これは聴き逃せない。日本を代表するヴァイオリニスト諏訪内晶子が6月、来日するラハフ・シャニ指揮ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団と共演。東京と大阪でチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を弾く。「日本でチャイコフスキーの協奏曲を弾くのは久しぶりです。東京はブラームスの交響曲第1番と、大阪ではチャイコフスキーの交響曲第6番《悲愴》との組み合わせ。どちらも名曲で、良いプログラムだと思います」1990年のチャイコフスキー国際コンクールで、日本人初、史上最年少18歳での優勝という快挙。その本選でも弾いたチャイコフスキーの協奏曲は、彼女のイメージを象徴する作品のひとつでもあるが、生で聴けるチャンスは案外少ない。東京では2016年のユーリ・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルグ・フィルの来日公演以来、大阪ではなんと、コンクール優勝翌年の1991年にロリン・マゼール指揮ピッツバーグ交響楽団と共演して以来というから、関西のファンにとっては32間年も待ち望んでいた機会だ。「長い曲ですし、エネルギーを最後まで維持しなければなりません。何百回弾いても大変な曲。ただ、大変と感じる中身は、年齢とともに変わっていて、毎回、初めて演奏するような気持ちで向き合っています」とくに今回は、彼女にとって新たなチャイコフスキーになる。「グァルネリ・デル・ジェズ『チャールズ・リード』(1732年製作)で演奏します。デル・ジェズでチャイコフスキーの協奏曲を弾くのは今回が初めてです」20年をともにした愛器ストラディヴァリウス「ドルフィン」(1714年製作)からグァルネリ・デル・ジェズに変えたのは2020年末のことだった。「チャールズ・リードという19世紀のコレクターが所有していたデル・ジェズです。調べたところによると、ヘンレ版のベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの校訂もされたマックス・ロスタルさんが8年間弾いていらっしゃったのですが、あとはあまり弾かれることもなく、良い状態です。ドルフィンとの大きな違いは、低弦のつややかさでしょうか。この協奏曲は出だしから(低弦の)G線ですし。私には、ストラドは倍音が透き通っていて、“通る”というイメージがあります。一方、デル・ジェズはふくよかでつややか。耳元に聴こえてくる音も、骨に伝わってくる振動も、鋭さではなく、深いところで振動しているという感じがします。ロマン派の協奏曲にはぴったりだと思います。楽器が変わったことで、解釈も根本的に変わりますね。デル・ジェズの音色の方が本来の私のイメージに近いのではないかなと思うことがあります。ドルフィンは強くて素晴らしい楽器です」オランダの名門ロッテルダム・フィルとも、その首席指揮者シャニとも、今回が初めての共演。現在34歳のシャニは、2018年に楽団史上最年少でロッテルダムの首席に就任。2020年シーズンからは巨匠ズービン・メータの後任としてイスラエル・フィルの音楽監督も務める注目の新鋭だ。「初共演は、やはりいつもドキドキします。それが日本で、しかもサントリーホールとザ・シンフォニーホールという世界に誇る会場で実現できるのは楽しみですし、その時間を多くの皆さまと共有できたらうれしいです」諏訪内晶子 ©Kiyotaka Saitoラハフ・シャニ指揮 ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団諏訪内晶子 (ヴァイオリン) 出演チケット情報月23日(金)19時開演東京/サントリーホール6月25日(日) 14時開演大阪/ザ・シンフォニーホール取材・文:宮本明
2023年06月08日昭和女子大学(学長 金尾 朗:東京都世田谷区)の図書館・光葉博物館で5月1日(月)から6月23日(金)まで、特別展『与謝野晶子の世界』を開催します。「与謝野文庫」を擁する本学では、設立以来、関係資料の収集に努めてきました。与謝野晶子生誕145年を迎える本年、本学図書館所蔵の貴重資料・図書を中心として、晶子の像を多面的に照らし出します。また、5月13日(土)には、山梨県立文学館館長 三枝 昻之氏による講演会を予定しています。昭和女子大学図書館特別展 『与謝野晶子の世界』【場所】昭和女子大学光葉博物館 ・図書館コミュニティルーム(東京都世田谷区太子堂1-7-57)【入館料】無料【日時】2023年5月1日(月)-6月23日(金) 9:00-17:00 (日曜・祝日・5月2日は休館)※5月21日(日)、6月18日(日)は開館します。詳細は、昭和女子大学図書館ウェブサイトでご確認ください。 【展示資料】・門人近江満子所蔵の関係資料(机などの遺愛品、アルバム、書簡・原稿等自筆資料)・古典への親しみを証す自筆「源氏物語礼讃」(巻子本)、歌幅、短冊、色紙など・近江満子宛、安田秀二郎宛などの書簡、貴重な写真を含むアルバム・パネル「与謝野家と近江夫妻」「晶子すごろく」、コーパス化プロジェクト動画◎ 講演会 「時代を拓く―与謝野晶子の六十三年六ヶ月」【講師】山梨県立文学館 館長 三枝 昻之氏昭和19年山梨県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。歌人・文芸評論家。 歌誌「りとむ」主宰。 日本歌人クラブ会長。山梨県立文学館館長。宮中歌会始の選者でもある。【日時】5月13日(土)14:30-16:00(14:00開場)【場所】昭和女子大学8号館6階オーロラホール(東京都世田谷区太子堂1-7-57)【主催・問い合わせ】昭和女子大学図書館 libinfo@swu.ac.jp 03-3411-5128※事前申し込み不要(無料)、当日会場に直接お越しください。与謝野晶子の世界展A4ポスターチラシ_0328.pdf : 昭和女子大学ホームページ 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2023年04月24日昭和女子大学(学長小原奈津子:東京都世田谷区)人間文化学部日本語日本文学科は3月2日まで、『與謝野晶子未発表書簡』のコーパス化プロジェクトを図書館で公開展示しています。【コーパス化プロジェクトとは】コーパスとは、原本をPCなどで検索可能な文字データ形式にすることで、これにより広く学界に貢献することを目指しています。