寒い冬は乾燥による湿疹に悩まされますが、気候があたたかくなってきますと、虫刺されやあせも、とびひなど季節特有の皮膚トラブルに悩まされます。どのように対策すればよいでしょうか?■子どもの皮膚トラブル1:あせもの症状、予防、治療まず一番多い子どもの皮膚トラブルといえば、あせも(汗疹)でしょう。あせもは見た目は赤みがありかゆみを感じ、冬に乾燥からできる湿疹(しっしん)と症状には大差がありません。しかし、あせもの場合、できやすい場所があり、その分布が異なります。基本は、汗をかく場所、むれやすい場所にあせもはできます。例えば、首やわき、ひざ、おむつのギャザーが当たるところなどです。とくに赤ちゃんは、ぽちゃぽちゃしているので、皮膚の間のしわに汗がたまりやすくあせもができます。また、子どもは熱がこもりやすいので、寝ているときに汗をかいて、背中全体にあせもができることも多いです。あせもの原因は汗。ですから、予防として、まず汗をかかないように風通しよくすること、汗をかいたら早めにふきとったりシャワーをすることが大切です。おむつは早めに交換をしたり、冷感シーツやミニ扇風機などを利用するのもいいでしょう。冬の乾燥による湿疹とあせもは、同じ炎症症状なので、治療自体は大きくかわりません。炎症をおさえてあげる薬として、主にステロイド軟膏を使います。■子どもの皮膚トラブル2:虫刺されの症状、予防、治療あたたかくなると公園遊びなど外で遊ぶ機会が増えて、虫刺されも起こしやすくなります。知らぬ間にたくさん刺されていることもあり、我が子もベビーカーの中で気づいたらあちこち刺されてしまったということがありました。まずは、予防として虫よけを使用します。子どもに虫よけは大丈夫なの? と心配になるかもしれませんが、安全に使用できるものがあります。おすすめは「ディート」「イカリジン」という虫よけ成分が入ったものです。どちらも有効な虫よけ剤ですが、ディートは蚊だけではなく、ブヨ、サシバエ、イエダニ、トコジラミ、ノミ、ツツガムシ、マダニなどに対して忌避効果があります、一方、イカリジンは蚊、ブヨ、アブ、マダニと限定されます。使用できる年齢について、ディートは生後6カ月未満には使用できず、12歳未満に対しても使用回数が制限されているのに対し、イカリジンは乳児を含め小児への使用制限がありません。どちらにも長所短所があり、使用する年齢やどこに出かけるかによって使いわけてください。いずれも6時間ほどで効果はきれてきますから、長時間外出する場合は途中で追加するといいでしょう。スプレータイプが苦手な子は、ウエットティッシュタイプもあります。この時期は、日焼けどめも一緒に使用することが多くなりますね。その場合、まず日焼けどめを使ってから虫よけを使用すると、両方の効果が発揮されます。虫刺されは、衣服で体をおおったり虫よけを使ったりとまずは予防ですが、刺されてはれてきてしまったら、まずは冷やしましょう。冷やすことでかゆみが軽減されます。これまでに刺された経験が少ないほどはれやすく、一般的に子どものほうが大人よりもはれやすいです。ときに直径5cmくらいの大きさにはれることもあるので、そのようなときには湿疹と同様、ステロイド軟膏を使用してはれやかゆみをおさえるようにします。■子どもの皮膚トラブル3:とびひの症状、予防、治療とびひについては、これまで解説してきたあせもや虫刺されから発展してなることがあります。とびひ(=伝染性膿痂疹)は主に黄色ブドウ球菌の感染、ときに溶連菌でも起こります(溶連菌については 前回 を参照)。赤い湿疹からさらに、じゅくじゅくして汁がでてきているものがとびひで、たとえばかゆいあせもや虫刺されをかきこわしたところに、手や爪の菌が付着して感染することによって起こります。黄色ブドウ球菌の感染といっても、この菌は普段私たちの皮膚にいつも付着しているものですから、健康な皮膚なら何も起こりません。しかし、あせもや虫刺されなど皮膚病変があるところに感染が成立して、とびひを発症するのです。とびひは伝染性膿痂疹という名前ですので、接触によって感染します。しかし、適切に治療をうけていて、とびひのところをガーゼなどでカバーしていれば、菌がほかの人に接触しにくいため感染性は低いと考えられます。そのため、必ずしも完全に治るまで登園してはいけないものではありません(ただし、じゅくじゅくした状態でプールに入ることは避けましょう)。治療は、細菌の感染なので、まずは抗菌薬の軟膏を用います。塗り薬で改善しない場合は、ほかの抗菌薬軟膏に変更したり、内服抗菌薬を併用します。とびひは、その名のとおり飛ぶものですから、体のほかの場所の皮膚病変にうつることがあります。1カ所が治ってもまた別の場所の治療が必要になることもありますし、ひっかきやすい場所や、繰り返し刺激が加わる場所(たとえば鼻の下)などはなかなか改善しにくい場合があります。治療にはなかなか時間がかかる場合がありますので、まずは湿疹病変をできにくくするために、あせもの段階で早めに治療したり、虫よけを使用したりして予防しましょう。このように、あたたかい季節の皮膚トラブルは、とびひの予防まで見越した「攻めの予防」が大切になります。いよいよ大型10連休がやってきますが、キャンプやハイキングなど外遊びの予定がある方も多いのではないでしょうか? 皮膚トラブルを未然に防いで、楽しいGWをお過ごしくださいませ。
2019年04月24日子どもが熱を出す原因の多くは「かぜ」であり、数日間で自然に熱が下がるため、抗生剤(抗菌薬)が必要な場面は限られます。では、抗生剤が必要となるのは、どんな病気なのでしょうか? 今回は、抗生剤がよく効く病気の一つである溶連菌感染症について解説します。■溶連菌感染症「診断、治療、家での過ごし方」溶連菌(=A群溶血性連鎖球菌)は細菌の一種で、主に4歳以上に発熱やのどの痛み、頭痛などの症状を認め、ときにおう吐や腹痛をともなうこともあります。扁桃腺がはれて赤くなり、首のリンパ節がはれたり、舌がイチゴのように赤くなるイチゴ舌や、体に発疹を認めることもあります。せきや鼻水などのいわゆるかぜのような症状は乏しいことも特徴です。主に咽頭炎や扁桃炎を起こしますが、とびひなどの皮膚感染症を起こすこともあります。診断溶連菌を疑う症状があり、のどを綿棒でこする迅速検査で陽性が出たら、溶連菌による咽頭炎と診断されます(時間はかかりますが、培養検査をするとより正確です)。このとき発熱などの症状はなくても、検査で陽性が出てしまう健康保菌者という場合があり(約15%)、解釈には注意が必要です(※1)。治療ペニシリン系といわれる抗菌薬が第一選択薬で10日間内服が必要です。溶連菌によく効くお薬ですので、内服して1~2日もすれば熱は落ち着くでしょう。その他の抗菌薬が使用される場合もありますが、ペニシリンアレルギーなどの限られたケースに限られます。家での過ごし方溶連菌は抗菌薬がよく効く感染症ですので、1~2日ほどで熱は下がるでしょう。学校の登校停止基準も「抗生剤治療開始後24時間をへて、全身状態がよければ登校可能」となっています(※2)。治療を開始して24時間経過していたら感染力はないので、学校にいったりお友だちと遊んだりしてもOKです。ただし10日間の内服をしっかりと続けていることが条件です。■溶連菌感染症「実は怖い合併症」治療のメリット4つこの溶連菌、実は無治療でも3~5日で自然に熱が下がります。自然によくなる病気になぜ抗菌薬が必要なのでしょうか? 主に、次の4つのメリットがあります。1. 発熱期間を短縮することができる。2. 感染拡大を防ぐことができる。3. 化のう性合併症を予防できる。4. リウマチ熱の予防ができる。発熱期間を短縮できることは大きなメリットですし、唾液などを介したきょうだいやお友だちへの感染拡大も防止できます。化のう性合併症とは、扁桃腺やリンパ節などにうみができるもので、ときに点滴や外科的治療が必要なことがあり予防は重要です。