20世紀を代表する名曲にして、初演のパリで大きな物議を醸した問題作を、ギルバート×都響はどのように聴かせるか。「私は音楽で物語を語りたい」というギルバート、音響的な衝撃性にもまして、音楽のテーマとなった古代ロシアの生贄の儀式を浮き彫りにする全体像をイメージしているはず。不協和音と変拍子に彩られたバレエ・リュスの異形の舞台を、デラックスな都響サウンドで再現してくれそうだ。
ギルバートの指揮の魅力は、伝統の重さとモダンでエレガントな軽さが表裏一体になっているところ。変幻自在で予定調和に陥るということがなく、予想外の瞬間に音楽が突然巨大化することがある。指揮者がやりたいことをイメージ通りに演奏する、クオリティの高いオーケストラのレスポンスが求められるのだ。精緻なアンサンブルと演奏技術によって、ハイレベルなスーパー・オーケストラとしての地位を不動にしている都響にとって、いくつもの「想定外」を投げかけてくるギルバートはまさに待ち望んでいた未来の指揮者だといえる。12月には2種類のプログラムが組まれており、どちらも聞き逃せない刺激的な選曲。
コンサートでは魔法の瞬間が何度も訪れそうだ。
文/小田島久恵(音楽ライター)