昭和女子大学近代文庫には、創設者で詩人の人見圓吉(筆名・東明)が収集した貴重な近代文学資料が多数所蔵されています。与謝野晶子が日常のやりとりを記した書簡を1991年に本学教員が『與謝野晶子未発表書簡』として活字化しており、今回、これを対象にコーパス化に取り組みました。日本語日本文学科1~3年生20人が参加し、(1)与謝野晶子の人生、人間関係、作品について考察(2)コーパスとしての汎用性のためにすべきことの検討(3)昭和女子大学図書館との著作権交渉、の3チームで取り組みました。次年度以降も活動を継続していきます。与謝野晶子の書簡(昭和女子大学所蔵)< 展示概要 >【期間】2023年3月2日(木)まで【場所】昭和女子大学図書館コミュニティルーム (世田谷区太子堂1-7-57)【展示内容】与謝野晶子の書簡(本学所蔵=写真)、コーパスのデモンストレーション動画、学生が作成した「与謝野晶子人生すごろく」ほか【開館日時】図書館ホームページの開館カレンダーで確認してください。 【観覧】無料 ※ 予約不要(正門、図書館3階インターホンで展示を見に来た旨伝えてください)【問い合わせ】昭和女子大学図書館TEL 03-3411-5430同スペースにて『與謝野晶子未発表書簡』コーパス化プロジェクトの他、日本語日本文学科の学生が取り組んでいる以下の展示もおこなっています。・日本文化発信プロジェクト・古典学習教材開発プロジェクト・児童文学プロジェクト・百人一首deプロジェクト展示会場の様子学生が作成した「与謝野晶子人生すごろく」昭和女子大学ホームページ 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2023年02月16日2022年8月10日、俳優の島村晶子さんが肺炎のため亡くなったことを、所属事務所の松竹芸能株式会社がウェブサイトを通して発表しました。享年90歳でした。弊社所属タレント島村晶子が令和4年8月9日午前1時28分に肺炎の為永眠いたしました(享年90)茲に生前のご厚誼を深謝し謹んでご通知申し上げます。松竹芸能株式会社ーより引用NHKの『てっぱん』や『オードリー』『ほんまもん』など、数多くのテレビドラマに出演してきた島村さん。また、生活情報番組の『よ~いドン!』(関西テレビ)内の『本日のオススメ3』コーナーでは、ナレーションを務めてきました。さまざまな分野で活躍していた島村さんの訃報に、多くの人が悲しみの声をあげています。・知的で、文才もある姿が印象的でした。・『ほんまもん』を見ていたので、悲しいです。・いろんな作品を通して見ていただけに、さびしくなりますね…。島村さんのご冥福を、心よりお祈りいたします。[文・構成/grape編集部]
2022年08月10日ヴァイオリンの諏訪内晶子が芸術監督として取り組む「国際音楽祭NIPPON2022」が、2月11日(金・祝)から約1ヶ月にわたって、東京・名古屋・陸前高田で開催される。7日、諏訪内がオンライン会見に出席した。「国際音楽祭NIPPON2022」公演情報はこちら「国際音楽祭NIPPON」は2013年にスタートしてこれが7回目。「感動を紡ぐ(=トップ・クオリティの追求)」「心をつなぐ(演奏を通じた社会貢献)」「未来を創る(次世代への継承)」の3つのキーワードをコンセプトに掲げている。最注目のプログラムは諏訪内によるJ.S.バッハの無伴奏ソナタ&パルティータ全曲演奏会だろう。30年超のキャリアの彼女がまさに満を持して、1月にCDをリリースしたばかりの初の《無伴奏》全曲。長年連れ添ったストラディヴァリウスに代わる新たな愛器グァルネリ・デル・ジェズを携えての新境地が、早くもファンの話題を呼んでいる。「全6曲を弾くと、各曲それぞれに込められたメッセージがより明確に伝わる。それを弾き分けたい」(諏訪内)全6曲を2回に分けて、2月11日(金・祝)・13日(日)名古屋・三井住友海上しらかわホールと、2月16日(水)・18日(金)東京オペラシティ・コンサートホールで。このあと尾高忠明指揮NHK交響楽団とデュティユーとブラームスの協奏曲を弾く諏訪内。「古典と現代」という切り口は、3月の「Akiko Plays CLASSIC with Friends」「Akiko Plays MODERN with Friends」にも繋がる。前回から立ち上げた、若手奏者たちとの2公演の室内楽プロジェクトだ。ここでは望月京の委嘱作品初演を含めて、「女性作曲家」がサブテーマとなる。諏訪内は、「この10年ほど女性作曲家の作品を弾く機会が増えてきた。世の中の多様化の動きが活発になっているのを感じる」と語った。音楽祭の最後には、ブラームスの室内楽を「ほぼ全曲」演奏するという、なんと11時間に及ぶ「ブラームス 室内楽マラソンコンサート」も待っている。社会貢献として陸前高田市での復興応援プロジェクトを開催。また唯一この音楽祭だけで見ることができるのが、次世代を育てる恒例のマスタークラスでの、指導者としての諏訪内だ。また今回からはアートマネジメント業界を志す若者のためのインターン制度も立ち上げた。聴衆を育てるため、安価な設定の「U25」チケットも用意されている。各公演の詳細は「国際音楽祭NIPPON2022」特設サイトへ。(取材・文:宮本明)■国際音楽祭NIPPON2022
2022年02月09日皐月にふさわしく、時代物、世話物、舞踊と、薫風の吹きわたるような爽やかな演目が揃い、若手から花形、そして大看板まで俳優たちの顔ぶれも華やかな五月の歌舞伎座公演が5月12日、開幕する。第一部は『三人吉三巴白浪』と新古演劇十種の内『土蜘』。いずれも河竹黙阿弥作。奇しくも出会った吉三と名乗る三人の盗賊とその親たちが、百両の金と庚申丸という御家の重宝を軸にくり広げる物語。振り袖姿のお嬢吉三に浪人のお坊吉三、ふたりの争いに和尚吉三が割って入り、義兄弟の盃を交わすが、このことが因果の絡みに絡んだドラマへとつながっていく。三人が出会う「大川端」の場は、歌舞伎ならではの様式美がたっぷり。お嬢吉三の「月もおぼろに白魚の篝も霞む春の空」という台詞は歌舞伎の演目の中でも屈指の名台詞だ。お嬢に尾上右近、お坊に中村隼人、和尚に坂東巳之助というフレッシュな顔ぶれでの三人吉三だ。もう一本は松羽目ものの舞踊『土蜘』。病気療養中の源頼光を見舞う叡山の僧・智籌。実は土蜘の精。真っ白い蜘蛛の糸を投げつけ投げつけ四天王たちと大立廻りをくり広げる場面は迫力満点だ。叡山の僧智籌実は土蜘の精に尾上松緑、源頼光に市川猿之助。第二部は『仮名手本忠臣蔵』から浄瑠璃「道行旅路の花聟」と、六段目「与市兵衛内勘平腹切の場」。