現在公開中の若き教師と村の人たちや子どもたちの心の交流を描いた映画『ブータン 山の教室』より、伝統歌“ヤクに捧げる歌”を歌うセデュに主人公が初めて出会い、歌を教えてほしいと頼む本編映像が到着した。パオ・チョニン・ドルジ監督が「ブータン人の生活、人生、そのすべてが詰まっている」と語り、本作の重要なシーンで流れる伝統歌「ヤクに捧げる歌」。到着した映像では、ストーブの燃料になるヤクの糞を集めている途中、美しい声で「ヤクに捧げる歌」を歌うセデュに出会うウゲンが、「いつもここで歌を?どうして?」と問い、セデュが「歌を万物に捧げているのよ。人動物神々この谷の精霊たちにね」と答える。そして思わず、歌を教えてほしいとセデュに頼むウゲン。秘境ルナナ村から早く都会へ戻りたいと考えていた彼の中に少し変化が現れた場面となっている。ドルジ監督は「この歌は、高地で暮らすヤク飼いの歌です。人生について多くのことを教えてくれると同時に、私たちが暮らす自然と大地への感謝も歌われています。さらに、仏教がいかなるものなのかも伝えています。輪廻転生などについても触れられているんです」と説明し、「私がこの歌を選んだのは、私たちが学ぶべき素晴らしい教訓は思いがけない場所から届く、ということを思い出してほしい、と考えたからです」とコメントしている。『ブータン 山の教室』は岩波ホールほか全国にて順次公開中。(cinemacafe.net)■関連作品:ブータン 山の教室 2021年4月3日より岩波ホールほか全国にて順次公開©2019 ALL RIGHTS RESERVED
2021年04月15日いろいろと制限を強いられる生活のなかで、改めて「幸せとは何か」について考えている人も多いのでは?とはいえ、簡単に答えが出る問いではないだけに、さらに悩んでしまっているという人もいると思います。そこで、オススメしたい最新作は、“世界でもっとも幸せな国”と言われているブータンから届いた珠玉の1本です。『ブータン 山の教室』【映画、ときどき私】 vol. 371ブータンの都市部に暮らす教師のウゲンは、オーストラリアに行って歌手になることを密かに夢見ていた。ところがある日、上司から呼び出され、ブータンでも一番の僻地と言われるルナナという村の学校へ赴任するように告げられる。険しい山道を登り、1週間以上かけて標高4,800メートルの地に位置するルナナに到着したウゲン。電気も通っていない村で、現代的な暮らしから完全に切り離されたことを知る。すぐにでも街に戻りたいと思っていたウゲンだったが、キラキラと輝く子どもたちの瞳と荘厳な自然とともにたくましく生きる村人たちの姿を見て、少しずつ変化していくことに……。さまざまな映画祭で観客賞を受賞し、アカデミー賞の国際長編映画賞のブータン代表にも選出された本作。そこで、見どころについてこちらの方にお話をうかがってきました。パオ・チョニン・ドルジ監督作家、写真家、映画監督として幅広い才能を発揮しているドルジ監督。今回は、念願の長編デビュー作となった本作に込めた思いや興味深いブータン文化の真髄などについて、語っていただきました。―この物語を作った理由は、ブータン独自の文化や伝統が失われつつあることを危惧していたからということですが、1999年にテレビとインターネットがブータンで解禁されたことが影響を与えているとお考えですか?監督まさにその通りだと思います。これまで何度もインタビューを受けていますが、それをはっきり言及してもらったのは初めてですね。1999年にそれらが解禁されたことによって引き起こされた“ブータンの開国”というのは、本当にひと晩で起きた出来事。あまりにも急激な変化だったので、準備ができていなかったブータン人はついていくことができないほどでした。そういったことがあり、いまのブータンはさまざまな課題を抱えることになってしまったのだと思います。―当時、監督は16歳で多感な時期だったと思いますが、監督自身もその前後で影響を受けた部分もありましたか?監督実は、僕自身は一般的なブータン人とは少し違う立場にありました。というのも、当時はブータンにいましたが、その前に何年もスイスに住んでいてヨーロッパにいたことがあったので、すでにほかの世界がどういうものかというのを知っていたからです。