リウマチ熱とは、溶連菌に感染して2~4週間後に関節炎や心炎、発疹や舞踏病(体の一部が意図せず勝手に動く)などさまざまな症状を認める合併症です。とくに心炎では、後遺症として心臓の機能障害が残る場合があり、予防はとても重要です。日本ではまれですが、治療を十分に受けられない国ではリウマチ熱に苦しむ子どもが大勢います。発症から9日以内に抗菌薬を投与すれば予防可能とされ、溶連菌の治療の最も重要な目的です。そのほかの合併症として、発症から2~3週間後に起こる急性糸球体腎炎もあります。これは腎炎を起こして、たん白尿や血尿が出現し、尿が少なくなり、体がむくんで高血圧を起こしたりします。このような症状が出たら必ず受診が必要です。ただし、腎炎については、抗菌薬をしっかり飲んでいたとしても予防することはできないので、早く見つけるために2~3週間の期間は体のむくみや尿の状態などを注意して見ておくことが大切です。■抗菌薬が効かない! 別の病気が潜んでいるかも…抗菌薬を服用しても熱が下がらない場合は、どうすればいいのでしょうか?原因のひとつに、化のう性合併症が考えられます。うみをつくっている場合、飲み薬では十分治療できないので、必ず病院で相談してください。もしくは、別の病気にかかっている可能性もあります。溶連菌陽性の結果が、前述の「健康保菌者」を示しているだけで、実は発熱の原因がほかにあるのかもしれません。例えば、インフルエンザ+溶連菌の健康保菌者だった場合、抗菌薬を飲んでもメインのインフルエンザが改善しない限り熱は下がりません。また、溶連菌は川崎病に症状が似ているところがあります( 【医師監修】高熱が5日以上…「カゼではないかも?」子どもがかかる川崎病とは?<パパ小児科医の子ども健康事典 第14話> 参照)。発熱、リンパ節腫脹、発疹、イチゴ舌など共通する症状があるので、川崎病+溶連菌の健康保菌者という場合もありうるのです。この場合、溶連菌治療の抗菌薬内服を続けていても改善はせず、川崎病の適切な治療時期を逃してしまう危険性があります。溶連菌の診断で抗菌薬を内服しても改善しない場合は、見直す必要があるので必ず受診してください。発熱の原因が溶連菌と確定できれば、抗生剤がよく効くすっきりとした病気です。しかし、大事なのは、溶連菌と診断されているのに、抗生剤を飲んでも熱が下がらないときです。何か合併症はないか、実はほかの病気ではないのか? さまざまなことが考えられますので、再度受診して診察をうけてください。参考資料※1: 「小児感染症マニュアル2012」(東京医学社) ※2:学校保健安全法「登校停止基準」
2019年04月10日子どもを育てるお母さんの悩みは尽きません。さまざまな解決法を編み出してきたお母さんにも「これは困ったぞ…」という事態が必ずあるものですよね。なかでもよく耳にするのが「子どもの食事」に関するもの。「野菜が入っていると、手をつけてくれない」「好きなものしか食べない」「食事の時間が嫌い」などなど、多くのお母さんが子どもの好き嫌い、食わず嫌いに悩んでいます。大人と比べ、子どもは好き嫌いが多い気がしますが、何か理由があるのでしょうか? 小児科医でありお茶の水女子大学名誉教授・榊原先生に、「子どもの味覚」にまつわる悩み、疑問に答えてもらいました。お話をうかがったのは…医師・お茶の水女子大学名誉教授榊原洋一先生お茶の水女子大学人間発達教育研究センター教授。東京大学医学部卒業。専門は小児科学、小児神経学、発達神経学など。小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書は『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)など多数。■食べ物の好き嫌い、子どもはどうして多い?――先生。今回は子どもの味覚についていろいろ教えてください! 世のママたちは「子どもの好き嫌い」に悩んでいる人が多いと思います。私も子どもは好き嫌いが多い気がするのですが、どうしてなのでしょう?榊原洋一先生(以下、榊原先生):そうですね…。これは子どもの好き嫌いが多いというよりも「大人がたくさんの味を好んでいるだけ」といえるでしょうね。――えっ…。榊原先生:考えてみてほしいのですが、この世界には食べられるものが本当にたくさんありますよね。食べものであふれている、といってもいい。だから大人はいろいろな種類の味を子どもに与えようとします。でもそんなにたくさんの味を与える必要は全然ないんですね。――栄養バランスの整った食事を与えるためには、いろいろな食材を使って、品数も多くしたほうがいいと思っていたんですが…。そうではないんですか?榊原先生:ある研究者が赤ちゃんの食の好みを調べたところ、刺激の少ない、味の薄いものを好むことが分かりました。赤ちゃんは濃い味、苦い味、酸っぱい味などは、ペッとはき出すんです。これは「刺激のあるものは体に害がある」ということを無意識に感じとっているからなんです。――刺激のある味は体に良くないと、無意識に感じている?榊原先生:そうです。だから食べようとしません。そして刺激の少ない薄い味と同様に、甘い味も好むんです。母乳やミルクには甘みがありますよね。これをペッとはき出す赤ちゃんはいないと思います。これは甘いもの=栄養があるものと認識しているからです。生きていくために栄養のあるものを欲しているんですね。刺激のある味をうけつけないこと、栄養のあるものを欲することは「生物的に自然な反応」なんです。■「好き嫌い」は生き物として当たり前!?――自然な反応…ということは好き嫌いするのは「当たり前のこと」なんですか?榊原先生:そうです。当たり前です。「好き嫌いがある」という言葉自体、私はあまり好きじゃない(笑)。大人が「うちの子は好き嫌いが多くて…」というのは、大人自身がいろいろな味が好きなだけなんですよ。――私たち大人がいろいろなものを食べているだけ…。では、なぜ大人になるといろいろな味が好きになるんでしょう?榊原先生:大きくなってくると、刺激がある味でも体に害がないことが経験から分かってきますよね。また食べ慣れることで、平気になってくる。それに味だけじゃなく、においや雰囲気などから「食べてみよう」というチャレンジ精神で食事を楽しめるようになる。文化の中で、味のバラエティを楽しめるようになってくるんです。――確かに私も生姜や大葉、辛いものなど大人になって食べられるようになったもの、好きになったものがたくさんあります…!榊原先生:子どもに好き嫌いが多い、というのではなくて、そもそも食べられるレパートリーが少ないのは生物的に当たり前のこと。生き物として当たり前の反応、といえるでしょうね。■赤ちゃんはいつから味覚を感じている?――素朴な質問ですが、赤ちゃんはいつから味覚を感じているのでしょうか?榊原先生:お母さんのおなかの中にいるときから味覚を感じていますよ。――本当ですか…! おなかの赤ちゃんが味覚を感じていることは、どうやって分かるんでしょうか?榊原先生:たまたま妊娠中のお母さんに、ある薬品を注射する必要がありました。体には無害な薬品です。この物質は血管の中をめぐり、舌の中の血管を流れるときに苦みとして感じられます。だからお母さんは当然、苦みを感じますよね。そしてこの物質は胎盤を通じて、おなかにいる赤ちゃんの舌の中の血管にも流れます。そのとき「苦そうな表情」をした赤ちゃんの様子がエコーで観察できたんです。――興味深いですね…! それで赤ちゃんは味覚を感じていることが分かったんですね…!榊原先生:そうです。先ほどお話ししたように、赤ちゃんの好きな味は最初は刺激のないもの、薄味ですが、甘い味も好むようになります。これはどうして分かるかというと、さまざまな味の液体をほ乳びんに入れ、乳首を吸う時間を比較してみたんです。その結果、甘い味を含む乳首を吸う時間が長かった。反対に苦い味、酸っぱい味は苦手であることも分かりました。