「《スペードの女王》と《マゼッパ》は、どちらもロシアの最も優れた詩人であるプーシキンの原作によるオペラです。ただし《スペードの女王》では、原作とオペラでは多くの点が異なります(オペラ台本の執筆はチャイコフスキーの弟モデストによる)。それをプーシキンの原作に近づける演出も少なくないのですが、私の演出は、マエストロ・ゲルギエフの音楽と補い合うようにして、チャイコフスキーの構想に合致した作品になっていると思います。私が音楽の作り方に関して感じるのは、あくまでも主観でしかありませんが、まだレニングラード音楽院の学生だった頃に観たユーリ・テミルカーノフ指揮の《スペードの女王》は、非常に強い印象を残すものでした。彼はすべての間や余白を拡大していました。ゲルギエフの指揮は、それよりさらに、オーケストラの重さや暗さを強調しています。これがサンクト・ペテルブルグのスタイルだと思います。荘厳な間や、宇宙的な規模にまで達するかと思うようなクレッシェンド、そしてまったくの静寂。
ゲルギエフはそれを鋭く感じ取っています」
そんな壮大なスケールのゲルギエフの音楽が、チャイコフスキー作品のさまざまな側面を振幅大きく描き出す。