それに対して、学校の友達や多くの若者たちは外のことを何も知らなかったので、テレビをつけたらいきなりエミネムがラップしていたりして、ものすごいカルチャーショックを受けたと思います。実際、ブータンの人たちはその日以降、人生というものを違う視点から見るようになったほど。それに合わせて、社会の定義も変わっていったように感じています。ブータンは伝統的に女性が強い母系社会だった―テレビやインターネットは、そこまで大きな影響を及ぼしていたのですね。監督ちなみに、ananwebの読者は女性が多いということなので、女性に関することをお話すると、ブータンというのは伝統的に女性の立場が強い国で母系社会。土地や家も長男ではなく、長女に引き継がれることになっているので、家のなかでも長女が一番権力を持っていると言ってもいいと思います。結婚制度に関しても一夫多妻の場合もあれば、逆にひとりの妻に何人も夫がいる場合もあったほどですから。ただ、現代社会においては、一夫一婦制がいいとされていて、男性のほうが支配しているらしいということを知ったことによって、徐々にブータンも変わっていったんです。―ということは、母系社会だったブーダンがほかの世界から影響を受けてだんだん男性が優位な社会へと移行していったということですか?監督完全な母系社会だったというわけではありませんが、いまよりもバランスが取れていた社会だったかなとは思います。もちろんいまでも女性が強いところも残ってはいますが、そのほかの世界ではかなり男性が優位で、男性が重要な地位を占めているということに影響された部分はあると言えますね。―非常に興味深いお話です。ブータンといえば、“国民総幸福の国”とも言われていますが、何がブータンのみなさんを幸せにしていると思いますか?監督そのことは映画のなかでも描いていますが、それはウゲンがルナナで学んだことと同じで、「足るを知る」というブータンの伝統的な幸せに対する基礎があるからだと思います。ただし、急激な近代化によって、ブータンの人々も以前ほどは満足していないところがあり、いまはより物質的な豊かさに駆られているように感じているところです。幸せを求める旅路そのものが幸福だと感じる―今回の作品を通じて、監督自身の幸せに対する考えは変わりましたか?監督幸せというのはとてもつかみにくいものなので、「満足することが大事」とか「ものごとを受け入れることが幸せだ」と口で言うのは簡単ですけど、実践するのはとても難しいことですよね。”幸せの条件”というのは、つねに変わっていくものでもあるので、幸せでいるためには、瞬間瞬間ごとに自分で意識することが大事。人生の目標が幸せになることなのではなく、幸せを求める旅路そのものが幸福なんだと考える必要があると僕は思っています。―日本は世界でもトップレベルの豊かさを誇っているにも関わらず、国民の幸福度は世界ランキングでも年々下がっています。日本に何度も来日されたことのある監督から見て、なぜ日本人は幸せではないと思いますか?監督日本人の素晴らしいところは、勤勉さや規律の正しさ、あとは働き者であること。僕は日本のみなさんのそういうところを非常に尊敬しているのですが、同時にそれらによって大きなプレッシャーを感じている部分もあるのではないかなとも思っています。僕はいつも、人や物事の一番いいところは同時に欠点にもなりえると感じてきました。つまり、諸刃の剣だと言えると思いますが、日本人のそういう部分は諸刃の剣でも“裏の部分”になるのではないかなと。ただ、ブータン人たちは、日本人の勤勉さには本当に驚かされているんですよ。日本もブータンも求めているものは同じ―確かに、日本人にはそういう側面もあるかもしれませんね。では、近代化した日本と真逆のルナナに暮らす彼らから学ぶべきことを教えてください。監督ブータンには「すべての生き物は動き続ける」という教えがあり、それは小さな昆虫から人間までを含めたすべての生き物のことを指していますが、生き物が動き続ける目的は、幸せを探すためだと言われています。ルナナの人が一番大切にしているのは、ヤクという動物のフンなので、技術が進歩している日本とは逆のように見えますが、どちらに住んでいる人もずっと動き続けていますよね?つまり、一見両極端のように見える日本人とルナナの人たちでも、求めているものは同じ「幸せ」です。