――なるほど…。じゃあ、塩味はどうでしょう? 味覚の中には先生のおっしゃったように甘み、酸味、苦みなどがありますが、塩味もありますよね。塩味はどのように感じているのでしょうか。榊原先生:おもしろいことに「好きでも嫌いでもない」ようなんです。――え、好きでも嫌いでもない…?榊原先生:正確にいうと、塩味の薄い、濃いの微妙な違いは区別できず、どんな塩味でもニュートラル。つまり反応がないんです。――塩味を受け入れはする。でも、薄い・濃いなどの塩の割合について「好き・嫌い」とは感じていないということですか?榊原先生:そうです。――味によって、違う感じ方をしている…。子どもの味覚っておもしろいですね!今回は、子どもの好き嫌い、そして味覚にまつわる不思議について、お話をうかがいました。子どもの好き嫌いは、ママの大きなお悩みの一つとしてあげられますが、実は好き嫌いは当たり前のこと、自然なことという先生の言葉に胸をなでおろしたママも多いのではないでしょうか。嫌いなものを減らしてほしい、少しでもいろいろな食材を食べてほしい…。今まではそう思ってがんばっていましたが、お皿に盛りつけた瞬間に子どもから嫌な顔をされて、食事の時間が楽しめないときもありました。子どもにプレッシャーをかけていたことも…。気にする必要はない、自然な反応ならそこまで気を張らなくてもいいんだ、との先生の言葉にホッとしました。次回は「子どもの手足の不思議」についてお話をうかがいます。お楽しみに!参考図書: 『大人が知らない子どもの体の不思議』 (講談社)榊原洋一著子どもと大人はどう違うのか。それは単に大きさだけの違いではありません。どうして夜泣きをするの? どうして寝相が悪いの? どうして落ち着きがないの? 子育て中に親が抱く「答えが見つかりにくい質問」にエビデンスの精神で解答することを試みました。子どもの心と体の不思議を理解する、手助けとなる一冊。
2019年04月05日こんにちは。5歳の双子と、1歳の末っ子の三姉妹育児をしている田仲ぱんだです。これは1年前の話です。ある日の夕方、次女のきゃえたんが、うんちを何度もおもらしをしました。■とまらないお漏らしに「何かがおかしい!」もうこのころには、すでにトイレトレーニングも終えていて、きちんとトイレに行くことができた娘。「こんなに何度もうんちを漏らしておかしいな…」と思っていました。よくよく見ると、どうやらうんちが勝手に漏れ出て、自分で止めたり我慢したりというコントロールができない状態のようでした。トイレに座らせて様子を見ると…最初は液状のうんちだったものが、やがて血のみが流れるように。しかも量は生理の2日目ぐらい、たっぷり流れてくるのです。■「血便」で検索したら、不安がさらに高まっていく…これは普通じゃないと思い、スマホで「子ども 血便」と調べると「腸重積」や「潰瘍性胃腸炎」など、こわい病名が出てくるではありませんか…。そして娘が「おなかが痛い」と言い出し、私も自分で判断しきれなくなって、ちょうど近所の診療所が午後7時から9時までの夜間当番医だったので行くことにしました。そんなこんなで総合病院の夜間救急に行くことになり…■出血の原因、それはまさかの病名だった…18時半に症状が出始め病院に行き、さまざまな検査をして、終わったのが23時。診療所に紹介状を出してもらってまで大きい病院に来て判明した病名が「便秘」だったと知ったときの脱力感たるや…。いや、よかったんですけどね! こわい病気じゃなくて。先生によれば「かたくなった便がなんらかの理由で大腸のどこかを傷つけているのではないか?」ということでした。本人が「痛い」というのも便秘のため…。実際、翌日には出血も止まり、普通に便を出すことが出来るようになりました。「病院に行くのは翌朝でもよかったかなぁ」と、ふと考えましたが、おそらくそれは便秘だとわかった後だからこそなのだと思います。まさか便秘で下血なんて思いもしませんでしたから…。※この体験記に記載された症状や治療法は、あくまでも筆者の体験談であり、症状を説明したり治療を保証したりするものではありません。
2019年03月25日春は、園や学校で身体測定がある季節です。だんだんとわが子の身長が低いことが気になってきた人もいらっしゃるのではないでしょうか。小児科でも「うちの子はどうして低いのですか?」「伸ばす方法はありませんか?」と相談をうけることが増えます。身長が低い場合は、どのように考えたらよいのでしょうか?■低身長かどうか? 目安となる母子手帳の「身体発育曲線」子どもの身長が低い時、小児科ではまず母子手帳の中にもある「身体発育曲線」 (※1) を確認します。6歳以上の場合は、 小児内分泌学会 の「横断的標準身長・体重曲線(0-18歳)」 (※2) をご参照ください。受診の時は乳児健診や幼稚園、小学校の身体測定の記録なども持っていくとわかりやすいでしょう。この身体発育曲線に身長と体重に点をうっていくと、生まれてから現在までの身長や体重の伸びや変化を見ることができます。グラフの「帯の部分からはずれると異常なのでは?」と不安になるかもしれませんが、必ずしも異常というわけではありません。このグラフはあくまで「分布」を見ているものです。身長体重には個人差があり、比較的多い成長パターンに入るお子さんがこの帯の範囲におさまります。具体的には100人中94人ほどがこの範囲におさまり、比較的小さい3人もしくは大きい3人が帯の範囲外になります。帯からはずれても必ずしも異常というわけではありませんが、何か病気が原因で体が小さい場合もありますので見極めるために受診が必要になります。■低身長の原因となる5つの病気身長は遺伝の影響が大きいため、ほとんどの場合は病気等の特定の原因を持たず、「特発性低身長」といいます。特発性低身長であれば、よく食べてよく寝てよく運動して気長に待ちましょう。特別な方法はなく、ある程度遺伝子で決まっているのです。一方、低身長をきたす疾患が隠れていることもあり、例えば以下のようなものがあります。・ホルモンの問題である甲状腺機能低下症や成長ホルモン分泌不全症・出生週数に比べて小さく生まれた場合に身長が伸びにくいSGA(small for gestational age)性低身長・女の子のみに発症するターナー症候群・骨や軟骨の病気である軟骨異栄養症・心臓や腎臓などの機能障害 など※病気のくわしい説明は、前出の 小児内分泌学会ホームページ をご参照ください。身長体重はどのように推移しているかも重要で、あるポイントから急に帯からはずれだしたり、伸びが悪くなったりした場合には、何か病気が隠れている可能性が高くなるので、早めに受診したほうがいいでしょう。■治療によって身長が伸びる場合も低身長の原因によっては、治療によって伸ばす方法がある場合もあります。それは、成長ホルモン補充療法です。これは一定の基準を満たせば成長ホルモンの注射を補充することで身長の伸びが期待できるというものです。自宅で保護者(または自分)が連日、成長ホルモンを注射することで、身長を伸ばすことが可能です。劇的に伸びるわけではありませんが、何年間も継続して積み重ねていくと最終身長がプラスになります。この治療の適応があるかは、病院でいくつかの検査を組み合わせて調べます。手のレントゲンで骨年齢(骨の成熟度合い)を見たり、血液検査で全体的な体のチェックとともに甲状腺ホルモンなどを確認します。成長ホルモンは脳の下垂体という部分から出ていますが、頭のMRI撮影で構造的に問題ないか調べるとともに、ここからホルモンがしっかり出ているかどうかを成長ホルモン分泌刺激試験で調べます。これは成長ホルモンがよく出るような刺激を点滴や飲み薬によって加えたのち、血液検査をして成長ホルモンの数値を調べるものです。薬剤を投与したのち30分おきに数回、血液検査をしてピーク値がどのくらいになるかをみます(頻回の採血が負担にならないように、点滴ラインを用いて痛みなく採取します)。