浄瑠璃「道行旅路の花聟」は通称「落人」とも呼ばれる清元の舞踊だ。塩冶判官の近習と、奥方の顔世御前の文使いにきた腰元のお軽は恋仲。だが逢い引き中に主の大事件となり、屋敷へ戻れなくなったふたりが、お軽の在所の山崎へと落ち延びる、その途中の道行を哀愁とともに華やかに描く。花四天を連れた鷺坂伴内と勘平との所作ダテも見どころたっぷり。早野勘平を中村錦之助、腰元お軽を中村梅枝、鷺坂伴内に中村萬太郎。もう一本は「勘平腹切」と呼ばれる忠臣蔵の六段目。浪人ものの遺体から五十両の入った縞の財布を手にした勘平。六段目はここから始まってしまったお軽と勘平、そしてその家族の悲劇を描く。お軽は勘平討ち入りの金を工面するため祇園へ売られることになり、若い夫婦は別れを惜しむ。そこへ舅・与市兵衛の遺体が運ばれ、義母からは舅殺しを疑われる。また仇討の一味にも加われず、絶望から切腹をする勘平。しかしその真相は……。「色にふけったばっかりに」という名台詞と共に、白塗りの頬に血で染まった手の痕を着ける場面が哀しく美しい。代々の菊五郎が洗練を重ねた音羽屋の勘平を尾上菊五郎が勤める。女房お軽を中村時蔵。第三部は『八陣守護城』と『新歌舞伎十八番の内春興鏡獅子』。『八陣守護城』は全十一段の義太夫狂言の八段目。小田春若(豊臣秀頼)の後見役である北畠春雄(徳川家康)は、春若の守り役の佐藤正清(加藤清正)を毒殺しようとしている。春若を病気に仕立て安土城へ戻し、代わって自ら勅使天盃の毒酒を受ける。血を吐きながら琵琶湖を御座船で帰る正清だったが……。船のへさきが客席へ巡り見得をする正清。そのスケールの大きさは正清の心根そのもののようで心揺さぶられる。佐藤正清は、休演の中村吉右衛門に代わって中村歌六が務める。もう一本は『鏡獅子』。千代田のお城のお広座敷で鏡開きの日、女小姓弥生が引き出されてきて、請われるままに踊り始める。祭壇の手獅子を手に取ると次第に獅子の精が弥生の体内に入り込んでしまう。愛らしい胡蝶の間狂言を挟み、後半では白い長い毛を垂らし、勇壮な隈取りの獅子の精が登場。巴、たすき、髪洗い、菖蒲たたきというさまざまな毛振を見せ豪快に踊る。小姓弥生、後に獅子の精に尾上菊之助。今月も座席は左右前後ひと席ずつ空いた千鳥型で、一部ふたり並びのブロックも用意されている。開演時間や終演時間が変更される場合もあるので確かめた上で劇場へ。文:五十川晶子公演情報歌舞伎座『五月大歌舞伎』演目【第一部】11:00開演一、『三人吉三巴白浪』二、『土蜘』【第二部】14:30開演『仮名手本忠臣蔵』【第三部】18:20開演一、『八陣守護城』二、『春興鏡獅子』2021年5月12日(水)~2021年5月28日(金)会場:東京・歌舞伎座
2021年05月12日見ごたえある演目と人気の俳優たちが顔をそろえる五月大歌舞伎。先月にひきつづき三部制で上演される。その第二部は、歌舞伎の演目の中でも傑作中の傑作『仮名手本忠臣蔵』から、清元の舞踊「道行旅路の花聟」、そして六段目「与市兵衛内勘平腹切の場」だ。『忠臣蔵』の登場人物の中でも、まさに“忠臣”になるために最も苦しみ、劇的な最期を遂げる主人公が、この六段目の早野勘平。五代目尾上菊五郎が組み立てて六代目尾上菊五郎が洗い上げた江戸の音羽屋の勘平を、当代の尾上菊五郎が勤める。初役から約50年、15度目という菊五郎だが、この役を「難役中の難役」と語る。「まず拵えの段階から大変です。こんなに塗るのかと思うほど、勘平の場合お白粉をたくさん塗らなきゃいけない。切腹しますから腹にも塗るし腕にも塗るし、脚の付け根まで塗ります。芝居が始まってからは舞台で着替えるところがありますし、鬘も三段階変わりますしね。切腹の後は『色にふけったばっかり』の台詞で、血糊の着いた手を頬になすりつけますでしょう。これが浅葱の衣裳に着いてしまうとなかなか落ちないので気を付けなくてはいけないんです。初めて勤めた頃は衣裳を2~3枚用意してもらっていましたよ」と身振り手振りを交えて語る。また勘平といえば、煙管や財布、手拭いなど扱う小道具も多い。『仮名手本忠臣蔵 六段目』早野勘平演じる尾上菊五郎(平成25年11月歌舞伎座)(c)松竹「どの台詞のときに煙草盆をどこに置いて、煙管をどこにポンと落として、と細かく決まっています。手拭いも懐に入れてしまうと、後でおかやが縞の財布と間違えて取り出してしまうので気を付けなくてはなりません。とにかく“仕事”が多くて気が抜けない。これらをやりながら、勘平という役を勤めなくちゃいけない。そこが難しいところです」。浪々の身とはなったが、主である塩冶判官の敵・高師邸への討入の一味に加わりたい一心の勘平。前段の五段目では、暗闇の山崎街道で誤って撃った浪人者から財布を奪う。その金五十両を同志の千崎弥五郎に渡し、これで討入に加われると、意気揚々と帰宅するところからこの六段目は始まる。だがその心情は刻々と変化していく。「もしかしたら自分が金を奪った相手は舅の与市兵衛だったのか? という犯罪者の気持ちへと追い込まれていきます。おかやがお前が殺したと責め続けるので、これ以上騒ぎ立てるなら(おかやを)殺してしまおうかと、それくらいの気持ちですね。舅を死なせた申し訳なさよりも、何とかして討入に加わりたいという侍としての気持ちの方が重い」。そして勘平は切腹するが、舅殺しの疑いも晴れ、死ぬ間際に討入の連判状に血判を押すことを許される。「最後まで、おかるにはこのことを言わないでくれ、言うと世の中にこの企てが知られてしまうと頼んで死んでいく。そこが勘平が『忠臣蔵』の忠臣たるところだと思います」。決して発散できない大変な役、だが若い頃ずっと憧れていた役だったとも。「やはりやりがいがありますので、お軽を勤めていた頃から勘平のしぐさをずっと見ていました」と懐かしそうに語る。教わったのは二代目尾上松緑から。尾上菊五郎「松緑のおじからは、与市兵衛の遺骸が運び込まれてからはずっと下を向いていろと言われましたが、私はどうにもそれができなくて。おかやや猟師仲間の台詞を聞いていくうちに、ああやっぱり自分が殺ったのかとなっていく、そういう芝居がしたい。勘平が茣蓙(ござ)を巻くくだり、あれも初めの頃はなぜここでそんなことをするのだろうと。でも、とんでもねえことをしてしまったと肚から思えると、手が自然に動いて茣蓙を巻けるんです。まあいずれにしても、五代目菊五郎という人は本当に物を片付けるのが好きなんでしょうかね(笑)」。切腹にも口伝があるという。「“懐にいがぐりを入れているようなつもりで”声を張らずにと。切腹の痛みは栗のいがぐり程度では済まないと思いますが(笑)。また(『義経千本桜』の)いがみの権太は切腹の時に足の親指を動かして辛さを表わしますが、勘平は侍なので指は動かしちゃいけないとかね。昔の人の口伝とは面白いものですし、いろいろ残っています。でもそれだけでは足りない。やはり自分で考え、自分の肉体に合わせた工夫が要るんです」との言葉に菊五郎の矜持が凝縮されていた。歌舞伎座『五月大歌舞伎』チラシコロナ禍で稽古もままならない困難な日々が続く。だが若い芽も育ちつつある。「孫の(寺嶋)眞秀が『土蜘』で太刀持ちを、『鏡獅子』では(尾上)丑之助が(坂東)楽善さんのお孫さんの亀三郎君と胡蝶を勤めます。子供の頃に楽善さんと胡蝶を勤めたことを思い出しますね。大変な時代ですが力を合わせてこの興行を成功させたいと思います」と結んだ。取材・文:五十川晶子歌舞伎座『五月大歌舞伎』2021年5月3日(月・祝)~2021年5月28日(金)会場:東京・歌舞伎座
