一真は、舞を振り切って、立ち上がった。
「もう、俺なんか忘れてくれ。俺が悪いんだ。俺、お前の期待には絶対に応えられないから」
「やだ・・・・・・待ってよ。一真。もう一度考え直してよ。私、もう泣き言言ったりしないから。文句言ったりしない。
だからお願い・・・・・・!」
舞は泣きながら去って行く一真の背中に叫んだ。でも、一真は振り返りもせずに、玄関に立って、肩をふるわせて、言った。
「ごめん、舞」
そして、飛び出そうとした舞の目の前で、アパートのドアが、非情にもガチャン!と音を立てて閉じられた。
「やだよ、一真――――!うわああああ」
舞は玄関に泣き崩れた。
あれから、5年。ずっと一真のことは忘れられなかった。
何度も何度も、自分のしたことを思い返しては、記憶の中の自分を呪い殺したい気持ちになった。なんであんな風に疲れ切った一真を追いつめてしまったのか、せめて、「また今度会って話そう」という言葉を受け入れられなかったのか、自分を責め続けた。
男の我慢の気持ちは、水をいっぱい張った甕(かめ)のようなものなのだ。
ずっと限界まで我慢して我慢して、なんとか関係を維持しようとするけれど、ある限界点を超えてしまうと、そこで決壊する。