アルコールに溺れる父を持つ作者の実体験によるコミックエッセイを、松本穂香と渋川清彦のW主演で実写化する『酔うと化け物になる父がつらい』。この度、恒松祐里、濱正悟、浜野謙太ら全キャストが発表された。松本さん演じる主人公・サキの親友・ジュン役に、連続テレビ小説「まれ」、「5→9~私に恋したお坊さん~」の恒松祐里。現役東大生で小説家志望、サキに出会ってから猛アタックをかけ付き合う中村聡役に、「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」宵町透真/ルパンブルーの濱正悟。田所トシフミ(渋川さん)の同僚・木下役に、『婚前特急』「好きな人がいること」、連続テレビ小説「まんぷく」でも話題となった浜野謙太が決定。恒松さんは、ジュンについて「明るくてお節介おばさんのような一面のある子」と説明し、「そのオバさん感を出す為に撮影中は家でひたすらおばさんの動画を検索して役作りをしました」とまさかの役作りを明かしている。また「戦隊ドラマ出演後、初のお芝居の現場で非常に刺激的な役どころでした」とふり返る濱さんは、「原作、台本を読ませて頂き、お酒を呑む機会が多い自分にとって、よく考えるべきテーマだと感じました」と感想。さらに浜野さんは「切り口が最高に切なくてでも可笑しくて、こういう物語は役者さんの味わい深さが試されるんだと思うんですが、そういう現場で渋川さんとご一緒できてとにかく幸せでした。渋川さんの味わいを全身で浴びて酔っ払い、いいほろ酔い状態でした。気持ち良かったぁ~。いや嘘っ、一瞬化け物になりました。辛かった~。下戸の役なんですが」と撮影をふり返っている。そのほか、父・トシフミの麻雀仲間の3人組役で、宇野祥平(白石役)、森下能幸(發田役)、星田英利(中谷役)。彼らが集う「スナック幸子」のママを安藤玉恵。さらに、物語の鍵となる“ある場面”には、オダギリジョーが出演するという。『酔うと化け物になる父がつらい』は2019年度、全国にて公開予定。(cinemacafe.net)■関連作品:酔うと化け物になる父がつらい 2019年度、全国にて公開予定©「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会
2019年04月08日子どもは褒めて伸ばす――。よく耳にする言葉ですが、とくに最近は教育業界で頻繁に聞かれるキーワードです。そして、EQWELチャイルドアカデミーの主席研究員・浦谷裕樹先生もその重要性には賛同するひとり。先生が注目する、自己肯定感、忍耐力、協調性、やり抜く力、自制心、共感力、リーダーシップ、誠実さ、創造性、コミュニケーション能力といった「心の知能指数」である「EQ」を伸ばすためにも、「褒める」という姿勢は大切な要素だといいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/榎本壮三(インタビューカットのみ)「安心感」が子どもの心と才能を育む子どものEQを伸ばす、心を豊かにするためには「褒める」ことが大切です。そして、まずは「褒める」以前に「認める」必要があります。親に自分の存在を認めてもらえる、丸ごと受け止めてもらえると、「自分はここにいていい存在なんだ」と子どもは「安心感」を得る。この安心感こそが、子どもの心と才能を育むために重要なものだからです。これは大人でも同じではないでしょうか。たとえば、新たに入社した会社にはじめて出勤するときは、誰もがドキドキするものでしょう?そういう心理状態では、なかなか本来の力を発揮できません。でも、新しい会社に徐々に慣れ、上司や先輩に仕事ぶりを認められ褒められれば、「自分はここにいていいんだ」「組織に必要とされているんだ」と思えるようになる。そして、より自分らしく仕事ができるようになり、持っている能力を発揮できるようになるのです。親が子どもを認めることの効果は、東大生へのあるアンケートにも顕著に表れています。そのアンケートでは、「東大生の親の96%は子どもの話をよく聞いた」という結果が示されました。しかも、興味深いことに、これは親ではなく東大生自身におこなったアンケートなのです。東大生が自分の子ども時代を振り返って、「親はよく話を聞いてくれた」と答えたわけです。着目すべきは、親が自分を良く見せようとしたわけではなく、子ども自身が親に認めてもらえたと感じていたということです。もちろん、このことが直接的に学力を高めたとはいえないかもしれません。でも、EQが高まれば、学力がさらに大きく向上することがわかっていますから(インタビュー第1回参照)、親が受け止めてくれたことで子どものEQが高まり、東大に入学できるほどに学力も高まったという推測もできるのではないでしょうか。子どものEQを高める褒め方のコツさて、子どもの存在を認めたら、今度はしっかり褒めてあげましょう。ただ、褒めて伸ばすことが大切とはいえ、やたらに褒めればいいというものではありません。たとえば、いわゆる「能力褒め」は子どもの成長にとってマイナスにも働きます。もともと持っている能力を褒めると、やる気を失ってしまうことにもなるのです。このことは、ある実験の結果ではっきりと示されています。その実験では、まず小学生を対象に知能テストをおこないました。そして、同じくらいの点数だった子どもたちをふたつのグループにわけ、ひとつのグループに対しては「能力」を褒めた。「頭がいいね、かしこいね、天才だね」といった具合です。一方、もうひとつのグループに対しては、「よく頑張ったね、最後までやり抜いたね」といったふうに「努力」を褒めました。その後、2回目のテストではわざと難しい問題を出しました。どちらのグループも能力は同じくらいの子どもたちですから、全員の点数ががくんと落ちます。続いて、3回目のテストでは1回目と同じくらいの難易度のテストを出しました。すると、能力を褒められたグループは1回目より点数が下がったのに、努力を褒められたグループは1回目より点数が上がったのです。これはどういうことなのでしょうか?ポイントは2回目のテストで「点数が下がった」ということです。その要因を、能力を褒められた子どもたちは、「これは自分に能力がないからだ」と考えてしまう。「自分には能力がない、だからこれ以上勉強をしても仕方がない」と勉強をやめてしまった。そして、3回目のテストでは1回目より点数が下がるという結果になったのです。一方の努力を褒められたグループはどう考えるかというと、2回目のテストで点数が下がった要因を「努力が足りなかったからだ」と考える。努力が足りなかっただけなのですから、子どもたちは「もっと頑張ろう!」と思い、いっそう努力をします。そうして、3回目のテストでは点数が上がったというわけです。やり抜く力やチャレンジ精神といったEQの伸びに関して、褒め方のちがいが大きく左右したことの証といえるでしょう。叱るときは子どもを「教え諭すチャンス」もちろん、「褒めて伸ばす」とはいっても、子どもが約束を破った、他人を傷つけたといった問題を起こした場合にはきちんと叱る必要もあります。意識してほしいのは、そういう場面を「子どもを教え諭すチャンス」だととらえるということ。子どもがなんらかの問題を起こしてしまったときは、子ども自身も「まずい、どうしたらいいんだろう……」と思っています。つまり、学びやすいタイミングなのです。そのとき、教え諭すのではなく、「子どもを怒るチャンス」だととらえて感情任せに怒りを爆発させては、子どもはほとんどなにも学ぶことができません。「怒る」のではなく、起こしてしまった問題への対処法を「教え諭す」のです。そのためにも、親自身が冷静になり、「1分以内」くらいの短い時間で叱ることを心がけましょう。お説教が長時間に及ぶと、子どもは途中からなぜ叱られているのかすらわからなくなるものです。結果的に、子どもの行動にはなんの変化も起こらないということになりかねません。もちろん、理性的に叱るべきだと頭ではわかっていても、子どもが起こした問題によっては、つい感情を爆発させてしまいそうにもなるものです。わたしも、こう語りながらも、自分の子どもに対してはそうなってしまいそうになることもありますけどね……(苦笑)。そういうときにおすすめしているのが、「一度、その場を離れる」ということ。物理的に距離を取るのです。「一度、見なかったことにする」といってもいいでしょう。さらには、特定の言葉を使うことも効果的です。「ま、いいか」「そういうこともあるよね」と口にする。これらの行動で、感情ではなく理性のほうに脳がスイッチするため、冷静になれるわけです。子どもをしっかり認めて褒めて、必要なときには怒るのではなく叱る。子どものEQを高めるため、つねに心がけてみてください。『子どもの未来が輝く「EQ力」』浦谷裕樹 著/プレジデント社(2018)■ EQWELチャイルドアカデミー・浦谷裕樹先生 インタビュー一覧第1回:幼児教育ブームのなかで今注目の「EQ、非認知能力」って何のこと?第2回:「頭の力」には「心の力」こそ必要。EQが高いと優秀な子に育つ納得の理由第3回:父親流の「厳しい愛情」が子どものEQを伸ばす。人間性と学力を高める親のかかわり方第4回:お説教は「○分以内」で。子どものEQを高める“叱り方の正解”とは【プロフィール】浦谷裕樹(うらたに・ひろき)1972年7月31日生まれ、東京都出身。EQWELチャイルドアカデミー・新未来教育科学研究所主席研究員。工学博士、理学博士。京都大学理学部卒業、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。高校時代に「人間の可能性はどこまで伸ばせるのか」との問いを抱き、学生時代より古今東西の能力アップ法を研究開始。現在は「楽しく、わかりやすく、ためになる」をモットーに全国で講演活動中。とくに参加型のトレーニングやワークを盛り込んだセミナーを得意とする。著書に『メンタルウェルネストレーニングのすすめ』(エコー出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年04月06日自己肯定感、忍耐力、協調性、やり抜く力、自制心、共感力、リーダーシップ、誠実さ、創造性、コミュニケーション能力など、さまざまな「心の力」は、「心の知能指数」として「EQ」と呼ばれます。このEQの重要性を提唱するEQWELチャイルドアカデミーの主席研究員・浦谷裕樹先生には、過去2回のインタビューでEQが子どもにもたらす多くのメリットを語ってもらいました(インタビュー第1回、第2回参照)。今回は、子どものEQの伸ばし方を教えてもらいましょう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/榎本壮三(インタビューカットのみ)親のかかわり方が子どものEQを左右するまず親御さんにお伝えしておきたいのは、子どものEQが高まるかどうかは親のかかわり方にかかっているということ。とくに幼児期までの子どもにとっては、親のかかわり方そのものが教育といえます。なぜなら、幼稚園でもある程度の学びはありますが、子どもが過ごす時間が絶対的に多い場所が親と接する家庭だからです。子どもがなにかの問題にぶつかったとき、真っ先に頼るのは親に他なりません。そこで親がどんな解決法、対処法を教え示すのか――。そういう実地の経験の一つひとつが、子どものEQを伸ばしていきます。見方を変えれば、子どもというのは親を見本にするということ。EQが親子間で遺伝するかどうかについては詳しい研究がまだなされていませんが、EQの傾向が親子間で似るということは明確です。親が「心の力」を示してくれなければ、子どもが「心の力」を学ぶ場を持てないからです。子どもがわがままをいって、感情を爆発させ泣き叫んでいたとしましょう。そのとき、親まで感情的になって怒ってしまえば、子どもが感情をコントロールできるようになるはずもありません。でも、親に共感力や自制心があれば、子どもに共感して寄り添い、「そういう気持ちもわかるよ」「でもこういうときはこうすればいいんじゃない?」と、対処法を教えられるのです。乳児期の母親の愛情がEQのベースをつくるそして、子どもへの親のかかわり方には、父親と母親それぞれに役割があるということも忘れてはなりません。母親は「第1の養育者」とも呼ばれます。子どもが小さいとき、とくに生まれてから1~2歳頃までのあいだに、いちばん子どもの近くにいる母親がどれだけ心穏やかに愛情をたっぷりと注ぐことができるか。それが、子どもの心の豊かさに大きなちがいを生みます。というのも、生まれてから1~2歳頃までの子どもは、「感受性期」という脳が情緒に関してもっとも学びやすい時期にあるからです。ここで、その後に伸びていくEQのベースがつくられるというわけです。そのベースとは、自己肯定感。母親に愛情を注がれることで、「自分はこの世に存在していていいんだ」と子どもは感じられる。自分の存在を肯定し、豊かな心を育んでいくようになるのです。逆に、この時期に親からほったらかしにされた、いわゆるネグレクトの状態に置かれた子どもは、情緒不安定だったり社会への適応性がなかったりといった好ましくない特徴を示すことがわかっています。子どものEQを伸ばすための父親の役割母親だけでなく、父親のかかわり方も子どもに大いに影響を与えます。それについては、国内外を問わず、いくつもの研究結果が示されています。たとえば、スウェーデンでの研究では、「父親との関係が良好な子どもは、学力が高く、良い友人関係を築け、問題行動や犯罪行為が少ない」という結果が出ています。また、カナダの研究では、「父親が子どもに多く関与すると、子どもの認知機能と学業成績が向上し、問題解決力、忍耐力、感情コントロール、責任感、社会的発達、人間関係力に好影響を与える」という結果が示されました。面白いのが、桜美林大学の山口創先生の研究です。先生の研究では、「『高い高い』『おんぶ』『肩ぐるま』を経験することで、子どもの空間認識能力、危機対処能力、身体能力への自信が高まる」ことがわかりました。注目は「空間認識能力」です。「肩ぐるま」などで普段とはちがう視点から周囲を見渡すことで空間認識能力が高まり、さらには物体に限らずものごとを多角的に見る力も高まったというのです。もちろん、「肩ぐるま」などは母親でもできるものです。でも、どちらかといえば父親がやることが多いものですよね。しかも、母親より力が強い父親がやれば、これらの遊びはよりダイナミックになり、もたらす効果も高まると考えられます。2種類の愛情を意識して使いわける父親と母親それぞれに役割があるということには、愛情にも2種類あるということが関係しています。簡単にいえば、「優しさ」と「厳しさ」です。母親の愛情というのは、子どものすべてを受け入れる、どんなときも子どもの味方になるといった「優しさ」、「応援する」というものです。一方、父親の愛情は、子どもが困難にぶつかったとき、失敗したときに、「もっとできるはずだぞ!」と挑戦へ導く「厳しさ」、「期待する」というもの。これらが愛情の両輪であり、どちらも子どもの成長にとって非常に大切なものです。もちろん、不幸にしてお父さんがいない、あるいはお母さんがいないという家庭もあるでしょう。でも、たとえひとり親であっても、ふたつの愛情をバランス良く使いわけることができれば、なんの問題ありません。あるいは、おじいちゃんやおばあちゃんが父親や母親の代わりになることもできるはずです。いずれにせよ、ふたつの愛情の存在、重要性を意識して子どもに接することが大切です。『子どもの未来が輝く「EQ力」』浦谷裕樹 著/プレジデント社(2018)■ EQWELチャイルドアカデミー・浦谷裕樹先生 インタビュー一覧第1回:幼児教育ブームのなかで今注目の「EQ、非認知能力」って何のこと?第2回:「頭の力」には「心の力」こそ必要。EQが高いと優秀な子に育つ納得の理由第3回:父親流の「厳しい愛情」が子どものEQを伸ばす。人間性と学力を高める親のかかわり方第4回:お説教は「○分以内」で。子どものEQを高める“叱り方の正解”とは(※近日公開)【プロフィール】浦谷裕樹(うらたに・ひろき)1972年7月31日生まれ、東京都出身。EQWELチャイルドアカデミー・新未来教育科学研究所主席研究員。工学博士、理学博士。京都大学理学部卒業、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。高校時代に「人間の可能性はどこまで伸ばせるのか」との問いを抱き、学生時代より古今東西の能力アップ法を研究開始。現在は「楽しく、わかりやすく、ためになる」をモットーに全国で講演活動中。とくに参加型のトレーニングやワークを盛り込んだセミナーを得意とする。著書に『メンタルウェルネストレーニングのすすめ』(エコー出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年04月05日「EQ」とは、知能指数と呼ばれる「IQ」に対して、「心の知能指数」と呼ばれる概念のこと。このEQの重要性を提唱し、『子どもの未来が輝く「EQ力」』(プレジデント社)を上梓したのが、EQWELチャイルドアカデミーの主席研究員・浦谷裕樹先生です。EQが高いと、なぜ「子どもの未来が輝く」のでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/榎本壮三(インタビューカットのみ)「頭の力」をうまく使うにも「心の力」が必要そもそもわたしがなぜ、「EQ」に注目することになったのか――。今回はそんな話からはじめてみます。わたしは学生時代から能力開発に興味を持っていました。つまり、「人間はどこまで伸びるのか」ということを突き詰めてみたかったのです。日本の教育は、どちらかというと「どうやって底辺にいる子たちの力を伸ばして全体の底上げをするか」という発想に基づいたものです。そうではなくて、トップ層にいる人間の能力はどこまで伸びるのかということに興味があった。そんな経緯もあり、そういう研究を国内でも大きな規模でおこなっているEQWELチャイルドアカデミーに入社することになったわけです。そして、幼児や小学生、中高生の能力開発トレーニングに携わるうち、学力をはじめとしたさまざまな能力向上のベースにあるものこそEQだということに気づきました。学力を向上させる「頭の力」には思考力や記憶力などがありますが、それらをうまく使うにも「心の力」であるEQこそが必要なのです。EQの高低によって人生はまったくの別物になるEQには、自己肯定感、忍耐力、協調性、やり抜く力、自制心、共感力、リーダーシップ、誠実さ、創造性、コミュニケーション能力……など、さまざまな要素があります。これらの力に優れているかどうかで子どもの人生はまったく別のものになるということは、容易に想像できるものでしょう。EQが低ければ、まず自分の感情をうまくコントロールすることができません。そうすると、学校でも家でも問題を起こすことになる。友だちとはしょっちゅう喧嘩をするし、親のいうこともまともに聞かない。あらゆることに対するやる気も持てなくて、やるべきこともやれない。自己肯定感が低ければ、なにをやろうにも「自分はどうせ駄目だから」とマイナス思考に陥って、せっかく持っている才能を活用することもできないでしょう。一方、EQが高い子どもはどうなるか。人間関係が穏やかで、やるべきことをしっかりやれるので、まずは学校生活にすんなり順応できます。そうなると、当然、学力も向上していくことになる。興味を示して「やりたい」と思った趣味やスポーツも、すいすい身につけられる。結果的に、「優秀な子」といわれる子どもに育ちやすいということになります。そういう子どもが大人になったとき、社会に出たときのいちばんのメリットは、なにかをしようと思ったときにそれらをスムーズに実現できるということです。しかも、EQのさまざまな力を生かして、自分とまわりの人間の能力を最大限に引き出し、いいかたちで早く実現することもできる。自分の思いをかたちにできる、「自己実現」できる人間になれるのです。「自己実現」がこれからの時代のキーワードこれからの時代は、高いEQによる「自己実現」が重要なキーワードになると感じています。というのも、あらゆる状況がそう指し示しているからです。まずひとつが、「人生100年時代」に入ってきたということ。平均寿命が延び、60年も70年も仕事を続けなければならない人が増えていく。その間、技術革新はどんどん進み、つねに新しいことを学び続ける必要があります。そこで心が豊かでなければ、働き続けるモチベーションを保てないということになってしまうでしょう。もうひとつが「グローバル化社会」です。日本でも外国人労働者が急激に増えているように、これからは多種多様な人たち、異文化を持つ人たちと一緒に仕事をしていかなければなりません。さまざまな人たちとうまく協働していくには、コミュニケーション能力をはじめとしたEQの高さが求められます。加えて、とくに日本では「少子高齢化」が急激に進みます。人口が減り一人ひとりの重要性が増していくなかで並行して進むのは、「AI時代」。ちょっと考えればできるような仕事、マニュアル化できる仕事はAIが担うことになります。わたしたち人間がやるべきことは、それこそAIにはできないことしかありません。EQを生かして粘り強く考え、創意工夫し、問題解決をして、本当に自分がやりたいことを実現していくことなのです。そうできれば、新しいことを学び続け、働き続けるモチベーションも保てますし、そうするために、多種多様な人ともうまく協働しようとするでしょう。幸せとは、社会とかかわらなければ得られないそして、「自己実現」は人間としての幸せにもつながるものです。いま、「ウェルビーイング」と呼ばれる「幸福感」の研究が進んでいます。その研究によると、人が幸せを感じるためには3つの要素が大切だとされています。まずは、「体の健康」。病気がちであるより、体が元気であるほうが幸せというのは当然のことですね。ふたつ目は「心の健康」。毎日、うつうつと過ごすより、機嫌良くいきいきとしているほうがいい。これもあたりまえのことです。3つ目が大きなポイントで、これは「社会的な健康」といわれます。人間はただ心身が健康であっても、本当の意味での幸せは得られません。一人ひとり異なる自分の能力を生かして世のなかとかかわる、もしくは社会貢献をする。それができてはじめて本当に幸せだと感じることができるのです。「自己実現」とは、ただ身勝手に自分がやりたいことをやるというものではありません。幸せを得るためには、自分の能力を見定め、それを最大限に生かし、どうすればまわりの人たちによろこんでもらえるのかと考えなければならない。本当の意味での「自己実現」とは、自分が幸せになると同時に、周囲も幸せにするものなのです。『子どもの未来が輝く「EQ力」』浦谷裕樹 著/プレジデント社(2018)■ EQWELチャイルドアカデミー・浦谷裕樹先生 インタビュー一覧第1回:幼児教育ブームのなかで今注目の「EQ、非認知能力」って何のこと?第2回:「頭の力」には「心の力」こそ必要。EQが高いと優秀な子に育つ納得の理由第3回:父親流の「厳しい愛情」が子どものEQを伸ばす。人間性と学力を高める親のかかわり方(※近日公開)第4回:お説教は「○分以内」で。子どものEQを高める“叱り方の正解”とは(※近日公開)【プロフィール】浦谷裕樹(うらたに・ひろき)1972年7月31日生まれ、東京都出身。EQWELチャイルドアカデミー・新未来教育科学研究所主席研究員。工学博士、理学博士。京都大学理学部卒業、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。高校時代に「人間の可能性はどこまで伸ばせるのか」との問いを抱き、学生時代より古今東西の能力アップ法を研究開始。現在は「楽しく、わかりやすく、ためになる」をモットーに全国で講演活動中。とくに参加型のトレーニングやワークを盛り込んだセミナーを得意とする。著書に『メンタルウェルネストレーニングのすすめ』(エコー出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年04月04日いわゆる知能指数と呼ばれる「IQ」という言葉は誰でも知っていますが、それに対して、「EQ」というものがあります。これは「Emotional Intelligence Quotient」の略で、日本語では「心の知能指数」と訳される概念のこと。このEQの重要性を提唱し、『子どもの未来が輝く「EQ力」』(プレジデント社)を上梓したEQWELチャイルドアカデミーの主席研究員・浦谷裕樹先生に、あらためてEQとはどんなものかを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/榎本壮三(インタビューカットのみ)幼児教育の有無でその後の人生に現れた大きなちがいかつては社会で活躍して幸せであるためには、IQが大切だとされていました。でも、どんなにIQが高くて高学歴を手にしていても社会で活躍していない人、ハッピーではない人も少なくなかった。本当に重要なものはIQではないのではないか?――。そんな疑問を持つ人たちが現れたわけです。2000年にノーベル経済学賞を受賞した、シカゴ大学のジェームズ・ヘックマンという経済学博士もその疑問を持ったひとり。博士は、米国ミシガン州の貧困地域で、2年間の幼児教育を受ける60名のグループと、そうではない60名のグループを追跡調査しました。その幼児教育とは、幼稚園に通いながら、先生が週に1回の家庭訪問をするというもの。家庭訪問では、子どもへの接し方などについて親御さんに事こまかくアドバイスをしました。すると、幼児教育を受けたグループは、そうではないグループに比べて、将来的に学力、学歴、年収、持ち家率が高くて、生活保護受給率、犯罪率が低いという結果が出た。ほんの2年間の幼児教育によってその後の人生に大きな差が現れたことで、幼児教育の重要性に注目が集まることとなったのです。幼児教育によってもたらされたちがいこそ「EQ」そこで、みなさんも関心が高まると思います。幼児教育によって、子どもたちにどんな変化が起きたのか、と。ジェームズ・ヘックマン博士の研究では、幼児教育によってたしかにIQも上がったこともわかりました。ただ、それは一時的なものに過ぎなかった。幼児教育が終わったそのあと、両グループとも同じ教育を受けはじめると、8歳の時点ではIQにはほとんど差がなくなったのです。そして、両グループに大きなちがいが出たものこそ、EQだったのです。EQとは、一般的になりつつある言葉だと「非認知能力」と呼ばれるものにあたります。知能テストで測定できるIQに対して、これといった測定法がない「心の力」です。具体的には、自己肯定感、忍耐力、協調性、やり抜く力、自制心、共感力、リーダーシップ、誠実さ、創造性、コミュニケーション能力など、さまざまな要素があります。ひっくるめていえば、「人間力」といっていいでしょう。そして、これらの力が高いほど学力が高くなることもわかりました。ある研究によって、IQが高いからといってEQが高くなるとは限らないが、EQが高ければIQはさらに高くなるということがわかったのです。ただ、そんなことは研究するまでもなく想像できますよね。自己肯定感が高くて、忍耐力ややり抜く力、自制心があれば、勉強だってできるようになる。学力をはじめ、人間としてのさまざまな力を伸ばしていく「土台」にあたるのがEQなのです。「EQ」への注目度が高まっている背景いま、このEQ、非認知能力が日本でも大きな注目を集めるようになってきました。書店の教育関連書籍のコーナーに行くと、「非認知能力」という言葉はいくらでも見つけることができます。