なので、もしこの映画が日本の方々に思い出させることがあるとすれば、「自分が求めている幸せというのは、実はシンプルなことのなかに見つけられるかもしれない」ということ。それらをルナナの人たちの生活のなかに見ることができるのではないでしょうか。実際、彼らは日常生活において、本当にシンプルなことで満足しているんですよ。―なるほど。ちなみに、監督が日本から影響を受けていることや好きなものはありますか?監督日本というのは、近代化している先進国ではありますが、それでも文化や伝統が色濃く残っているところが素晴らしいので、称賛の気持ちであふれています。なかでも僕が特に好きなのは、菩薩像がたくさんある京都のお寺。そんなふうに伝統が近代的な生活様式と共存していることには驚かされました。そのほかに、僕は日本のアーティストたちから大きな影響を受けていて、作家では谷崎潤一郎、映画では小津安二郎、黒澤明、是枝裕和といった方々から非常に多くのインスピレーションをもらっています。ルナナに行って、人生に感謝する気持ちが芽生えた―今回の撮影についてもおうかがいしますが、ブータンでも一番の僻地で撮影するにあたって、さまざまな困難に見舞われたとか。そのなかでも一番きつかったことをいま振り返るとすれば、どんなことですか?監督ルナナで撮影をするという自体が、本当にチャレンジングなことでした。なので、現地に行く前は、おそらくルナナで撮影することは不可能だろうと諦めていたこともあったくらいです。実際に、頭のなかではウゲンが山に行ったところで映画が終わるかもしれないという覚悟もしてたほどですから。そんな状況でどうにか山でも撮影できたことに対しては、本当に感謝しかありません。―これだけ便利な暮らしをしているなかで、いきなり携帯もつながらない場所で過ごすのは大変なことが多かったのでは?監督確かに、電話を使うことができなかったのは大変でしたね。十分にチャージできないこともありましたし、チャージできてもひとつのメッセージを送るのにかかる時間は2~3日。送信ボタンを押したあと、送信中のマークがずっとグルグルしていて、数日したらやっと送信済になる、という感じでした(笑)。本当に外の世界と遮断されたような生活を送っていたんですよ。―でも、それによって新たな気づきもあったのではないでしょうか?監督そうですね。そこで気がついたのは、素朴な暮らしが持つ美しさ。現代社会のなかにいると、スマホやテレビなど、気を取られてしまうものにたくさん囲まれていることがわかりました。いっぽうルナナでは、自分と自然が共存しているだけで、ほかには何もありません。そのときに人生をより味わうことができると感じましたし、よりよい人間になりたいという気持ちにもなりました。ルナナの人たちは最低限のベーシックなものだけで生きているので、それを見て僕も人生そのものに感謝する気持ちが芽生えたんだと思います。本当に、人生が変わるような瞬間でした。生きる喜びと自然の美しさを実感する!仕事やプライベートで、いろいろなことに追われてばかりいると、大事なことをつい見逃してしまうもの。人間らしい生活を送るルナナの人たちの生き方を目の当たりにすることで、人生における幸せや真の豊さとは何かを知ることができるはずです。日本では決して見ることのできない圧倒的な自然の景色とともに、心が浄化されるのを感じてみては?取材、文・志村昌美温かい気持ちになれる予告編はこちら!作品情報『ブータン 山の教室』4月3日(土)より、岩波ホール他にて全国順次公開!配給:ドマ©2019 ALL RIGHTS RESERVED
2021年04月02日ブータンの秘境、ルナナ村に都会から赴任した若き教師と村人、子どもたちの心の交流を描いた映画『ブータン 山の教室』より、4月の公開に先駆けて、本編映像が到着した。若手教師のウゲンは、ある日教官からブータンの秘境、ルナナにある学校に行くよう告げられ、ミュージシャンという夢を抱きながらも、渋々ルナナ村に行くことに。1週間以上かけ辿りついたその地には、「勉強したい」と真っすぐな瞳で彼の到着を待つ子どもたちがいた。慣れない土地での生活に不安を拭えなかったウゲンだったが、村の人々と過ごすうちに自分の居場所を見つけていく――。