この試験により、あまり成長ホルモンが出ていない場合は、ホルモン補充の適応となり治療が可能です。逆にホルモンがよく出ていて補充の適応とならない場合は、今後しっかり伸びる可能性があるとも考えられます。ちなみに前述のSGA性低身長は、治療適応の判断ができるのに見過ごされていることもしばしばあるので、出生の週数や体重をチェックしてください(治療適応は3歳以上から)。検査は1日1種類お薬を用いて行い、それを何種類かするため数日間かかります。入院して行うことが多く、薬剤が3種類の場合は少なくとも3日間を要すると考えてください。■気になる方は一度受診・検査を実は、筆者は小柄で小学校の頃から背の順は前のほうでしたので、この検査を受けたことがあります。基準を満たさなかったので、治療はうけず自然にまかせました。結果的には小柄のままですが、そこまで不便は感じていないのでこれはこれでいいかと個人的には思っています。私のように特に気にしていない人もいれば、いやいやどうしても身長が低いと困るという人もいて、身長が及ぼす影響は人それぞれで事情が異なるものです。例えば、どうしても自衛隊に入りたい、客室乗務員になりたいという場合は身長制限がネックになる場合があります。また、女の子で身長体重曲線の帯の下のラインであれば、最終身長は約147cmほどですから、骨盤が狭くて将来、難産になる可能性は高まるでしょう。治療をしていくかどうかは、本人の意志や将来の夢と、連日のホルモン注射などを天秤にかけて、総合的に決めていくことが大切だと思います。身長が気になっている場合、検査で原因を調べることは重要で、場合によっては伸ばすための治療も可能です。検査には数日間の入院が必要になりますので、この春休みなどを利用して計画されてもいいかもしれませんね。参考資料※1: 『母子健康手帳の様式について 省令様式』厚生労働省 ※2: 『低身長』日本小児内分泌学会
2019年03月18日「これまで『上(=収縮期血圧)140/下(=拡張期血圧)90』(単位=mmHg)といわれていた高血圧の基準が“見直されるのではないか”と注目されているのが、日本高血圧学会が4月に改訂する予定の『高血圧治療ガイドライン2019』。そこでは『上130/下80』未満まで、降圧目標値が引き下げられる方針なんです」(医療ジャーナリスト)現在、日本には「上140/下90」以上の高血圧患者が推定4,300万人いるとされている。もし、それが「上130/下80」に引き下げられると、日本は6,300万人の高血圧患者であふれることに。すなわち“国民の2人に1人が高血圧”と認定されるが――。新小山市民病院の理事長・病院長の島田和幸さんに、さっそく話を聞いた。日本高血圧学会の元理事長でもある人物だ。「確かに勘違いしている方も多いのですが、高血圧の基準値は現状どおりの『上140/下90』で変わりません。今回、改訂される点は、それとは別に、“降圧目標値”という数字が新たに設定されるということなのです。この降圧目標とは、高血圧とは呼べないけれど、心臓血管病の発症するリスクが高まる領域にある人に対して、『生活習慣の改善が必要ですよ』と促すために設定されたものだと説明されています」そうなると、血圧130という数値は、まだすぐに治療を始めるほどではないのだろうか?「実はこの数字は、欧米で高血圧基準値の見直しが行われている、その“最近の流れ”を受けてのものといえます。アメリカでは、’17年にいちはやく『130/80』以上がすべて『高血圧症』と診断されるように基準が改訂されました。’18年には、欧州高血圧学会と欧州心臓病学会が、基準値を『140/90』で据え置いたまま、『降圧目標』を『130/80』未満に引き下げています。それらの大きな根拠となったのが、アメリカ国立心肺血液研究所が行った『SPRINT』という臨床試験の結果でした」’15年に発表された「SPRINT」は、糖尿病のない高血圧患者9,361人を対象に実施され、投薬によって降圧目標を「上140未満」と「上120未満」の2クラスに設定してそれぞれの「心筋梗塞や脳卒中の発生率」と「全死亡率」を比較したもの。上120未満の人は上140未満の人に比べて、心筋梗塞や脳卒中の発生率で約25%、全死亡率で約27%低いという結果が出た。「この調査が、血圧は低ければ低いほど“健康で長生きできる”という理屈の裏付けになった。ただ、もし日本で『上130未満』と基準値を10も下げたら、大変な混乱が起きる可能性がある。だから今回は“目標値”として発表することになったのです」この調査結果を知った人の中には、恐怖のあまり「すぐに降圧薬を処方して!」と病院に駆け込む“血圧130台”の人がいるかもしれない。そこで本誌は「高血圧の薬による家計の負担増」を試算してみることにした。実務薬学総合研究所の薬剤師・水八寿裕さんが解説する。「高血圧薬の処方として、通例では、まず安価なジェネリックも多いカルシウム拮抗薬が出されます。次に肥満傾向がある場合には利尿薬で体重増加を抑え、必要であれば、ACE阻害薬などが処方されます」高血圧の薬はこの3分類の取り合わせが一般的だが、依然、血圧が高ければ、ほかの生活習慣病とひも付けて考えることが多い。「それぞれ基準値を大きく外れるなどしていれば、抗コレステロールのHMG-CoA還元酵素阻害薬や糖尿病のビグアナイド製薬などが、追加されていくケースが考えられます。仮にこのような計5種類の処方ともなれば、病院での自己負担額と薬局での薬代を合わせて月3,000円近い治療費がかかることになるでしょう」水さんは「3割負担で月額1,000円以上」になる場合、薬代の見直しが必要ではないかという。「女性は更年期関連の薬、ご主人は肝臓や尿酸値の薬などが追加で処方されていけば、夫婦で月6,000円を超えるかもしれない……。薬剤師に相談するなどして、作用の有無も考えながら“本当に必要なもの”を検討すべきです」
2019年03月18日今から数年前。4番目である三男を妊娠中の時のお話です。なんの前触れもなく突然高熱を出した長男。この日は平日で、仕事がある夫を頼るわけにもいきませんでした。幼い妹弟だけで留守番させるわけにはいかないので、3人全員を連れて車で小児科へ。検査の結果、インフルエンザでした。保育園のお休みが確定した長男は高熱なのにめっちゃ元気!!翌日には熱も下がりすっかり回復したんですが、次は妹弟が高熱…(兄弟あるある)翌日、前日に続き再び3人を連れて小児科へ。しんどくてグズグズの幼い2人。この時の私は来月に出産を控えた臨月妊婦だったんですが、そんなことを言っていられる状況じゃありません。高熱でぐったりする次男をおんぶし、しんどくて号泣する長女を抱っこして行きました。当然のように2人もインフルエンザ。帰宅後も泣きじゃくる2人をあやしながら、既に回復して遊びたい長男をなんとかなだめて過ごしました。子どもの体調不良って、なぜか夫不在の平日な事が多く、1人で急な対応を迫られることが頻繁にあります(子どもが幼いうちは特に多い)。兄弟の誰かが風邪を引くと高確率で他の兄弟にうつるため、短期間で何度も小児科のお世話に。4番目出産後、長男が体調不良になったときは、ぐったりして動けない長男をおんぶし、長女に歩いてもらって下の2人を抱っこして行ったこともありました。こんな時、『みんなが元気』っていうごく普通な事がどれだけ幸せな事なのかを改めて感じます。