それには、幼児教育ブームも大きな要因となっているでしょう。いまや、幼児教育は「する・しない」ではなく、「するのがあたりまえ」「どんな幼児教育をするか」というところに移ってきています。そこで、EQ、非認知能力を伸ばす教育というものが注目されているわけです。また、2020年からはじまる教育改革もEQが注目を集めることとなった要因のひとつでしょう。新たな学習指導要領では、学力の3要素として、幼児の場合は「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」、そして「学びに向かう力・人間性」を掲げています。3つ目の要素である「学びに向かう力・人間性」は、新たな大学入学共通テストの出題指針としては「主体性・多様性・協働性」という表現になっています。これら3つ目の要素は、結局のところ、EQといっていいものでしょう。さらにEQの注目度が高まっている背景としては、時代の潮流というものも大きいように感じます。かつての大学入試は「富士山型」といえました。日本なら東大、世界ならオックスフォード大やハーバード大というひとつの「頂点」に向かうことが最良とされてきたのです。でも、現在は、「頂点」がいくつもある「八ヶ岳型」に変わりつつあるといえるでしょう。大学側は「うちの大学ではこういうことを教えるから、こういう学生がほしい」とそれぞれ異なる特徴を打ち出す。受験生も「こういうことを学びたいからこの大学に行きたい」と考える。価値観が多様化し、大学側、受験生側の双方が「マッチング」を重視するようになってきたのです。そこで、「自分はなにをしたいのか」「どんな能力を伸ばしていくべきなのか」といったことがわからなければ自分に合った大学を見つけることができず、その先の人生を充実させることも難しくなるでしょう。そして、そういった自分を見つめる力、自分を客観視する力もEQに含まれるものなのです。『子どもの未来が輝く「EQ力」』浦谷裕樹 著/プレジデント社(2018)■ EQWELチャイルドアカデミー・浦谷裕樹先生 インタビュー一覧第1回:幼児教育ブームのなかで今注目の「EQ、非認知能力」って何のこと?第2回:「頭の力」には「心の力」こそ必要。EQが高いと優秀な子に育つ納得の理由(※近日公開)第3回:父親流の「厳しい愛情」が子どものEQを伸ばす。人間性と学力を高める親のかかわり方(※近日公開)第4回:お説教は「○分以内」で。子どものEQを高める“叱り方の正解”とは(※近日公開)【プロフィール】浦谷裕樹(うらたに・ひろき)1972年7月31日生まれ、東京都出身。EQWELチャイルドアカデミー・新未来教育科学研究所主席研究員。工学博士、理学博士。京都大学理学部卒業、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。高校時代に「人間の可能性はどこまで伸ばせるのか」との問いを抱き、学生時代より古今東西の能力アップ法を研究開始。現在は「楽しく、わかりやすく、ためになる」をモットーに全国で講演活動中。とくに参加型のトレーニングやワークを盛り込んだセミナーを得意とする。著書に『メンタルウェルネストレーニングのすすめ』(エコー出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年04月03日ある程度の一般常識やルールがある子どもの学校生活や日常生活とちがい、各家庭の経済状況や教育方針が大きく影響するために正解がない「おこづかい」。お金が絡むものだけに、ママ友、パパ友にも相談しづらいものかもしれません。そこでアドバイスをしてくれたのは、マネー教育の第一人者である横浜国立大学名誉教授の西村隆男先生。先生が提唱するマネー教育「おこづかいプログラム」の基本を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)おこづかいが「責任意識」も育てるキャッシュレス決済の急激な普及により現金そのものが見えにくくなっているいま、学校でのマネー教育も十分ではないとなると、まずは家庭でお金の扱い方を教える必要があります。そのためにわたしが提唱しているのが、おこづかいを有効に使ったマネー教育「おこづかいプログラム」です。その特徴は大きくふたつ。ひとつは「子どもは家の仕事をして、その対価として親がおこづかいを与える」ということ。大人であれば当然のことですが、なんの仕事もしないでお金を得られるなんてことはありません。子どものうちから、お金は放っておいても誰かが与えてくれたり、地道に働くことなしに簡単に手に入ったりするものではないと教えます。お手伝いの内容はどんなことでも構いません。玄関にある家族の靴をそろえるということでも、自分の部屋は自分で掃除するということでもいいでしょう。でも、自らが引き受けた仕事の「責任」を果たさなければ、おこづかいを手に入れることはできません。ここで重要なのは、お金は労働の対価だということだけでなく、それらを体験・体感することで、「約束を守ることの重要性」や「責任意識」を理解することです。幼い子どもに「責任を与える」というと、「早すぎる」と思う親御さんもいるかもしれませんが、そんなことはないのです。わたしが監修した、『子どもにおこづかいをあげよう!』(主婦の友社)という本の読者から手紙をもらったことがあります。その本の内容は、わたしが提唱するマネー教育「おこづかいプログラム」の実践法を解説したものでした。手紙によると、その読者は3歳のお子さんにトイレ掃除の仕事を与えたそうです。すると、その子はトイレ掃除が大好きになっちゃった(笑)。もう「トイレは僕の場所だ!」「トイレ掃除は僕の仕事だ!」といわんばかりだというのです。単純に掃除が楽しくなったということもあるかもしれませんが、3歳の子どもにも少なからず責任意識が芽生えたと見ることもできますよね。「おこづかい契約書」をつくることの意義「おこづかいプログラム」のふたつ目の特徴は、「親子で『会議』を開いて両者合意のうえでおこづかいのルールを決め、『おこづかい契約書』を作成する」ということ。ここで、「おこづかい契約書」の一例を紹介しておきましょう。【おこづかい契約書一例】おこづかいのルールには、子どもがするべき家の仕事、おこづかいの金額はもちろん、例のようにボーナスを得るための特別な仕事やその金額を盛り込んでもいいかもしれません。また、使いみちや貯金額についてのルール、1回の買い物で使ってもいい金額、1年ごとのおこづかいの上昇金額、「おこづかいの金額アップを希望するなら交渉ができる」といった文言を盛り込んでもいいでしょう。いずれにせよ、「○年生だからおこづかいはいくら」というふうに、親が一方的に決めないことが大切です。子どもを「大人扱い」するわけです。お父さんやお母さんの仕事の話に出てくる「会議」に参加して、おこづかいのルールを「交渉」して、普段は使わない言葉で書かれている「契約書」というものをつくる。これだけで、子どもからすれば一気に大人になった気分になるでしょう。そして、それらの取り組みは、自己肯定感を育むことにもなる。自己肯定感というものは、達成感を得たり、自分が社会で役立っている、自分の存在を他人が認めてくれることを実感したりすることで高まっていくものです。親が自分を大人扱いしてくれる――。大好きなお父さんとお母さんが自分の存在を認めてくれるわけですから、子どもが自信を持たないわけがありません。しかも、せっかく契約書をつくるのなら、面白おかしく楽しんでやってほしい。たとえば、普通紙じゃなくてちょっと高価ないい紙にするとか、サインには万年筆を使うとか、まるで条約の合意文書をつくるように楽しんではどうでしょうか。子どもはきっと、「よし、やるぞ!」ともっともっとやる気を出してくれるにちがいありません。興味を示すものだからこそお金を遠ざけないおこづかいのルールを契約書にして残すことには、他にも意味があります。それは、親子それぞれの「抑制装置」として働く点です。子どもの立ち場からすれば、おこづかいが足りなくなることもあるはずです。でも、大人と同じようにきちんと交渉して金額を決めた。その契約書は自分の机の大事なものを入れる引き出しに入っている――。そうすると、「我慢しなきゃ」と思うことにもなるはずです。一方、親とすれば、子どものお金の使い方にはつい口を出したくなるものですよね。でも、それが親子で決めたルールの範囲内のものであったらどうですか?子どもにとって理不尽な口出しをすることもなくなるのではないでしょうか。おこづかいの使いみちについていうと、それこそ家庭それぞれのルールになるでしょう。わたしなどは、「着色料が入ったお菓子は買っちゃ駄目」といわれて育った世代(笑)。ただ、アレルギーの問題などが絡むならともかく、あまり縛りすぎることはおすすめしません。というのも、「失敗から学ぶ」こともすごく重要だからです。ときには、「美味しそう!」と思って買ったお菓子が、食べてみたら思った味とは全然ちがった、まずかったという経験をすることもあるでしょう。コンビニでお菓子を買った後に親とスーパーに行ったら、同じお菓子がずっと安く売っていたことに気づくとかね。そういう失敗経験で学習することによって、子どもはお金を使うにも慎重になり、かしこい消費者に育っていくのです。子どもというのは、本当に幼い頃から、「お金って不思議なものだな」と、お金に興味を示すものです。一緒に買い物に行った親が、お金というものを払ってほしいものを手に入れる。そういう場面に日常生活のなかで否応なく触れるため、子どもはお金に強い興味を示すようになる。だからこそ、お金から子どもを遠ざけるのではなく、お金がどういうものか、お金をどう扱えばいいのか、きちんと教えてあげることが大切なのです。『子どもにおこづかいをあげよう!』藍ひろ子 著・西村隆男 監修/主婦の友社(2014)■ 横浜国立大学名誉教授・西村隆男先生 インタビュー一覧第1回:「子どもにお金はまだ早い」ではなぜダメなのか。マネー教育不足はこんなにも危険だ第2回:遅れが著しい日本の「マネー教育」。日本の子どもは“社会のなかで自立”できるのか?第3回:「会議・交渉・契約書」で自己肯定感が育つ。子どもをぐんと伸ばす“おこづかい”のあげ方【プロフィール】西村隆男(にしむら・たかお)1951年生まれ、東京都出身。横浜国立大学名誉教授。経済学博士。高校教諭を経て、横浜国立大学教育学部で25年教壇に立つ。研究テーマは金融教育、消費者教育、パーソナルファイナンス(家計財務管理)など。金融広報中央委員会委員、金融経済教育推進会議委員、前日本消費者教育学会会長。著書に『消費者教育学の地平』(慶應義塾大学出版会)、『社会人なら知っておきたい金融リテラシー』(祥伝社)、『子どもとマスターする46の金の知識』(合同出版)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月30日近年、子どもを取り巻くお金の環境が大きく変わったことで、学校教育でも間もなく「お金の教育」がはじまります。日本はようやく国としてマネー教育に本腰を入れることになったのです。では、海外のマネー教育とはどんなものなのでしょうか。マネー教育の第一人者である横浜国立大学名誉教授の西村隆男先生にお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)いまの日本にもマネー教育はあるが……間もなく実施される新学習指導要領による公教育には、いわゆるマネー教育が組み込まれることになりました。とはいえ、現在も学校においてマネー教育がまったくされていないわけではありません。ひとつは日本銀行が組織している金融広報中央委員会によるもの。金融広報中央委員会のかつての名称は貯蓄増強中央委員会。もともとは、戦後間もない頃に、国民に貯蓄を奨励し、お金を財政と企業融資に使って日本の産業拡大を図るための組織でした。「貯蓄は美徳だ」と国民を教育していたわけです。現在も傘下の組織が各都道府県にあります。主な活動は、小学校、中学校、高校向けのマネー教育の教材をつくること。それから、金融・金銭教育研究校を指定して、「かしこい消費者になり、かしこい買い物をする」という教育をおこなっています。子どもの頃に通っていた学校が、「子ども銀行」の活動をしていたという方もいるかもしれません。それも金融広報中央委員会によるマネー教育の一環です。もうひとつは最近のものです。2012年に消費者教育推進法という法律が制定されました。これは、自分のためだけではなく、「世のなかのためにもいい買い物をしよう」という教育をおこなうための法律です。「世のなかのためのいい買い物」とは、たとえば持続可能な社会をつくるために環境にいいものを買う、あるいは人権のことも考えてフェアトレード商品を買うといったものですね。この法律により、現行の学習指導要領でも家庭科や社会科の学習内容に「消費者教育」という名称でマネー教育が盛り込まれています。たとえば、小学3年生なら、社会科の勉強として商店街や小売店のお金の流れやそこで働く人の視点を学ぶ。これも広い意味ではマネー教育といえます。欧米の教育は「生き方教育」とはいえ、授業時間全体からすれば日本のマネー教育はごく限られたものです。では、海外のマネー教育はどうなのかというと、特に欧米では日本よりもはるかに進んでいるといっていいでしょう。そのちがいは、教育そのもののとらえ方によるところが大きいと感じています。日本の中央集権的な教育の目的は、健全な勤労者を育てて経済のパイを大きくしようとするもの。いわばエリート養成のための「知識注入型教育」が中心です。一方、もともと子どもに自立心や権利意識を持たせることを重視する欧米の教育は「生き方教育」といえます。そのため、特に北欧の教育では、手に職を持たせるという意味もあってか、「ものづくり」を重視する。それどころか、小学4年生になると自分で仕事をつくって生活していくための「起業家精神」を教える授業もあるほどです。そういう教育ですから、当然、マネー教育にも力を入れています。スウェーデンでは子どもたちに生活設計をさせる授業があります。収入がいくらで家賃がいくらで、毎月いくら貯金できるとか、利息が○%だから年末には預金がいくらになるというふうに生活設計をさせる。しかも、面白いことにこれが算数の授業なのです。フィンランドでは図工の時間に広告をつくるという授業を視察しました。図工の授業とはいえ、ただのアートでは終わりません。子どもたちは「これなら商品が売れるだろう」と考えた文言を広告に入れる。売り手がどのように買い手を誘導しようするのか、マーケティング戦略を学ぶわけです。さらに、今度は消費者サイドに立ってそういう戦略に乗せられないための方法を学んでいました。求められる「実生活に根ざした教育」アメリカのマネー教育もわたしのなかでは強く印象に残っています。わたしがアメリカでマネー教育の視察をしたのは1987年頃。少し古い話になりますが、逆にいえばアメリカでは少なくとも30年以上も前から積極的にマネー教育がおこなわれていたということになる。さて、肝心の授業内容です。当時のアメリカは小切手社会でした。すると、小学生が小切手を切る授業を受けていたのです。子どもが「$100」と小切手に書いたら、先生は「それじゃ、駄目だ」という。ただ「$100」と書いたのでは、線を書き足されて「$400」にされるかもしれないし、0をふたつ加えて「$10000」に書き換えられるかもしれませんよね。不正防止のために「$100と書いたら、その下に『one hundred dollars』と書きなさい」と指導するのです。完全に実用的な内容でした。また、高校生になると、中古車ディーラーで車を買うシミュレーションをおこなう授業もありました。走行距離や事故歴、燃費など、車を買うときになにをチェックするべきかを教える。それこそかしこい消費者になるための教育をしているわけです。これは「コンシューマーエコノミクス(消費者経済学)」という教科の授業でした。独立教科でマネー教育をするアメリカ、さまざまな教科で横断的にマネー教育をするヨーロッパというちがいはありますが、学校でリアル経済を教える点では共通しています。そうして、子どもを社会のなかで自立した人間に育てることこそが教育だという思考があるのでしょう。二次関数や因数分解、微分積分を学んで数学の面白さに目覚めた子どもが数学者やエンジニアを目指す――そんな教育もたしかに大事なものでしょう。でも、日本の教育にももっと実生活に直結する内容が必要とされているのかもしれません。『子どもにおこづかいをあげよう!』藍ひろ子 著・西村隆男 監修/主婦の友社(2014)■ 横浜国立大学名誉教授・西村隆男先生 インタビュー一覧第1回:「子どもにお金はまだ早い」ではなぜダメなのか。マネー教育不足はこんなにも危険だ第2回:遅れが著しい日本の「マネー教育」。日本の子どもは“社会のなかで自立”できるのか?第3回:「会議・交渉・契約書」で自己肯定感が育つ。子どもをぐんと伸ばす“おこづかい”のあげ方(※近日公開)【プロフィール】西村隆男(にしむら・たかお)1951年生まれ、東京都出身。横浜国立大学名誉教授。経済学博士。高校教諭を経て、横浜国立大学教育学部で25年教壇に立つ。研究テーマは金融教育、消費者教育、パーソナルファイナンス(家計財務管理)など。金融広報中央委員会委員、金融経済教育推進会議委員、前日本消費者教育学会会長。著書に『消費者教育学の地平』(慶應義塾大学出版会)、『社会人なら知っておきたい金融リテラシー』(祥伝社)、『子どもとマスターする46の金の知識』(合同出版)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月29日日本という国で育つ子どもたちが、学校教育を受けはじめるのは誰もが小学生になってから。でも、生きていくうえで欠かせない「お金の教育」に関しては、はじまる時期もその内容も各家庭の方針によってまちまちです。正解がないだけに、マネー教育に関して悩んでいるという親御さんも少なくないでしょう。アドバイスをしてくれたのは、マネー教育の第一人者である横浜国立大学名誉教授の西村隆男先生です。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)ようやく動きはじめた日本のマネー教育これまでの日本には「マネー教育」というものは存在しなかったというと、やや語弊があるかもしれませんが、あたらずといえども遠からずという状況でした。それは、日本人の国民性によるものでしょう。古くは日本ではお金は不浄のものと考えられ、家庭の話題に上げない、子どもは口を出すべきではないものとされてきました。お金に対してそういう感覚を持たされ育てられたのがいまの親世代です。ところが、ここ数十年でお金をめぐる状況は一変しました。最近ではキャッシュレス決済が急激に拡大しています。小学生でもスマホを手にしているいま、塾に行くにも「Suica」「ICOCA」などの電子マネーを使って電車に乗る。コンビニでちょっとしたお菓子や飲み物を買うにも電子マネーで支払う。子どもが使うお金を親がコントロールするためです。また、わたしのような60代くらいの世代だと、クレジットカードにはまだ若干の抵抗感があるもの。つい「借金」と考え、罪悪感があるわけです。でも、いまの親世代にとって、クレジットカードはひとつの決済ツールに過ぎません。借金だとは考えず、スーパーで500円の買い物をするにもクレジットカードを使います。こうして、子どもだけではなく、親世代にも現金が見えにくくなっているのです。もちろん、利便性という点ではほんの20年あまりの間に飛躍的に進化したと見ることができるでしょう。でも、まともにマネー教育を受けてこなかった世代が親になっているわけですから、その利便性の裏には子どもに対する大きな危険も潜んでいます。かつては「金融商品」なんて言葉は存在しませんでした。「株取引をしている」などというと、ギャンブル的な意味合いをもってさげすまれるような印象すら持たれたものです。ところが、ネット証券が広まって「金融商品」という言葉が一般的になり、最近では仮想通貨なんてものも出てきた。「マネーゲーム」という言葉も使われるほどです。それこそ、現金が見えにくくなっている時代に育った子どもがゲーム感覚でマネーゲームに走るようになったらどうするのか――。こうしてようやく日本でも、国策としてマネー教育を進めていこうとする動きが出てきたわけです。マネー教育開始は早ければ早いほどいいしかも、子どもたちがお金をめぐる問題に巻き込まれる危険性はこれからさらに拡大することも考えられます。その要因は成年年齢の引き下げです。明治時代から約120年にもわたって20歳だった成年年齢は、2022年4月から18歳に引き下げられます。18歳になれば高校生であっても自由に契約をすることができる、クレジットカードをつくることもできる時代になるのです。それを受けて、新しい学習指導要領は、高校卒業までに子どもたちに契約意識を持たせる内容になっています。ただ、新学習指導要領に基づく教育がはじまるのは小学校で2020年から。中学校では2021年、高校では2022年からです。高校を卒業してすぐに成人となる2019年度の高校1年生からは前倒しでその教育かおこなわれることになっていますが、それでもやはり遅すぎるように感じるのです。マネー教育をはじめるのは早ければ早いほうがいい――。それがわたしの考えです。それこそ、小学校でマネー教育がはじまる前から家庭ではじめておくべきでしょう。ものの価値もわからない、自分で買い物をした経験もないのに、小学校で売買契約の基礎を教えるといっても難しいというものです。しかも、幼い子どもにマネー教育をするにも現金を使うべきですね。実際に小銭を持って、10円玉10個が100円玉と交換できるものだということを感じたり、あるいは自分で買い物をして支払う金額を間違ったりする経験によって、お金がどういうものかを実感できるようになるからです。実体験としてお金を使ってみないとわからないこともあるはずです。学校でマネー教育をはじめるといっても、教室でシミュレーションするのではピンとこないこともあるでしょう。「魚が切り身のかたちで泳いでいると思っている子どもがいる」という笑い話がありますが、マネー教育も内容次第ではそれに近いことも起こり得るはずです。マネー教育不足が引き起こすさまざまな問題仮にマネー教育をまったく受けないまま大人になると、さまざまな問題に見舞われることが考えられます。何枚もクレジットカードをつくって多重債務を抱えて破産するというのもそのひとつかもしれません。また、現在、大きな問題として取り上げられるのが「奨学金破産」です。連帯保証人になっていた親が病気になるなどして、親が破産するというケースも見られます。まして少子高齢化がますます進むこれからは、老後の生活をイメージして個人でも年金をつくらないといけない時代になる。いま、大企業で必ず導入しているのが確定拠出年金です。個人型だろうと企業型だろうと、その企業に就職すれば必ず加入することになる。大学を卒業した途端に資産運用について選択を迫られることになるのです。どの投資信託にするのか、元本保証の預金にするのか、それとも別の選択肢にするのか……。それぞれがどういうものか理解できなければ、自分の将来を自分で決められないことになってしまいます。あるいは、振り込め詐欺の片棒を担ぐようなことにもなりかねません。「簡単に稼げる」といった犯罪の誘いに乗ってしまうのは、地道に稼いだお金を有効に使うとか、ある程度節約した生活をして計画的にお金をためるといった長期スパンでお金のことを考える姿勢が身についていないからです。公教育でマネー教育がはじまるのはこれから。その教育に臨む姿勢をつくってあげるのは家庭に他なりません。そのために大切だとわたしが考えているのが、「お手伝いの対価としておこづかいをあげる」ということ。責任を持って手伝いという自分の仕事(役割分担)をしてはじめてお金を得る。その経験を幼い頃からさせるのです。「まだ子どもだから」とお金に関する話を子どもに対してシャットアウトしてはいけません。むしろ、子どもだからこそ、きちんと導いてお金に触れさせてあげるべきです。そうでないとお金に対する正しい意識が育たず、将来、自立できない人間になってしまうことを親御さんには意識してほしいと思います。『子どもにおこづかいをあげよう!』藍ひろ子 著・西村隆男 監修/主婦の友社(2014)■ 横浜国立大学名誉教授・西村隆男先生 インタビュー一覧第1回:「子どもにお金はまだ早い」ではなぜダメなのか。マネー教育不足はこんなにも危険だ第2回:遅れが著しい日本の「マネー教育」。日本の子どもは“社会のなかで自立”できるのか?(※近日公開)第3回:「会議・交渉・契約書」で自己肯定感が育つ。子どもをぐんと伸ばす“おこづかい”のあげ方(※近日公開)【プロフィール】西村隆男(にしむら・たかお)1951年生まれ、東京都出身。横浜国立大学名誉教授。経済学博士。高校教諭を経て、横浜国立大学教育学部で25年教壇に立つ。研究テーマは金融教育、消費者教育、パーソナルファイナンス(家計財務管理)など。金融広報中央委員会委員、金融経済教育推進会議委員、前日本消費者教育学会会長。著書に『消費者教育学の地平』(慶應義塾大学出版会)、『社会人なら知っておきたい金融リテラシー』(祥伝社)、『子どもとマスターする46の金の知識』(合同出版)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月28日親であれば、自分の子どもには「いい子」に育ってほしいと考えています。でも、「いい子」とは果たしてどんな子どもでしょうか?一般的には「学校の先生の話をきちんと聞けて、勉強ができる子」といえるかもしれません。ただ、その典型的な「いい子像」に縛られる必要はないと、子どもの自主性・自立性を引き出す独自の授業で注目を集める東京学芸大学附属世田谷小学校教諭の沼田晶弘先生は語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「いまやるべきこと」にしっかり取り組ませる勉強ができる「いい子」になってほしい――。親として当然の願いですよね。そのため、上の学年でやる予定の学習内容を事前に学ぶ「先取り学習」にこだわる親御さんも数多くいます。「学力を上げるには先取り学習が効果的だ」というような話はよく耳にしますし、学習塾や教材業者の多くもそううたっていますから、子どもに先取り学習をさせて「安心したい」という気持ちが親に生まれることも、先取り学習を助長させる一因となっていると思います。でも、だからといって、「いまやるべきこと」がしっかりできていないのに、親が焦って子どもに先取り学習をさせることにはなんの意味もありません。そもそも、学校のカリキュラムは、段階を踏んで子どもを成長できるようにつくられているものなのですから。もちろん、個の能力差はあるので、とても能力が高くて先取り学習をさせてあげたほうがいいなと思うような子どもも存在します。とはいえ、学力を上げるベストの選択肢のように先取り学習が取り上げられる風潮には疑問を持っています。まずは、「いまやるべきこと」にしっかり取り組ませること。それがなによりも大切ではないでしょうか。子どもが話を聞けないことの責任は教員にあるここで親御さんに問いたいのは、そもそも「いい子」とはどんな子どもなのか、ということです。それは、「勉強ができる子ども」ですか?あたりまえのことですが、勉強だけが子どもの評価基準ではないはずです。僕のクラスに、漢字がすごく苦手な子どもがいます。でも、その子には別の特徴もある。給食のおかずが残ってしまいそうでみんなが困っているとき、その子は3人前もおかわりして食缶をしっかりからにしてくれる(笑)。