次男ながら家業を継ぎ、ただただ実直に働いてきたであろう春樹は、長年抱き続けた想いが明子に通じたとき、子供のように取り乱す。「ずっと闇だった、オレの人生」に一気に光が射し、「……生きていけるよ、オレ。」と、生の実感をようやく見出すのである。
だがその半年後から始まる二幕では、結婚したふたりに早くも綻びが生じている。大造曰く「もてる女」である明子から見え隠れする他の男の影に怯え、嫉妬を膨らませていく春樹。明子も徐々に精神が不安定になっていく。互いの想いのベクトルが相手に向かっていることは客席からは明らかなのに、どうしてこんなにもすれ違ってしまうのだろう。春樹と明子の対比として描かれるのが、兄・大造と林鈴のカップル。想いのベクトルの話でいえば、風来坊であるらしい大造のそれは、真っ直ぐ林鈴に向かっているかは判然としない。
そもそもこのふたりには育った文化が異なるというハンデがあり、顔を合わせれば喧嘩ばかり。にも関わらず、不思議な安定が彼らを支えている。男女の仲は本当に不可思議だ。
ラスト、春樹は衝撃的な行動に出る。岩松作品にはままあることだが、今回は不思議と、その行動がストンと自分の中に入ってきた。