2019年03月13日一般的に、カゼは数日間の発熱で改善しますが、それ以上続く場合はどうすればいいのでしょうか?小児で発熱が長く続く病気として、「川崎病」があります。あまり聞きなれない病名かと思いますが、高熱が出たりとカゼに似た症状をもつ病気です。川崎病とは一体どんな病気なのでしょうか。くわしく解説していきましょう。■川崎病とはどんな病気? 重い合併症も…まず、川崎病には以下の6つの診断基準があります。1. 5日以上続く発熱2. 両側の眼球結膜(白目の部分)の充血3. 唇が赤くなる、またはいちご舌(いちごのように赤くなりぶつぶつが出る)4. 発疹が出現5.四肢末端の変化(むくんではれたり、赤くなる6. 首のリンパ節のはれ[川崎病診断の手引き(厚生労働省川崎病研究班作成改訂5版)から一部抜粋、改変]発熱するだけではなく、目が赤くなったり、発疹がでてきたりと、だんだん症状が増えていき、6個の基準のうち5つ以上を満たせば川崎病という診断になります。上記の診断基準には含まれませんが、BCGを接種した部分が赤くはれることもあります。発症すると、熱が続いて体力を消耗しますし、首のリンパ節のはれが痛くて、首を横に向けることができなくなったり、赤くはれた唇が切れて痛み、食事がとりにくくもなります。ぐったり感が強く、だんだんとしんどさも増す病気です。この病気は約50年前に日本人の医師、川崎富作先生が発見したものですが、いまだに何が原因かははっきりしていません。ただ感染症とは異なるということはわかっていて、抗菌薬の効果はなく、体には「血管炎」とよばれる状態が起こっています。血管炎とは、全身の血管が炎症を起こしている状態。例えば、目の血管で炎症が起きると充血し、手の血管で炎症が起きると赤くなったりはれたりという具合です。この時、最も注意すべきことが心臓の血管です。心臓の血管で炎症が起きると、そこには冠動脈瘤(かんどうみゃくりゅう)というコブができてしまいます。すると、コブがあるところは血管がつまりやすく、子どもでも心筋梗塞が起こってしまうのです。そのため、昔は川崎病によって子どもが突然死することがしばしばありましたが、現在は治療法が確立し、そういうことはほとんどなくなりました。■川崎病の治療法「発熱から7日までに診断、治療開始」川崎病の治療には、どんな方法があるのでしょうか。治療の一番の目的は、心臓の合併症を起こさないことです。そのために、現在では免疫グロブリン大量療法という治療が行われています。これは、人の血液から取り出した免疫グロブリンというタンパク質を大量に点滴するというもので、うまくいけば投与から1日ほどで熱が下がります。すぐに下がらなくても、多くの場合は2回、3回と投与したり、ほかの治療を組み合わせることで解熱します。ここで一番重要なことは、熱が出てから7日までに治療を開始して、はやく熱を下げることです(※)。それ以上続くと、心臓の血管にコブができやすくなってしまうからです。川崎病は、5日以上続く発熱で診断されます。そのため、診断が出た時点ですでに約5日が経過しており、発熱してから5日~7日という短い期間に、免疫グロブリンを投与するかどうかを判断しなければいけません。子どもの場合、高熱がどれくらい続いているかはとても重要。長く続くようなら、こまめな受診で小児科医の判断を仰ぐ必要があります。受診の際、小児科医から「熱が続くようなら、再受診してくださいね」と言われたことはありませんか? 熱が下がらなければ病院に行くのは当たり前じゃないかと思われるかもしれません。実は「もし川崎病だったら…」を小児科医は想定して、受診の時期を逃さないように声がけをしているわけです(場合によっては熱が出て数日の段階で川崎病の説明をすることもあります)。最初は発熱のみでカゼと区別が難しい川崎病ですが、熱が続いて目が赤くなったり発疹が出てきたりして、症状がそろってくると区別できるようになってきます。■川崎病「診断がつきにくい“不全型”に要注意」注意すべきものとして、「不全型川崎病」について説明しましょう。本当は川崎病なのに、5日たってもいまいち症状がはっきりしないのが「不全型川崎病」です。例えば、熱が続いているのに、目と口が赤いだけで症状が5つ以上そろっていないなどのケースがあります。症状が5つ以上あれば誰がみても川崎病なので、これを見逃す小児科医はほとんどいません。しかし、症状がそろっていないとなると判断がつかず、診断がはっきりくだせないのです。前述のように、川崎病の治療は熱が出てから7日以内に治療を始める必要があるため、不全型の時は特に注意しなければなりません。症状がそろっていないために見過ごされ、治療が遅れて冠動脈瘤ができてしまうケースも。診断がはっきりせずに熱が続く場合は、繰り返しの受診が必要ですし、場合によってはクリニックをかえ、別の医師の診察を受けてもいいでしょう。一般的に、川崎病は4歳以下の小さい子どもに多い病気ということから、まれに小学校高学年や中学生で発症した場合、なかなか診断がつかないこともあります。小児科以外ではなじみが薄い病気ですので、診断がつかない時は一度、小児科に相談したほうがいいでしょう。■「熱が続いたら再受診を」小児科医の言葉に込められた意味川崎病には重い合併症も存在しますが、時期を逃さず診断して適切に治療すれば心配はありません。「熱が続いたら、もう一度受診を」子どもの発熱で受診した時、小児科医が毎回のように添える言葉の裏には、「川崎病による合併症を防ぎたい」といった強い思いも込められているのです。参考資料※: 『川崎病急性期治療のガイドライン平成24年改訂版』日本小児循環器学会 川崎病急性期治療のガイドライン作成委員会
2019年03月03日こんにちは! 4歳、3歳、1歳の三兄弟のオカンあざみです。 前回 、4歳の長男のおチンチンがまだむけていないことが心配になったオカン。しかも3歳の次男はむけているというのに…。このままで本当に大丈夫なのだろうか。しかし女の私がいくら考えても答えは分からない。というわけでオトンに相談してみたするとへぇ~~~そうなんだぁ。フーン。子どもの事を相談するついでに夫の知らなかった情報も知ってしまった。(別に知らなくてもいい情報)まぁそんな事は置いておいて、やはり個人差があるという事はよくわかった。とはいえ、そうわかっていても本当に大丈夫だと言う確信が欲しい。そこで三男の1歳健診のついでに小児科の先生に相談してみる事にした。すると、まだ4歳、そこまで心配する必要はないと小児科の先生に教えてもらった。とてもデリケートな話なので質問するのが最初は恥ずかしかったが先生がとても丁寧に説明してくれて安心した。もし同じように悩んでいる方がいたら1人で抱え込まず、また恥ずかしがらずに一度小児科の先生に相談してみるといいかもしれない。それにしても、赤ちゃんの頃からむける子もいれば、中学生くらいでむける子などさまざま。成長と言うのは本当に個人差が大きい。周りの情報に惑わされすぎずに、我が子の成長を見守ってあげる大切さを改めて感じた。
2019年02月25日2月になってスギ花粉が飛び始め、花粉症の人にとって憂鬱(ゆううつ)な季節に入ってきました。子どもでも花粉症になることもあり、小児科や耳鼻科に受診する子も増えてきそうです。今回は、子どもの花粉症およびアレルギー性鼻炎について解説します。■花粉症の見分け方「この鼻水はカゼ? それともアレルギー?」花粉症の症状のひとつ、鼻水は小児科で最も多く見かける症状です。その中でも多い疑問のひとつが、「ずっと鼻水が続いている。花粉症ですか? カゼですか?」というものです簡単に区別することはできませんが、まず前提として、鼻水は生理的に出て当たり前ということを知っておいてください。鼻水が出たからといって、必ずしもカゼや花粉症というわけではありません。何もなくても少量出ることがあり、とくに鼻の通り道の狭い乳児であれば、生理的な鼻水でもつまって鼻がフガフガすることがあります。では、カゼの鼻水と花粉症の鼻水は、それぞれどういった特徴があるのでしょうか?まず、カゼの鼻水は症状のピークが2~3日で、ときにせきや発熱をともないます。おおむね1週間ほどで改善傾向となり、2週間もすれば出なくなるでしょう。一方、花粉症はスギなど特定の花粉にアレルギー反応を起こすもので、季節性アレルギー性鼻炎(結膜炎)といいます。