クラスのみんなにとってヒーローであり、僕にとっても紛れもなくいい子です。また、「先生の話をきちんと聞ける子ども」がいい子だともいわれます。でも、子どもが教員の話をきちんと聞けないことの責任の半分は教員にあると僕は思っています。僕の話を子どもたちが聞いてくれないとしたら、僕の話し方が下手だというだけのことなのです。ここで、子どもたちに対する話し方、授業の進め方についての僕の考え方をお伝えします。多くの教員は、いい教材をつくっていい授業にして、子どもに学習内容をしっかり理解させようとすごく努力をしています。でも、僕の場合は、そういうセンスがないし努力があまり得意ではありません……(苦笑)。だから、必然的に他の先生たちとはちがうやり方になる。たとえるなら、他の先生たちのやり方は、「カウンターのすし店」に子どもたちを連れて行くというもの。いわば、「いいもの」を提供する考え方です。一方、僕は子どもたちが「いまいちばん食べたいもの」を提供したいのです。高級すし店に連れて行かれた子どもが、本当は「フライドチキンが食べたい」と思っていたとしたらどうでしょうか?当然、フライドチキンを出してあげたほうが食いつきは格段にいいはずですよね。授業に対する興味を子どもに持たせるには、僕が、彼らが求めているものに気づき、面白く話をできればいいだけのことなのです。いまの子どもたちに求められる「自分で考える力」それこそ、これからは多様性が求められ、社会ではダイバーシティという考え方が重要になるといわれる時代なのに、画一的な「いい子」に育てることにこだわる必要はありません。とはいえ、あまり特殊な例に引っ張られ過ぎるのも危険かもしれない。たしかに、「いい大学に入っていい企業に就職すれば安泰」というような、これまでの人生のモデルケースが崩れたともいわれます。学歴は大学中退や高卒でも、個人の力でものすごく稼いでいる人がいるのは事実です。でも、それはあくまで「特殊な例」に過ぎないのです。そういう例に極端に感化され、「じゃ、僕も大学を中退しよう」「大学に行かなくてもいいや」と安易に考えると、人生で大きな失敗を犯すことにもなりかねません。そういう失敗を避け、また自分の個性をしっかり社会で生かして人生を歩んでいくためにも、いまの子どもたちに必要とされるのはやはり「自分で考える力」といえるでしょう。なにかを調べることなんて、『Google』に任せれば済むかもしれない。そんな便利な世の中になっているからこそ、自分がどう生きていくかをしっかり考えられなければなりません。そして、子どもの「自分で考える力」を育むには、それこそ実際にもっともっと考えさせるしかありません。僕が4年生のクラスの担任をしていたときには、朝の会で必ず政治問題を取り上げていました。「そんなの早過ぎるよ」と感じる人もいるかもしれませんが、そんなことはないのです。わたしたち大人の世界で見ても、50歳の人の意見が必ず正しくて、30歳の人の意見が必ず間違っているということはありませんよね?「まだ子どもだから」なんて考えず、子どもと一緒にテレビで観たニュースについて、「どうしてこんなことになっているんだろうね?」「どうしたらいいと思う?」といった質問を投げかけてみてください。子どもは子どもなりに考えて、子どもなりの答えを見つけるようになるはずですから。それこそまさに、「自分で考える」姿勢に他ならないと思うのです。『家でできる「自信が持てる子」の育て方』沼田晶弘 著/あさ出版(2018)■ 東京学芸大学附属世田谷小学校教諭・沼田晶弘先生 インタビュー一覧第1回:子どもの「内発的なやる気」を引き出す、たったひとつの方法。第2回:「早くしなさい!」と言わないためには?着替えの時間の『ドラえもん』が効果大な理由第3回:「褒める」にひそむ意外な盲点。本当に褒めるべきこととそうでないことの違い第4回:「典型的ないい子」を育てるよりも大切な、伸ばしてやるべき子どもの「考える力」【プロフィール】沼田晶弘(ぬまた・あきひろ)1975年9月19日生まれ、東京都出身。東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。学校図書生活科教科書著者。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士課程修了後、同大学職員などを経て、2006年から現職。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が読売新聞に取り上げられ話題となる。教育関係のイベント企画を多数実施する他、教育関係だけではなく企業向けの講演も精力的におこなっている。著書に『「変」なクラスが世界を変える! ぬまっち先生と6年1組の挑戦』(中央公論新社)、『子どもが伸びる「声かけ」の正体』(KADOKAWA/角川書店)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)、『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月24日子どもは褒めて伸ばす――。教育に関わる多くの人が口をそろえて唱える言葉です。ただ、「どんなことでもとにかく手放しで褒めればいいというわけではない」と語るのは、東京学芸大学附属世田谷小学校教諭の沼田晶弘先生。子どもの自主性・自立性を引き出す独自の授業で注目を集めています。沼田先生によれば、褒め方には5つのレベルがあるといいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「褒め方」には5つのレベルがある「褒めて伸ばす」という考え方には、僕も基本的には賛同します。でも、ただ褒めればいいというわけでもありません。僕は「褒め方には5つのレベルがある」と考えています。【褒め方の5つのレベル】レベル1:見るレベル2:気づくレベル3:認めるレベル4:褒めるレベル5:よろこぶレベル1は「見る」。子どもたちは、親や教員など周囲の信頼できる大人が「見てくれている」と思うだけで安心します。レベル2は「気づく」。子どもの存在自体、子どもがしていることに気づいてあげることも「褒める」につながる大切なステップです。レベル3は「認める」。これは、子どものすべてをただ肯定するという意味ではありません。なにかができたということはもちろん、できなかったことを認めることも大切です。そして、レベル4でようやく「褒める」。おそらく、多くの親御さんが経験していることかと思いますが、褒めるという行為はそう簡単なことではありません。労力も使いますし、意外にハードルが高いのです。そもそも、子どもが日常的にできるようなことを褒めるのは難しいですよね?子どもが洗濯機に自分の服を入れた。そこで、「すごいじゃない!今日も入れられたね」なんて褒められれば、子どももバカにされているのかと思ってしまうかもしれない(苦笑)。しかも、「褒めるのがいい」という情報をさまざまなメディアで得ているからと、半ば無理やり褒めようとすれば、そういう下手な演技は敏感な子どもにしっかり見破られます。そうなると、それまで積み上げてきた信頼関係も崩れかねません。親が本心から褒めたくなるようなことでなければ、レベル3の「認める」までで十分です。最後のレベル5が「よろこぶ」。つい最近、僕のクラスである問題が起こりました。子どもたちはどんな行動をするのかなと見ていたら、ひとりの女の子が見事にその問題を解決してくれた。その対応に対して、僕は当然褒めました。だけど、それ以上に僕はうれしかった。だからよろこんだわけです。そういう大人の姿を見れば、子どもたちのなかでも褒められる以上のよろこびが生まれ、自己肯定感が高まり、やる気が生まれるということになるのです。「教える」は減点法、「褒める」は加点法また、教育には、「褒める」やり方の他に、「教える」やり方があります。「教える」やり方は、「こうあってほしい」という100点満点の理想がある減点法です。一方、「褒める」やり方には100点満点はありません。前に進めば進んだ分、評価する加点法といえるでしょう。まったく別のスタイルですから、それぞれに特徴があります。たとえば、東京から大阪に行くという理想があるとしましょう。子どもたちが京都で立ち止まった場合、100点満点にはあと少し足りません。減点法の「教える」やり方の場合、叱らなければならない。そのため、子どものモチベーションは上がりにくいというデメリットがある。だけど、目標を達成するための力のレベルはキープしやすいという一面もあります。一方、加点法の「褒める」やり方の場合、たとえば東京からほんの少しだけ進んで品川に着いただけでも褒めることになる。子どもたちも、「僕たち、なかなかできるじゃん」なんて思って、モチベーションを保つことができるでしょう。でも、結果はほんのわずかな距離を進んだだけに過ぎず、目標を達成するための力のレベルは上がりにくいのです。どちらのやり方にも、メリットもデメリットもある。だとしたら、バランスを考えてそれぞれを使いわけていくことが大切だと思います。そのためには、なによりも子ども本人の個性をしっかり見てあげることが重要でしょう。「親の気持ち」ではなく「子どもの気持ち」に注目親御さんにとって子どもへの対応が難しいのは、先の例なら目標の大阪にまであと少しの京都までたどり着いたという場合かもしれません。テストでいうなら90点というところでしょうか。普通に考えればしっかり褒めてあげていい点ですが、親御さんには「あと少しで100点だったのに」という気持ちもある。「もう少し頑張ったらよかったのに」なんていいたくもなるかもしれません。でも、それはあくまで親の視点からの気持ちです。注目すべきは、「子ども本人がどう思っているか」ということのはず。子どもが子どもなりに目標を掲げて、90点で「やった!」と思っているなら褒めてあげてください。「しまった!」と思っているなら「惜しかったね」と声をかけてあげればいいと思うのです。100点を取れる力があり、本人もそう思っていたなら、「駄目だなあ」なんて嘆いて、プライドをくすぐってあげてもいいかもしれませんね。いずれにせよ、「親の気持ち」ではなく「子どもの気持ち」に注目して対応することを意識してほしいと思います。『家でできる「自信が持てる子」の育て方』沼田晶弘 著/あさ出版(2018)■ 東京学芸大学附属世田谷小学校教諭・沼田晶弘先生 インタビュー一覧第1回:子どもの「内発的なやる気」を引き出す、たったひとつの方法。第2回:「早くしなさい!」と言わないためには?着替えの時間の『ドラえもん』が効果大な理由第3回:「褒める」にひそむ意外な盲点。本当に褒めるべきこととそうでないことの違い第4回:「典型的ないい子」を育てるよりも大切な、伸ばしてやるべき子どもの「考える力」(※近日公開)【プロフィール】沼田晶弘(ぬまた・あきひろ)1975年9月19日生まれ、東京都出身。東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。学校図書生活科教科書著者。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士課程修了後、同大学職員などを経て、2006年から現職。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が読売新聞に取り上げられ話題となる。教育関係のイベント企画を多数実施する他、教育関係だけではなく企業向けの講演も精力的におこなっている。著書に『「変」なクラスが世界を変える! ぬまっち先生と6年1組の挑戦』(中央公論新社)、『子どもが伸びる「声かけ」の正体』(KADOKAWA/角川書店)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)、『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月22日「早くしなさい!」。つい子どもに言ってしまう言葉のひとつです。強い口調で言ってしまい、自己嫌悪に陥る親御さんも少なくないはずです。では、子どもが自主的にやるべきことをやってくれるようにするには、一体どうすればいいのでしょうか。子どもの自主性・自立性を引き出す独自の授業で注目を集める、東京学芸大学附属世田谷小学校教諭・沼田晶弘先生にお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「音楽」を使い子どもの時間感覚を育てるまず、親がつい「早くしなさい!」と言ってしまう理由から説明します。すごく単純なことで、親の都合でスケジュールを考えているからです。たとえば、○時までに家を出なくちゃならない、だから子どもには○時までに着替えてほしい。それは親の勝手な都合に過ぎません。自分の子どもはなにをするのにどのくらいの時間がかかるのか、普段からきちんと子どもを見ていれば、それを踏まえたスケジュールを組むこともできるはずです。そもそも、幼い子どもにはしっかりとした時間感覚がまだ備わっていません。そこで、子どもが時間感覚を早くつかんでいくために周囲の大人ができることもあります。そのために僕が使っているのは「音楽」の力。僕の学級経営には、iPodとスピーカーが欠かせません。それを使ってどうするのか。たとえば、掃除の時間には決まった曲をかけます。毎日同じ曲を聞くことになるので、子どもたちはあとどれくらいで曲が終わる、つまりあとどれくらいで掃除を終わらせなければならないかがわかるのです。曲が終わりに近づけば、子どもたちは自然に急いで掃除をします。僕は「早くしなさい!」とあまり言わないほうの教員ですが、代わりにiPodの音楽に、「早くしなさい!」と言わせているわけです。もちろんこれは、家庭と連動してできることでもあります。僕が担任している1年生のクラスでは、体育着の着替えの時間にはいつも『ドラえもん』の曲をかけることにしています。その子どもたちの姿を授業参観で見せたところ、家庭でも『ドラえもん』の曲をかけたら、子どもたちは自然に早く着替えるようになったそうです。ただ、これはなにも珍しいことではありません。大人でも無意識のうちにやっていることでしょう。僕は学校のそばに住んでいて、いつも遅刻ギリギリに滑り込むのですが……その時間を教えてくれるのが、テレビ番組『ZIP!』の「MOCO’Sキッチン」。速水もこみちさんを見れば、「そろそろ家を出ないとやばいぞ」と思える(笑)。それと同じ状態を、音楽を使って子どもたちにもつくっているだけのことなのです。ただ、子どもの場合だと、テレビには見入ってしまうものですから、やはりラジオや音楽などが適しているかと思いますね。自主的にやれば「お得」だという経験を積ませるそういう時間感覚とはちがう、広い意味での自主性を伸ばす方法についてもお伝えしておきます。子どもがなかなか自分から宿題に取り組んでくれないといった悩みは多くの親御さんが抱えているものでしょう。とくに夏休みの宿題は、教員の僕から見ても量が多く感じますし、大変だろうと思います。でも、そんな夏休みの宿題にだって子どもたちが嬉々として取り組むようにもできるのです。過去にこんなことがありました。ある年の夏休み前に、本来は夏休みの宿題であるドリルを取り出して、僕は子どもたちに言いました。「来週から夏休みだけど、特別に1週間前にこのドリルを渡すね」と。すると、子どもたちは「うひょーっ!」とよろこんで、夏休みに入る前にそのドリルを終わらせてしまいました。なぜそんなことが起きたのかというと、それまでに「なんでも早くやればお得だ」という経験を子どもたちに積ませていたからです。いま、僕が担任をしている1年生のクラスは、給食を配るのがとにかく早い。ただ、食べるのは遅い。なぜかというと、残さず全部食べるように指導しているからです。でも、代わりに給食後の掃除が猛烈に早い。そうすることで、昼休みを長く取れて「お得」だと子どもたちが感じているからです。それは授業でも同じです。みんなが集中して早く授業が終わったら、早めに休み時間にするのです。「率先してやるべきことを早く終わらせたら、たくさん遊べるんだ」。子どもたちがそう理解できれば、自分たちから動きはじめるようになるのです。親御さんが子どもに自主性を持ってほしいと願うのは、自分の経験からのものでしょう。「子どもの頃にもっと自主的に勉強をしていたら……」といった多少の後悔の念から、「子どもには同じ失敗をしてほしくない」と願うのです。では、「子どもの頃にもっと自主的に勉強をしていたら」どうなったと考えますか?「もっと上位の学校に進学できたかもしれない」「もっといい人生を歩んでいたかもしれない」。それは「お得だった」ということですよね?だとすれば、早くからもっと身近な「お得」を感じさせてあげることが、子どもの自主性を伸ばすことにつながるのではないでしょうか。『家でできる「自信が持てる子」の育て方』沼田晶弘 著/あさ出版(2018)■ 東京学芸大学附属世田谷小学校教諭・沼田晶弘先生 インタビュー一覧第1回:子どもの「内発的なやる気」を引き出す、たったひとつの方法。第2回:「早くしなさい!」と言わないためには?着替えの時間の『ドラえもん』が効果大な理由第3回:「褒める」にひそむ意外な盲点。本当に褒めるべきこととそうでないことの違い(※近日公開)第4回:「典型的ないい子」を育てるよりも大切な、伸ばしてやるべき子どもの「考える力」(※近日公開)【プロフィール】沼田晶弘(ぬまた・あきひろ)1975年9月19日生まれ、東京都出身。東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。学校図書生活科教科書著者。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士課程修了後、同大学職員などを経て、2006年から現職。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が読売新聞に取り上げられ話題となる。教育関係のイベント企画を多数実施する他、教育関係だけではなく企業向けの講演も精力的におこなっている。著書に『「変」なクラスが世界を変える! ぬまっち先生と6年1組の挑戦』(中央公論新社)、『子どもが伸びる「声かけ」の正体』(KADOKAWA/角川書店)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)、『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月21日勉強であれスポーツであれ、意欲的に取り組める子どもになってほしい、子どもの「やる気」を引き出したいと願う親御さんは多いでしょう。でも、なかなか親の思い通りにはならないのが子どもであり、現実です。そこで、子どもの自主性・自立性を引き出す独自の授業で注目を集める、東京学芸大学附属世田谷小学校教諭・沼田晶弘先生に、子どものやる気を引き出すためのアドバイスをしてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)誰でもやる気にさせる魔法の言葉は存在しないこう言ってしまうと元も子もないかもしれませんが……「この言葉をかけたら子どもがやる気になる」というような魔法の言葉は存在しません。「やる気スイッチ」という言葉が、それこそスイッチを入れるように簡単に子どものやる気を引き出す方法があると誤解を与えているのでしょうね。やる気というものは、コップに水が少しずつ溜まっていくように徐々に蓄積していくもの。その水を溜めるには、日頃から子どもと関わり、声かけをするなどまめにコミュニケーションを取るしかありません。そうして徐々に溜まった水がコップいっぱいになり溢れはじめると、ようやくやる気も溢れ出すという状態になるのです。しかし、具体的にどんな声かけをすればいいのかというとひとことで表現するのはとても難しい。というのも、子どもにはそれぞれに個性がありますし、万能に効く言葉はこの世に存在しないからです。僕の場合であれば、ときには褒めるし、ときには叱るというやり方をします。また、しっかり信頼関係が築けている子どもが相手の場合、「もっとできるだろう、そんなものか」と、発破をかけるようなこともあります。子どものプライドを刺激してやる気を引き出すというわけです。このような場合には、言葉のチョイスは慎重にしなくてはいけません。もちろん、信頼関係を構築するために、日頃から密なコミュニケーションを取っておく必要がある。多くの教員は教室にある自分の席で給食を食べますが、僕は子どもたちのなかで一緒に食べるようにしています。そういった場面では本当にくだらない話もしながら、子ども一人ひとりの性格やキャラクターを把握するのです。自分の子どものやる気を引き出すには、どんなコミュニケーションをするべきか――。親御さんがつねにその意識を持ってお子さんに接してください。そうすれば、自然とかけるべき言葉が見えてくるはずです。子どもが持つプライドが、内発的なやる気を生み出す親御さんにお伝えしておきたいことのひとつに、いわゆるご褒美を頭ごなしに否定しないでほしいということがあります。子どもに限らず、大人でもただ「やる気になりなさい!」と言われてそうなれるものじゃありませんよね(苦笑)?子どもがやる気になることが重要だと思うのなら、やる気を引き出すご褒美を否定するべきではないと思うのです。ご褒美を嫌う親御さんは、「ご褒美で起こしたやる気なんてすぐになくなる」と考えます。たしかにそれには一理あるかもしれない。でも、子ども自身の内側からやる気がみなぎるのをただ待っているだけではなにも変わりません。そうではなくて、ご褒美で出させたやる気が消える前に、内発的にやる気が生まれるように変える必要があるのです。いわばこれは、バーベキューのときの着火と同様の原理です。ご褒美は最初に火をつける新聞紙のようなものだと考えてください。そこに新聞紙をただどんどん足していくだけでは、肝心の炭には火がつきません。炭に火をつけるのが目的だとわかっていれば、新聞紙をどう使えばいいのかがわかるはずなのです。ご褒美否定派の人は、それこそ勝手に炭に火がつくのを待っているだけの状態……。それでは、なかなかやる気を引き出せるものではありません。では、ご褒美という新聞紙でどのように炭に火をつけるのか。それは、先に少しお伝えしましたが、「プライドを刺激する」ということに尽きます。内発的にやる気を生み出すものは、その子が持つプライドしかないといっていいかもしれません。家庭教育にもゲーム的要素を取り入れるこれらのことは、僕がクラスでやっている計算トレーニングに臨む子どもたちを見ていてもよくわかります。そのトレーニングでは、ある条件を満たせばシールをもらえるルールにしています。でも、トップクラスの子どもたちは、続けているうちにシールなんてほしがらなくなってしまいました。では、なにをほしがるのかといえば、「記録」(計算時間)なのです。そういう子どもたちは、すでに自分との戦いという領域に入っていて、内面からどんどんやる気が溢れているような状態にあります。なぜそうなったのかといえば、「もうこのレベルまで到達したら、シールなんかのためじゃないよな!」なんていって、僕がたきつけたからです。そういうことを繰り返してきたことで彼らのモチベーションは一気に上がり、いまや誰にいわれるでもなくとんでもない量の計算を毎日しています。「この子たちは遊びが嫌いなのかな?」なんて心配になるほどに(笑)。このようにして内発的なやる気が生まれるようになれば、当然、勉強の成果も飛躍的に上がります。計算トレーニングをはじめた当初、10分で問題の半分も終えられなかったある女の子は、いまは1分以内にすべての問題を終えるようになりました。家庭では、クラスのライバルのような競争相手がいないので、プライドを刺激するということはやりにくい部分もあるかもしれません。それでも、お父さんやお母さんが競争相手になるとか、ゲーム的な要素を取り入れてプライドを刺激する、やる気を引き出すということはできるのではないでしょうか。『家でできる「自信が持てる子」の育て方』沼田晶弘 著/あさ出版(2018)■ 東京学芸大学附属世田谷小学校教諭・沼田晶弘先生 インタビュー一覧第1回:子どもの「内発的なやる気」を引き出す、たったひとつの方法。第2回:「早くしなさい!」と言わないためには?着替えの時間の『ドラえもん』が効果大な理由(※近日公開)第3回:「褒める」にひそむ意外な盲点。本当に褒めるべきこととそうでないことの違い(※近日公開)第4回:「典型的ないい子」を育てるよりも大切な、伸ばしてやるべき子どもの「考える力」(※近日公開)【プロフィール】沼田晶弘(ぬまた・あきひろ)1975年9月19日生まれ、東京都出身。東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。学校図書生活科教科書著者。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士課程修了後、同大学職員などを経て、2006年から現職。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が読売新聞に取り上げられ話題となる。教育関係のイベント企画を多数実施する他、教育関係だけではなく企業向けの講演も精力的におこなっている。著書に『「変」なクラスが世界を変える! ぬまっち先生と6年1組の挑戦』(中央公論新社)、『子どもが伸びる「声かけ」の正体』(KADOKAWA/角川書店)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)、『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月20日「先行きが見えない」といわれる時代だからこそ、「子どものために」と考えて塾に通わせることはもちろん、子どもにあれやこれやと習い事をさせている親御さんは多いはず。でも、もしかしたら……自覚しないままに、「教育虐待」をしてしまっている可能性も否定できません。そう語るのは、育児や教育に関する執筆活動の他、各種メディアで活躍する教育ジャーナリストのおおたとしまささん。教育虐待の実態から、現在の家庭教育がはらむ問題点を解説してくれました。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)いまとむかしの「教育虐待」のちがい教育虐待という言葉は新しいものではありますが、きっとむかしから似たようなことはおこなわれていたはずです。子どもに過剰に勉強をさせようとする、いわゆる教育ママは何十年も前から存在しましたよね。ただ、かつての教育虐待と現在のそれはニュアンスが若干ちがってきているようにも思います。かつての厳しい家庭教育には、わかりやすい「ゴール」がありました。目指すのは東大をはじめとした難関大学に入学すること。そのゴールに達すれば、その後の子どもの一生が保障されると親は考えていたのです。だからこそ、勉強させることについてはどこまでも厳しく徹底していた。テストの点が良くなければ、手を上げることもあったかもしれません。でも、逆にいえば、テストの結果が良ければ文句はいわない。そういうシンプルな構造のものでした。一方で、いまは「学歴が役に立たない」ともいわれる時代です。それはつまり、かつてのゴールがゴールではなくなったわけです。もちろん、「学歴が役に立たない」といっても、決して「学歴が必要ない」時代になったわけではありません。学歴はいまも一定の武器になることはたしかです。