2021年04月21日歌舞伎座ではコロナ禍の中、2020年8月に公演再開し、今年1月からは席数50%、三部制の上演が続いている。そんな中、今月も松羽目物、舞踊、時代狂言に生世話物と、見どころの多い狂言建てとなっており、大看板から若手まで、実力、人気ともに備えた俳優たちが元気に顔を揃える。第一部『猿翁十種の内小鍛冶』。能の五番目もの(切能)を舞踊化した演目だ。義太夫節の節も踊りも力強い前後の場に、コミカルな間狂言が挟まり、飽きさせない三場の構成になっている。第一場は稲荷社で、一条院から三条小鍛冶宗近に御剣を打つよう宣旨が下るが、昨刀に欠かせない相槌をつとめる者がいない。その宗近の前に稲荷明神が現れ、古今の名剣について威徳を説く。ふたりの弟子と巫女が現れる間狂言があり、第三場はまさに鍛冶場。宗近と明神がダイナミックに御剣を打ち上げる。市川猿之助の童子実は稲荷明神。もう一本は『歌舞伎十八番の内勧進帳』。安宅関にかけて「またかのせき」と言われるほど上演頻度は高く人気も高い。ドラマチックな展開の面白さと長唄舞踊の要素の両方をあわせもつ、歌舞伎の古典作品の中でも傑作中の傑作。兄頼朝と不和となった源義経。武蔵坊弁慶らは山伏姿となり、義経は強力姿となって、都から奥州へと落ちる。加賀の国安宅関所で関守の富樫左衛門に咎められるのだが……。松本白鸚(A日程)と松本幸四郎(B日程)が日替わりで弁慶を勤めるというかつてない親子競演だ。白鸚はこれまで1150回弁慶をつとめており、史上最年長となる78歳での上演ともなる。第二部は『絵本太功記尼ケ崎閑居の場』。本能寺の変を題材にした全十三段の義太夫狂言の名作だ。光秀が謀反を起こし最期を迎える十三日間を一日一段という形で構成されている。十段目の「尼ケ崎閑居の場」は歌舞伎の代表的な役柄が揃い「太十」という通称で人気だ。実悪の典型となる武智光秀のスケールの大きさ、息子十次郎と許嫁初菊の悲恋、祖母の皐月、母の操という三代の女性の悲しみが描かれる。光秀の竹槍に刺された皐月は、苦しみながらも大罪をおかした息子光秀を諫める。また深傷を負って戻ってきた十次郎の戦物語も心を打つ。真柴久吉(羽柴秀吉)と佐藤正清(加藤清正)が登場し、時代物らしい歌舞伎の様式美も堪能できる。武智光秀を中村芝翫が勤める。もう一本は文楽から歌舞伎に移された竹本の舞踊で『団子売』。年の初めに餅の曲搗きをする夫婦者の団子売がにぎやかに踊る。中村梅玉、片岡孝太郎の夫婦で。第三部は『桜姫東文章』上の巻。『東海道四谷怪談』で知られる四世鶴屋南北の作。建長寺の僧と稚児が心中し、僧ひとりが生き残ってしまうが、稚児は吉田家の息女・桜姫に生まれ変わる。新清水の清玄となった僧が桜姫に再会することからドラマは始まる。剃髪しようとする姫の前に、姫と子までなした男・釣鐘権助が現れ……。大家のお姫様である桜姫が伝法な言葉遣いと姫言葉をない交ぜにする奇抜な趣向や、南北得意の生世話の手法を生かした文化文政時代の歌舞伎の代表作だ。清玄・釣鐘権助に片岡仁左衛門、白菊丸・桜姫に坂東玉三郎。1980年代の清玄桜姫といえば孝玉コンビ。このふたりの顔合わせに、歌舞伎ファン以外にも大勢が熱狂したものだ。2021年の春、ふたりの清玄桜姫に会いに行こう。文:五十川晶子公演情報歌舞伎座『四月大歌舞伎』演目【第一部】11:00開演一、『猿翁十種の内小鍛冶』二、『歌舞伎十八番の内 勧進帳』【第二部】14:45開演一、『絵本太功記尼ヶ崎閑居の場』二、『団子売』【第三部】18:00開演『桜姫東文章』上の巻2021年4月3日(土)~4月28日(水)会場:東京・歌舞伎座
2021年04月03日昨年8月に再開し4部制をとっていた歌舞伎座が、今月から3部制となり、演目も2本ずつとなる。第一部は曾我物語をモチーフとした歌舞伎舞踊『壽浅草柱建』。「ことほぎてはながたつどうはしらだて」と読ませる。コロナ禍のため今年は公演を見送った新春浅草歌舞伎。そのため花形俳優たちが木挽町に場を移し、歌舞伎座で顔を揃えるという一幕。もう一幕は『猿翁十種の内悪太郎』。大酒のみの悪太郎は、大きな鎌髭を生やした陽気な腕白者。酔っぱらって薙刀で『橋弁慶』を踊って見せる場面は見せ場中の見せ場。足元がおぼつかない様子で踊ってみせるには踊り手の高い技量が求められる。悪太郎を市川猿之助がつとめる。第二部は、昨年亡くなった上方和事の名手で人間国宝の坂田藤十郎を偲んで、『夕霧名残の正月』。夕霧伊左衛門を中村扇雀と中村鴈治郎。もう一幕は『仮名手本忠臣蔵』「祇園一力茶屋の場」。京は祇園の一力茶屋で遊蕩に耽る大星由良之助。その心底をさぐりにやってくるのは……。由良之助に中村吉右衛門、寺岡平右衛門に中村梅玉、遊女おかるに中村雀右衛門。第三部は、『菅原伝授手習鑑』の「車引」。歌舞伎の様式美を堪能できる一幕だ。荒事の梅王丸、和事の桜丸、そこへ松王丸が現れる。松王丸の横見得、石投げの見得、梅王丸の元禄見得、また松王丸の二本隈、梅王丸の筋隈、桜丸のむきみ隈と、歌舞伎の役柄を特徴づける表現を楽しめる。松本白鸚の松王丸、松本幸四郎の梅王丸、市川染五郎の桜丸と、高麗屋三代による一幕。もう一幕は『らくだ』。落語の人情噺を基にしており、町人たちの暮らしをユーモラスに描く。死んでしまった仲間のために、半次・久六のコンビがなんとかしてお金を工面しようとする。そこで彼の死体を担い踊らせようとするが……。踊る死体はもちろん俳優が演じる。爆笑間違いなしの一本だ。半次に中村芝翫、家主佐兵衛に市川左團次、紙屑買久六に片岡愛之助、家主女房に坂東彌十郎、ほか。文:五十川晶子歌舞伎座『壽 初春大歌舞伎』2021年1月2日(土・祝)~2021年1月27日(水)会場:東京・歌舞伎座