花粉などに反応し、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどの症状を引き起こします。そのほか、ダニや動物の毛など季節に関係なく身の回りにあるものに対して反応する通年性アレルギー性鼻炎(結膜炎)もあります。花粉症であれば特定の季節に悪化することが特徴で、その期間の症状には変動があまりなく、ずっと続く点がカゼとは異なるところです。例えば、毎年春先にダラダラと3週間、鼻水や鼻づまりが続くようであれば花粉症の可能性が高い症状と考えます。また、一般的に花粉症の鼻水は透明でサラサラです。熱もなく元気だけど、サラサラの鼻水だけずっと出続ける場合も花粉症の可能性が高くなります。ただ、花粉症の途中でカゼをひき、鼻水がドロドロになるなど症状が変動することもあるため、一概に鼻水だけでは区別できないことも多いです。そのほか、花粉症の症状としては、よくさわることで鼻に湿疹ができていたり、鼻にティッシュや指を入れることが多いために鼻血を繰り返している、目の周囲に黒いくまができやすいことも特徴にあげられます。子どもでも花粉症になるの? と思われるかもしれませんが、スギ花粉については5~9歳の有病率は13.7%(※1)と頻度の高いものです。2歳以下での発症は少なく、とくに1歳未満では稀(まれ)です。この年齢でずっと鼻水が続く場合は、カゼが長引いている可能性のほうが高いと考えてください。■子どもの花粉症「診断・治療・予防」診断先に述べたような特徴を、まず問診や診察で確認することが最も重要です。そのうえで、鼻の粘膜を直接観察する鼻鏡検査や、鼻水の性質を調べる鼻汁好酸球検査、アレルゲン(原因となる物質)を特定するための皮膚テストなどを組み合わせて総合的に診断します。これらの検査は一部、小児科でも行っている場合はありますが、通っている小児科で難しいようであれば、耳鼻咽喉科に相談するのがよいでしょう。ちなみに、アレルギーの血液検査は必須ではありませんが、もし食物アレルギー等で検査をする機会があれば、一緒に花粉やホコリ、動物の毛などを調べると、原因アレルゲンを知ることができます。治療主要なものとして内服の抗ヒスタミン薬とステロイド点鼻薬の2つがあります。まず抗ヒスタミン薬は、いわゆる花粉症の飲み薬として処方されるものです。花粉などのアレルゲンが侵入するとヒスタミンという物質が出てきて、鼻水やくしゃみなどを引き起こしますが、そのヒスタミンをブロックするお薬です。こちらは効き目や副作用の眠気に個人差があるので、合わない時はほかの薬に変更してもらってください。抗ヒスタミン薬はカゼの時にも処方されることがありますが、花粉症とは鼻水の出る仕組みが異なるため、カゼの場合はあまり効果が期待できません。もう一つのお薬、ステロイド点鼻薬は鼻の穴にシュッと噴霧するものです。アレルギー反応をおさえ、鼻の粘膜のはれを改善します。効果は大きく、くしゃみや鼻水、鼻づまりがましになってとても快適に過ごせるようになる患者さんも多いです。これらの治療は、あくまでも症状を改善させる対症療法ですが、最近は、根本的に花粉症を治療する免疫療法も注目を集めています。これは、スギやダニなど特定のアレルゲンのみが対象になりますが、その成分をお薬として摂取することでアレルギーそのものを治す方法です。ただし、今のところ治療できる施設や、投与できる年齢に制限があるため、治療を希望する場合はまず医師とご相談ください。予防花粉症を予防するには、まずアレルゲンをさける、減らすことです。花粉情報をチェックして花粉が多い日の外出はさける、マスクやゴーグルを利用する、外出から帰宅したら衣服についた花粉を払ったり、すぐ洗濯機に入れて家の中に持ち込まないようにするなどです。鼻の穴の中にワセリンを塗ることで、侵入するアレルゲンを減らすという方法(※2)もあります。ただ、これらの対策には限界があるので、アレルゲンが来ても大丈夫なようにステロイド点鼻薬等で治療をしていくほうが現実的でしょう。花粉症の症状は、鼻水やくしゃみがつらいだけでなく、学校の授業に集中できない、鼻づまりでよく眠れないなど生活全体に影響をおよぼします。ここにあげた予防法や治療法を参考にして、快適な春を迎えていただけたら幸いです。参考資料※1:『鼻アレルギー診療ガイドライン2016』鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会 編※2: 『Efficacy of pollen blocker cream in the treatment of allergic rhinitis.』National Center for Biotechnology Information
2019年02月19日娘は6歳ですが、粉薬が大の苦手です。拒否反応なのか、「苦い」と思い込みすぎているのか、はたまた、ただのわがままなのかはわかりませんが、粉薬、とりわけ抗生物質などの苦い薬を飲むと、吐き戻してしまいます。ゼリー状のオブラートなど、薬剤師さんにアドバイスをいただいた方法も試しましたが、味わってしまうからなのか逆効果でした。■錠剤なら飲める娘、しかしお医者さんは…飲む度にこみあげる嘔吐感を、毎回顔を真っ赤にして耐える娘。2回に1度は実際に嘔吐してしまい、薬の効果はわからぬまま…。本当に体が拒否しているのか、それとも甘えているだけなのかわからず、どうすることもできないままに、アイスやゼリーなどに混ぜながらだましだまし飲ませていました。ただ、苦手な座薬すら、粉薬を飲むくらいならと、受け入れるほどだったので、本当に粉薬が無理なのかもしれません。次第に娘は、病院に行くのを拒むようになりました。よくよく聞いてみると、薬を飲まないといけないのが、病院に行きたくない一番の理由のようでした。でも、このままではよくならないし、いつもの小児科では錠剤で処方してもらえない…一体どうしたら…娘の気分を変える意味と、もしかしたら錠剤が処方してもらえるかもという淡い期待を抱いて、いつもと違う小児科に行ってみることにしました。■事態は好転! 希望の光が見えた瞬間そこでは、問診票に「希望の薬は?」という欄があり、「シロップ、粉薬、錠剤」のいずれかに〇を付けることができました。「もしかしたら、錠剤を処方してもらえるかもしれない…!」と、希望が見えてきました。診察になり、処方箋の相談のときに、薬の形態について医師に相談してみました。すると、そうして無事に錠剤で薬を処方してもらった娘。薬局で処方してもらった小さな錠剤を確認して、すごくうれしそうにしていました。これまで吐き戻したり、時間がかかったりして、大変で憂鬱(ゆううつ)な時間だった薬時間が、錠剤になっただけですごく楽になりました。しかし、また別の病院で、以前錠剤で処方していただいたものと同じ粉薬が処方されてしまいました。そこで、錠剤での処方をお願いしてみると、年齢のことと、「薬局に置いてないから」と言われてしまったことがあります。そこで思い切って、「お隣の薬局には置いてないかもしれませんが、わが家がいつも利用している薬局には置いてあるので、そちらでもらってはだめですか?」と聞いてみました(我ながらやっかいな親…)。そうしたら「わかりました…」とすんなり錠剤で処方箋を書いてくれたこともあります。医者側からすると面倒臭い親だったのかもしれません。でも、せっかく処方してもらった薬でも飲めなかったら意味がないと思います。だから、根気よく質問して、ちゃんと飲めるタイプのものを処方してもらう方がいいのではないかと思っています。ただ、錠剤は小さいお子さまには誤嚥(ごえん)の危険もあるため、錠剤への切り替えはある程度の年齢になり、病院の先生との相談しながら慎重にすべきだし、親もよく見守る必要があります。でも本当に粉薬で困っているお子さまは、医師に相談し、しっかり飲み込みの練習をした上で切り替えることもひとつの手だと思います。うちの娘は、錠剤を飲めるようになってからはというものの、病院も嫌がらず行くようになりましたし、薬を飲むことを渋ることもなくなりました。むしろ、「錠剤飲める私、おっとなー♪」といわんばかりに、いつも得意げに見せびらかしながら飲んでいます(笑)※この体験記に記載された症状や治療法は、あくまでも筆者の体験談であり、症状を説明したり治療を保証したりするものではありません。薬の形や効果などについてはかかりつけの医師にご相談ください。また薬の飲み方については、薬局や薬剤師などにご相談ください。