でも、なかには高学歴を得たうえで、英語ができないといけない、プログラミングができないといけない、コミュニケーション能力が高くないといけない、プレゼンがうまくないといけない……といったさまざまな情報を鵜呑みにしてしまった親もいます。そういう親が子どもをスケジュール漬けにしていることが、現在の教育虐待です。でも、子どもをそんなスーパーマンみたいな人間に育てようとすることは、果たして現実的でしょうか?習い事の本来の意義を知る重要性そういう親は、そもそも習い事を子どもにさせることの意義を取り違えています。習い事とは、子ども自身が求めるものをすることによって、夢中になり、達成し、挫折を味わい、そして壁を乗り越えることで、「やり抜く力」を育ててくれるものであり、なんらかのスキルを得るのは副次的な成果です(インタビュー第3回参照)。子どもにプログラミングを習わせたとして、子どもが大人になったときに現在のプログラム技術が通用するでしょうか?断言できますが、「絶対に通用しない」といっていいでしょう。でも、子ども自身が「プログラミングを学びたい」というのなら話は変わります。徐々に難しいレベルのプログラミングを学びはじめるうち、子どもは「どうしてもわからない」という壁にぶつかります。そこで、考えて考えて「こうすればいいんだ!」という「突き抜け体験」をする。その体験こそが子どもの力になるのであって、スキルそのものに意味があるものではないのです。子どもにさまざまなスキルを身につけさせようとすることは、必要かどうかもわからないアプリをスマホにいくつも入れようとしているようなものです。本当に子どものためを思うのなら、スマホそのものの性能を上げる、つまり子ども自身の力を伸ばしてあげることを考えなければなりません。壁に穴が空いたら赤飯を炊け現在の教育虐待のやっかいなこととして、「親も子どもも無自覚」という点も挙げられます。なかには、コーチングまで学んで子どもを完全にコントロールして勉強や習い事をさせている親もいます。コーチングの本来の使い方ではなく、広い意味ではこれも教育虐待につながる可能性がありますが、当然、親は「子どものため」だと思っています。一方で、うまく操作されているがために、子どもにも「虐待されている」という自覚はありません。だから、思春期を迎えても反抗期が訪れない。「いい子に育った」と思ったら大間違いです。そういう子どもは成人しても誰かに指示を与えられないと落ち着かず、つねに自信を持てない、なにをやっても楽しくないという人間になる。なぜなら、「自分の人生を生きたことがない」からです。むしろ、むかしからいわれる「壁に穴が開いたら赤飯を炊け」じゃありませんが、子どもが中高生になって反抗期が訪れたら、よろこばしいことだととらえるべきです。現在の教育虐待には、「親自身の不安を解消しようとしている」という構造があります。親が持つ「この子はちゃんと生きていけるのだろうか……」という不安を解消するため、親が思う解決策を与えようとしているわけです。でも、子どもはこれから親の価値観を超えた世界で生きていかなければなりません。親が与える解決策はあまり意味がないといっていいでしょう。まずは「親は無力である」と親が自覚することが大切です。子どもは親が思っているよりもたくましいものです。子どもの生きる力を信じてあげましょう。いまの子どもには「ぼーっとする時間」が足りないそして、あれやこれやと習い事をさせる代わりに、「ぼーっとする時間」を与えてあげてください。少しでも時間があればなにか習い事を詰め込もうとする親がいるために、いまの子どもたちにはその時間が圧倒的に足りていません。この「ぼーっとする時間」は人間の成長にとても重要なものです。そういう時間があって、「暇だな」「なにをして過ごそうかな」と子どもははじめて自発性を発揮します。そして、「じゃ、本を読もう」「映画を観よう」などと考える。そこで、「なにをしているときに自分は幸せなのか」と知る。それが「人生の羅針盤」になるのです。その羅針盤を持たないまま成長すると、人生のあらゆる場面で進むべき方向を自分で決められない人間になってしまいます。たとえどんなに優れた能力を秘めた人間であっても、その能力を使うこともできないでしょう。塾や習い事にこれだけ多くのレパートリーが出てきている時代、わたしは皮肉を込めて「そのうち、『ぼーっとする時間』を売る塾というものができる」といっています。「子どもメディテーション教室とかね(笑)。仮にそんなものができても利用することなく、子どもが本当に「ぼーっとできる時間」を大切にしてあげてください。『中学受験「必笑法」』おおたとしまさ 著/中央公論新社(2018)■ 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん インタビュー一覧第1回:過当競争極まれり。難関中学への“逆転入学”が子どもに弊害をもたらしている第2回:「間に合わせの学力」では人生厳しい。「本質的な学力」を伸ばす“1日10分”の学び第3回:学力は人並程度あればいい。「新たな時代」を生き抜くためには“3つの力”が必要だ第4回:「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには“決定的に足りない”時間がある【プロフィール】おおたとしまさ1973年10月14日生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学校・高等学校卒業、東京外国外大学英米語学科中退、上智大学外国語学部英語学科卒業。株式会社リクルートを経て独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わる。心理カウンセラーの資格、中学高校の教員免許を持っており、私立小学校での教員経験もある。現在は、育児、教育、夫婦のパートナーシップ等に関する書籍やコラム執筆、講演活動などで幅広く活躍する。著書は『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』(新潮社)、『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新聞出版)、『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎)など50冊を超える。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月14日「有名大学に入学し、有名企業に就職すれば一生安泰」という時代は過去のものとなりました。いまの子どもたちは、親には想像もできない「新たな時代」を生き抜いていかなければなりません。そのためには、これまでの「学力」とはちがう力も必要となることでしょう。それには「3つの力」があると、育児や教育に関する執筆活動の他、各種メディアで活躍する教育ジャーナリストのおおたとしまささんは語ります。「3つの力」とはどんなもので、また、どうすれば伸ばすことができるのでしょうか。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「やり抜く力」がIQの差を飛び越えさせるこれから長い人生を歩んでいくいまの子どもたちが身につけておくべき力――。教育ジャーナリストという立ち場上、わたしもよく聞かれることです。これには次の3つの力があると考えています。【1】そこそこの知力と体力【2】やり抜く力【3】自分とはちがう能力を持つ人たちとチームになる力ちょっとあいまいないい方になりますが、ひとつは「そこそこの知力と体力」です。さすがに人並みの知力と体力がなければ、人生において成功を収めることはそう簡単ではありません。でも、人並みでいいのです。偏差値50を切っていても、ボリュームゾーンに入っていれば十分。子どもなら、人とコミュニケーションが取れて、落ちこぼれじゃない学力があって、友だちと一緒に遊べる体力があればいい。もうひとつは、「やり抜く力」。最近、アメリカのある心理学者が「GRIT(グリット)」という呼び名で提唱しているのも「やり抜く力」です。これは、「Guts(度胸)」「Resilience(復元力)」「Initiative(自発性)」「Tenacity(執念)」の頭文字を取ったもの。これを日本では「やり抜く力」と訳しています。このGRITをめぐって、「IQが高いよりGRITが高いほうが人生で成功している割合が高い」という研究結果が出ています。その「成功」とはなにかという疑問もあるのですが、おそらくは「社会のなかで一定の成果を出している」ということでしょう。たしかに、IQは体力ほど大きな差を生むようには思えません。普通の人間は「超人ハルク」にけんかを挑んでも勝てませんが、努力次第ではIQがはるかに高い人より大きな成功を収めることもできるでしょう。その努力の要になるものこそ、自分が定めた目標に向かって諦めない、「やり抜く力」です。個性があるゆえに個人の力は限られているこれらふたつは個人の力です。加えて、これからの時代には、「自分とはちがう能力を持つ人たちとチームになる力」も求められるとわたしは考えています。たとえば、すごく頭の回転が速くてぱっとものごとを決めてしまう人が、慎重で「いやいや、ちょっと待って」とじっくりものごとを考えられる人とチームになることにも大いに意味があるでしょう。いままでは個人の力を高めていけば生き残れる時代でした。誰もが個人の力を高めて世のなかで勝ち組になろうとしていたのです。でも、これからはちがいます。孤立する人間にとっては厳しい時代になるでしょう。個人個人が持っている能力は、それぞれに個性があるがゆえに限られています。どれだけ個人の力を高めても、できることはたかが知れたものでしょう。そう考えれば、自分にはない力を持っている誰かとチームにならなければなりません。さまざまな力を持った人間が集まったチームの一員となって、あらゆる課題に対応できるかどうか――。それこそが、今後の世界で伸びていく、自身の能力を存分に発揮するためのキーとなるのではないでしょうか。習い事をする意味は挫折を乗り越えることでは、子どもがこれら3つの力を伸ばすにはどうすればいいか。「そこそこの知力と体力」に関しては、きちんと学校に通っていれば問題ありません。義務教育とは、まさに「そこそこの知力と体力」を身につけさせるものですからね。残りのふたつに関しては、本来、親御さん自身がその力の使い方を実生活のなかで見せてあげることがいちばんです。でも、仕事で「やり抜く力」や「チームになる力」をどんなに発揮している人も、会社勤めをしていれば、その姿を子どもに見せることは難しいかもしれません。そういった場合、子どもの「やり抜く力」を伸ばすためには、なんといっても習い事が効果的です。習い事の種類は問いません。重要なのは、「親がやらせたい」ものではなく、「子どもがやりたい」ものにすること。この場合の習い事の目的は、「やり抜く力」を伸ばすことであって、「子どもになにかのスキルを身につけさせること」ではないからです。自分がやりたい習い事なら、子どもは夢中になって取り組むでしょう。だから、はじめた当初はすぐに成果が出る。けれど、レベルが上がってくれば、そのうち壁にぶつかります。「もうやめたいな……」という気持ちも出てくるでしょう。でも、そのネガティブな気持ちを乗り越えたときに、それまでとはちがう新たな達成感を得ることができます。夢中、達成、挫折、そして乗り越える――。この一連の経験こそが子どもの「やり抜く力」を育ててくれるものであり、習い事をする意味でもあるのです。また、「チームになる力」を伸ばしてあげたいのなら、学校や塾以外の人間が集まる集団に子どもを入れることが効果的でしょう。たとえば、夏休みにいわゆる「子どもキャンプ」に参加させる。そうすると、年齢や出身、文化もちがう見ず知らずの子どもやその親たちと過ごすことになります。同じ学校や塾に通っているという「前提」を共有していない人間とともに活動することが、「チームになる力」を伸ばしてくれると期待していいと思います。『中学受験「必笑法」』おおたとしまさ 著/中央公論新社(2018)■ 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん インタビュー一覧第1回:過当競争極まれり。難関中学への“逆転入学”が子どもに弊害をもたらしている第2回:「間に合わせの学力」では人生厳しい。「本質的な学力」を伸ばす“1日10分”の学び第3回:学力は人並程度あればいい。「新たな時代」を生き抜くためには“3つの力”が必要だ第4回:「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには“決定的に足りない”時間がある(※近日公開)【プロフィール】おおたとしまさ1973年10月14日生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学校・高等学校卒業、東京外国外大学英米語学科中退、上智大学外国語学部英語学科卒業。株式会社リクルートを経て独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わる。心理カウンセラーの資格、中学高校の教員免許を持っており、私立小学校での教員経験もある。現在は、育児、教育、夫婦のパートナーシップ等に関する書籍やコラム執筆、講演活動などで幅広く活躍する。著書は『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』(新潮社)、『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新聞出版)、『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎)など50冊を超える。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月13日「学力」とは、「教育を通じて獲得した力」です。一般的には、「どれだけ勉強ができるかを示す力」といっていいでしょう。文科省がおこなっている学力調査などは、まさにその意味で使われているものです。しかし、育児や教育に関する執筆活動の他、各種メディアで活躍する教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、「『本質的な学力』とは『どう生きていくか』を考える力」だと語ります。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)勉強をし過ぎる子どもと全然しない子どもいま、小学生を見ていて問題に感じるのは、勉強をする子どもとそうではない子どもの差が開き過ぎているということです。これは中学受験に付随する問題でもあります。いまの中学受験は競争が過酷ですから、受験をするとなるとすごく勉強をしなければなりません。一方、中学受験をしないと決めた子どもは、逆に勉強を全然しなくなる傾向にあるように感じます。人間形成のためか、あるいはいわゆる後伸びする力を養うためか、「子どもの頃にはできるだけ遊んだほうがいい」という意見もあります。でも、その遊びがただゲームをするだけだったり、スマホをいじるばかりだったりというものであれば問題でしょう。もちろんずば抜けて勉強ができる必要はありませんし、教科書を丸暗記するような必要もない。でも、教科書に書かれていることを筋道立てて理解し、小学校で得るべき基礎学力を身につけておかなければ、その子どもの後々の人生は厳しいものになるはずです。それこそ、中学受験はしなくても、高校受験や大学受験の場面で壁にぶつかることになるでしょう。基礎学力や学びの姿勢がなければ、そういうときに手にしようとするのは「付け焼き刃の学力」でしかないのです。つまり、高校入試や大学入試という目的をクリアするためだけの「間に合わせの学力」です。もちろん、それで目的を達成できれば問題はないかもしれません。ただ、付け焼き刃の学力だけしかない場合と、それとは異なる「本質的な学力」を身につけている場合では、その後の人生は大きく変わってくるはずです。「教養」が世界での自分の生かし方を示すでは、「本質的な学力」とはどんなものでしょうか。それは、ふたつの要素にわけられるとわたしは考えています。ひとつは「教養」。もうひとつは、「学び続ける力」です。教養とは、「さまざまな学問の観点から世のなかを見る目を養うこと」です。ここではひとつの卵を例にしましょう。家庭科の観点からなら、卵を使ってどんな料理がつくれるのかという見方になる。栄養学の観点なら、黄身にはビタミンが多くて白身にはタンパク質が多いといった見方になるでしょう。理科なら、この卵がニワトリのものなのか別の生き物のものなのかを見分けるための方法を考える。社会科なら卵の値段が決まった理由を考えるかもしれないし、数学なら卵の容積を求めたり、殻が描く放物線を数式で表す方法を考えたりするかもしれません。ひとつの卵というものも、いろいろな学問の観点、角度から光を当てることによってその本質が立体的に見えてきます。「教養を得る」ということは、そういうふうにさまざまな視点に立つことで、ものごとをより正確に捉えられるようになることなのです。そうして教養を得ると、自分が置かれている世界を正確に把握し、そのなかで自分をどういうふうに生かしていくのかと考えられるようになっていきます。つまり、自分が「どう生きていくのか」を判断できるようになるのです。これは「学ぶ意味」でもあり、もはや付け焼き刃の学力とはまったく別のものですよね。そして、教養が身についていれば、日常のなかで、「あ、こういうことも学ばないといけないな」と新たな課題を次々に見つけることもできるはずです。そういう意味では、「学び続ける力」も教養に含まれると考えることもできるかもしれません。抽象的思考を高めるのは幼いときの「具体的体験」子どもに本質的な学力、つまり教養を身につけさせたいのであれば、幼い頃から「具体的な体験」をできるだけたくさんさせることが重要です。11歳くらいまでは、人間は抽象的な思考を苦手としています。だから、小学生のうちは「りんごがいくつでみかんがいくつ、合わせていくつでしょう?」というふうに、目に見えるもの、手で触れられるものを使って学びます。でも、中学生以降になると、抽象的思考ができるようになる。「x」や「y」という概念上の数字を使って表す方程式を理解するようになります。抽象的思考では、りんごやみかんのような具体物を使いません。でも、頭のなかでは抽象的なものを具体物と同じように操作しています。そして、小さい頃に具体物に触れた体験が豊かであればあるほど、抽象的思考がより得意になるのです。そのために、小さい子どもにはできるだけさまざまな体験をさせてあげてほしいと思います。また、高校受験や大学受験を見越した実利的な面からわたしの意見を述べると、やはり小学校の低学年のうちに学習習慣を身につけさせておくべきです。先にお伝えした、「学び続ける力」にも通じるものですが、受験で成果を出すにも、結局は「自ら学ぶ」姿勢が必要だからです。そのためには、学校で出される宿題以外に、ほんの少しでもいいから別の勉強をすることを子どもの習慣に組み込んでみてください。内容は本当になんでもOKです。市販のドリルをやってもいいし、新聞を読んで気になった記事に対する感想を書くということでも、虫が好きな子どもなら自分で虫図鑑をつくるというプロジェクト型のものでもいいでしょう。そして、それらをやる時間は本当に短くてもいい。1日に10分の「自ら学ぶ」習慣がついていれば、その10分を30分や1時間に伸ばすことができます。でも、ゼロを1にすることはものすごく大変です。自ら学ぶ習慣がないまま大人になると、その後の人生が充実したものでなくなる可能性が高いことは、簡単に想像できますよね。『中学受験「必笑法」』おおたとしまさ 著/中央公論新社(2018)■ 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん インタビュー一覧第1回:過当競争極まれり。難関中学への“逆転入学”が子どもに弊害をもたらしている第2回:「間に合わせの学力」では人生厳しい。「本質的な学力」を伸ばす“1日10分”の学び第3回:学力は人並程度あればいい。「新たな時代」を生き抜くためには“3つの力”が必要だ(※近日公開)第4回:「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには“決定的に足りない”時間がある(※近日公開)【プロフィール】おおたとしまさ1973年10月14日生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学校・高等学校卒業、東京外国外大学英米語学科中退、上智大学外国語学部英語学科卒業。株式会社リクルートを経て独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わる。心理カウンセラーの資格、中学高校の教員免許を持っており、私立小学校での教員経験もある。現在は、育児、教育、夫婦のパートナーシップ等に関する書籍やコラム執筆、講演活動などで幅広く活躍する。著書は『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』(新潮社)、『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新聞出版)、『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎)など50冊を超える。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月12日これまでの価値観や人生モデルが崩壊し、「考える力」が求められるとされる昨今、中学入試においてもいわゆる「思考型入試」が導入されるケースが増えつつあります。それにより、中堅以下の学校、そして難関校においても変化が起きているそうです。育児や教育に関する執筆活動の他、各種メディアで活躍する教育ジャーナリストのおおたとしまささんにお話を聞きました。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)オーソドックスだった開成中が出した変化球問題いま、中学入試は過渡期にあります。その象徴のひとつが、教育界でいうところの「開成ショック」。2018年2月、開成中が国語の問題として出したのは、かいつまむと以下のようなものでした。「ふたつの支店でおこなったカニ弁当の販売について、それぞれの支店の売れ行きを示したグラフを基に、ひとりの社員を評価する部長に対し、その意見を否定する社長の考えを読み取る」という内容です。問いは、「社長は、部長の報告のどの表現に、客観性が欠けたものを感じたのでしょうか。二つ探し出し、なるべく短い字数で書きぬきなさい」というものでした。この問題の模範解答や採点基準を見たわけではないのではっきりとはいえませんが、おそらくはディベートに求められるような力を試したのではないでしょうか。ディベートには自分の意見と関係なく、賛否双方の立ち場から論理を組み立てる力が必要とされます。これは、それこそ「思考型」と呼ばれるタイプの問題といえるでしょう。これまで割とオーソドックスな問題を出してきた開成中が、こういった「変化球」の問題を出したことで、「2020年にはじまる大学入試改革を先取りしているのではないか」と大きなトピックになったわけです。首都圏では「適性検査型入試」が激増ただ、わたしは単純にそうだとは思いません。大学入試改革に合わせたわけではなく、「世のなかが求める学力観」に合わせた変化なのだと思います。いま、世のなかが求める学力とは、大きくは3つだと見ていいでしょう。【1】相手のいわんとしていることを正確に読み取る「読解力」【2】知識の量に関係なく考えられる力、いわゆる「論理的思考力」【3】自分の考えをアウトプットする「表現力」教育界では、知識を詰め込むのではなく、この3つのサイクルを鍛えることにもっと力を入れないとならないといわれています。そういう背景もあってか、大学入試改革との関係はさておき、「思考型入試」を含む「適性検査型入試」が激増していることはたしかです。これは、ある教科の試験で思考力を問う問題が出題されるというものではなく、いわゆる4教科型とはちがう試験によって合否を判定する入試のこと。入試をおこなう首都圏の中学は約300ありますが、いま、なんとその半数近くの学校が適性検査型入試を導入しています。もちろん、定員の全員をその入試で取るわけではありません。300人の定員があれば、たとえば250人は従来の4教科型、50人は適性検査型の試験で入学させるという具合です。適性検査型入試がもたらした中堅校でのシナジー適性検査型入試全盛といえるいま、中堅以下の学校では面白い変化が見られます。そういう学校に、「通常の4教科型入試では難関校に入れないから」という理由で入学した場合、当然、「自分は勉強ができない」という劣等感を抱えることになります。一方、適性検査型入試で「君にはこういういいところがあるよ!」と評価されて入学した子どもは自己肯定感が高い状態にある。そうすると、いわゆる学力なら同じ偏差値帯にある子どもでも、自己肯定感のちがいによってその後の学力の伸びに差が出てくることもあるのです。しかも、そういう子どもは、知識量では難関校に進む子どもにかなわないかもしれませんが、思考力や応用力、創造力という面では遜色ない、あるいは凌駕しているという場合もあるでしょう。すると、中堅以下の学校にそれぞれちがう良さを持った多様なタイプの子どもたちが集うこととなり、相乗効果、いわゆるシナジーを生むことにもつながるのです。こうして、その学校における学びの質は上がっていきます。そういう学校では、「多様な人間との協働」という、いまの子どもたちに求められるといわれる生き方そのものを学んでいるともいえるのではないでしょうか。中学受験の過当競争に「異議あり!」一方、難関校には別の変化が起きています。それは、塾によるものです。現在の塾の入試対策カリキュラムはものすごく研ぎ澄まされていて、指示通りにこなせば誰でも難関校に入学できるようになってきています。いわば、某トレーニングジムのようなもので、とにかく指示通りに大量の課題をこなせば、ガリガリだった人間がマッチョになって、もともと体力があった人間を負かすようなことが起きているのです。かつての中学入試では、そのような逆転現象はなかなか起きるものではありませんでした。難関校には、いわゆる地頭がいい子どもが順当に入っていたのです。ところが、いまは、以前なら入学できなかったような子どもも入ってくる。そうすると、教師は「いままではこんなに手がかかる子どもは入ってこなかった……」と感じながら、たくさんの小テストをやらせたり宿題を出したりと、手取り足取り教えないとなりません。これは、「逆転入学」した子どもにとっても、決して幸せな状況ではないはずです。本来、難関校というのは自由な校風の学校が多いものです。「1伝えれば10わかる」という生徒がほとんどのため、教師も無駄な宿題なんて出しませんし、「あとは自分でやっておいてね」といえる。子どもたちは、その自由を謳歌します。でも、入学したはいいが、周囲に置いていかれないように必死に勉強することになれば、その自由を味わうどころではありませんよね。そもそも、そういう子どもが難関校に入学するためには、過酷な筋力トレーニングのように、小学生としては考えられないほどの努力をしなければなりません。