チャイ・コン優勝20周年。新境地を開拓する佐藤美枝子の現在
それでも栄冠を獲得したのだからすごい。もう1曲の本選曲《ルチア》の狂乱の場の圧巻の素晴らしさは、当時発売された実況CDでも聴くことができる。彼女の代名詞とも言えるコロラトゥーラの超絶技法を駆使するこの難曲は、もちろん秋のリサイタルでも聴ける。
今回の選曲は、自分の表現、自分の声の色に徹底的にこだわった。「叙情だったり、激しさだったり、自分が今できることを最も出せる曲を選びました」。声の色やニュアンスだけで情景が浮かぶような表現者になりたい。高校時代にマリア・カラスのレコードで衝撃を受けて以来、その思いは変わらない。「ずっとそれを追い求めて、できることの幅も広がって自信もついて来たけれど、まだまだ勉強。
たぶん歌手人生が終わっても、自分の生徒たちにそれを求めてゆくことになるのだろうと思います」
もうひとつ、今回の大きな挑戦だというのが声質とレパートリーの拡大だ。彼女が最も得意とするのは、ソプラノの中でも一番軽いレッジェーロの声質のレパートリーだが、年齢とともに声はふくよかに、重くなってゆく。今回はその重い声のための曲も加えた。「レッジェーロが歌えなくなってレパートリーを変えるのではなく、常に両方を歌えるような歌手でいたい。