くらし情報『潜る野田秀樹、推進する宮沢りえら、俳優の力に打たれる問題作』

潜る野田秀樹、推進する宮沢りえら、俳優の力に打たれる問題作

潜る野田秀樹、推進する宮沢りえら、俳優の力に打たれる問題作
水の中にしろ地面の下にしろ、潜ると人間の体の自由は制限される。というのは、常識の世界の話。演劇の世界では、俳優が役に深く潜るほど自由を得るという現象が起きる。ただしそれが起きるためには、並外れた技術と勇気を伴った想像力を持つ俳優、芯がきちんと書かれつつ余白のある役が必要で、両者の邂逅はめったにない。

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野田秀樹が俳優としてどっぷり役にハマり、役の輪郭線をぐいぐいと押し広げている姿を久々に観た。『THE BEE』のジャパニーズ・バージョンでのことだ。野田が演じるのは、脱獄犯・小古呂(おごろ)に妻子を人質に取られ、自宅に籠城されたサラリーマン・井戸。平凡な一市民だった彼は、自分を類型的な被害者に仕立てようとするマスコミや、乱暴で権威主義の警察に抗い、被害者から加害者へと変容していく。
野田はこの作品の作・演出家であり(脚本は共作)、イングリッシュ・バージョンで小古呂の妻を演じており、また『THE BEE』自体が2006年以来上演を重ねてきたから、この作品に対する筋肉が充分に温まっているのは当然だが、それにしても、知的で優しい男が暴力に目覚め、自分を正当化して残虐になっていく一連の演技には息を飲んだ。

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