いまの中学受験は「過当競争、極まれり」という状態なのです。もちろん、「頑張れば難関校に入学できる」ことに「夢がある」といういい方もできるかもしれません。ただ、無理をさせるのはいかがなものでしょうか?もっとそれぞれの子どもにフィットした学校、楽しい学校生活があるとわたしは思うのです。勝ち負けではなくて、子どもが最後に笑える中学受験のやり方というものを考える必要があるのかもしれません。『中学受験「必笑法」』おおたとしまさ 著/中央公論新社(2018)■ 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん インタビュー一覧第1回:過当競争極まれり。難関中学への“逆転入学”が子どもに弊害をもたらしている第2回:「間に合わせの学力」では人生厳しい。「本質的な学力」を伸ばす“1日10分”の学び(※近日公開)第3回:学力は人並程度あればいい。「新たな時代」を生き抜くためには“3つの力”が必要だ(※近日公開)第4回:「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには“決定的に足りない”時間がある(※近日公開)【プロフィール】おおたとしまさ1973年10月14日生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学校・高等学校卒業、東京外国外大学英米語学科中退、上智大学外国語学部英語学科卒業。株式会社リクルートを経て独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わる。心理カウンセラーの資格、中学高校の教員免許を持っており、私立小学校での教員経験もある。現在は、育児、教育、夫婦のパートナーシップ等に関する書籍やコラム執筆、講演活動などで幅広く活躍する。著書は『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』(新潮社)、『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新聞出版)、『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎)など50冊を超える。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月11日子どものなかには、中学年の頃までは勉強ができたのに高学年になったら成績が下がってしまう、逆に中学年まではぱっとしなかったのに高学年になったら一気に成績が上がる、いわゆる「後伸び」をする子どももいます。両者にはどんなちがいがあるのでしょうか。ウェブサイト「中学受験情報局『かしこい塾の使い方』」主任相談員の小川大介さんは、「幼い頃の熱中体験」に鍵があるといいます。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)後伸びする子、そうじゃない子のちがいとは?「幼いときになにかに熱中した経験」があるかどうか――。これが後伸びする子どもとそうなない子どものちがいだとわたしは考えています。後伸びする子どもは、エネルギーにあふれています。体力だけでなく、好奇心や自分の世界を深めていく心のエネルギーも強い。そのエネルギーを生み出すのは、幼いときに好きなことを好きなだけやった経験です。夢中になって遊び続けてパタンと寝てしまうような子どもっていますよね?布団にもたどり着けずに電池が切れたように寝てしまうような(笑)。それは、自分の興味が向いているものに体力と心の限界まで熱中していたということ。つまり、そういう子どもは、なにかを「やりたい」と思ったときに瞬時に動けて限界まで集中し続ける力を持てているということなのです。その「なにか」が勉強になったとしたらどうでしょうか。体と心の強いエネルギーを勉強に向けるわけですから、成績が伸びていくのは当然のことです。つまり、後伸びする子どもにしたければ、幼い頃には好きなことを好きなだけやらせてあげる必要があります。幼い子どもが好きなことというと、たいていは「遊び」になるでしょう。それでいいのです。「なにをするか」ではなく、「なにかに熱中すること」が重要なのですからね。「遊び」と「勉強」をわけて考える必要はないそして、そもそも「遊び」と「勉強」をわけて考える必要もありません。むかしから定番の積み木など「知育玩具」と呼ばれるおもちゃがあるように、程度のちがいこそあれ、勉強には遊びの要素があり、遊びにも勉強の要素があるものだからです。そういった勉強の要素を含む遊びを、わたしは『1日3分! 頭がよくなる子どもとの遊びかた』(大和書房)という本にまとめました。掲載している58種類のなかから、いくつかおすすめのものを紹介しておきましょう。【頭が良くなる遊び】(1)折り紙グシャグシャ遊び親子それぞれが好きな色の折り紙を選び、まず手でグシャグシャと丸めます。それを開いて、折り目がかたちづくる○△□といったかたちを見つけて、ペンでなぞりましょう。そのうち、子どもが乗り物や動物のかたちを発見することもあるかもしれない。図形のかたちをとらえ、想像力を育むことにもなる遊びです。(2)ひたすら直線並べ遊び積み木をひとつの入れ物に入れておき、「○○ちゃんのところからテレビまで積み木いくつかな?」などと声をかけ直線で積み木を並べさせます。自分の手でひとつずつ並べるため、ごく自然に長さや広さを体感することになります。最後は、積み木を一緒に数えながら片づければ、数の学習にもなりますね。(3)言葉パズル遊び50音が書かれている「あいうえおカード」を使って、相手がつくった言葉から抜いた1字を使った言葉をつくるという遊びです。たとえば、子どもが「あひる」とカードを並べたら、親がそのなかから「ひ」を抜いて「ひまわり」とする。今度は子どもが「ひまわり」から1字を抜いて好きな言葉をつくるという要領。どの1字を使うかを考え、それが含まれる言葉を思い浮かべることは、幼い子どもにとってはかなりの知的作業です。わざと子どもがまだ知らない言葉をつくって、それを教えるということもできますね。習い事が成長する感覚、挑戦意欲を育てる子どもが熱中することというと、習い事も挙げられます。習い事には子どもの成長に好影響を与えることがいくつも含まれています。ひとつは「多様性を知る」こと。世代や価値観が異なるさまざまな人に交じって、学校の先生とはちがう先生と習い事に取り組む。子どもは、これまで知らなかった世界を知ることになります。もうひとつが、自らの「成長感覚をつかむ」ということ。習い事は、やったらやっただけ成果が見えるようにできています。スイミングでも書道でも、はじめたからには「○級になりたい、○段になりたい」というふうに思うものでしょう。そのために、教室以外でも練習をするようにもなります。そして、努力を続けることで技能が身についていき、目標を達成したという成功体験を得る。これが、自分が成長していく感覚や挑戦意欲を育ててくれるのです。もちろん、「熱中すること」が重要ですから、習い事も世間一般にいいと言われているものではなく、子どもが興味を示すものでなければなりません。とはいえ、習い事をはじめてもすぐに「もうやめたい」といったり「今度はあれがやりたい」と興味の方向が変わったりする飽きっぽい子どもがいるのも確かです。そういう子どもは、同じように飽きっぽく見えても、その原因は異なる場合があります。赤ちゃんのように瞬間的に別のものに興味が向かってしまう、こらえ性がない本来の意味での飽きっぽさなら、「もう1回頑張ってみようか」と、やはり我慢することを教える必要があります。単に「うちの子は好奇心旺盛だから」で片づけると、成長能力がまったくないまま大きくなってしまう可能性があるからです。もうひとつのケースは、単純に「ビビり」だというもの。面白そうと思って教室に行ってみたものの、先にはじめているまわりの子は自分より上手だった。そこで弱気になって、「やっぱりやめる」と逃れようとしているのなら、そこは親が励ましてあげるべきでしょう。もちろん、家でも子どもと一緒に練習をする。そうして練習すれば、確実に上達するという事実を教えてあげればいいのです。いずれにせよ、飽きっぽく見える子どもの裏になにが潜んでいるのかを見定めてあげて、熱中体験、成功体験をきちんとつくってあげることが大切です。『1日3分! 頭がよくなる子どもとの遊びかた』小川大介 著/大和書房(2017)■ 中学受験のプロ・小川大介さん インタビュー一覧第1回:“国語嫌い”になりやすい子どものタイプと、親がやりがちな間違った教育法第2回:“リビング学習でかしこくなる”は勘違い。東大生がリビングで勉強する本当の理由第3回:子どもは勝手にかしこく育つ。“自ら学ぶ力”を伸ばす辞書・地図・図鑑の活用法第4回:“後伸び”する子としない子の違い。成長後に学力が急伸する幼少期の過ごし方【プロフィール】小川大介(おがわ・だいすけ)1973年生まれ、大阪府出身。ウェブサイト「中学受験情報局『かしこい塾の使い方』」主任相談員。プロ家庭教師集団「名門指導会」副代表。京都大学法学部卒業。関西最大手の進学塾の看板講師として活躍後、個別指導教室「SS-1」を創設。教科指導スキルに、声かけメソッド、逆算思考、習慣化指導を組み合わせ、短期間での成績向上を実現する独自ノウハウを確立する。家庭をひとつのチームと見立てておこなう独自のカウンセリングは実施数5000回を超え、高い精度でクライアントを成功へ導いている。受験学習はもとより、幼年期からの子どもの能力の伸ばし方、親子関係の築き方といった子ども教育分野でも定評がある。著書に『1日3分! 頭がよくなる子どもとの遊びかた』(大和書房)、『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』(すばる舎)、『親子で学べる! カピバラさんドリル 小学社会47都道府県』(かんき出版)など多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月08日「どうしたら子どもがかしこくなってくれるのだろう――」。この、答えがありそうで実際には答えのない問いに苦心されている親はとても多いかもしれません。しかし、ウェブサイト「中学受験情報局『かしこい塾の使い方』」主任相談員の小川大介さんは、「子どもは勝手にかしこくなる」と語ります。大切なポイントは、そうなるための家庭環境をつくること。その家庭環境づくりに欠かせない「三種の神器」ともいえるものが、「辞書」「地図」「図鑑」だといいます。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)辞書は「言葉の置き換えの練習帳」「子どもにかしこくなってほしい」と考えると、つい「とにかくたくさん勉強をさせる」という発想になり、問題集や参考書などの教材を買い与えたくなります。でも、いわゆる学習教材とはちがった効果によって子どもをかしこくさせる3つのツールがあります。その3つとは、「辞書」「地図」「図鑑」。それぞれが子どもになにをもたらすかについて、順に説明していきます。【辞書】辞書はいうまでもなく言葉の意味を、「定義」したもの。辞書を引くとき、子どもは「この言葉は厳密にはどういう意味なんだろう?」と考えています。その意識は「論理的思考力」に直結するのです。「だいたいこんな感じ」と内容をふわっと理解するだけでは、論理的思考力は伸びません。論理的思考力を育むには「定義」という観点が重要なのです。また、国語のテストなどで「◯◯をわかりやすく説明してください」という問題がありますよね。「説明する」とは、簡単にいえば「別の言葉に置き換える」ことを意味します。辞書はそれこそ置き換え作業されたものが記されているものです。それに触れることで、言葉の置き換え作業や、他人にものごとを説明する能力が伸びる。辞書は、「言葉の置き換えの練習帳」なのです。地図から「神の視点」を得る。図鑑は「何度も読み解けるメディア」【地図】「地図」が伸ばしてくれるのは「客観的思考力」です。地図は俯瞰視点で描かれています。本来であれば、地上にいる人間には見られない世界(視点)ですよね。いわば、上から見下ろす「神の視点」を得ることで、第三者的な視点、客観的思考力が育まれます。また、地図に触れることは縮尺と距離を体感することでもある。いま自分がいて広く感じられるこの場所も、地図上で見ればほんの小さなものだと知る。算数に例えるなら、「割合と比」の勉強をしていることに他なりませんよね。【図鑑】図鑑の効果は、テレビなど映像メディアと比較するとわかりやすいかもしれませんね。映像にはたくさんの情報が含まれています。それをすべて文字情報に置き換えると膨大な量になってしまう。だから、図鑑は「いかに情報を削ぎ落とすか」という観点でつくられています。なぜなら、重要な要素をはっきりさせるためです。図鑑の多くが写真ではなくイラストを使っていることも同じ理由です。単純化し、注目するべきポイントを浮かび上がらせているわけです。その特徴によって、図鑑は「何度も読み解けるメディア」になっています。膨大な情報を含む映像を見た場合、「なんとなく知った気」になって終わり。一方で図鑑の場合は、あるときは掲載されている動物の生息地が気になって地球儀で調べたり、あるときは異なる動物の共通点に気づいたりと、自分の気づきによって見るポイントが変わるのです。それこそ、「自ら学ぶ」という姿勢を育むものといえるでしょう。親自身が子どもにとっての「第一の環境」このように、「辞書」「地図」「図鑑」は、子どものさまざまな力を伸ばすために有用なツールです。とはいえ、「今日から図鑑を見なさい」と子どもに押しつけたところで、親御さんの思惑どおりに興味を示すということは少ないでしょう。よく引き合いに出される話ですが、水を飲みたいと思っていない子ヤギを水場に引きずって行ったところで水を飲むことはありません。でも、喉が渇いたときに水場を教えてあげれば自分で勝手に水を飲みに行く。その原理は子どもの勉強にも通じます。子どもは「自分で勝手に育つように、かしこくなるようにできている」のです。親がやるべきことは、子どもが「水が飲みたい」と思ったときのために「水」を用意しておくことではないでしょうか。辞書や地図、図鑑を用意しておくのです。それらを置くのは勉強部屋とは限りません。リビングでもダイニングでも、子どもが手に取りやすい場所に置いておきましょう。子どもに無理やり読ませたり、「一緒に読もう」と頑張ったりする必要はまったくありません。辞書や地図、図鑑に「子どもがいかに自然に出会うか」という発想で、子どもにとっての家庭環境をつくることが大切です。子どもが日常生活のなかでふとなにか気になることに遭遇した。家に辞書や地図、図鑑が身近にあるから使ってみた――そういうシチュエーションをなるべく多く発生させれば、子どもの「自ら学ぶ力」を育てることにつながるのです。そして、「三種の神器」を置くこと以外に、もうひとつ大切なことがあります。それは、「親自身が第一の環境」だという認識を持つことです。親がいつも楽しそうにしているだけで、子どもがかしこくなる可能性は高まるのです。親がいつも楽しそうにしていて家族の仲が良ければ、子どもは人としゃべったり、人の話を聞いたりすることが楽しいことだと思うようになります。勉強でも仕事でも、多くの人の話を素直に聞ける人間が伸びていきますよね。人と心地良くつながれることは、それだけで能力を発揮する土台となるのです。そして、親が楽しく毎日を過ごすには、親が自分自身を好きになること。それが、子どもをかしこくする家庭環境づくりのスタートです。『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』小川大介 著/すばる舎(2016)■ 中学受験のプロ・小川大介さん インタビュー一覧第1回:“国語嫌い”になりやすい子どものタイプと、親がやりがちな間違った教育法第2回:“リビング学習でかしこくなる”は勘違い。東大生がリビングで勉強する本当の理由第3回:子どもは勝手にかしこく育つ。“自ら学ぶ力”を伸ばす辞書・地図・図鑑の活用法第4回:“後伸び”する子としない子の違い。成長後に学力が急伸する幼少期の過ごし方(※近日公開)【プロフィール】小川大介(おがわ・だいすけ)1973年生まれ、大阪府出身。ウェブサイト「中学受験情報局『かしこい塾の使い方』」主任相談員。プロ家庭教師集団「名門指導会」副代表。京都大学法学部卒業。関西最大手の進学塾の看板講師として活躍後、個別指導教室「SS-1」を創設。教科指導スキルに、声かけメソッド、逆算思考、習慣化指導を組み合わせ、短期間での成績向上を実現する独自ノウハウを確立する。家庭をひとつのチームと見立てておこなう独自のカウンセリングは実施数5000回を超え、高い精度でクライアントを成功へ導いている。受験学習はもとより、幼年期からの子どもの能力の伸ばし方、親子関係の築き方といった子ども教育分野でも定評がある。著書に『1日3分! 頭がよくなる子どもとの遊びかた』(大和書房)、『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』(すばる舎)、『親子で学べる! カピバラさんドリル 小学社会47都道府県』(かんき出版)など多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月06日●平成ライダー初演劇作品『仮面ライダー斬月』で、久保田悠来と共演毎年新たなヒーローを生み出している仮面ライダー。2000年の『仮面ライダークウガ』からは、"平成仮面ライダー"と呼ばれ、若手俳優の登竜門として知られている。そんな平成ライダー初の演劇作品化が発表され、大きな話題を呼んだのが、「舞台『仮面ライダー斬月』 -鎧武外伝-」。2013年10月~2014年9月に放送された特撮ドラマ『仮面ライダー鎧武/ガイム』に登場した仮面ライダー斬月(呉島貴虎)を主役に、TVシリーズでも同役を演じた久保田悠来が主演を務める。TVシリーズ後の世界を舞台に、貴虎の未来と過去を描いていく同作には、若手の注目俳優が多数出演する。今回は、出演が発表されるとTwitterトレンドを席巻した萩谷慧悟にインタビュー。憧れの仮面ライダーになる心境や、舞台へかける思いについて話を聞いた。○■『鎧武』の奥深さに驚き――仮面ライダー初の演劇作品に出演するということで、お話を聞いたときはどういう心境でしたか?平成仮面ライダーを子供の時に見て変身ごっこもしていましたし、仮面ライダーは男の子だったら誰もが憧れる存在なので、まさかお仕事として叶うとは……子供の頃の自分は思ってなかったでしょうね!(笑) 巡り合わせって、唐突にくるものなんだなと思って、すごく感慨深かったです。しかも記念すべき、仮面ライダー初の演劇作品化という作品で、幸せです。――萩谷さんは、どんな仮面ライダーに憧れてたんですか?小さかったのでほとんど記憶にないんですけど、最初に見たのは『クウガ』(00年)です。スーパー戦隊と比べて、『クウガ』は正直、怖いイメージがありましたが、そこから色々見始めるようになりました。『龍騎』(02年)の頃にはCDで歌を聞いてましたし、『龍騎』と『カブト』(06年)はおもちゃを持っていました。『電王』(07年)、『キバ』(08年)も見ていましたね。――『鎧武』は萩谷さんが大きくなられてからの放送でしたが、TVシリーズは観られたんですか?お話が決まってから全話見ました。外伝などもあり、TVシリーズが終わった後もずっと愛されてる作品なんだな、と思いました。しかも、『鎧武』は特に、ストーリーが奥深いですよね!世間的には、仮面ライダーって、子供の憧れだと思われてるかもしれないけど、すごくヒューマンドラマが秘められてて、年代問わずに見られる。海外で言うとアメコミのような、日本が誇るヒーローだと思います。――『鎧武』の中では、どのようなところが印象的でしたか?何よりもまず、変身シーンが衝撃的すぎました。特にスイカアームズはあまりに巨大で、初めて見た時は思わず笑っちゃいました。――果物が出てくる特徴的な変身シーン、舞台でどうなるのかすごく気になります。自分も、変身できるのがすごく楽しみです!――現在稽古に入られているとのことですが、『鎧武』を観た後に久保田さんと会ったんですか?そうなんです。いち視聴者として「メロン兄さん、かっこいいな」と思っていたら、本物に出会えるわけですから、ファンからしたら、とんでもない状況ですよね(笑)。貴虎とはやりとりするシーンも多いんですが、本当にかっこよくて。久保田さんにも「こうやったほうがいいですよね」と相談させてもらっていますし、人生でも仕事でも憧れる素敵な先輩です! すごく喋りやすくて、クールな貴虎とはギャップがあって、久保田さん自身とお話するのが楽しいです。――『鎧武』本編を観ている時は、呉島貴虎にはどのような印象を抱いていたんですか?現代の大人、"上に立つもの"を代表する人だと思いました。きっとみなさんも上司の方などに対して色々思うこともあるだろうけど、上の人だって、簡単に決断できるわけではないと思うんですよ。そういうところが、本当にリアルだな、と思って。貴虎は、最初こそ少し怖いイメージもありますけど、主人公の紘汰と出会って、少しずつ柔らかくなって、人間をもっと信じるようになる。根が優しいから、苦渋の上にした決断がいっぱいあったんだろうし、大人って大変だなと思わされました。――まさかそんなに、呉島主任の心情に寄り添って観られていたとは……!大人になってからだと、そういう見方ができちゃうんですよね。子供の時とは目線が変わったので、「仮面ライダーって、こんなに奥深いものだったの!?」と驚きました(笑)。観る時期によって、全然変わりますね。●今後は…自分の可能性を狭めたくない――そんなTVシリーズを経ての演劇作品ですが、ビジュアルなどからも、少しダークな感じなのかな、という印象があります。テレビでは表現しづらいことも、舞台では表現できるのかな、と思っています。今回の作品の背景は結構アングラというか、僕らが演じるのは戦火の中で悲惨な経験もしている子供たちで、自分がいつ死ぬかわからないし、生きるために仲間を守らなきゃいけない。サバイブしていこうとする、たくましさがある役どころです。現実にも、世界からはまだ戦争が消えてないし、そういうところもリアルな作品だな、と思います。――萩谷さんが今回演じるアイムは、どういうキャラクターなんですか?TVシリーズ主人公の葛葉紘汰のように、本来は明るい、それでいて人を引き付ける魅力のあるキャラクターです。とはいえ、生きるか死ぬか、食うか食われるかという世界にいるので、大人に対する不信感を持っていたり、ダークな内面も持っています。演出の毛利さんにも最初「アイムは明るい感じで」と言われていたんですけど、演じているうちに明るくなりすぎてしまい、そのバランスについてご指導いただいたりもしています。――演じている時には、役に入り込むタイプなんですか? それとも、演じる自分を客観的に見るタイプですか?自分の生き方が、常に俯瞰なんです。だから、入り込めるように努力しています。俯瞰することはいくらでもできるんですよ! 放っておいたら、一生、俯瞰してます(笑)。今は、稽古のたびに「ちゃんと、貴虎に気持ちを向けられていたのかな?」と毎回自問自答しているんです。自分の頑張りどころです。でも使い分けが必要でもあって。例えば大人につっかかるシーンはたくさんのキャラがいるので「同じリアクションにならないように」と、俯瞰で見ているところもあります。――稽古については、SNS等を拝見しても和気あいあいとした空気が伝わってきますね。すごく良い現場です。特に自分のチーム(後藤大、高橋奎仁)とは、よくコミュニケーションをとるようにして、「俺らのチームって、どう?」と話しあっています。一人一人がどういうキャラクターで、どうやって死線をくぐり抜けてきたのか、他のチームのキャラとの差別化についても、帰り道でよく話しています。同じチーム以外では、宇野(結也)くんがよく僕らのシーンも見てくれていて、感想を教えてくれます。一緒に筋トレもしています(笑)。○■自分の身がいくらあっても足りない――萩谷さん自身は大学生4年生で、この春卒業とのことですが、今後挑戦したいことは?自分の可能性を狭めたくないな、とは思っています。少しでも可能性のあることや、やったことのないことは、いくらでもやってみたいです。今回も、仮面ライダーの新しい試みに立ち会えて、嬉しいです。そういう、新しいことが好きなんです。挑戦を諦める人間には、なりたくないと思っていて。いい意味で、「できない自分」も良いかな。できないとこから、できるようになる過程でのアプローチは、すごく刺激になるから。ある程度できたからいいや、と思うことはなくて、自分の核の信念があれば、何でもできると思っています。――例えば、どういうことが好きなんですか? 趣味や、興味があるものなどは。今回の舞台で一緒のチームは、アニメ好きが集まっているんです。稽古が始まって最初の頃に好きな作品の話をしたら「まじ? 俺も好きだよ!」って盛り上がったので、そういう趣味の話もよくしています。僕は音楽も好きで曲も作りますが、インドアだけでなくアクティブなところもあって、サバゲーもするし、ダイビングの免許も持っています。興味の方向が、めちゃくちゃなんですよ! 今はあまり趣味にかける時間がないから、自分の身がいくらあっても足りないです。本当に、めちゃくちゃなんです。よく言われます(笑)。――だからこそ、これからいろいろなことに挑戦できそうですね。では、最後にぜひ今回の作品の見どころを改めて教えてください。初の演劇作品化ということで、映像とは違った描き方ができるし、新たな可能性が含まれているんじゃないかなと思っています。作品のストーリーは世界の縮図のようでもあって、使われる側と使う側、どちらが悪いとかじゃない。それぞれの立場は色々な人に当てはまると思うので、観てくださる方の共感を生めたら嬉しいです。あとはやっぱり、平成仮面ライダーとして初めての演劇作品化で、皆さんの期待がかなり高いと思うので、演者もスタッフも、チーム一丸となって頑張っていきたいです。――作品が発表された時も、萩谷さんたち出演者陣が発表された時も、すごい反響でした。僕も嬉しかったです。期待に応えたいです!■萩谷慧悟1996年11月7日生まれ、埼玉県出身。2012年よりテレビドラマ、映画、舞台など幅広く活動。自ら楽曲制作を行うなど、音楽面での才能を発揮する一方で、日本テレビ系ドラマ『THE QUIZ』をはじめとした映像作品に次々と出演。2014年には、大ヒット映画を舞台化したグランドミュージカル『オーシャンズ11』で、オーシャンの仲間であるターク・モロイ役を演じた。■舞台『仮面ライダー斬月』 -鎧武外伝-出演:久保田悠来 / 萩谷慧悟 原嶋元久 小沼将太 宇野結也 後藤大 増子敦貴 千田京平 高橋奎仁 田淵累生 / 丘山晴己 / 大高洋夫ほか東京公演:3月9日~24日(日本青年館ホール)京都公演:3月28日~31日(京都劇場)原作:石ノ森章太郎脚本・演出:毛利亘宏(少年社中)シリーズ原案・監修:虚淵 玄(ニトロプラス)脚本協力:鋼屋ジン(ニトロプラス)