各国の映画祭で絶賛され、第93回アカデミー賞国際長編映画賞ブータン代表に選出された本作。舞台となる標高4,800メートルの地にあるブータン北部の村ルナナで暮らすのは、大自然とともにある日常に幸せを見つけ生きる大人たちと、親の仕事の手伝いをしながらも、学ぶことに純粋な好奇心を向ける子どもたち。写真家としても活躍するパオ・チョニン・ドルジ監督は、長編デビュー作となる本作で「ブータンの独自性を記憶に焼き付けたい」と人々の笑顔あふれる暮らしを圧倒的な映像美で映し出した。今回到着した映像は、僻地にある学校へ渋々赴任した若き教師ウゲンが、子どもたちを前に最初の授業を始める様子が映し出されている。黒板もない教室に戸惑いをみせる中、ウゲンが自己紹介し、続いて子どもたちが自己紹介をしていく。歌手になりたいペム・ザムは、大人びた歌詞の歌を披露し、一方、先生になりたいというサンゲは、「先生は未来に触れることができるからです」とまっすぐにその理由を述べ、ウゲンは複雑な表情を一瞬浮かべる様子も。実は、教師を辞めてオーストラリアに行き、歌手になることを夢見ていた…。本作は、実際にルナナ村にある学校で撮影され、生徒役は全員村に住む子どもたちが演じている。学級委員として登場するペム・ザムについては監督が「ペム・ザムが出ているシーンすべてが一番印象的だった」とふり返っており、「彼女はどれほどの美しさ、無邪気さをこの映画にもたらしてくれたか」と大絶賛している。映像最後には、そんなペム・ザムと監督が初めて会った日に実際に監督に聞かせたという歌を歌うメイキング映像も収録されている。また、本作をいち早く鑑賞した著名人から「子どもたちの好奇心に満ちた輝く瞳と、山の神々や大自然に捧げられるこの歌声が、気付かせてくれる。大切なことは遠くにあるのでは無いことに、近代的で便利な日々にあるのでは無いことに」(渡辺一枝/作家)、「すっかりルナナのファンになってしまいました」(加藤登紀子/歌手)、「現代ブータンの発展にまずはびっくり。その対極にあるルナナの人々の純粋さと強さに心打たれ、何気ない場面に幾度も涙があふれました」(紺野美沙子/俳優・朗読座主宰)などといった絶賛のコメントも到着している。『ブータン 山の教室』は4月3日(土)より岩波ホールほか全国にて順次公開。(cinemacafe.net)■関連作品:ブータン 山の教室 2021年4月3日より岩波ホールほか全国にて順次公開©2019 ALL RIGHTS RESERVED
2021年03月26日「すごく似ている感じがします。木とか草とか、そういうところが」悠仁さまは「ブータンと日本の違いは?」と記者から質問され、はきはきとお答えになった。さらに秋篠宮さまから「どう違う?」と質問を受けた悠仁さまは「まだわかんない」と正直におっしゃるおちゃめな面もお見せに。8月17日、ブータン王国に到着された秋篠宮ご夫妻と悠仁さま。20日、首都・ティンプーでハイキングをされながら取材に応じられたのだ。このブータン旅行は、悠仁さまにとって初めての海外ご訪問。「今回はあくまで“私的訪問”となっていますが、秋篠宮家と親交の深いブータン国王一家からの招待に応えてのご訪問です。悠仁さまにとっては“皇室外交デビュー”と言っていいでしょう」(皇室担当記者)19日には、ブータン国王夫妻とご面会。ワンチュク国王は悠仁さまと固く握手を交わし「ベリーハンサム。ベリーベリーハンサム」と大絶賛した。20日には、5~16歳の子供たちが通う公立学校へ。悠仁さまは英語で自己紹介をされたという。「悠仁さまは紀子さまのすすめで、NHKの番組を見る際には英語の副音声を聞かれているそうです。そうした努力の賜物でしょう。ただ、17日に国立博物館を見学されたときには、館長による英語の説明をお聞きになった紀子さまが悠仁さまに逐一補足説明をされていたので、さすがにまだ“通訳なし”というわけにはいかないようですね」(宮内庁関係者)悠仁さまの“帝王教育”はおもに紀子さまが担当されてきたといわれるが、今回のブータン旅行は秋篠宮さまが主導されたという。「秋篠宮さまはブータンに詳しい知人の学者に協力を仰ぎ、10日間にわたる旅をコーディネートされたそうです。ただ、取材陣には出発当日まで旅程が知らされないなど、前代未聞の事態も生じています。秋篠宮さまが張り切っていらっしゃる一方で、周囲からは不満の声も上がっていたのです」(前出・皇室担当記者)しかし25日、紀子さまに付き添われご帰国された悠仁さまは穏やかな笑みを浮かべられていた。そのご表情は、今回の旅がいかに充実していたかを物語っているようであった。