2019年02月15日子育て中は「子どもの体って不思議だなあ」と思うこと、たくさんありますよね。例えば、世のママたちの多くが口をそろえていうのが「子どもの寝相の悪さ」についてです。枕に頭をのせて寝たはずなのに、朝には足が枕の上に…。毎日のことなので、寝相の悪さについては当たり前のことになっているかもしれませんね。それから、赤ちゃんがウトウトして眠りにつく前、急に手足がポカポカしてくるように感じますよね。子どもの手足があたたかくなってきたら、「そろそろ寝るかな…」と予想がつくことも。また、大人と比べて大量にかく寝汗なども、子ども特有の不思議な現象です。子どもはどうして寝相が悪いのか、どうして眠りにつく前に手足があたたかくなるのか、どうして寝汗が多いのか? 小児科医でありお茶の水女子大学名誉教授・榊原洋一先生に「子どもの睡眠」にまつわる不思議をいろいろと教えてもらいました。お話をうかがったのは…医師・お茶の水女子大学名誉教授榊原洋一先生お茶の水女子大学人間発達教育研究センター教授。東京大学医学部卒業。専門は小児科学、小児神経学、発達神経学など。小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書は『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)など多数。■子どもの寝相はどうして悪い?――どのお母さんも口にすることだと思うのですが、子どもって本当に寝相が悪い! 夜眠ったときと朝起きたときの姿勢がまったく違います。この寝相の悪さ、何か理由があるんでしょうか?榊原洋一先生(以下、榊原先生):子どもの寝相が悪いのは「睡眠の質」が大人と違うからなんですね。――質ですか…?榊原先生:人間には「睡眠パターン」というものがあります。このパターンは年齢とともに変わっていきます。特に睡眠時間と睡眠リズムに大きな変化が起こるんです。まず大人になると、乳児のときと比べ睡眠時間が短くなりますよね。それから睡眠中に見られる「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の割合も変わります。どう変わるかというと、成長していくにつれてレム睡眠の割合がどんどん少なくなっていくんです。――先生! レム睡眠とノンレム睡眠とは何でしょう?榊原先生:レム睡眠とノンレム睡眠はどちらも睡眠状態のことを指しています。ただし、レム睡眠中の脳波は起きているときとよく似ています。眼球がきょろきょろと左右に速く動くこともあるし、体もよく動きます。睡眠中の様子を脳波とビデオカメラで同時に記録すると、レム睡眠のときに寝がえりや手足を動かす様子が多く見られるんです。――よく動くのはレム睡眠中だからなんですね。榊原先生:そうです。一方、ノンレム睡眠は深い眠りなので、こうした動きがほとんど見られません。子どものころはレム睡眠の割合が多いので、寝ている間にたくさん体が動くんですね。――覚醒状態と似たレム睡眠の割合が多いから、自然と寝相が悪くなるんですね…。ちなみによく動く時間帯などはあるのでしょうか?榊原先生:レム睡眠は明け方、目が覚める前に多く出る睡眠パターンです。だから夜中は寝相が良かったけれど、起きる時間近くになったら急に寝相が悪くなっていた…なんてことがあるかもしれませんね。■寝る前、子どもの手足が急にあたたかくなるのはなぜ?――赤ちゃんを抱っこしていて「あれ、なんだかポカポカしてきたな」と思ったらすやすや眠っていた…ということがよくあったのですが、手足があたたかくなることと眠ることに何か関係はあるのでしょうか?榊原先生:実際に手足の先の皮膚温度をはかってみると、子どもは眠くなると温度が1.5度くらい上昇することが分かっているんですね。でも、脇の下の体温をはかっても変化がない。このことから、子どもの手足があたたかくなることには、体の中の血液の流れが関係していると考えられます。――血液ですか…?榊原先生:普通、熱が発生するのは筋肉や臓器なんです。でも、手足の先には大きな筋肉も臓器もありませんよね。では、なぜ皮膚温度が上がるのか。温度を上昇させる方法としてほかに考えられるのは、血液です。血液は熱を運ぶことができます。子どもの手足の先があたたかくなったのは、体の中心部からたくさんの血液が流れてきたから、と考えることができます。――血液が手足のポカポカを生んでいるんですね…! でも、子どもの血管は細そうなイメージがあります。たくさんの血液を手足の先に運ぶことってできるんでしょうか?榊原先生:血液量が増えるのは、細い血管が広がるからなんです。血管が広がるのは交感神経と、副交感神経といった自律神経が関係しています。――交感神経と副交感神経?榊原先生:交感神経は獲物を追う、敵から逃げるといったときに優位になるもので、皮膚の血管を収縮させます。血管を細くすることで、万が一傷を負うことになっても少ない出血ですむんですね。――生き抜くための反応ですね…!榊原先生:反対に副交感神経は休息しているときに優位になるもので、血管は広がります。そのため、熱を持ったたくさんの血液が手足の先にまで運ばれて、体がポカポカしてくるというわけです。眠る前に子どもの手足があたたかくなるのは「休息モード」に入っているからなのです。お母さんに抱っこされて、安心した状態になることで、より眠りやすくなったからでしょうね。――なるほど。赤ちゃんの手足が急にあたたかくなってくるのはリラックス状態に入った、ということなんですね。■朝起きると寝汗でびっしょり…子どもが汗かきなのはどうして?――寝ている子どもでびっくりするのが、大人と比べて寝汗がすごい…! 子どもはどうしてあんなに汗をかきやすいのでしょうか?榊原先生:1日に必要な水分量で比較すると、子どもは大人の倍量が必要になります。子どもの体は大人と比べ、水分の割合がすごく多いんです。――大人の倍量も必要なんですね…!榊原先生:その理由として、腎臓の機能によることと、失われる水分量が多いことがあげられます。子どもは腎臓の機能がまだ未熟で、尿としてたくさんの水分を排出します。それから新陳代謝も活発なので、汗や呼吸によって、どんどん体の外に水分が出てしまうんですね。失われる水分量は大人の1、5~3倍近くになるといわれています。――そんなに…! 子どもはそもそも水分を失いやすいものなんですね。榊原先生:そうですね。それと、単純に大人は汗をかくとハンカチで拭きますよね。でも、子どもは拭きません。よだれが多いのと同じで、出てくるものに構わない…(笑)。子どもは大人のように汗を拭いたりしないから、いっそう汗が目立って見えていることもあると思います。今回は、子どもの睡眠にまつわる不思議について、お話をうかがいました。子どもの寝相が悪いのは、子どもと大人で睡眠の質が違うからということが分かり、長年の謎がようやく解けました(笑)。また、赤ちゃんの手足があたたかくなるのは、交感神経・副交感神経が状況に応じて優位になることで、体の中でさまざまな反応が起こっているから。「人の体はなんて複雑でおもしろい仕組みなんだろう」と感心するインタビューとなりました。引き続き、榊原先生に「子どもの体の不思議」について、お話をうかがっていきます。参考図書: 『大人が知らない子どもの体の不思議』 (講談社)榊原洋一著子どもと大人はどう違うのか。それは単に大きさだけの違いではありません。どうして夜泣きをするの? どうして寝相が悪いの? どうして落ち着きがないの? 子育て中に親が抱く「答えが見つかりにくい質問」にエビデンスの精神で解答することを試みました。子どもの心と体の不思議を理解する、手助けとなる一冊。