2019年03月05日まるで学校や塾の先生のように、子どもに勉強を教えている教育熱心な親御さんもいるかもしれません。でも、それは家庭教育で本当に重要なことではないと指摘するのは、ウェブサイト「中学受験情報局『かしこい塾の使い方』」主任相談員の小川大介さん。では、その「家庭環境で本当に重要なこと」とはどんなものでしょうか。小川さんは「子どもの『成長したい』という意欲をつくること」、そして「子どもが心地良く勉強できる環境づくり」だと語ります。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)学校、地域、家庭——3つの教育が人間を育てる家庭環境の大切さをお伝えする前に、大前提として教育には3つの種類があり、それぞれに役割があることを知っておいてほしいと思います。その3つとは、「学校教育」「地域教育」「家庭教育」です。まずは「学校教育」の意義についてです。学校教育がなかった古い時代の教育というのは、地域と家庭だけでおこなわれていました。でも、それでは当然のことながら得られる知識が限られてしまいます。学校とは、まとまった体系的な知識を学び、課題に取り組める場です。しかも、親や地域の大人とはちがう専門性を持つ教師が、子どもの成長の度合いに合わせて適切な課題を与えてくれる。そういう意味で、いうまでもなく学校教育は重要なものです。「地域教育」は、多様性を知るために重要なものです。地域の祭りや習い事の教室で、年代も価値観も異なる多くの人たちと会う。そうして子どもは自分の世界を広げていきます。学校にも多くの人間が集まりますが、学校は一定の体系のもとに成り立っていて、その教育は基本的に一方通行。本当の意味での多様性は学校教育ではなく、地域教育で知るものなのです。そして、親御さんが大きな役割を果たすのが「家庭教育」。家庭教育のもっとも重要な要素は、「子どもに安心感と自信を与える」こと。家族とのふれあいのなかで子どもは自分の存在を認められ、「自分は生きていていいんだ」と安心し、自信を持つ。それが「成長したい」という意欲、成長の土台をつくるのです。家庭教育のもうひとつの重要な要素として、「誰よりも親が子どもの近くにいる存在」であることが挙げられます。子どもは自ら学び行動する力を持っていますが、その力を発揮するにはあることが必要です。それは、親による「フィードバック」です。学校で先生に褒められた話をしたら、お父さんがよろこんでくれた。一生懸命にスポーツの練習をしていたら、見学に来ていたお母さんが微笑みながら見ていてくれた。自分の言葉や行動に、いちばん近くで見てくれている親がなにかを返してくれるから、子どもはさらに動こうとする。もちろん、「もっと頑張ろう!」と思う。それが子どもの原動力になるのです。家庭「教育」というと、どうしても学校教育のような勉強を家でもさせることのように思ってしまう親御さんもいますよね。でも、家庭教育とはそういうものではない。子どものなかに「勉強が楽しい」「できるようになったらうれしい」というマインドを育ててあげることがなによりも重要なのです。勉強部屋にこだわらずに集中できる空間を選ぶそういうマインドを育てることは大切ですが、一方で、「家庭」という場が勉強に適した環境であることも確かです。「リビング学習」という言葉を知っている人なら、「東大生の多くがリビングで勉強していた」という話も耳にしたことがあるでしょう。ただ、「東大生にはリビング学習経験者が多かったから、リビング学習をすればかしこくなる」と勘違いしている人も多いようです。しかし、残念ながらリビングで勉強をするだけで東大に行けるほど学力が上がるわけではありません。東大に受かるような勉強ができる子どもは、「自分がいつどんなやり方で勉強をすれば効率的か、楽なのか」を感覚としてつかんでいます。たとえば、「数学をやるときには時計の音すら聞こえない静かなところでやりたい」とか、「生物の勉強は眠くなるから喫茶店のほうがいい」といった具合に自己分析ができている場合が多いようです。ノートなど筆記用具の使い方から勉強のメニューのつくり方、タイムテーブル、そして場所の選び方まで、自分なりのスタイルをきっちりつかんでいるのです。上記のように自己分析できる子たちですから、勉強をするからといって勉強部屋だけにこもるような方法を彼らは選びません。たとえば、「リラックスして柔軟にものを考えたいときは、家族の会話や生活音がちょっと聞こえるシチュエーションでやりたい」というふうに考えることもあるのです。勉強部屋だけにこだわらず、さまざまな勉強をするにあたってそれぞれベストの空間をチョイスした結果、気がついたらリビングの滞在時間が長くなっていた――それだけのことなのです。ただ、頭がいい子どもはリビング学習の比率が比較的高くなることは、じつは理にかなっています。なぜなら、どういうときに人間が集中しやすいかというと、「リラックスできる空間にいて、かつ適度な緊張感と安心感がある」ときだからです。それは、まさにリビングです。一方、自分ひとりの空間である勉強部屋は、あくまでも自分だけの世界ですから緊張感はなく、集中力も下がりやすい場所だと考えることができる。もちろん、これは大学受験を控えた受験生に限ったことではありません。むしろ自分で環境をつくったり選んだりすることが難しい小さな子どもがいる親御さんこそ、きちんと知っておくべきことではないでしょうか。勉強だからと勉強部屋に缶詰めにしても、勉強の内容によっては逆に子どもがまったく集中できないこともあるのです。「子どもがいまやろうとしている内容を、もっとも心地良く集中してやれる場所はどこか」と子どもと一緒に考え、ベストな環境を選んであげてください。親は、世界中の誰よりも子どものそばにいて、好き嫌いをいちばんわかってあげられる存在なのですから。『親も子もハッピーになる最強の子育て』小川大介 著/ウェッジ(2018)■ 中学受験のプロ・小川大介さん インタビュー一覧第1回:“国語嫌い”になりやすい子どものタイプと、親がやりがちな間違った教育法第2回:“リビング学習でかしこくなる”は勘違い。東大生がリビングで勉強する本当の理由第3回:子どもは勝手にかしこく育つ。“自ら学ぶ力”を伸ばす辞書・地図・図鑑の活用法(※近日公開)第4回:“後伸び”する子としない子の違い。成長後に学力が急伸する幼少期の過ごし方(※近日公開)【プロフィール】小川大介(おがわ・だいすけ)1973年生まれ、大阪府出身。ウェブサイト「中学受験情報局『かしこい塾の使い方』」主任相談員。プロ家庭教師集団「名門指導会」副代表。京都大学法学部卒業。関西最大手の進学塾の看板講師として活躍後、個別指導教室「SS-1」を創設。教科指導スキルに、声かけメソッド、逆算思考、習慣化指導を組み合わせ、短期間での成績向上を実現する独自ノウハウを確立する。家庭をひとつのチームと見立てておこなう独自のカウンセリングは実施数5000回を超え、高い精度でクライアントを成功へ導いている。受験学習はもとより、幼年期からの子どもの能力の伸ばし方、親子関係の築き方といった子ども教育分野でも定評がある。著書に『1日3分! 頭がよくなる子どもとの遊びかた』(大和書房)、『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』(すばる舎)、『親子で学べる! カピバラさんドリル 小学社会47都道府県』(かんき出版)など多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月05日「これからの子どもには『考える力』が必要だ」という言葉をここ数年よく目にするようになりました。しかし、その「考える力」とはどういうものなのでしょうか。お話を聞いたのは、ウェブサイト「中学受験情報局『かしこい塾の使い方』」主任相談員の小川大介さん。小川さんによると、「『考える力』とは明白なる『技術』」なのだとか。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「考える」と「悩む」はまったく別のもの「考える力」とひとことでいっても、人によって定義はばらばらです。いま、大学入試改革に伴っていわれている「考える力」とは、「自分なりの価値観を明確にして社会との関係づくりをしていける力」。いわば、自己決定力のことです。わたし個人としては、これを「考える力」と呼ぶのはちがうように感じています。では、わたしが定義する「考える力」とはなにか――。それは、事象を正確にとらえて分析し、課題を設定する。そして、情報など自分が使えるあらゆるものを組み合わせることでなんらかの変化を生み出していく。その一連のプロセスを進めていける力こそが、「考える力」なのだと思います。はっきりお伝えしておきたいのは、「考える」と「悩む」はまったく別のものだということ。なにかを目の前にして「うーん」とうなって止まってしまう。これは、「考える」ではなく、ただ悩んで苦しんでいるだけです。なぜそこで悩んで苦しむかというと、先に述べた一連のプロセスを経ていないからです。なにが課題なのかを見つけようとしないままに、「答えらしきもの」が浮かんでくることを追い求めているだけ。だから、もやもやとして苦しいわけです。ものごとを明確にすることには、いまなにが起きているのかを見る、情報を集めるというステップ、あるいは、時系列に並べ直す、重要度を整理するといったファクターがある。そして、そういうものを割りつけていきながら、ものごとを徐々に分解しまとめていく必要があります。つまり、「考える」とは明白なる「技術」なのです。親子の会話で子どもの「考える力」を伸ばすでは、どのようにその技術を身につけさせればいいのでしょうか。ここでは、家庭での親子の会話でできることを紹介します。たとえば、ヨーロッパの難民問題のニュースを親子で見たとします。子どもに「これってなに?どういうこと?」と聞かれた。そこでただ教えてしまっては、子どもは考えるプロセスを身につけることはできません。かといって、いきなり「どう思う?」と聞いても、まだ考えていないのですから、自分なりの答えは返ってこないでしょう。そうではなく、順を追って問いかけるのです。まずは「難民って知ってる?」と問いかけ、知らないのなら一緒に調べてみる。そして、「なにが起きているのか」という現状を一緒に確認します。難民にはどんな事情があり、なぜヨーロッパの人たちは怒っているのか、ニュースのコメンテーターはどう解説したかといったことです。次に、「もし自分が難民の側だったらどう思う?」「逆にヨーロッパの人だったら?」と、立ち場を変えて想像させてみます。こうしてようやく、「じゃ、あなたはどう思う?」「どうしたらいい?」という問いかけの段階に至ることができ、「もっとよく話し合ったらいい」といった子どもなりの答えにたどり着かせることができるわけです。もしかしたら、結局「わからない」という答えが返ってくるかもしれません。でも、そこに至るまでの問いかけによって、考えることに必要なプロセスを経ているのですから、子どもにとっては「考えるトレーニング」になっているのです。一様に国語の勉強を押しつけるのはよくないいまの例で、まず難民という言葉を調べるとお伝えしました。考えるという行為は言葉を使ってするものですから、考えるためには考えるべきことに関連する言葉の意味を知っている必要があります。つまり、「考える力」を伸ばすためには、国語力が重要なキーワードとなります。とはいえ、幼い子どもに一様に国語の勉強を押しつけるのは間違いです。というのも、子どものタイプによって言葉にあまり関心を示さない、「言葉に反応したくない」という時期があるからです。それは、一般的に小学校1~2年生の頃に表れます。比較的女の子に多いのが、いろいろな言葉を覚えることが好きなタイプ。一方で男の子に多いのは、「同じ内容を表せるならどの言葉でもいい」と考えるタイプです。前者はものごとが定まっていくことですっきりしたいタイプで、言葉を知ってものごとがはっきり見えてくることで安心できるということ。すると、自然にコミュニケーション力も上がるので、その子どもにとっては単語力の重要性がさらに増していくことになります。後者は、いわば「算数タイプ」。言葉にあまり反応しない代わりに数字に強い、算数が得意な傾向があります。数字というのは抽象化されたものですよね。みかんが3個でも本が3冊でも、同じ3です。算数が得意な子どもは、ものごとをまとめていく抽象化能力に長けているのです。そして同時に、表現の広がりに対して関心を示さないということでもあります。さらに、「言葉も数字もまどろっこしい、直接見たい」「わからないことはとりあえずやってみたい」と考える、「体感タイプ」といえるタイプの子どももいます。算数タイプ、体感タイプの子どもに無理やり国語の勉強を押しつけると、確実に国語が嫌いになってしまいます。もちろん、コミュニケーション力はどんなタイプの子どもにも必要なものです。「言葉に反応したくない時期」を過ぎる9歳くらいになれば、タイプを問わずコミュニケーションに必要な国語力を伸ばしてあげないといけません。とはいえ、大前提としては、それぞれのタイプや成長段階を踏まえてその教育をする必要があります。まず親が国語力の4要素を知るでは、子どもの国語力をアップさせるためにはどうすればいいのでしょうか。やみくもに問題集をこなせばいいわけではないし、たくさんの本をただ読めばいいわけでもありません。重要なのは、国語力というものがどのように成り立っているかを親が知ることです。国語力は4つの要素にわけられます。「語彙力」がベースにあり、その上に「読む力」「解く力」「答える力」があるという構成です。ひとつのテーマを与えられたときに、それに関連する情報をどれだけ頭のなかに広げられるか。それが「語彙力」。「読む力」は「内容を理解し要約する力」。「解く力」は「情報を分析する力」です。随筆や小説を扱う場合なら、登場人物の立ち場や心情を理解する「共感する力」も「解く力」に含まれるでしょう。そして、「答える力」はいわゆる「表現力」です。「答える力」は、2段階にわけられます。自分のなかにあるものをなんらかの言葉にいったん置く第1段階。表現する相手を想定してさらに言葉を置き換えていくという第2段階です。国語力にはこういう要素があることをまず親御さんが理解することが大切です。というのも、国語が苦手な子どもがどこでつまずいているのかを知らなければ対処できないからです。そもそも言葉を知らないのなら、意味を調べることを教えないとならない。言葉を知っていて読むこともできているのにテストの点数が悪いのなら、「解く力」が足りないと考え、どのように問題をとらえたか、どう思ってその答えにしたのかを子どもに聞いて、「解く力」をつけてあげなければなりません。どの段階でつまずいていて、その原因がどこにあるのか。子どもと一緒に分析して対処してほしいと思います。『親も子もハッピーになる最強の子育て』小川大介 著/ウェッジ(2018)■ 中学受験のプロ・小川大介さん インタビュー一覧第1回:“国語嫌い”になりやすい子どものタイプと、親がやりがちな間違った教育法第2回:“リビング学習でかしこくなる”は勘違い。東大生がリビングで勉強する本当の理由(※近日公開)第3回:子どもは勝手にかしこく育つ。“自ら学ぶ力”を伸ばす辞書・地図・図鑑の活用法(※近日公開)第4回:“後伸び”する子としない子の違い。成長後に学力が急伸する幼少期の過ごし方(※近日公開)【プロフィール】小川大介(おがわ・だいすけ)1973年生まれ、大阪府出身。ウェブサイト「中学受験情報局『かしこい塾の使い方』」主任相談員。プロ家庭教師集団「名門指導会」副代表。京都大学法学部卒業。関西最大手の進学塾の看板講師として活躍後、個別指導教室「SS-1」を創設。教科指導スキルに、声かけメソッド、逆算思考、習慣化指導を組み合わせ、短期間での成績向上を実現する独自ノウハウを確立する。家庭をひとつのチームと見立てておこなう独自のカウンセリングは実施数5000回を超え、高い精度でクライアントを成功へ導いている。受験学習はもとより、幼年期からの子どもの能力の伸ばし方、親子関係の築き方といった子ども教育分野でも定評がある。著書に『1日3分! 頭がよくなる子どもとの遊びかた』(大和書房)、『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』(すばる舎)、『親子で学べる! カピバラさんドリル 小学社会47都道府県』(かんき出版)など多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月04日「男女平等」という考え方が社会に広く浸透しているいま、学校教育現場も例外ではありません。男女で明白なちがいがある体を使うスポーツなどはともかく、勉強の場合であれば男女平等であることはごく自然なことでしょう。でも、V-net教育相談所を主宰し、さまざまな独自教育メソッドを開発している松永暢史さんは、「子どもの学習意欲をかき立てて学力を伸ばすための手法は、男の子と女の子それぞれでちがう」と語ります。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)女の子が潜在的に持つ「忍耐力」に期待する男の子を男の子らしく育てるには「好奇心」、女の子を女の子らしく育てるには「感受性」を伸ばしてあげることが大切だとわたしはとらえています。(インタビュー第3回参照)。でも、できれば子どもには勉強もできるようになってほしいですよね。男女それぞれに特質があるのと同じように、学力を伸ばしてあげるためのコツにも男女のちがいがあります。女の子にはまず「駄目なことは駄目」だと教える必要があります。なぜなら、「わがまま」に育てないためです。女の子の場合、どうしても「かわいい、かわいい」と育ててしまいがちです。しかも、そのかわいさゆえ、本人が要求しないうちからものを与えてしまうこともあります。そうやって甘やかしていれば、あたりまえですがわがままに育ってしまう。ただ、わたしが長く教育に携わるあいだに見てきた限り、残念ながら「わがままでかしこい女の子」はめったにいません。というのも、勉強というものは我慢してやらなければならない側面が強いものだからです。親がわがままに育てた結果、忍耐力が育たず勉強嫌いになってしまう女の子が多いのです。でも、本来なら女の子は男の子以上に忍耐力を備えているものなのです。大人になれば、男には到底耐えられないであろう出産を経験することが多いわけですし、親として負担の大きい子育ての中心を担うのですからね。甘やかしたくなるところを親が我慢し、女の子が潜在的に持っている忍耐力を発揮させて辛抱強く勉強をさせる。そういう工夫が女の子に対しては必要だと考えています。男の子は「面白い!」と思えば一気に学習意欲が増す一方で男の子の場合は、基本的にはあまり勉強に向きません。理由は簡単で、女の子と比較すると忍耐力が足りませんから(笑)。しかし一方で、「面白い!」と思った場合には、女の子よりもよっぽど熱心に勉強をするようになります。これは、好奇心に従って行動したがるという男の子の特質によるものです。学者に男性が多いのも、そういう側面が影響しているのかもしれません。面白いと思う対象があれば、寝る間を惜しんで研究にいそしむのが男性というものです。であれば、男の子には「面白い!」と思うように勉強させる工夫が必要になります。そもそも、子どもが「勉強したい」と思うときにはどんな気持ちが働いているのでしょうか。それはシンプルに、「頭が良くなりたい」という気持ちです。「頭が良くなっている」という実感があれば、「面白い!」と思い、一種のたかぶりを感じるわけです。これはたとえば、跳び箱に挑戦し徐々に高い段を跳べるようになるときと同じ原理です。「5段を飛べた」というわかりやすい実感によってたかぶりを感じ、「今度は6段に挑戦しよう」というチャレンジ精神が生まれるのです。男の子に勉強させたければ、跳び箱のようにできるだけステップアップをわかりやすくさせる工夫が必要です。これについては男女のちがいはありませんが、「面白い!」と感じることで一気に学習意欲が高まる男の子の場合、より強く意識しておくべきことでしょう。「だまされない」ために言語能力を高めるまた、子どもの性別に関係なく高めるべき「だまされない」力についても、わたしなりの考え方をお伝えしておきます。私たちが最大限に楽しい人生を歩むためには「武装」が必要です。この場合の武装とは、攻撃手段ではありません。自分を守る、より具体的にいえば「だまされないようにする」ための手段を意味します。「だまされる」とは、相手のいっていることを正確に理解せず、あるいは相手の言葉に対する判断をせず、相手の思い通りにされてしまうことです。この世のなかは、人をだまして儲けようとする人間がいくらでもいる社会であることは明らかです。わたしたちが接する情報の多くも、誰かが利益を上げるために流しているものが少なくありません。そして、そうしたものとのやり取りは最終的に言語でなされます。契約書の内容をきちんと把握できない人間は、だまされてしまうこともあるでしょう。ですから、「だまされない」ためには言語能力を高める必要があるのです。インタビュー第2回でもお伝えしたとおり、子どもの言語能力を高めるには読み聞かせと音読が有効。とりわけ『徒然草』などの古典作品は、言語能力を高めるのに最適です。ただ、古典だととっつきにくいと思われる方には、わたしの著書『将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!』(すばる舎)で紹介している「読むだけで頭が良くなる厳選本145冊」をおすすめしています。戦後の文学作品や絵本の中にも、正しい日本語の系譜を受け継いでいる作品は数多くあるのです。言語能力はまぎれもなく、あらゆる勉強に必要な力。言語能力を高めることは、より良い人生を歩むためだけでなく学力を高めるためにも、必要なことなのです。子どもにとって体験が伴わない知識は意味がない最後に、特に男の子を育てるうえで大切な「体験」の重要性についても触れておきます。大人になったときのことを思えば、男性は「なにか」ができないといけません。そのためには、子どもの頃から「なにか」を得るための経験をたくさんしておく必要がある。男の子の好奇心が反応して行動をしようとしたときには、できるだけその気持ちをかなえてあげるべきです。その役割を担うのはやはり同じ男性である父親でしょう。母親は少しでも「危ない」と思ったら子どもの行動を止めてしまいますからね。そして、母親とは別に子どもの行動を妨げるものが「スイッチとクリック」の存在です。いまの子どものまわりにはゲーム機やパソコンなどさまざまな機械があふれています。スイッチがある機械で遊んでしまうと、本来必要である好奇心に従った行動は起きませんし、現実世界での「体験」が減ってしまいます。成長途中にある子どもにどれだけ知識を与えても、それ単体ではほとんど役に立ちません。体験を伴って得た知識でなければ、後で引き出して使うことができないのです。男の子を「なにか」ができる男性に育てるため、なるべく多くの体験をさせてあげてください。その体験は、現実世界で起こり得ることならどんなことでもいいのです。ただ、都会の高層マンションのなかに閉じこもっていては、好奇心はそうそう芽生えませんし、体験をなかなか得られないということになるでしょう。そういう環境なら、たとえば動物を飼ったり、鉢植えで植物を育てたりするということでもいい。「家のなかでもできること」をなるべく増やして、男の子の好奇心が働くような環境をつくってあげるよう、親御さんには心がけてほしいですね。『将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!』松永暢史 著/すばる舎(2015)■ 教育環境設定コンサルタント・松永暢史さん インタビュー一覧第1回:“AIに勝つ力”は学校教育では育たない。親にしか伸ばせない子どもの「7つの力」第2回:国語力は“〇〇の音読”で爆発的に伸びる。読むだけで子どもの頭がよくなる名作本の選び方第3回:思考と行動、男女の違いを徹底解説。“男の子らしさ”“女の子らしさ”が伸びる教育方針第4回:学力を伸ばすコツは男女で違う!子どもの性別で見る学習傾向と、勉強法のひと工夫【プロフィール】松永暢史(まつなが・のぶふみ)1957年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。V-net教育相談事務所主宰。教育環境設定コンサルタント、学習アドバイザー、能力開発椅子トラクター。「サイコロ学習法」「ダイアローグ法」「抽象構成作文法」など多数の教育メソッドを開発。子どもの個性に合わせてどのような教育をすることが正しいかを導き出し、学習計画、教育機関利用法、進学計画等を提案する。個人授業では国語を担当。『頭のいい小学生が解いている 算数脳がグンと伸びるパズル』(中経出版)、『落ち着かない 話を聞けない マイペースな 小学生男子の育て方』(すばる舎)、『「ズバ抜けた問題児」の伸ばし方』(主婦の友社)、『新 男の子を伸ばす母親は、ここが違う!』(扶桑社)など、教育関連の著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月03日「男の子には男の子らしく、女の子には女の子らしく育ってほしい」と願う親御さんも少なくないでしょう。でも、ひとむかし前とちがい、現在の学校教育現場には「男女平等」の考え方が広く浸透しています。そう考えると、「男の子を男の子らしく、女の子を女の子らしく」育てるには家庭教育が鍵となりそうです。V-net教育相談所を主宰し、さまざまな独自教育メソッドを開発している松永暢史さんによると、女の子は「感受性」、男の子は「好奇心」を伸ばすことが大切なのだそう。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)危険で面白いことを求める男、安全で楽しいことを求める女男女というものをわたしなりに観察して思うのは、「男と女では頭のなかで使う言語がちがう、脳のつくりそのものがちがうのではないか」ということ。一輪の花を見ると、女性は「まあ綺麗!」なんて反応を示しますよね。わたしは男ですから男性の立ち場からの見方になりますが、男からすれば、そういう女性の反応は過剰に映ることもある。だけど、彼女たちはただうわべの言葉を発しているのではなく、本当にそう感じています。つまりこれは、「女性のほうが男性よりもだいたいにおいて感受性が強い」ということを示していることの裏付けです。巫女やシャーマンもほとんどが女性ということも、女性の感受性の強さを表しているように思います。つまり、女性は基本的に受け身の姿勢、「なにかが起こるのを待っている」ところがあるのかもしれません。でも、男はそれじゃつまらない。「なにか面白いことはないか」とすぐに動いてしまうのが男性です。ちょっとくらいの「危険」が伴ったとしても「面白い」ことを求めるのです。遊園地の長い行列で待たされれば、男性は退屈します。でも、女性は、待っている間も友だちと楽しく話せれば満足する傾向が強いようです。女性にとっては「危険」があって「面白い」ことより、「安全」で「楽しい」ことが重要なのです。男性が女性に惹かれるのは、当然、本能的という部分もあるでしょう。でも、女性が持っている強い感受性がとらえる情報などが、自分たちがとらえるそれよりも有意義だと男性が感じることがあるのも、その大きな一因であるように思います。なにかに接した際の女性の反応は、男性には過剰に映る一方で、ときに心を強く揺さぶられることもあるのです。感受性の強さが女性の特質であり人間的魅力であるのなら、やっぱり女の子の場合はその感受性を壊すことなく大切に育てていくような教育が必要でしょう。そのために必要なことは、できるだけ自然の「生」を体験させるということ。たとえば、人間が調理などの手を加えていない果物を味わう。その際には、味覚だけではなく嗅覚でも自然の「生」を味わっていることになります。ただ、視覚と聴覚の場合はそう簡単ではありません。