美輪版が、ピアフを最後に支えたテオ・サラポという人物に強く光を当てているのはそのためだ。20歳下の男性との互いを与え合うような純粋な愛は、きっと、心救われる思いになるはずである。
「水に流して」という歌にも、ピアフの生き方は表れる。貧しい生まれから一躍才能を認められ、幾度も奈落に突き落とされながらも自分を高める努力をして這い上がっていった彼女が、良かったことも悪かったこともすべて水に流して再出発しようと歌うその力強さは、大いに励みとなる。
「地獄を見た人は強いわけです。それでも今ここに存在しているということは、生きる力があったという証拠なのです。それは私自身にも言えることです。上京して音楽を始めたものの家が破産してホームレスになったり、『ヨイトマケの唄』で素顔で歌えば商品価値がなくなったと干されたり、死にものぐるいでここまできました。
だから、エディットの心象風景が手に取るようにわかります」。美輪が演じるピアフが鬼気迫るのは当然なのである。テオ・サラポに木村彰吾、妹シモーヌにYOUと、前回に続くキャストも揃う。「デジタルにシフトしているこの時代、精神は安らぎを求めています。この『愛の讃歌』がみなさんの心の栄養になればと思っています」