それらに伴って聴こえてくるライトモティーフも、作曲者の自己満足的な隠しアイテムとしてではなく、物語と有機的なつながりをもって、観る側の理解を助けてくれる。その一番の成功例がこの《ジークフリート》だろう。
聴きどころは何といっても主役ジークフリートを歌うステファン・グールドだ。ワーグナー作品の花形である「ヘルデン(英雄)テノール」の中でも屈指のハードな難役を、第1幕から全開でカッコよく歌う姿には惚れ惚れとする。リハーサルといえども声をセーブしようという気配など微塵もない。そんなことを言っている歌手にはこの役は歌えないのかもしれない。4時間近くも主役で歌い続けた挙句に、休養十分のブリュンヒルデ(なにせ十数年間の眠りから醒めたばかりだ)を相手に延々と愛の二重唱を歌わなければならないのだから。それを苦もなく聴かせるグールドの、まさに無尽蔵のスタミナ。
そのブリュンヒルデのリカルダ・メルベートは、「かつて神の戦士だったが、現在は神性を剥奪された女性」という役柄にふさわしく、硬質ガラスを思わせる、繊細な、しかし強い表現を聴かせる。ドラマティックな面だけがブリュンヒルデではないのだ。
さえない悪役であるミーメは、《ジークフリート》では前半の主役級だ。