わたしたちのまわりの目や耳に入るものは、映像や音楽、騒音といった、人につくられたものが多いからです。それでも、意識的に探せば見つかるものです。風や雨の音、鳥の声、そういうものに敏感に反応する。公園などにある草木を気に留めていれば、その変化を味わうこともできるでしょう。もちろん、たまには景色のいい大自然に連れて行ってあげてください。これら、自然の「生」を味わいながら芸術に親しめば、感受したことを自分で表現できるようにもなります。そうすると、さらに感受性を高めることができるようになるのです。女の子は感受性、男の子は好奇心を伸ばす一方、「なにか面白いことはないか」とすぐに動き回りたくなる男の子の場合は、その好奇心と行動力を伸ばしてあげなければなりません。ここで、男女に対するわたしの考えにおけるそもそもの前提についてお伝えしておきましょう。わたしたちが置かれている状況、これを「境遇」と呼びます。そして、境遇以外の一切のことは「環境」です。環境から境遇になんらかの出来事、たとえば夏の森で涼しい風を感じる、美しい景色を見るといったことが起こったとします。それを受け取ることが、女性が得意な「感受」です。では、感受したらどうすればいいでしょうか。ただ受け取るだけではもったいない。「気持ちいい!」「すごい!」「綺麗!」というふうに言葉を発してもいいし、文章や音楽、絵にする、カメラで撮影するということでもいいでしょう。感受性を伸ばす手法として先に少しお伝えしましたが、さまざまなかたちで、「心情表現」をするのです。もうひとつのパターンがあります。環境から境遇になんらかの刺激が届くと、「好奇心」が起きますよね。そうすると、どうすればいいか。それは、「追体験」です。「こんなものは見たことがないぞ」などといった好奇心に従って、行動を起こすのです。極端にいえば、人間がやっていることはこのふたつのパターンしかありません。そして、「感受して心情表現する」パターンは女性を、「好奇心を持ち追体験する」パターンは男性を成長させるのです。男の子の教育についての話に戻しましょう。女の子にはその特徴である感受性を伸ばしてあげる教育をするという考え方と同様に、男の子の場合にも好奇心に従って行動する力を伸ばしてあげるといいと思います。近年、教育現場における問題のひとつに挙げられるのがADHDです。すぐに気が散ってうろちょろしてしまうという、「注意欠陥・多動性障害」のことですね。ただ、わたしからすれば過剰にとらえ過ぎているようにも思えるのです。そうした傾向を無理に押さえつけようとするばかりでは、好奇心旺盛で行動的という男の子の特徴を消すことにもなりかねません。そういう前提で考えれば、その好奇心と行動力を存分に発揮できる環境を親が用意してあげるべきでしょう。学校の授業中にはちょっと問題になる行動でも、豊かな自然環境のなかでならなんら問題はありません。もちろん、子どもをひとりで山や海に行かせるわけにはいきませんから、週末に一緒に遊びに行く時間を確保する努力も親御さんには求められることなのかもしれませんね。『将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!』松永暢史 著/すばる舎(2015)■ 教育環境設定コンサルタント・松永暢史さん インタビュー一覧第1回:“AIに勝つ力”は学校教育では育たない。親にしか伸ばせない子どもの「7つの力」第2回:国語力は“〇〇の音読”で爆発的に伸びる。読むだけで子どもの頭がよくなる名作本の選び方第3回:思考と行動、男女の違いを徹底解説。“男の子らしさ”“女の子らしさ”が伸びる教育方針第4回:学力を伸ばすコツは男女で違う!子どもの性別で見る学習傾向と、勉強法のひと工夫(※近日公開)【プロフィール】松永暢史(まつなが・のぶふみ)1957年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。V-net教育相談事務所主宰。教育環境設定コンサルタント、学習アドバイザー、能力開発椅子トラクター。「サイコロ学習法」「ダイアローグ法」「抽象構成作文法」など多数の教育メソッドを開発。子どもの個性に合わせてどのような教育をすることが正しいかを導き出し、学習計画、教育機関利用法、進学計画等を提案する。個人授業では国語を担当。『頭のいい小学生が解いている 算数脳がグンと伸びるパズル』(中経出版)、『落ち着かない 話を聞けない マイペースな 小学生男子の育て方』(すばる舎)、『「ズバ抜けた問題児」の伸ばし方』(主婦の友社)、『新 男の子を伸ばす母親は、ここが違う!』(扶桑社)など、教育関連の著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月02日親ならば、「子どもには頭が良くなってほしい」と願うことはあっても、「頭が悪くなってほしい」と願うことはありません。では、そもそも学力を高めるためにはどんな力が必要なのでしょうか。素人だと教科によってちがうと思ってしまいがちですが、V-net教育相談所を主宰し、さまざまな独自教育メソッドを開発している松永暢史さんは、「学力を高める力とは言語能力」だと断言します。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)勉強ができるということは言語能力が高いこと親御さんが子どもに「勉強ができるようになってほしい」と願うのなら、「言語能力」を伸ばしてあげることを心がけてください。「勉強ができるということは言語能力が高いことに他ならない」というのが、教育に長く携わってきたわたしの結論です。言語能力というと国語というひとつの教科に限られた力だと思われるかもしれませんが、あらゆる勉強は言葉を使ってするものです。数学だって言語で説明されて理解できればいいのですからね。言語能力は、大きくふたつにわけられます。耳にした、目にした言語を正しく受け取る「了解能力」と、自分の意志を正しく相手に伝える「運用能力」です。これらを伸ばすには、実践するしかありません。つまり、「本を読み、文章を書く」ということ。ただ、どちらもまだ難しいような幼い子どもの場合、まずは「聞かせる」ことからはじめます。子どもにきちんと言語を理解させるには、「読み聞かせ」が重要です。人間というのは知能がすごく発達した動物です。それこそ、親が話していることを聞いているだけでしゃべれるようになるのですから、本当にすごいことですよね。赤ちゃんは、言葉を覚えようと大人以上に注意深く親の言葉などの周囲の音を聞いている。その前提を思えば、幼少の時期に正しいリズムの日本語を聞かせてあげる必要があります。言語能力を高めるには過去の名作を音読する正しいリズムとは、例を挙げると石焼きいもの移動販売車から聞こえてくる「いしや~きいも~」の呼び声。「たけや~、さおだけ~」もいいですね。これらに共通する特徴とは「一音一音切っている」ということ。これが日本語の音読のベースなのです。「ショッピング」という言葉も、英語の正しい発音だと日本人には「ショピン」に聞こえますよね。英語は子音で終わることが多い言語であることに対して、日本語は一音一音に母音がつく言語なのです。幼い子どもには、きちんと一音一音切って遠くに話しかけるような日本語に触れさせることが大切です。では、具体的になにを読み聞かせればいいのでしょうか。わたしは、「古典」を聞かせることを提唱しています。もちろん、子どもが言葉を理解しはじめれば、本人に音読をさせます。古典を読み聞かせること、音読させることに驚いた親御さんもいるでしょう。ただ、これには明白な理由があります。『徒然草』をきちんと一音一音で切って音読すると、子どもの国語の力はぐっと伸びます。どういうことか説明しましょう。言葉は時代につれ徐々に変化していますが、当然、その変化は前の時代の言葉を受けたものです。『徒然草』は、江戸時代に寺子屋と藩校でもっとも音読された随筆で、当時の役人や作家など文章を書く人間に『徒然草』を知らない人はいません。つまり、前の時代にテキストとしてよく読まれたものを音読すればするほど、その後ろの時代――この場合であれば、現代の言葉の力が高まるというわけです。では、『源氏物語』や『枕草子』を楽に読めるようになるにはどうすればいいのか。その答えは、その前の時代の『古今集』を音読することです。そしてさらに、『古今集』を楽に読めるようになるには、その前の時代の『万葉集』を音読するのです。読み方の手本は「宮中歌会始」です。新春恒例の行事ですから、ニュース等で目にしたことがある人も多いでしょう。そのイメージで、『徒然草』なら「つ、れ、づ、れ、な、る、ま、ま、に」と一音一音切って読んでみてください。読むだけで子どもの頭が良くなる本があるわたしは、実験として幼い子どもがいるお母さんばかりを集めて古典の音読会を2年間ほど続けたことがあります。その結果、子どもたちの国語力は爆発的に伸びました。まだ小さいのに、みんなが長いセンテンスでしゃべることができるようになったのです。とはいえ、古典にとっつきにくさを感じる親御さんもいるかもしれません。でも安心してください。戦後に生まれた文学作品や絵本のなかにも、正しい日本語の系譜を受け継いでいる作品はたくさんあります。それらは、わたしの著書『将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!』(すばる舎)で「読むだけで頭が良くなる厳選本145冊」として紹介しています。これは、400冊を超える作品のなかからわたしが実際に音読して選びました。選んだ本は、一音一音切って読んで、意味が綺麗に伝わってくる作品ばかりです。作家、絵本作家のなかにも日本語本来のリズムがきちんとわかっている人がいるのです。ただ、「何歳のお子さんにはこの作品」と、年齢別におすすめ作品を紹介することはできません。子どもはそれぞれ成長に差があるので、一概にどの本がいいと決められないからです。とはいえ、著書で紹介した145冊はいずれもわたしが自信を持っておすすめできるいい作品ばかり。そのなかから気になる作品を選んで子どもに読み聞かせをしてあげたり、子どもに音読させたりしてみてください。間違いなく、子どもの国語の力は大きく伸びていくはずです。『将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!』松永暢史 著/すばる舎(2015)■ 教育環境設定コンサルタント・松永暢史さん インタビュー一覧第1回:“AIに勝つ力”は学校教育では育たない。親にしか伸ばせない子どもの「7つの力」第2回:国語力は“〇〇の音読”で爆発的に伸びる。読むだけで子どもの頭がよくなる名作本の選び方第3回:思考と行動、男女の違いを徹底解説。“男の子らしさ”“女の子らしさ”が伸びる教育方針(※近日公開)第4回:学力を伸ばすコツは男女で違う!子どもの性別で見る学習傾向と、勉強法のひと工夫(※近日公開)【プロフィール】松永暢史(まつなが・のぶふみ)1957年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。V-net教育相談事務所主宰。教育環境設定コンサルタント、学習アドバイザー、能力開発椅子トラクター。「サイコロ学習法」「ダイアローグ法」「抽象構成作文法」など多数の教育メソッドを開発。子どもの個性に合わせてどのような教育をすることが正しいかを導き出し、学習計画、教育機関利用法、進学計画等を提案する。個人授業では国語を担当。『頭のいい小学生が解いている 算数脳がグンと伸びるパズル』(中経出版)、『落ち着かない 話を聞けない マイペースな 小学生男子の育て方』(すばる舎)、『「ズバ抜けた問題児」の伸ばし方』(主婦の友社)、『新 男の子を伸ばす母親は、ここが違う!』(扶桑社)など、教育関連の著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年03月01日「先行きが見えない」と異口同音に語られる時代。これから長い人生を歩まなければならない子どもたちは、どんな力を身につけておくべきなのでしょうか。V-net教育相談所を主宰し、さまざまな独自教育メソッドを開発している松永暢史さんは、子どもたちに必要なものとして、7つの力を掲げています。そして、そのなかでも根幹となり得るのが「感受性」だといいます。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「判断力」と「創造力」の礎となる「感受性」子どもに必要な力として、わたしはまず「判断力」と「創造力」を挙げます。判断力がなければ、知識を持っていたとしてもそれを正しく使うことができません。それから、「他の誰もやっていないことをやりたい」「つくりたい」「描きたい」といった願望はいつもわたしたちのなかにある。いわば、創造力は、人間らしくあるための力といえるでしょう。ただ、それらふたつの力に先行して必要なものが「感受性」です。ものを感じ取る力がなければ、正しい判断もできないし、新しいものを生み出すこともできません。判断力、創造力、それに先立つ感受性――この3つが、子どもにとってもっとも大切な力です。それらに加えるなら、「観察力」「探究心」「着想力」「思考力」も大切な力になります。観察は目だけでなく頭でもおこなうもの。言葉がなければ、鋭く深い観察はできません。動物は、人間が仕掛けた罠を観察して見破るということはそうできませんよね?でも、人間なら「あれは罠じゃないか?」と言葉で考えて罠の存在を見破ることができる。動物よりはるかに優れた観察力を持つのが、人間という生き物なのです。そして探究心。ものごととは、目に見えている部分ではなくその下に重要なものが埋まっているものです。だとすれば、なにかに興味を持ったら立ち止まってとどまりそれを突き詰める必要があります。着想力は創造力のベースになる力です。なにかをつくりあげる力があったとしても、そもそもその「なにか」を思いつく力がなければつくる課程に進めません。そして、いうまでもなく、考える動物である人間には思考力が求められます。「7つの力」を伸ばすには家庭環境が重要でも、残念ながら、いまの学校教育はこれらの力を伸ばそうとしているようには思えません。何十人かでまとめてクラス分けされ、先生の話をちゃんと聞くことが求められ、たくさんの宿題を課される。わたしには、近い将来AIに取って代わられる仕事の訓練をされているように見えるのです。では、先に述べた「判断力」「創造力」「感受性」「観察力」「探究心」「着想力」「思考力」はどんなものかというと、これらは「AIが持てない力」です。「AIにできないことはなにか」と考えたわけではありません。「これからの人間にとって大切なものはなにか」と考えると、結果的にAIにできないことに行き着くのです。そして、これらの力を学校教育で伸ばしてくれないのであれば、家庭環境の在り方こそが重要になります。たとえば、感受性というものは、誰かに壊されることなくゆっくり育まれて徐々に良くなるものであって、ある教育によって突然良くなるものではない。「これから感受性を伸ばす教育をします」といった具合に伸ばすことはできません。ということは、子どもの感受性を向上させることは親にしかできないことなのです。感受性を伸ばすには「甘いお菓子」はNG!?子どもの感受性を伸ばしてあげたいのなら、まず「甘いだけのお菓子」をあげることをやめましょう。甘みというものは強烈な味覚ですから、甘いものを口にし続けると他の味を感じる力が鈍くなってしまいます。同じ甘みを持つものでも、果物だったらどうでしょうか?甘いけど酸っぱさも含むなど、味わいが多重です。そういった複雑さを感じ取れる力こそ感受性でしょう。子どもの感受性を伸ばすには、甘いお菓子ではなくて果物を与えるべきです。もちろん、これは一例です。他のさまざまなことについても、刺激が強いものを受け取って反応するのではなく、できるだけ余計な刺激物がない、いい自然環境に触れることが大切です。たとえば、同じことが聴覚についてもいえます。人間の耳は20キロヘルツまでの音しか聞き取ることができません。でも、自然界には20キロヘルツ以上の高周波の音がたくさん存在します。じつは、人間というものはこれらの高周波音を肌で感じ取っているのです。そして、その経験が豊かであるほど感受性も豊かになります。そう考えると、土があって草が生えていて海や川から心地いい風が吹くような環境に子どもを置いてあげる必要がある。ただ、特に都会の子どもだとそういう場所にひとりで行くことはできるものではありません。つまり、自然に囲まれた場所に子どもを連れて行ってあげるのが親の重要な役割なのです。『将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!』松永暢史 著/すばる舎(2015)■ 教育環境設定コンサルタント・松永暢史さん インタビュー一覧第1回:“AIに勝つ力”は学校教育では育たない。親にしか伸ばせない子どもの「7つの力」第2回:国語力は“〇〇の音読”で爆発的に伸びる。読むだけで子どもの頭がよくなる名作本の選び方(※近日公開)第3回:思考と行動、男女の違いを徹底解説。“男の子らしさ”“女の子らしさ”が伸びる教育方針(※近日公開)第4回:学力を伸ばすコツは男女で違う!子どもの性別で見る学習傾向と、勉強法のひと工夫(※近日公開)【プロフィール】松永暢史(まつなが・のぶふみ)1957年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。V-net教育相談事務所主宰。教育環境設定コンサルタント、学習アドバイザー、能力開発椅子トラクター。「サイコロ学習法」「ダイアローグ法」「抽象構成作文法」など多数の教育メソッドを開発。子どもの個性に合わせてどのような教育をすることが正しいかを導き出し、学習計画、教育機関利用法、進学計画等を提案する。個人授業では国語を担当。『頭のいい小学生が解いている 算数脳がグンと伸びるパズル』(中経出版)、『落ち着かない 話を聞けない マイペースな 小学生男子の育て方』(すばる舎)、『「ズバ抜けた問題児」の伸ばし方』(主婦の友社)、『新 男の子を伸ばす母親は、ここが違う!』(扶桑社)など、教育関連の著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年02月28日学校では学べない力を手に入れることができるという「旅育」。文字通り、「旅を通じて行う教育」ですが、じつは旅そのものだけではなく「旅の後」も重要なのだそう。そう語るのは、旅育の第一人者である旅行ジャーナリストの村田和子さん。「遠足は家に帰るまでが遠足」といわれますが、旅育は家に帰った後も続くようです。その他の、旅育で重要となる考え方や具体的メソッドと併せてアドバイスをしてくれました。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)旅は時間感覚をつかむ機会にあふれている移動が伴う旅は、子どもが「時間の感覚を学ぶ」にも最適です。そのためにも、まずは「スケジュールを共有する」ことが大切です。幼い子どもと旅行するときに親御さんがいちばん気を遣うのは、電車などでの移動中に子どもが静かにできるかというところでしょう。よくあるパターンとしては、移動中に子どもが「あと何分?どれくらい?」と大きな声で何度も聞いてくるというもの。それに対して「あと少しだから静かにして」なんて言う親御さんもいますが、そもそもなぜ子どもがそうやって聞いてくるのかと考えたことはあるでしょうか?じつは、「不安」が子どものぐずる要因になることが多いのです。スケジュールを知らなければ、いまある状態がいつまで続くのかわからず、大人だって不安になるでしょう?その不安を解消してあげるために、まずはスケジュールを共有してあげてください。「今日はここからここまで行くよ」「時間は何分くらいかかるから、なにをして過ごそうか」と事前に話してあげれば、子どもは安心感を得られ、静かにできることが多いと感じます。同時に、スケジュールを共有することが時間感覚をつかむことにもなります。子どもというのは、どのくらいの時間になにができるかという感覚をまだつかめていないものです。旅にはその感覚をつかむ機会があふれています。たとえば、電車の乗り継ぎに15分かかるとしましょう。「15分あるからなにをしようか」と子どもに考えさせるのです。経験を重ねるうち、「15分だとご飯を食べるのは難しいから、トイレに行って飲み物を買う」というふうに、徐々に時間の感覚をつかんでいくはずです。そして、移動時間を家族のコミュニケーションに使うというのもおすすめです。家族旅行を敬遠する人は、移動中に子どもが騒がないかと心配することが多いようです。でも、よく考えてみてください。家族といっても、親が仕事をして子どもが保育園や学校に通っていれば、全員が一緒に過ごせる時間は朝食や夕食の時間など本当に限られたものです。しかも、子どもが大きくなるにつれその時間はさらに減っていきます。でも、家族旅行での移動時間は必然的に家族が一緒に過ごすことになる。考え方を変えて、移動時間を貴重な家族のコミュニケーションの時間ととらえてはどうでしょうか。子どもにチャンレンジを促す父親の役目そして、旅先では子どもにいろいろなチャレンジをさせてあげてほしいですね。さまざまな体験プログラムなどの他、日常から離れた環境だからこそできるチャレンジも旅にはあふれています。もちろん、チャレンジすることには不安も伴います。それでもチャレンジをしたというその事実が、「次もまたやってみよう!」という積極性を子どもにもたらしてくれます。そういう意味では、お父さんと子どもだけの時間、父子旅行などもおすすめですね。その間、お母さんはひとりの時間を楽しみ、リフレッシュすれば一石二鳥です。共働き家庭が増えているとはいえ、子育ての中心はお母さんが担うことが多いものです。そのためお母さんは、一生懸命さや責任感から「危ないことはやっちゃ駄目!」と保守的になったり、「ちゃんと野菜も食べなさい」と、旅先でも日常と同じように細かいことを子どもに言ったりしがちです。なにを隠そう、わたしにもその傾向がありますしね(笑)。でも、お父さんはワイルドというか、大人になっても冒険好きな部分を持っている方が多いようです。ちょっとくらい危ないことでも「やってみよう!」と子どものチャレンジを促す傾向が強い。子どもにとってまだ難しいことでも、少し背伸びをさせてチャレンジさせるのがお父さんという存在です。それでたとえ失敗したとしても、子どもは必ずなにかを得るはずです。食事も、お父さんと子どもだけなら、「今日1日くらいいいよな」「お母さんには内緒だからな」なんて言って、揚げ物やスパゲティーなど好物だけを食べるということもあるかもしれない(笑)。そんなお父さんと子どもだけの秘密の体験も、子どもにとっては印象深いものになります。それに、仕事が忙しいお父さんが日常のなかで子どもと一緒に過ごせる時間は本当に限られています。お父さんと子どもの絆を深める意味でも、父子旅行はとてもいいと思いますよ。旅の記録を「モノ」として残して成功体験を思い出させる最後に、旅が終わった後についてアドバイスをしておきましょう。子どもは未来を見て生きています。つまり、日々起きたことは脳の奥にしまわれていくのです。でも、せっかくなら、家族旅行の思い出や、旅先での成功体験を日常で思い出し、そのたびに子どもが自己肯定力を高めることにつなげたいものです。そうするために、旅をなんらかのかたちで「モノ」として残してあげましょう。写真もデータのまま保存するのではなく、子どもと見返してプリントしてアルバムにする。あるいは、子ども自身が選んだイチオシの写真を部屋に飾ってみる。写真じゃなくても、旅先でつくった「モノ」を飾るということでもいいでしょう。それらを見れば、子どもは旅の経験、自分が頑張った経験を思い出すのです。わたしの家庭では、旅先から家族それぞれがちょっとずつコメントを書いた絵葉書を自宅に送るようにしていました。息子に「パパとママがけんかした」なんて書かれたこともあります(笑)。写真に残っていないささいなことは意外と忘れてしまうものですが、こうしてコメントがあればしっかり思い出になるのです。しかも、これは子どもの成長記録にもなります。幼いときは大きく拙かった字がだんだん小さくなり、そのうち難しい漢字も交じってくる。思春期になると面倒なのでしょうね。ほんのひとことになったりもする(笑)。写真のアルバムとはまたちがった思い出の残し方なので、ぜひトライしてみてください。『家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ 旅育BOOK』村田和子 著/日本実業出版社(2018)■ 旅行ジャーナリスト・村田和子さん インタビュー一覧第1回:子どもの人生は“旅”で幸せになる。いまの時代こそ親子で旅に出るべき理由第2回:旅先での行動は“親子別々”に。“親の不在”が深める子どもの「自信」第3回:旅の計画には“正解がない”。子どもの「考える力」を育む旅行プランの立て方第4回:忘れてはいけない“旅の記録”。旅先での成功体験を思い出すたび「自己肯定力」が高まる【プロフィール】村田和子(むらた・かずこ)1969年8月29日生まれ、神奈川県出身。旅行ジャーナリスト。2001年、生活情報サイト「All About」運営スタート時に旅行情報のガイドに就任したことを機に執筆活動を開始。モットーは「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」。現在は家族旅行を応援する旅行情報サイト「家族deたびいく」を運営しながら、消費者視点での旅の魅力や楽しみ方を年間100以上の媒体で紹介する他、旅行に関する講演、旅行サイトや宿泊施設のコンサルティングもおこなう。得意なテーマは旅育、家族旅行、ひとり旅、記念日旅行、ヘルスツーリズムなど。特に旅によって子どもの生きる力を育む旅育を村田式教育メソッドとして著書等を通じて啓蒙を進めている。一児の母。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年02月11日いま注目度を増している「旅育」とは、「旅を通じておこなう子ども教育」のことです。でも、ただ子どもと旅に出ればいいのでしょうか?旅育初心者のため、その第一人者である旅行ジャーナリスト・村田和子さんが具体的なアドバイスをしてくれました。旅育をするにあたってまず重要となるのは「子どもを子ども扱いしない」ことだそう。そして、「体感をもって学ぶ」ことの重要性に子ども自身に気づかせることだとも。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「子どもを子ども扱いしない」という姿勢旅育とは「旅を通じておこなう子ども教育」。つまり、旅によって「子どもが大人に向かって成長する」ことが目的です。であれば、まず重要となるのは「子どもを子ども扱いしない」ことではないでしょうか。大人の友人同士で旅行するというときに、行き先を告げないとか相手の希望を聞かないということはあり得ませんよね。でも、家族旅行となると、親はどうしてもそうしてしまいがちです。そこで、子どもを子ども扱いしないために、「旅の計画から子どもと一緒にする」のです。ただ、小学校に上がる前くらいの幼い子どもだと、現実的な旅行プランを出すことは難しいでしょう。それに、せっかく子どもが「あれをしたい」「これをしたい」と言ったのに、現実的に難しいからと却下してしまうと、教育という点から見れば逆効果。自己肯定力を下げることになってしまいます。