2021年01月02日今月も引き続き、四部完全入れ替え制での上演だ。桟敷を含め、前後左右を開けた千鳥型の席配置となる。第一部は『弥生の花浅草祭』。江戸時代、三月に催されていた浅草神社の三社祭の山車人形を題材に、常磐津、清元、長唄と音楽が変化していく中を、ふたりの役者がそれぞれ四役を踊り分けていく躍動感あふれる変化舞踊だ。片岡愛之助が竹内宿禰、悪玉、国侍、獅子の精を、尾上松也が神功皇后、善玉、通人、獅子の精を踊り分ける。第二部は古典落語『星野屋』を題材に、2018年に上演された新作歌舞伎。青物問屋の星野屋昭蔵に囲われている元芸者のおたか。金の工面に困った昭蔵はおたかに別れ話を切り出す。一緒に心中することになってしまったが、おたかに死ぬ気はさらさらなく……。中村七之助のおたか、市川中車の昭蔵、市川猿弥が母お熊、片岡亀蔵が和泉屋藤助。個性あふれる面々がだましだまされる面白さを味わいたい。第三部は近松門左衛門作の人形浄瑠璃として初演された『傾城反魂香』。絵師の浮世又平は生来言葉が不自由で、女房おとくがいつも彼の代弁をする。師匠の土佐将監を尋ね土佐の名字を名乗りたいと申し出るが、又平には功績がなく、弟弟子に先を越されてしまう。又平は絶望し、死を覚悟する。最期に手水鉢に自画像を描くと筆の勢いが奇跡を招いて……。相手を思い合う夫婦の愛情に心が温まる。実直な又平に中村勘九郎、かいがいしいおとくに市川猿之助、弟弟子の狩野雅楽之助に市川團子、将監の北の方に中村梅花、将監光信に片岡市蔵。第四部は『日本振袖始』。日本神話を扱った近松門左衛門作の舞踊劇だ。出雲国の八岐大蛇を鎮めるために、毎年ひとりずつ娘が人身御供に差し出される。今年は稲田姫が捧げられることになる。どこからともなく現れる岩長姫だが、実は大蛇の化身だった。毒酒とも知らずに好物の酒を次々飲み干し、ついには稲田姫をも。そこへ素戔嗚尊が姫と宝剣を取り戻しに現れて……。坂東玉三郎の岩長姫実は八岐大蛇、中村梅枝の稲田姫、尾上菊之助の素戔嗚尊。文:五十川晶子歌舞伎座『十二月大歌舞伎』2020年12月1日(火)~2020年12月26日(土)会場:東京・歌舞伎座※坂東玉三郎新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者と認定されたため、12月1日(火)~7日(月)は下記の配役にて上演。【第四部】『日本振袖始』12月1日(火)~7日(月)岩長姫実は八岐大蛇尾上 菊之助素盞嗚尊坂東彦三郎12月9日(水)~26日(土)岩長姫実は八岐大蛇坂東玉三郎素盞嗚尊尾上菊之助
2020年12月01日例年11月、歌舞伎座では古式に従って正面入り口の屋根の上に、鳳凰の座紋を象った幕をめぐらした櫓が掲げられる。梵天を二本立て、櫓の上に鑓(やり)を五本並べるのが定法だ。江戸時代は官許を得た興行権を持つ座元という印だったという。その櫓を上げた歌舞伎座で、今年も顔見世興行の幕が開く。また今月から歌舞伎座の桟敷席が一部復活する。客席が従来の雰囲気をまた一歩取り戻す1か月となりそうだ。今月も完全入れ替え制の四部制。第一部は『蜘蛛の絲宿直噺』だ。源頼光の土蜘蛛退治を題材に、早替りの趣向を取り入れた華麗な変化舞踊だ。病に伏せる源頼光を、家臣の坂田金時と碓井貞光、その女房たちが宿直をする。どこからか現れたのは女童熨斗美。その後も小姓、番新、太鼓持が次々現れて頼光の寝所に忍び込もうとする。そこへ傾城薄雲太夫が訪れて......。市川猿之助が五役を早替りでつとめ、千筋の糸を繰り出す迫力あるクライマックスまで息をもつかせぬ面白さだ。中村隼人の頼光、中村福之助の貞光、市川笑三郎が金時女房八重菊、市川笑也が貞光女房桐の谷、市川猿弥が坂田金時をつとめる。第二部は松羽目物の名作でおかしみもたっぷりの『身替座禅』。恐妻家で浮気性の山蔭右京は愛人の花子と何とか会いたいと思っているが、奥方玉の井の監視が怖くて会いに行くことができないでいる。右京は一晩座禅をするため邸内の持仏堂にこもると言って玉の井の許しを得る。家来の太郎冠者を身替わりに座禅衾をかぶらせて、自分は花子との逢瀬に出かけるのだが、玉の井にそのことがばれてしまい......。常磐津と長唄の掛け合いの舞踊劇。衾をかぶっているのが太郎冠者と入れ替わった玉の井とは露知らず、逢瀬の様子を踊り分けて見せるのが見どころ。右京に尾上菊五郎、太郎冠者に河原崎権十郎、尾上右近の侍女千枝、中村米吉の侍女小枝、市川左團次の玉の井。第三部は義太夫狂言の傑作『一條大蔵譚』。かつて源義朝の妻だった常盤御前。義朝亡き後、敵の平清盛の側室となり、その後は阿呆と評判の公家一條大蔵卿へ下げ渡される。源氏方の吉岡鬼次郎夫婦は常磐の本意を探ろうとするが、常磐は楊弓に興じているだけ。鬼次郎が問いただそうとすると常磐は本心を明かす。そこへ阿呆と言われた大蔵卿が威厳を持って現れる。作り阿呆の大蔵卿が颯爽と本性を現す演じ分けは見所十分。衣裳のぶっ返りも歌舞伎らしい演出だ。松本白鸚の大蔵長成、中村芝翫の吉岡鬼次郎、中村壱太郎の女房お京、松本錦吾の八剣勘解由、市川高麗蔵の女房鳴瀬、中村魁春の常盤御前。第四部は歌舞伎の義太夫狂言、三大名作の一つ『義経千本桜』四段目の切にあたる通称「四の切」。吉野の川連法眼館にかくまわれている義経の下へ家臣の佐藤忠信がやってくる。そこへもう一人の忠信が到着したと告げられ、不審に思った義経は忠信の詮議を命じる。伏見稲荷で別れた静御前の共をしていた忠信は、実は狐の子。義経から静へと下された初音の鼓の皮に用いられたのは、狐忠信の両親のものだった。忠信の姿に変えて静を護りながら付き添ってきた忠信。義経は心打たれて......。本物の忠信と狐忠信の演じ分けや狐詞という独特の台詞回し、早替りや神出鬼没な出もあり見所がたくさん。中村獅童の佐藤忠信/佐藤忠信実は源九郎狐、市川染五郎の源義経、市川團子の駿河次郎、澤村國矢の亀井六郎、中村莟玉が静御前。本日より11月26日(木)まで文:五十川晶子歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』2020年11月1日(日)~2020年11月26日(木)会場:歌舞伎座(東京)
