老いと若さをめぐる葛藤のドラマを美しき歌手たちが演じる『ファウスト』
発音も美しく、瀟洒なフレージングはイタリアもの以上に彼の魅力を引き立てる。中でもオッフェンバックの『ホフマン物語』のホフマンは当たり役で、次々と登場する悪役に苦しめられる演技は、表現力豊かなグリゴーロにはまっていた。『ファウスト』は『ホフマン…』に少し似たところがある。老いたファウストに死後の魂と引き換えに若さを売るメフィストフェレスは、ホフマンに登場する悪役4役とどこか重なる。
メフィストフェレスを歌うのはオペラ・ファンにはお馴染みのバリトン、イルデブランド・ブルカンジェロ。前回の引っ越し公演では『ドン・ジョヴァンニ』のタイトルロールを歌った。グリゴーロとダルカンジェロの葛藤に満ちた掛け合いは、今回の来日公演でも大きな見どころだ。ふたりともグッド・ルッキングで芝居が達者、美声な上に美形なのである。
マルグリートにはパッパーノも「驚異的に成長している」と太鼓判を押すレイチェル・ウィリス=ソレンセン。彼女もとても美しい歌手だ。デイヴィッド・マクヴィカー演出はドラマティックで驚きに満ち、引き込まれる仕掛けがたくさん潜んでいる。ファウスト、メフィストフェレス、マルグリートの有名なアリア、デラックスな合唱、洗練の極みのオーケストラ…魅力満載のオペラだが、なぜか日本での上演は極めて少ない。