そこで、夏休みに海に行くのか山に行くのかといった複数の案から選択させるのです。ただ選択するだけですが、それでも子どもにとっては自分が決めた旅になるので、旅に臨むモチベーションがまったくちがってきます。意欲的に旅に出るわけですから、旅がもたらしてくれるさまざまな効果(インタビュー第1回・第2回参照)も格段にアップするというわけです。旅の計画を立てることは頭を使うことだらけもう少し子どもが大きくなったら、計画を立てるときに家族会議をしてください。家族それぞれが行きたい場所を挙げてプレゼンをするのです。どうしてその場所に行きたいのかといった理由を各自が訴え、他の家族はそれをしっかり聞く。すると、子どもは、「パパの案もいいな」と思ったりもします。そして、自分の案とどう折り合いをつければいいのかと考えて答えを導こうとする。こうして、社会に出たときにも重要となるコミュニケーション力や他者理解の力が自然と養われるのです。小学校中学年になれば、旅の計画の一部を思い切って子どもにまかせてみてください。目的地への行き方もひとつではありません。車がいいのか、電車がいいのか、電車でも新幹線を使うほうがいいのかと考えさせてみるのです。旅の計画というのは、本当に頭を使うことが多いものです。宿はどうするのか、観光はどうするのか、さらに予算も絡んでくる。考える要素がたくさんあるうえに、正解もない。それこそ、「正解がない」といわれる時代に必要な「考える力」を育むことになるのです。これにはインターネットの普及が好影響を与えてくれています。インターネットがない時代に、時刻表とにらめっこして予定を組むのは子どもには難しかったことでしょう。しかも、目的地周辺の観光や宿の情報を得る手段も限られていました。でもいまなら検索をすれば複数の経路に宿や観光の情報がすぐに示されます。いまの時代だからこそできるようになった教育だともいえます。身をもって「百聞は一見にしかず」を知るただ、インターネットにはデメリットもある。幼いときからあたりまえのようにインターネットに触れてきたいまの若い世代は、頻繁に旅行をする人とまったくしない人というふうに二極化しています。以前ならなかなか得られなかった情報に触れたからこそ「実際に体験してみたい」と思う人と、「家にいて得られるものになぜ時間やお金をかけるのかわからない」と思う人にわかれているのです。後者には「情報=リアル」という価値観が根底にあるのだと思います。でも、実際に旅先で本物を見ると、思っていたものとちがうということはよくあることですよね。それは、「思っていたよりも良かった」でも「思っていたほど良くなかった」でもいいのです。重要なのは、「情報とリアルはちがう」と体感すること。つまり、身をもって「百聞は一見にしかず」を知ることなのです。わたしの息子が小さいときにはじめて海に行ったときのことです。息子もテレビなどを通じて海も波も知っていて、海が見えてきたときには「わー!海だ!」とはしゃいでいました。ところが、実際にビーチに立ったら、「波が怖い」と言って海に近寄ろうともしなかった。息子はまさに五感で海を体感し、息子なりに海というものを知ったわけです。幼いときから体感をもって学ぶことの大切さを知る。そういう経験があれば、どんな情報化社会になろうとも、本物の重要性を見失うことはないと思うのです。『家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ 旅育BOOK』村田和子 著/日本実業出版社(2018)■ 旅行ジャーナリスト・村田和子さん インタビュー一覧第1回:子どもの人生は“旅”で幸せになる。いまの時代こそ親子で旅に出るべき理由第2回:旅先での行動は“親子別々”に。“親の不在”が深める子どもの「自信」第3回:旅の計画には“正解がない”。子どもの「考える力」を育む旅行プランの立て方第4回:忘れてはいけない“旅の記録”。旅先での成功体験を思い出すたび「自己肯定力」が高まる(※近日公開)【プロフィール】村田和子(むらた・かずこ)1969年8月29日生まれ、神奈川県出身。旅行ジャーナリスト。2001年、生活情報サイト「All About」運営スタート時に旅行情報のガイドに就任したことを機に執筆活動を開始。モットーは「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」。現在は家族旅行を応援する旅行情報サイト「家族deたびいく」を運営しながら、消費者視点での旅の魅力や楽しみ方を年間100以上の媒体で紹介する他、旅行に関する講演、旅行サイトや宿泊施設のコンサルティングもおこなう。得意なテーマは旅育、家族旅行、ひとり旅、記念日旅行、ヘルスツーリズムなど。特に旅によって子どもの生きる力を育む旅育を村田式教育メソッドとして著書等を通じて啓蒙を進めている。一児の母。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年02月10日家族旅行の計画を立てる場合、普通であれば「家族みんなで楽しめるもの」にしようとします。ところが、「旅を通じておこなう子ども教育」――「旅育」の第一人者である旅行ジャーナリスト・村田和子さんは、意外な提案をしてくれました。「いつも家族一緒に行動するという考え方を捨てる」というのです。果たして、その真意はどんなものなのでしょうか。まずは、旅育が子どもだけではなく親にもメリットをもたらしてくれるという話からはじめてもらいました。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)旅先ではいくらでも「褒めポイント」が見つかる「旅を通じておこなう子ども教育」というと、「子どものためのもの」と考えるのが普通です。でも、親子で旅をすることは、じつは親にもいろいろなメリットをもたらしてくれるのです。まずは「褒め上手になれる」こと。子どもの自己肯定力を育むために、「子どもは褒めて育てることが大事だ」といわれますよね。でも、日常生活のなかで子どもを褒めるのはそう簡単なことではありません。子どもが毎日できていることを褒めるには、親にもスキルが必要とされます。日常生活では、きちんとできなかったことのほうが目につくので、どうしても叱ることのほうが多くなってしまいます。でも、旅先では「褒めポイント」がいくらでも見つかります。旅では時間と場所がスケジュールによって区切られていくので、それぞれに小さな目標を立てやすいからです。たとえば電車で1時間の移動をするとしましょう。子どもに「1時間、なにをして過ごそうか」「まわりには寝ている人もいるから静かにできることがいいよね」「じゃ、静かに絵本を読んでみる?」と話しながら一緒に目標を立てるのです。宿に着く前には、「これから宿の人たちがみんなで『いらっしゃいませ』って言ってくれるから、大きな声で『こんにちは』とあいさつをしようか」という具合です。もちろん、目標をきちんと達成できたら、たくさん褒めてあげましょう。子どもの自己肯定力は、親に「あなたはすごい」といくら言われたところで伸びるものではありません。お父さん、お母さんと一緒に立てた目標を達成し、「できた」「うれしい!」と自ら感じる――そういう実体験がなければ、本当の自己肯定力は身につかないのです。旅行中は日常生活とは異なる刺激も多く、親も気持ちに余裕があるので、自己肯定力を育む絶好の機会となります。子どもにとって大事なものは「親が元気であること」それから、「リフレッシュできる」ことも親にとっての大きなメリットだととらえています。そもそも子どもにとっていちばん大切なものはなにかというと、お父さんとお母さんがいつも元気でいてくれることなのです。そういう意味では、旅行では、親御さんもしっかりリフレッシュして、英気を養うことも重要です。忙しい毎日のなか、子どもに対して「本当ならああしてあげたい(でもできない)」という罪悪感から、「家族旅行ぐらいはずっと一緒にいてあげよう」と考える親御さんも多いものです。でも、わたしは親がリフレッシュすることも重要だと考えているので、「いつも家族一緒に行動する」という考え方を捨てることを提案しています。わたしの家族の場合、夫は温泉が好きでわたしは美術館が好き。もちろん子どもに体験させてあげたいこともたくさんある。家族みんなでつねに行動すると、誰かが我慢することになります。そうしないために、数時間であっても家族それぞれが好きなことをやる時間を設けるのです。そうすれば、家族みんなが満足できる旅になる。小さい子どもがいても心配無用です。いまは、短時間の託児サービスや、自然体験やサバイバル体験など子どもが楽しめるキッズプログラムを提供している宿泊施設が増えていますから。それらを利用して、親御さんもなにかひとつくらいは自分が好きなことをやるというわけです。しかも、これは子どもの成長という点でもメリットがあります。子どもが他人に褒められたら謙遜はご法度わたしがそういうプログラムをはじめて利用したのは、息子が4歳のとき。わたしと夫はスキーをして、息子は森を探索するプログラムに参加しました。プログラム終了後、ちょっと心配しながら息子を迎えに行ったのですが、息子は目をきらきらさせて「ママ、動物の足跡を見つけたよ!」と報告してくれたのです。これは、家族みんなで体験したら起こり得ないことでした。なぜなら、子どもが自分の体験をわざわざ説明する必要がありませんからね。親子別々に過ごしたことで、その間に味わった感動を子どもが一生懸命に親に伝えようとする。それこそ、子どものコミュニケーション力を大きく伸ばしてくれます。ひとつ注意しておくとすれば、「親は謙遜してはいけない」ということでしょうか。こういう子ども向けのプログラムを利用したときなど、旅先では他人に子どもが褒められる機会が多いものです。ところが、そういうときに親はつい謙遜してしまいます。大人の社会ではあたりまえの謙遜ですが、子どもが褒められたときに限っては絶対にNGです。これにはわたしの反省も込められています。息子ひとりでそば打ち体験プログラムに参加したときのことでした。終了後、指導してくれた人に「お子さん、本当に頑張っていましたよ」と褒められたのに、わたしは「ご迷惑をおかけしなかったですか」とつい言ってしまった。すると、息子は「僕はひとりで頑張ったのに、ママは全然わかってない!」と激怒したのです。それこそ子どものプライドを傷つけることになり、自己肯定力を高めるどころではなく、深く反省しました。旅先で子どもが褒められたのなら、「ありがとうございます」と素直にただお礼を言って、子どもには「褒めてもらえたね、良かったね」と言ってあげる。そうして子どもの自信とよろこびを深めてあげるようにしましょう。親がいない世界で子どもは素顔を見せるまた、子ども対象のプログラムを利用する際に、親がついて行ったりすることは、わたしはおすすめしません。子どもがよろこぶ顔を見たいとか、写真を撮りたいと同行する親も多いようですが、それなら親子一緒に参加するプログラムを選べばよいのです。子どもだけが対象のプログラムに親が同行することは、先にお伝えしたメリットを失うばかりか、デメリットをもたらします。子どもは、親の前では無意識のうちにどこか自分の役割を感じながら行動していることも多いと感じます。たとえば兄弟なら、上の子どもは無意識に「お兄ちゃんらしく」振る舞おうとして、本来したいことを我慢してしまう。子どもなりにストレスを感じることもあるでしょう。ところが、親がいない、まわりが自分の日常を知らないなかでは、役割から開放されお兄ちゃんも意外にやんちゃな一面を見せたりすることもあります。まさにそれは、その子の素顔ですよね。他にも、参加している子どもたちが、素直な姿で本当に好きなものを見つけられるように、子どもだけの世界に浸って集中できる環境にしてあげることも大切だと思うのです。『家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ 旅育BOOK』村田和子 著/日本実業出版社(2018)■ 旅行ジャーナリスト・村田和子さん インタビュー一覧第1回:子どもの人生は“旅”で幸せになる。いまの時代こそ親子で旅に出るべき理由第2回:旅先での行動は“親子別々”に。“親の不在”が深める子どもの「自信」第3回:旅の計画には“正解がない”。子どもの「考える力」を育む旅行プランの立て方(※近日公開)第4回:忘れてはいけない“旅の記録”。旅先での成功体験を思い出すたび「自己肯定力」が高まる(※近日公開)【プロフィール】村田和子(むらた・かずこ)1969年8月29日生まれ、神奈川県出身。旅行ジャーナリスト。2001年、生活情報サイト「All About」運営スタート時に旅行情報のガイドに就任したことを機に執筆活動を開始。モットーは「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」。現在は家族旅行を応援する旅行情報サイト「家族deたびいく」を運営しながら、消費者視点での旅の魅力や楽しみ方を年間100以上の媒体で紹介する他、旅行に関する講演、旅行サイトや宿泊施設のコンサルティングもおこなう。得意なテーマは旅育、家族旅行、ひとり旅、記念日旅行、ヘルスツーリズムなど。特に旅によって子どもの生きる力を育む旅育を村田式教育メソッドとして著書等を通じて啓蒙を進めている。一児の母。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年02月09日先行きが見えないといわれる時代――。ただ単に学校での勉強ができるのではなく、さまざまな力を伸ばしてあげたいと考えている親御さんも多いはずです。そんななか、学校の勉強だけでは学べない力を身につけるために効果的なものとして、「旅を通じておこなう子ども教育」、「旅育」が注目されています。その第一人者である旅行ジャーナリスト・村田和子さんに、旅育とはどんなものなのかを教えてもらいました。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)旅育の本質は「親子のコミュニケーション」一般的に旅育といった場合、旅先での子ども向けの体験プログラムを指す場合が多いように思います。ただ、わたし個人としては、「旅を通じておこなう親子の関わり方」こそが旅育の本質だと考えています。わたしがひとり息子と一緒に旅をするようになったのは、息子が生後4カ月のときからでした。非日常の世界でとびっきりの笑顔を見せる様子を見て、「どうせならいろいろなところへ一緒に旅したい」と思って、息子が9歳のときまでに47都道府県をすべて踏破しました。ただ、親子での旅をはじめたときから、旅育を意識していたわけではありません。はじめての子育てがとにかく大変で……自分のストレス発散のために旅に出たというだけのことでした。ところが、子どもと一緒に旅をすると、いろいろな発見があった。こうして、旅を通じた教育というものを意識するようになったのです。そしてこの旅育は、いまの時代にこそ必要性を増しているように感じています。教育においてもビジネスにおいても、その重要性が声高に叫ばれているもののひとつが「グローバル化」です。でも、いまの子どもが考える世界というものは、むしろ以前より狭くなっていると感じるのです。子どもにとっての世界は日常の延長でしかない子どもにとっての世界をつくるのは、子どもが出会う大人たちです。いま、日常生活で子どもが出会う大人というと、親、学校や幼稚園の先生、お友だちのお母さんくらいのものでしょう。核家族化が進み、おじいちゃんやおばあちゃんと日常的に接することも少なくなりましたからね。ましてや親は、子どもの安全のために「知らない人と話しちゃいけない」としつけます。一方、わたしが子どもの頃は地域のイベントが頻繁にあって、買い物をするのも近所の商店街。お店のお兄ちゃんやお姉ちゃんのことを好きになったり、あるいは口うるさいおじさんがいたりと、親以外のいろいろな大人に関わり、そういう大人に自分の存在を認めてもらったり、時に叱られることもあたりまえでした。私も母親になってわかりましたが、子どもというのは、自分が住んでいる日常が延々と広がっているものが世界だと思っています。となると、いまの子どもたちが考える世界は、以前と比べて単一的で狭くなっていることは間違いありません。だからこそ、あえて、もっと広い世界やさまざまな価値観を見せてあげる必要があると思うのです。親子で旅に出ると、親も気づいていなかった子どもの良さを褒めてくれる人にも出会います。そうすると、子どもは「自分にはこんないいところがあるんだ」と自信を持ちますし、「そういう見方もあるんだ」と親にとっても勉強になる。そういう「世界の広さ」「多様性」に気づかせるという意味で、子どもたちにはいまこそ旅育が必要だと思うのです。子どもに対する親の究極の願いを旅がかなえるまた、世界の広さや価値観の多様性に気づくことは、子どもが幸せな人生を送ることにもつながります。いま、グローバルな考え方と同様に、これからの子どもたちに必要なものとして挙げられるのが「生きる力」です。新しい学習指導要領では、それを育むために「生きて働く“知識・技能”」「未知の状況にも対応できる“思考力・判断力・表現力等”」「学びを人生や社会に活かそうとする“学びに向かう力・人間性”」の3つを偏りなく育成することが重要だとしています。これらをすべて持ち合わせていれば、確かに素晴らしく理想的な人間です。でも正直なところ、「では親としてどうすればよいか?」と考えると、戸惑うこともあります。そこで、教育現場とは別に、親として「息子にどう生きてほしいのか」とわたしは考えてみたのです。すると、答えはとてもシンプルでふたつに絞れました。ひとつは「自分らしく、豊かで幸せな人生を送ること」。それから「夢や理想を持ち、それに向かって歩むこと」です。親が子どもに願うものは、健康に育ってほしいということは当然として、究極にはこのふたつに行き着くのではないでしょうか。まわりからどんなに幸せに見えても、本人が幸せと感じられなければ、幸せな人生とはいえません。また、現状の幸せに満足してしまうとチャレンジ精神を失うことになりますから、より良い人生を歩むためにも夢を持って進む力も手に入れてほしい。欲をいえばきりがありませんが、これらを子どもが満たしてくれれば親としても大満足だと思いませんか?そして、このふたつを満たすためには、それこそ世界の広さや価値観の多様性を知っておくことが大切です。いろいろな世界や価値観を知ることで、誰かに決められて凝り固まった幸せではなく、子どもそれぞれの幸せや夢、理想というものを見つけていくことができるからです。『家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ 旅育BOOK』村田和子 著/日本実業出版社(2018)■ 旅行ジャーナリスト・村田和子さん インタビュー一覧第1回:子どもの人生は“旅”で幸せになる。いまの時代こそ親子で旅に出るべき理由第2回:旅先での行動は“親子別々”に。“親の不在”が深める子どもの「自信」(※近日公開)第3回:旅の計画には“正解がない”。子どもの「考える力」を育む旅行プランの立て方(※近日公開)第4回:忘れてはいけない“旅の記録”。旅先での成功体験を思い出すたび「自己肯定力」が高まる(※近日公開)【プロフィール】村田和子(むらた・かずこ)1969年8月29日生まれ、神奈川県出身。旅行ジャーナリスト。2001年、生活情報サイト「All About」運営スタート時に旅行情報のガイドに就任したことを機に執筆活動を開始。モットーは「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」。現在は家族旅行を応援する旅行情報サイト「家族deたびいく」を運営しながら、消費者視点での旅の魅力や楽しみ方を年間100以上の媒体で紹介する他、旅行に関する講演、旅行サイトや宿泊施設のコンサルティングもおこなう。得意なテーマは旅育、家族旅行、ひとり旅、記念日旅行、ヘルスツーリズムなど。特に旅によって子どもの生きる力を育む旅育を村田式教育メソッドとして著書等を通じて啓蒙を進めている。一児の母。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年02月08日なにかと忙しい朝……。ついつい朝食づくりは手抜きになってしまいがちです。ただ、オリジナルの育脳レシピ開発で子どもを持つ親御さんのファンも多い管理栄養士・小山浩子さんは、「子どもの脳は朝食で決まる」と語ります。時間が限られるなか、どんな朝食を用意すれば子どもを賢く育てられるのでしょうか。そのための秘訣を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)朝起きたときには「脳のガソリン」は空っぽの状態健康のためには「朝食が重要だ」という話はほとんどの人が聞いたことがあるはずです。そして、「脳のため」という観点からすれば、その重要性はさらに高まります。なぜなら、朝は脳を動かすガソリンが空っぽの状態になっているからです。朝食を食べさせずに子どもを学校に送り出してしまうと、給食までの午前中の授業では、子どもはガソリンが切れた自動車と同じ状態にあるということ。そんな状態でしっかり勉強をすることなんて、できるわけもないのです。その脳のガソリンにあたるのはブドウ糖で、主に炭水化物が分解されてできるものです。ブドウ糖は、グリコーゲンというものになって肝臓にためられるのですが、じつはこの貯蓄量がすごく限られています。最大限にためたとしても、12時間後には空っぽになる量しかためられません。夜の7時に夕食を食べたとして、12時間後の朝7時には完全に空っぽです。つまり、ご飯やパン、麺類などの炭水化物は、朝食に必須のものだというわけです。でも、ただ食べればいいというものではありません。炭水化物を一気に大量に摂ると、血糖値が急上昇しインスリンが分泌されます。すると、子どもが2時間目の授業を受ける頃には低血糖気味となり、眠気を催すことになってしまうのです(インタビュー第2回参照)。そのため、ブドウ糖をゆっくりと脳に送る作用があるカリウムや食物繊維を一緒に摂取できる食事を心がけましょう。また、玄米や胚芽米、全粒粉のパンなど、もともと食物繊維など血糖値の急激な上昇を妨げる成分が豊富な炭水化物食品を選ぶのもいいですね。最近のシリアルは手抜き朝食などではないまた、脳を働かせる神経伝達物質の材料となるレシチン、脳の材料となるDHA・EPAは、炭水化物とともに、「育脳」のための3大栄養素と言えます。レシチンは主に卵や大豆製品、DHAとEPAは魚に含まれるもの。これらの3つを必ず朝食で摂る習慣をつける、これがとても重要です。子どもの昼食は給食ということが多いでしょうから、親御さんがコントロールできるものではありません。もちろん、夕食で摂取してもいいのですが、朝食とちがってメニューが変動的ですから、脳のための栄養素を摂ることも入れ込んでしまうと献立を考える難易度が上がってしまいます。であれば、朝食を「育脳のためのもの」と決めてしまうのがおすすめですね。とはいえ、難しく考える必要はありません。シリアルに牛乳をかけて、エゴマ油ときな粉をかけてあげるだけでも十分。これには、炭水化物にカリウム、食物繊維、レシチンが含まれていますし、エゴマ油は体内でDHAやEPAと同じ働きをしてくれます。シリアルというと「手抜き朝食の代表格」のように思っている人もいるでしょう。でも、最近のシリアルはとっても優秀です。パッケージの栄養成分表示を見て、必要な栄養素が入っているかを確認してみてください。なかには、炭水化物や食物繊維はもちろん、3大栄養素以外にも脳に有効なビタミンB群や亜鉛などを含むものもありますよ。脳細胞の働きを邪魔する塩分に要注意!それより、手抜き朝食といえば、ふりかけご飯だけというものはやめたほうがいいですね。おそらく共働き家庭などで親御さんも忙しいのでしょう。ご飯さえ炊いておけば、家族それぞれが好きなふりかけをかけて食べてくれる。それが毎日の朝食だという家庭が意外に多いようなのです。もちろん、ふりかけにも含まれる栄養素を強化したものもありますが、多くの製品は塩分が強過ぎる傾向にあります。塩分は脳のなかの血流を悪くしてしまうもの。つまり、脳細胞の働きを邪魔してしまうものなのです。ただでさえ、日本人は塩分が強い食事を好みます。幼い頃から塩辛いものばかり食べていると、子どもは「これが美味しいんだ」と思ってしまいます。そして、そういう食事を続ければ、当然、将来的に大きな病気を引き起こすことにもなる。子どもの腎臓は小さいので、たくさんの塩分を処理することができません。脳のためだけでなく、子どもの健康を保つために食事の塩分量には気をつけてあげてほしいですね。黄色アイテムと噛むことが目を覚まさせるそれから、食事の内容以外の部分でいえば、よく噛むことも大切です。朝食だけに重要なことではありませんが、特に朝食ではしっかり噛むことを子どもに教えてあげてください。朝に目が覚めたときには、脳はまだ寝ぼけている状態です。噛むという行為が脳を目覚めさせてくれるうえ、脳の神経細胞の発達も促してくれるのです。また、ランチョンマットやマグカップなど、朝食に使うアイテムにいくつか黄色いものをチョイスすることもおすすめです。これには、朝日を見ることと同じ効果があります。黄色を目にすることが、しっかりと脳を目覚めさせるのです。逆に、紫や濃紺は脳を休ませてしまいますから要注意。ちょっとした工夫でできることですから、子どもの脳をスタンバイ状態にして学校に送り出してあげてください。最後にお伝えしたいのは、とにかく愛情を持って料理をしてあげてほしいということ。料理には、脳や体に有効な栄養素といった知識も必要ではありますが、子どもにとってはなによりも母親の愛情を感じられることが最重要です。親に愛されて育ったかどうかで、大人になったときの笑顔ひとつもちがってきます。賢い子どもに育てたいというのは親として当然の願いでしょうけれど、まずは料理を通じてしっかり愛情を注ぎ、人の気持ちを感じられる健全な人間に育ててあげることを意識してほしいと思っています。『かしこい子どもに育つ! 「育脳離乳食」:脳をはぐくむ食事は0歳から』小山浩子 著/小学館(2018)『こどもの脳は、「朝ごはん」で決まる!』小山浩子 著/小学館(2015)■ 管理栄養士・小山浩子さん インタビュー一覧第1回:子どもの脳は“親の愛情”と“食事”で育つ!「育脳」に効く食材の選びかた第2回:“パン&〇〇”で最高の朝食になる!脳が育つ食べ合わせ「5つの黄金ルール」第3回:“美味しい”か“美味しくない”か。結果がすぐにわかる料理は、子どもがPDCAを学ぶのに最適第4回:「お米さえ食べさせておけば大丈夫」が危険な理由。手抜きでも脳に効く朝ごはんとは【プロフィール】小山浩子(こやま・ひろこ)1971年9月5日生まれ、愛知県出身。料理家、管理栄養士、フードコーディネーター。大手食品メーカー勤務を経て2003年にフリーに。料理教室の講師やコーディネート、メニュー開発、健康番組への出演など幅広く活動する。料理家としてのキャリアは20年以上。これまで指導した生徒は5万人以上に及ぶ。著書『目からウロコのおいしい減塩「乳和食」』(社会保険出版社)で、2014年グルマン世界料理本大賞イノベイティブ部門世界第2位を受賞。健康とつくりやすさに配慮したオリジナルレシピにファンが多い。2015年には日本高血圧協会理事に就任。また、日本ではじめて育脳をコンセプトにした離乳食を監修()。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年01月20日