登場人物は3人だけ!溝端、忍成、温水が挑む不条理演劇『管理人』が開幕
と持ちかけるが、彼らの関係性は少しずつ変化していく。
アストンの口調は穏やかで、振る舞いも紳士的そのもの。しかし、彼の真意がどこにあるのかはわからない。アストンの存在と部屋の様子のちぐはぐさ、下品さが隠しきれないデーヴィスの振る舞い。不穏な空気が高まりつつあるところに登場するミックは、張り詰めた空気を一気に破る。そして生まれる、新たな緊張。
演出の森が今回目指したのは「“笑える”ピンター」だという。緊張と緩和の中に生まれるおかしみ、テンポの良いセリフの応酬と緩急ある演技は、この作品が「不条理劇」であることを時に忘れさせてしまう。
演出はもちろん、この戯曲に真正面から立ち向かった俳優陣たちの力も大きいだろう。
戯曲が執筆された当時のイギリスは、国際競争力を失い経済は低迷、流入してきた移民たちとの衝突が絶えない時代。セリフの端々にも部屋の外の情勢がにおわされ、降り続く雨の音が“どこにも行きようがない”という状況を訴える。劇世界の持つ閉塞感は、どこか現代日本を生きる私たちが感じるそれと似ている。
3人ともが変化を求めながらも、進めないでいる。そう、停滞と安全は紙一重だ。そしてその均衡が壊れるのは大抵些細な、愚かなことがきっかけ。