2019年08月28日日本のメディアではよく「世界一幸せな国」と紹介されるブータン。ヒマラヤに残るこの最後の仏教王国は長年鎖国をしていたため「神秘の国」としても知られていたが、1991年に国連に加盟して以来急速な近代化が進んでいる。日ごとに変容を遂げるそんなブータンに生きる、ある家族の物語を描いたドキュメンタリー映画が『ゲンボとタシの夢見るブータン』である。今回Be inspired!は日本での公開を8月18日に控え来日した同作の監督、アルム・バッタライ氏とドロッチャ・ズルボー氏にインタビューを行った。アルム・バッタライ氏(左)とドロッチャ・ズルボー氏(右)小さな小さな物語に光を当てる『ゲンボとタシの夢見るブータン』で焦点が当てられるのは、ブータンのなかでも伝統が色濃く残る地域ブムタンに住む、代々寺院を受け継いできた一家。寺院を息子に継がせたい父親テンジン、近代化の波に乗り遅れないようにと子どもたちの英語教育を重視する母親ププ・ラモ、父親の望みと自身の気持ちの狭間で将来について悩む長男ゲンボ、女の子の体に生まれてきたが心は男の子のタシ、そしておてんばな末っ子のトブデン。映画の軸となるのは長男ゲンボ(撮影当時15歳)の進路とタシ(撮影当時14歳)のジェンダーについてであるが、ゲンボとタシの兄弟愛、親として子どもの将来を心配する両親の姿、そして親と子どもの間に生じる時代を反映した価値観の隔たりなど、国や歴史、文化を超えて普遍的な物語が語られる。ゲンボとタシPhoto via Sunny Film舞う父テンジンPhoto via Sunny Film同作の監督を務めたブータン出身のバッタライ氏とハンガリー出身のズルボー氏は、各国の事情から資金調達の方法まであらゆる方面からドキュメンタリー制作について学ぶポルトガル、ハンガリー、ベルギーの三大学共同・国際修士コース「ドッグ・ノマッズ」で机を並べた仲である。卒業と同時にブータンについての映画を共に作ると決めていたという二人には、映画制作に対する共通した信念があった。それは「小さな小さな物語に光を当てる」こと。ズルボー:私たちは日常生活や人々の細かい心情など些細なことを捉えたいと思っています。人と人の関係や、その場の雰囲気、そして状況など、問題や意見には焦点を当てすぎず、観客が他者の視点に立てるように。だから“マイクロシチュエーション”を常に探しています。観客に考える余白をとっているような映画が好きなんです。事実、作中で描かれるのは激動の変化を遂げるブータンの情勢ではなく、近代化によって生じる家族の小さなすれ違いである。しかし淡々と映し出される登場人物の繊細な心の動きにこそ近代化がもたらす、人々の価値観の変容を強く感じさせられるだろう。近代化とは、親の世代とは違う夢を持つこと近代化とは「若者が親の世代とはまったく違う夢や価値観を持っていること」だと話すのは、バッタライ氏。バッタライ:親の世代には“ニーズ”が多くありませんでした。“家庭”を超えて何かをすることが少なかったのです。農家として働くことに満足し、素朴な食事に、シンプルな服。それで幸せでした。でも新しい世代は新しい夢を持っている。ブータンは近代化したといっても他国と比べれば産業も小さいし、都市の規模も小さいけれど、ブータンのなかでは人々の意識に変化が起こっていて、それは近代化の結果だと思います。近代化が人々にもたらすもの、家族の愛、ささやかな人間同士の衝突、将来への不安、ジェンダーをめぐる葛藤などが国や文化を超えて普遍的だということにこの映画を観るとすぐに気づかされる。監督たちがいうように、この小さな小さな物語を私たちの人生に反映させて自らのことを考えるヒントにすることは、難しいことではない。予告編※動画が見られない方はこちら『ゲンボとタシの夢見るブータン』Website8/18(土)よりポレポレ東中野ほか全国劇場ロードショー監督アルム・バッタライ、ドロッチャ・ズルボー2017|ブータン、ハンガリー映画|ドキュメンタリー|ゾンカ語|74分|英題 The Next Guardian後援:ブータン王国名誉総領事館/ブータン政府観光局/駐日ハンガリー大使館協力:Tokyo Docs/日本ブータン友好協会/日本ブータン研究所/京都大学ブータン友好プログラム字幕:吉川美奈子|字幕協力:磯真理子|字幕監修:熊谷誠慈配給:サニーフィルム
