これはたまらぬと、彼女を追い出すため、パスクワーレがふたりの結婚を認め、正体を明かしたノリーナも許して、めでたしめでたし。悪女となったノリーナに振り回されるパスクワーレは、気の毒なのだけれど抱腹絶倒の喜劇の見せどころ。
歌手たちはいずれも水準が高い。そしてそれだけでなく、キャスティングの巧みさに唸らせられる。パスクワーレ役のロベルト・スカンディウッツィのノーブルで深いバスは、ちょっと頑固だけれど悪意はない金持ち老人の孤独な悲哀を巧みに表現する。まじめな人がまじめに騙されるからこそ喜劇。コケティッシュな魅力を振りまきながら、高音の超絶技巧をこともなげに繰り出す新星ハスミック・トロシャンのノリーナには誰もが夢中になるはず。そしてエルネスト役のマキシム・ミロノフの甘いベルカント・テノール、マラテスタ役のビアジオ・ピッツーティの輝かしい声と切れ味ある演技。
主要人物たちのキャラクターが声質でも明確に描き分けられているから、各アリアはもちろん、重唱の魅力や面白さが際立って聴こえてくる。ステファノ・ヴィツィオーリの演出は、1994年にスカラ座で初演された定評あるプロダクション。機械仕掛けの舞台転換を目の前で見せる趣向で、ノリーナの登場シーンで、彼女が座るソファが音もなく迫り出てくる仕掛けはイリュージョン。