を作った乗客に対する請求についても難しい点があるのではないかと思います」(大窪弁護士)
契約上、遅延することなく運送してもらう権利自体がないというのはちょっと衝撃的です。現代では電車は遅れずに到着するのが当たり前と思われていますが、それはそういう契約だからではなかったのですね……。
■鉄道会社による損害賠償
では、鉄道会社から遅延などの原因を作った人物に対して損害賠償が請求されることはあるのでしょうか?電車を止めると高額の請求をされるという噂もありますが……。
「マスコミでも話題になりましたが、線路内に立ち入って事故が起こった結果、列車の遅れが生じたとして、事故を起こした故人の遺族に対して鉄道会社が損害賠償を起こしたことがあります。
この時に鉄道会社は、振替輸送代や乗客対応にかかる人件費として合計約720万円の請求を遺族に対して行っています。この件で裁判所は故人に責任能力がないこと、および遺族に監督義務がないこと等を理由として鉄道会社の請求を認めませんでした(平成28年3月1日最高裁判決)。
しかし、そのような事情が無ければ列車の遅れが生じたことによる損害について故人が責任を負った可能性があります。