2020年11月01日九月大歌舞伎が初日を迎える。8月にひきつづき四部制で、各部とも完全入れ替え制をとる。ほかにも安全対策のため様々な制限はあるが、まさに初秋の候の大歌舞伎にふさわしく、華やかで見どころたっぷりの演目と豪華な顔ぶれがそろった。第一部は『寿曽我対面』。源頼朝の信任厚い工藤祐経の館へ、曽我の十郎と五郎の兄弟が父の敵である工藤への対面を願ってやってくる。中村梅玉の工藤、尾上松緑の曽我五郎に中村錦之助の十郎、中村又五郎の小林朝比奈、中村歌六の鬼王新左衛門、中村魁春が大磯の虎をつとめる。祝祭劇らしい華やかな一本だ。第二部は『色彩間苅豆』。「かさね」の通称で知られる清元の舞踊劇だ。武家につかえる与右衛門は腰元かさねと心中を約束したが、かさねを残して一人逃げてきてしまう。追ってきたかさねと木下川で再会するが、美しいかさねの形相がたちまち醜く変わり……。与右衛門を松本幸四郎、かさねを市川猿之助がつとめる。艶っぽさとゾッとするような恐ろしさを味わいたい。第三部は『引窓』。人形浄瑠璃として初演された『双蝶々曲輪日記』の八段目にあたる人気の義太夫狂言だ。大坂で人気の相撲取り・濡髪長五郎は人を殺めてしまい、義理の弟・南与兵衛の家に母お幸を訪ねてやってくる。一方与兵衛は、まさにその日、代官に取り立てられて意気揚々と帰宅。しかし二階に潜むお尋ね者の長五郎に気づいて……。引窓という明り取りの構造を巧みに使いながら、親子、兄弟、夫婦の情愛を描いた世話物の傑作だ。中村吉右衛門の濡髪、尾上菊之助の南与兵衛、中村雀右衛門のお早、中村東蔵のお幸。第四部は坂東玉三郎による『口上』、そして女方舞踊の名作『鷺娘』。一面の銀世界の中、池のほとりにたたずむ若い娘、実は鷺の精だった。人間との道ならぬ恋の咎により責め苦を受け、雪の降りしきる中、懸命に翼をはためかせる。今回は映像を織り交ぜた上演となる。幻想的な鷺の精の世界を堪能できるだろう。文:五十川晶子
2020年09月01日まだかまだかと首を長くして待っていた歌舞伎ファンの皆様、ついに本日から歌舞伎座が再開される。3月以来、配信や無観客上演など、様々な試みを続けてきた歌舞伎俳優たちだが、ようやく歌舞伎座の舞台に立てる。彼らの喜びもひとしおだろう。今回、新型コロナウィイルス感染予防のための厳重な対策の下、各部とも総入れ替え制の4部制となる。出演者や演奏者など関係者の人数を減らしての上演となり、客席も通常より約1000席分を減らす。花道付近や桟敷席は販売せず、市松模様のように前後左右に空間を置いた座席となる。第一部は『連獅子』。能の「石橋」を基にした松羽目物と呼ばれるジャンルの中でも迫力ある舞踊だ。文殊菩薩が住むといわれる霊地清涼山。そのふもとの石橋に、狂言師の右近と左近が手獅子を携えて現れ、石橋の由来を踊る。また文殊菩薩の遣いである霊獣の獅子が、仔獅子を谷底へ蹴落とし、自力で這い上がってきた仔だけを育てるという故事を踊って見せる。やがて満開の牡丹の花の中、親獅子と仔獅子の精が現れる。前半は親子の獅子の厳しくも温かい情愛を描き、ユーモラスな宗教論争がくり広げられる間狂言「宗論」を挟んで、後半は獅子の精が豪快かつ華麗な毛振りを見せる。片岡愛之助、中村壱太郎、中村橋之助、中村歌之助の出演だ。第二部も松羽目物の舞踊で、こちらは狂言を題材としたユーモラスな『棒しばり』。両手を縛られ自由が利かない中で存分に踊って見せるのが見どころだ。次郎冠者と太郎冠者は無類の酒好き。ある日主人の曽根松兵衛は、自分の外出中に酒を盗み飲まれないように一計を案じる。次郎冠者は両手を棒に縛りつけ、太郎冠者は後ろ手に縛ってしまう。それでも協力しながら、なんとか酒蔵で酒にありつくふたり。酌み交わしてほろ酔い気分になり踊りだす。そこへ主が帰館して……。明るく楽しい雰囲気とともに、踊り手の巧みな技も存分に楽しみたい。中村勘九郎、坂東巳之助、中村扇雀の出演。『八月花形歌舞伎』チラシ第三部は義太夫狂言の傑作で歌舞伎三大名作ともいわれる『義経千本桜』の中の一幕であり、人気の舞踊演目だ。満開の桜に覆われた吉野山。源義経の愛妾静御前は、都を落ち延びた恋しい義経を追って旅を続けている。供をするのは義経の忠臣佐藤忠信。だが実はこの忠信は、静が義経から預かった「初音の鼓」の皮に使われた狐夫婦の子供だった。忠信と静の連れ舞や源平合戦を物語るところなど、見どころの多い美しい道行だ。また随所で狐を思わせる忠信のしぐさも見逃せない。こちらは市川猿之助、市川猿弥、中村七之助の出演。第四部はお芝居の演目。『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』。男女の不思議なめぐりあいを描く傑作だ。鎌倉の源氏店に住む和泉屋の大番頭、多左衛門の妾宅で、湯上りの化粧をしているお富。そのお富に番頭の藤八がしつこく付きまとっている。そこへ小遣いをたかりにやってきたのは蝙蝠の安五郎と相棒の与三郎。この与三郎、かつて芸者お富と密会を重ねた伊豆屋の若旦那だ。当時お富を囲っていた旦那に知られてしまい、お富は身投げ、与三郎も全身に三十四か所もの傷を負わされる。互いに死んだと思っていたのに、こんなところでまさかの再会。与三郎の「しがねえ恋の情けが仇」という名セリフが聞きどころだ。松本幸四郎、中村児太郎、片岡亀蔵、市川中車、坂東彌十郎が出演する。8月26日(水)まで。文:五十川晶子
2020年08月01日2020年はベートーヴェン生誕250年。そして諏訪内晶子が、1999年の「チャイコフスキー国際コンクール・ヴァイオリン部門」で優勝を果たしてから30年の節目の年に当たる。というわけで、その諏訪内が芸術監督を務める「国際音楽祭NIPPON2020(2月14日〜3月13日」には例年以上に力が入った様子が伺える。そのオープニングコンサートとして行われるのが、アメリカの名手ニコラ・アンゲリッシュ(ピアノ)と諏訪内晶子が共演するデュオ・リサイタルだ。演奏されるのは、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」&第9番「クロイツェル」に第7番を加えたオール・ベートーヴェン・プログラム。現代最高峰の名手2人が描く21世紀のベートーヴェンに期待したい。同音楽祭には、ベートーヴェンの真髄を堪能できる「室内楽マラソンコンサート(3月8日)」や、諏訪内晶子のコンクール優勝を記念したチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲(3月10日)」など、見どころ聴き所が満載。音楽祭ならではの華やかな時間を楽しみたい。公演詳細: ● 公演概要2月14日(金)東京オペラシティコンサートホール「諏訪内晶子&ニコラ・アンゲリッシュデュオ・リサイタル」● 諏訪内晶子(国際音楽祭NIPPON 芸術監督 / ヴァイオリン)(c)Kiyotaka Saito1990年史上最年少でチャイコフスキー国際コンクール優勝。