くらし情報『潜る野田秀樹、推進する宮沢りえら、俳優の力に打たれる問題作』

2012年5月8日 18:43

潜る野田秀樹、推進する宮沢りえら、俳優の力に打たれる問題作

小柄な野田の体は、井戸の内側に生じた暴力性が化け物のように大きく、しかし静かに膨らんでいく過程を、はっきりと刻む。

井戸が人質に取る小古呂の妻を演じる宮沢りえがまた凄い。ストリッパーをしながら子供を育てている“女”と“母”の事情が生々しく入り混じる。集中力がすさまじく、舞台上の音や動きに敏感に反応するから、彼女が動くと、観客は否がおうにも狭いアパートの一室に引きずり込まれ、事件の遭遇者となってしまう。ただのエロスではない、物語を推進し、会場を飲みこむエロスがあふれているのだ。

百百山(どどやま)警部を演じる池田成志は、前半に強い存在感を残すことで、終盤、権威もニュース性も失墜した警察の空虚感を際立たせる。その緩急は、シンプルに見えて繊細な“受け”の演技の積み重ねだ。コンドルズのリーダーである近藤良平は初演からの続投で、複数の役をこなすが、白眉はダンサーの本領が発揮される5歳の小古呂の息子役。
儀式化する暴力の流れの中で生命力を失っていく儚さが、最小限の動きから伝わって来る。『THE BEE』は暴力を扱っているが、それがスキャンダラスなモチーフにならず、大きなテーマとして観客に伝わるのは、やはりこの4人の力が大きい。

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