森新太郎「確かなものを感じる」小瀧望主演『エレファント・マン』
ようやく今、できはじめているなと思います。そういうことができると、気付けばお客さんも登場人物と一緒に静けさの中に閉じ込められてしまうんです。そういうものが今やっと演劇として目の前に立ちあがってきて、僕は演出家であることを忘れて興奮を覚えました。劇場に来られる人は、彼や彼女たちと同じように呼吸して、ひとつの物語を共有するのかなって。それは、演劇が再開したなと感じて嬉しいです」と手応えを語った。
限りなくシンプルな舞台美術の中で、メリックをはじめとする登場する人物全員の感情やそれが絡まる様が浮き立って見えるような作品。小瀧は特殊メイクを施さず身体を湾曲させ、発声方法も変えながらメリックというピュアな人物を演じる。そのメリックと対峙するのは近藤演じるトリーヴズ。
順風満帆だった人生でメリックと出会い、初めて己と向き合い苦悩する複雑な心理が印象的だ。さらに高岡や木場、花王おさむ、久保田磨希、駒木根隆介、前田一世、山﨑薫という面々がそれぞれの役柄(小瀧以外は全員兼役)を丁寧に演じ、メリックを軸にして人間や社会など実にさまざまなものが表現される。同名映画とは違う切り口で“エレファント・マン”を描く本作は、11月23日(月・祝)まで東京・世田谷パブリックシアターにて上演中。
文: 中川實穂