これまでに小澤征爾、マゼール、デュトワ、サヴァリッシュ、ゲルギエフらの指揮で、ボストン響、フィラデルフィア管、パリ管、ロンドン響、ベルリン・フィルなど国内外の主要オーケストラと共演。BBCプロムス、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン、ルツェルンなどの国際音楽祭にも多数出演。近年ではゲルギエフ指揮ロンドン響とのツアー、パリ管とのヨーロッパおよび日本ツアー、チェコ・フィルとの中国ツアーを行い、オスロ・フィル、バンベルク響、デトロイト響、トゥールーズ・キャピトル管とも共演。現代作曲家作品の紹介も積極的に行い、これまでにエサ=ペッカ・サロネン作曲「ヴァイオリン協奏曲」の日本初演(2013)、エリック・タンギ作曲「In a Dream」の世界初演およびフランス初演(2013)、キャロル・ベッファ作曲「ヴァイオリン協奏曲-A Floating World-」の世界初演(2014)などに取り組んでいる。2012年、2015年、エリーザベト王妃国際コンクール、2018年ロンティボー国際コンクール、2019年チャイコフスキー国際コンクールヴァイオリン部門審査員。2012年より「国際音楽祭NIPPON」を企画制作し、同音楽祭の芸術監督を務めている。レコーディングでは、デッカ・ミュージック・グループとインターナショナル・アーティストとして専属契約を結んでおり、最新作「フランク&R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 他」を含む14枚のCDをリリースしている。桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコース修了。文化庁芸術家在外派遣研修生としてジュリアード音楽院本科及びコロンビア大学に学んだ後、同音楽院修士課程修了。国立ベルリン芸術大学でも学んだ。使用楽器は、日本音楽財団より貸与された1714年製作のストラディヴァリウス「ドルフィン」。● ニコラ・アンゲリッシュ(ピアノ)(c)Jean Francois Leclercq Erato1970年、アメリカ生まれ。パリ音楽院でアルド・チッコリーニやミシェル・ベロフらに師事し、1989年カサドシュ国際コンクール第2位、1994年ジーナ・バッカウアー国際コンクールで第1位を獲得。2003年にクルト・マズア指揮ニューヨーク・フィルとオーケストラデビュー後は、ウラディーミル・ユロフスキー、マルク・ミンコフスキ、P.ヤルヴィ、ロシア国立管弦楽団、フランス国立管弦楽団、フランクフルト放送交響楽団など世界的指揮者やオーケストラと共演を重ねた。ルノー&ゴーティエ・カピュソンと録音した「ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番」は、ドイツのレコード批評家賞を受賞した。
2020年02月08日ヴァイオリ二ストの諏訪内晶子が芸術監督を務め、来年で6回目を迎える「国際音楽祭NIPPON 2020」の記者会見が9月13日に都内で行われ、来年、生誕250周年を迎えるベートーヴェンにちなんだプログラムや室内楽プロジェクト、さらに後進の育成として諏訪内が力を入れてきたマスタークラスなどの概要が発表された。【チケット情報はこちら】来年の音楽祭は2月から3月にかけて東京、名古屋、そして東日本大震災の被災地である岩手県釜石市で開催され、7つのプログラムが行われる。オーケストラとの共演ではジャナンドレア・ノセダの指揮により、ワシントン・ナショナル交響楽団を招いてチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲 ニ長調、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」などが演奏される。デュオ・リサイタルでは、10年来の付き合いがあり、レコーディングも一緒に行なったこともあるピアニスト、ニコラ・アンゲリッシュとの共演で【オール・ベートーヴェン・プログラム】と銘打ち、ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」、第7番、第9番「クロイツェル」 が演奏される。アンゲリッシュとの共演について諏訪内は「昨年、久しぶりに共演して、お互いに『また共演してみよう』という気持ちになり、ぜひ来てもらえないかとお願いしました。10年前とはまた違う表現ができるのではと今から楽しみです」と期待を口にする。さらに今回、過去にない新たな試みとして行われるのが室内楽プロジェクト。3名のプログラミング・アドバイザーを交えて「室内楽の中でも普通のプログラム、それとは相反するプログラムをどう見せ、聴かせ、表現していくか? 相談しながら決めていきました」と明かした。このほか釜石市民ホールでは、東日本大震災復興応援コンサートを開催。これまでも被災地を巡ってコンサートを開いてきた諏訪内は「音楽は、いろんな意味でエネルギーが言葉ではなく伝わる素晴らしい芸術だと思っています。エネルギーを届けることができればと思って活動を続けています」と震災復興支援への思いを語った。来年は、1990年に諏訪内が当時19歳、史上最年少でチャイコフスキー国際コンクール1位を獲得してから節目の30年目の年となる。「当時はまだソビエト連邦で、高校を卒業したばかりで留学経験もない私が、なぜか国際コンクールで優勝し世界が一変してしまう経験をしました」と当時を振り返りつつ「長く活動して来て、どこかの時点で恩返しをしたいと思って始めたのがこの音楽祭。30年は短いようで非常に長かったです。いま40代の後半ですが、いろんなことを経験させていただき非常に充実しています。こうした企画を続けることができていることに感謝しています」と音楽祭へ強い思いと感謝の念を口にした。「国際音楽祭NIPPON 2020」は2020年2月14日(金)より3月15日(日)まで開催。チケットは9月21日(土)より一般発売。取材・文:黒豆直樹