2018年08月08日高い国民幸福量GNHで知られるブータンですが、実はブータンの土着言語には「幸せ」にあたる言葉がないそうです。幸せがなければ、不幸せもないということでしょうか。国連による幸福度の標準偏差(ばらつき)ランキングでは、ブータンは1位に位置しています。幸せの格差がより少ないということの表れですね。ちなみに、日本は50位でした。上野の森美術館で7月18日まで開催されている展覧会『ブータン~しあわせに生きるためのヒント~』には、「見るだけでしあわせになれるかも」というキャッチコピーがついています。辻信一さん、田中優子さん、鶴田真由さんなど、多くの文化人が魅せられてきたブータン。そこには、いったいなにがあるのでしょうか?ひとつ、幸福度を上げるためにブータン展に行ってきました。■ブータン展の伝統織物が素晴らしい!祭事に使用されるお面、色鮮やかな民族衣装や装身具、仏画、仏像などの宗教美術、また、今回特別に出展となった現国王・王妃の衣装を含むロイヤルコレクションなど、見どころはいくつもあります。なかでも、緻密でありながら温かみのある伝統織物の数々に目を奪われました。1日1センチしか織れないものもあるそうで、その豊かな手仕事の様子は、館内のモニター画面で確認することができます。ブータンは、国として伝統織物の保護と発展につとめているそうです。職人になるための技術を学ぶ費用は国が負担してくれるとか。そういった国からの後ろ盾が、織物職人(多くは女性)の誇りを育てるのだと想像できました。それはそのまま、着る人にも受け継がれていくのでしょう。何着も新品の洋服を買える幸せとは、まったく異なる幸せなのかもしれません。■形のないものがブータンの人々の幸せブータンの人々の日常に、空気のように自然に存在するもの、それは祈りの習慣です。ブータンのどの家庭にも祭壇があります。日本人も、特に宗教心がなくとも、神社があればお参りしますが、お賽銭を投げて祈る内容は、個人的なことがほとんどですよね。ブータンの人々が祈るのは、個人よりも家族のため、もっといえば、家族よりもすべての人のためなのだといいます。館内で流れている映像のなかで、人々へのインタビューが見られます。「あなたにとって、セムガェな(心地よい)ときとは?」という質問に対し、返ってくる答えは、「親友と会うとき」、「祈っているとき」、「娘と一緒にいるとき」などなど、どれも形のない事柄ばかりです。「織物を織っているとき、女性としての喜びを感じる」と答えた女性もいました。ところでブータンにはお墓や位牌がないそうです。これは、ブータンの人々が輪廻転生を信じているからだそう。こうした話を聞くと、「高いお金を出してお墓を買う私たち日本人って、いったい……」と思いたくなってしまいます。■読むと心が温まるブータン言葉の数々最後に、展示会場に散りばめられたブータンからの珠玉の言葉の数々をご紹介しましょう。「あなたがいい心を持っているなら将来の心配はいりません。みんなが助けてくれるでしょう」「しあわせとは、自分の持っているものを喜ぶことです」「今、あなたに見えている世界はあなた自身を表しています」「山に向かって役立たずと言えば、役立たずとこだまが返る」*キャッチコピーの「見るだけでしあわせになれるかも」は本当でした。と同時に思ったのは、私たち日本人は幸せに条件をつけることに慣れてしまい、ブータンの人々のように無条件の幸せを感じることを忘れているのかもしれないということでした。「この会社に入らなければ」、「子どもを産まないと」幸せになれないと思い込むことで、ますます幸せを遠ざけることになるのではないでしょうか。ブータン展の会期は7月18日までです。幸せになるヒントを手に入れたい方は、ぜひ足を運んでみてください。(文/石渡紀美) 【参考】※ブータン~しあわせに生きるためのヒント~※World Happiness Report 2016
2016年06月10日