国際的に高く評価を受ける演劇カンパニーTheatre Company shelf 『バイオ・グラフィ: プレイ(1984)』上演決定 カンフェティでチケット発売
これらの出来事が戯曲には取り込まれている。インテリで裕福に暮すキュアマンの人生は、スイスの男性中心社会を反映している。キュアマンが選択の自由を手に入れたにもかかわらず、同じ行動を選択しては失敗を繰り返す滑稽さは、女性の社会進出を容易に認めない男性社会を揶揄するかのようである。キュアマンは人生を思い通りに変えて「支配する」ことを望み、そして失敗を繰り返すが、怒鳴ることと暴力を振るうことだけは変えることが出来た。これをいわゆる権力を志向する男性の「女性化」として捉えるとき、戯曲は自分自身男性であるフリッシュの男性的価値観・社会システムに対する自己批判と解釈することも出来る。運命論を打破して人生の可能性を提示しようとする戯曲は確かにその提示に失敗していると言えるが、しかしその失敗の滑稽さの中に、そして失敗して演出家に非難されるたびに「もう一度」と何度もチャレンジし続けるキュアマンの中に、変化を拒む本当の原因が垣間見えてくる気がする。そこにこの戯曲が今なお、フリッシュ戯曲の中では4番目に多く、上演され続ける理由があるのだろう。フリッシュが分析し描くアイデンティティや人間の関係性などの個々人の個人的な小さな問題から、自己と他者との関係の中に潜む社会的(政治的)