2019年09月19日日本のアガサ・クリスティとも呼ばれる山村美紗。彼女の原作『京都西大路通り殺人事件』をもとに2006年に京都・南座で舞台化され、大ヒットとなった『京都 都大路謎の花くらべ』が、このたびバージョンアップして新橋演舞場に初登場。8月3日に幕を開けた。京都の街を隅々まで、そしてこの古都の光と陰を知り尽くしていた山村ならではの傑作。原作を生かした人間関係やトリックはもちろん、さらに大劇場での舞台ならではのダイナミックで意外な展開も期待できそうだ。脚本・演出は、劇団新派の芝居に欠かせない齋藤雅文。江戸川乱歩の『黒蜥蜴』や横溝正史『犬神家の一族』を劇化し、高い評価を得ている。出演は波乃久里子、喜多村緑郎、河合雪之丞と、テレビ、映画、舞台で活躍する中村梅雀、山村美紗を母に持つ山村紅葉、そして新派初登場となる長谷川純。京都・祇園のクラブ「牡丹」でホステスの桃子が、自宅で服毒自殺したという知らせが飛び込んでくる。女流人形師の歌乃や日本画家の沢木というふたりの芸術家が取り合うほど、モデルとして魅力ある女だった。はたして本当に自殺なのか、密室殺人の可能性は?八月新派公演 山村美紗サスペンス『京都 都大路謎の花くらべ』8月3日~17日(土)新橋演舞場文:五十川晶子
2019年08月04日『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』の原恵一監督最新作『バースデー・ワンダーランド』から、声優の藤原啓治と矢島晶子が担当するキャラクターが登場するちょっと怖い本編シーンが到着した。女優・松岡茉優が主人公の声を務めるほか、杏、麻生久美子、市村正親ら豪華俳優陣が参加することでも話題の本作。今回到着した映像は、「クレヨンしんちゃん」の初代“ひろし”と“しんのすけ”の声でお馴染みの藤原さんと矢島さんが演じるワンダーランドの世界を荒らす“悪役コンビ”、ザン・グとドロポのシーン。アカネが泊っている宿で、食料を奪おうとするザン・グとドロポ。食料が減り、水不足の危機に陥っているワンダーランドだが、「食い物を出せ」と店主を脅し、むりやり食べ物を奪ってしまう。さらに睨みつけて水も要求、怒った勢いでテーブルを破壊してしまう。ひろしとしんのすけとは全く違うキャラクターのザン・グとドロポだが、2人には本当の目的もあるようで…。「クレヨンしんちゃん」をはじめ、『河童のクゥと夏休み』『カラフル』『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』にも出演するなど、原監督作品には欠かせない存在となっている藤原さんと矢島さん。原監督は2人に絶大な信頼を寄せており、「敵役のザン・グとドロポの悪役コンビは、藤原さんと矢島さんにぴったりだと思ったので演じてもらうことにしました」とコメント。また「藤原さんにはワンダーランドの誰もが恐れているザン・グの怖さを表現してもらい、矢島さんは悪役だけどどこか憎めないドロポを演じてもらいました。ひろしとしんのすけとは真逆の悪役キャラを楽しみにしてほしいです」と呼びかけている。『バースデー・ワンダーランド』は4月26日(金)より全国にて公開。(cinemacafe.net)■関連作品:バースデー・ワンダーランド 2019年4月26日より全国にて公開©柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
2019年04月04日2016年放送予定のTVアニメ『文豪ストレイドッグス』だが、その放送開始が2016年4月に決定! さらに与謝野晶子(cv. 嶋村侑)、谷崎ナオミ(cv. 小見川千明)、福沢諭吉(cv. 小山力也)のキャラクターアニメ立ち絵ビジュアルが公開された。○TVアニメ『文豪ストレイドッグス』登場キャラクター紹介■与謝野晶子 (cv. 嶋村侑) 能力名:君死給勿異能力集団「武装探偵社」の一員でボブヘアーがモダンな女傑。荒事ばかりの探偵社に無くてはならない優秀な専属医だが、社員は皆、その手に掛かることを恐れている。彼女の前で女性を軽んじた前時代的な発言をすることはお勧めしない。■谷崎ナオミ (cv. 小見川千明)長い黒髪をたなびかせた、セーラー服の美しい少女。■福沢諭吉 (cv. 小山力也) 能力名:人上人不造ならず者どもを束ねる、「武装探偵社」の社長。なかなか表に出てくることはないが、ここぞというときには昂然と指揮をとる。威厳ある人格者で、不真面目な乱歩も諭吉の命令とあれば腰を上げるようだ。なお、今後12月22日に梶井基次郎、樋口一葉、泉鏡花、12月25日に中原中也のビジュアルなどが公開される予定となっている。また、『文豪ストレイドッグス』と「FITS」のフレグランスコラボレーション企画も進行中となっているので、あわせてチェックしておきたい。(C)2016 朝霧カフカ・春河35/KADOKAWA/文豪ストレイドッグス製作委員会
2015年12月17日パリを拠点に活躍中の世界的ヴァイオリニスト諏訪内晶子が芸術監督を務める新たなクラシック音楽祭、国際音楽祭NIPPON」の記者発表会が、7月6日に行われた。諏訪内晶子の公演情報1990年の第9回チャイコフスキー国際コンクールで第1位(史上最年少、日本人初の優勝)の快挙を成し遂げて以来、世界を舞台に活躍を続けているヴァイオリニストの諏訪内晶子。ここ10年来「演奏活動以外に、何か世の中に恩返しができないか。次の世代に伝えていけることはないか」ずっと考えてきたという彼女が、長年温めてきた構想を実現させるのが今回の音楽祭だ。諏訪内が考えるこの音楽祭の柱は3つだという。「まず1つは、現在演奏活動を行っている同世代の方たちと一緒に作ること。2つ目は、音楽祭のための作品の委嘱とそれを世界に向けて発信すること。そして3つ目は教育。マスタークラスを含め、私はまだ日本では教えたことがないのですが、自分が経験してきたことを今後定期的に伝えていきたいです」と思いを語る。音楽祭は、諏訪内自身が10年以上住んだことのある思い入れのある横浜と、仙台を中心に開催。出演者には、諏訪内晶子のほか、エサ=ペッカ・サロネン(指揮)、フィルハーモニア管弦楽団、レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ)、ピーター・ウィスペルウェイ(チェロ)、江口玲(ピアノ)らが予定されている。内容は、リサイタルやオーケストラとの共演、諏訪内初の室内楽コンサートに加え、美術館とのコラボレーション、0歳児から入場できるコンサートや小学生のためのヴァイオリン教室などの子ども向けプログラムも計画中だ。また東日本大震災復興支援として、公演の収益金の一部を被災地へ寄付するほか、仙台でのコンサートやヴァイオリン教室も行われる。「国際音楽祭NIPPON」は、2013年2月2日(土)から16日(土)まで、横浜みなとみらいホール、横浜美術館(以上・神奈川県)、電力ホール(宮城県)などで行われる。公演内容の詳細、チケットの発売日などは随時発表される予定。
2012年07月10日