それを見て、将が、「いい女を逃したな」と悔しがる姿を見たら、きっとその時、あの苦しくてみじめだった恋は、初めて昇華される。そこから、新しい一歩が踏み出せる気がした。
偶然将に会ったのは、そんなある日のことだった。
上司に言われて出席した社内のセミナーで、最後に会議室を出ようとしていて、肩を叩かれたのだ。
久しぶりに見る将は、前よりも少しふっくらしたように見えた。
「よ!お前も来てたんだ」
にっこりと笑う。その表情は、不思議なほどに付き合っていたころのままだった。記憶の中に貼り付いている、別れた時の重苦しい表情が嘘のようだ。
「あ、ああ。久しぶり・・・・・・」
思わず、自分のその日の服装を、ちらっと目で確認してしまう。そんなに気の抜けた格好はしていないはずだが、もうちょっと高いヒールを履いていればよかった、と後悔する。
「今日はちょっと時間ないんだけど、また今度!お茶でもしよう。連絡する!」
将はそう言って、手を振って去って行く。同僚に追いついて、エレベーターの向こうに消えて行った。
・・・・・・来た。千載一遇のチャンス、到来。
唯香は頬が火照るのを感じた。
こんな日をずっと待っていたのだ。