2019年02月06日子育て中は「子どもの体って不思議だなあ」と思うことが、たくさんありますよね。例えば「大人に比べ、体は小さいのに頭が大きい」と思ったことはありませんか? 子どもの頭はその小さな体に不釣り合いなくらい大きいですよね。また、久しぶりに会った友人から「赤ちゃんの顔つきが、生まれてすぐの時とは変わったね!」と言われ、そういえば…気づくこともあるでしょう。子どもの頭はどうして大きいのか? 顔つきが変わるとは一体どういうことなのか? 小児科医でありお茶の水女子大学名誉教授・榊原洋一先生に「子どもの顔・頭」にまつわる不思議をいろいろと教えてもらいました。お話をうかがったのは…医師・お茶の水女子大学名誉教授榊原洋一先生お茶の水女子大学人間発達教育研究センター教授。東京大学医学部卒業。専門は小児科学、小児神経学、発達神経学など。小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書は『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)など多数。■子どもの頭はなぜ大きい?――前から気になっていたのですが、大人に比べると赤ちゃんの頭ってすごく大きいですよね。体のサイズからすると、もっと小さくても良いような気がするのですが、何か理由があるのでしょうか?榊原洋一先生(以下、榊原先生):子どもの頭が大きいのは、脳の大きさが体に対して大きいということがあげられます。なぜ体に対して、脳が大きいのか。これには、人の体の中で脳がどう働いているのか、そのシステムに関係があるんですね。――システム?榊原先生:そうです。人の体は働きによって大きく8つのシステムに分けることができます。例えば、心臓や肺は「呼吸循環器系」、胃や腸や肝臓は「消化器系」、骨髄や赤血球なんかは「血液系」、リンパ節や胸腺は「免疫系」、骨格筋や骨は「骨格系」などと呼ばれていますね。――「~系」というのが、システムのことなんですね。聞いたことがあるものもあります。榊原先生:こうしたシステムのうち、脳に関係するものが「神経系」です。――頭の大きさと関係してくるのが神経系?榊原先生:はい。システムの中でも神経系は、もっとも負荷のかかる部分といわれています。どのシステムも人が生きるために不可欠なんですが、神経系はほかのシステムにはない仕事をこなす役割があるんです。■赤ちゃんの頭の大きさと「神経系」の関係とは?――ほかにはない仕事…?榊原先生:はい。システムの中には急いで完成させる必要がなく、人間の成長に合わせて、長い時間をかけて形作られていくものもあります。でも、神経系は違うんですね。神経系はお母さんのおなかの中にいるときから、生命のリズムを維持する働きや、手足・胴体を動かす働きをしているんです。――お母さんのおなかにいるときから、神経系は働き始めている?榊原先生:そうです。でも、おなかの中にいる間は、それほど働かせる必要はないんです。それがいったん子宮の外に出ると、環境が激変します。――居心地のいいお母さんのおなかから、急に外に出てくるわけですもんね…。赤ちゃんにしてみれば「なんだ、ここは!」ってびっくりすると思います(笑)。榊原先生:そうです。赤ちゃんは生まれてすぐ、まぶしい光、さまざまな音、体に感じる重力といったものにいきなり対応しなければなりません。それに成長するにつれて、立って歩いたり、指先を細かく動かしたり、言葉の使い方なども知っていかなければなりませんよね。実はこれらは基本的に、すべて神経系の受け持ちなんです。だから神経系は生まれたその瞬間から、いっそう活動を活発化させていくんです。――なるほど。体が小さいうちに神経系の働きがものすごく活発になるから、最初から脳、つまり頭が大きくなっているということでしょうか?榊原先生:そうです。これには脳の発達スピードも関係しています。脳を中心とした中枢神経は、成長や発達にともなって、フル回転で機能を発揮しなければなりません。そのため赤ちゃんの脳の中では、機能を充実させるための「突貫工事」が急ピッチで進められているんです。――短時間で一気に発達しようとするんですね。榊原先生:乳児から幼児期前半は、人生の中で脳の発達がもっとも著しい時期といわれています。神経系の発達はほかのシステムに比べ、とても早い時期に行われるんです。だから、小さな子どもの頭が大きく見えるのは「脳が大きい」から。そして脳が大きくなるのは「神経系を急いで作り上げなければならないから」といえるでしょうね。■「子どもの“顔つき”が変わった」どうして?――子どもの顔を見ていると、小さいころとは顔つきが変わったように感じることがあります。赤ちゃんのころは男女差があまりないように感じるのですが、顔つきの変化はどうして起こるのでしょうか?榊原先生:顔は成長するにつれて変化していきます。要因はいろいろですが、頭蓋骨とその中にある脳は、4歳くらいまでに急激に大きくなるので、顔の形が大きく変わる時期でもあるんです。だからこの年齢で「顔つきが変わった」と感じるお母さんもいるかもしれません。――顔の大きさや形って、印象に影響するものなんですね。榊原先生:影響すると思います。一般的には目や口、鼻の配置などが大きく変わると、顔の印象も大きく影響を受けると思うでしょう。それもありますが、実は皮下脂肪や顔の表情をつくる表情筋の発達なども、印象を大きく変えるんですよ。――顔の皮下脂肪や、表情をつくる筋肉も、顔を印象づける要因になっている…?榊原先生:子どもの顔を見ると、皮下脂肪が多くてふっくらと丸顔であることが多いですよね。これは人に限ったことではなくて、動物全般に当てはまることなんです。ふっくらと丸顔であることで、かわいい印象を周りに与えているんです。――確かに、ふくふくとした真ん丸のほっぺを見ていると「かわいいな~」と思いますし、抱きしめたくなります(笑)。榊原先生:大人になると皮下脂肪が薄くなり、重力の影響もあって、顔はどんどん細長くなっていくんです。丸顔から、細長い顔に変わっていく。だから、印象が変わったように見えるんですね。それから、日常的にどんな表情をしていることが多いか、表情筋をどう使っているかということも、顔つきの印象変化に関わってくると思います。――なるほど。顔のパーツ、大きさ、脂肪、表情筋のつき方…。顔つきを変える要因はひとつじゃないということですね。榊原先生:そうです。いずれにせよ、顔つきは「急に変わる」ということはありません。顔の印象は年齢とともに少しずつ変化していくものなんですね。今回は、体の中のシステムなどちょっと難しいお話もありましたが、赤ちゃんの頭が大きい理由について知ることができました。神経系はお母さんのおなかの中にいるときから少しずつ働き、この世界に誕生してすぐにフルスピードで発達し始めているんですね。先生のお話をうかがったことで、赤ちゃんは生まれた瞬間から「生きることに一生懸命」と感じ、がんばれ! がんばれ! と応援したい気持ちが芽生えました。小さな体の中ではさまざまな変化が起こり、日々新しい何かが生まれているんですね。次回は、「子どもの寝相はどうして悪い?」「寝るときに手足が温かくなるのはなぜ?」など、子どもの睡眠にまつわる疑問についてお話をうかがいます。お楽しみに…!参考図書: 『大人が知らない子どもの体の不思議』 (講談社)榊原洋一著子どもと大人はどう違うのか。それは単に大きさだけの違いではありません。どうして夜泣きをするの? どうして寝相が悪いの? どうして落ち着きがないの? 子育て中に親が抱く「答えが見つかりにくい質問」にエビデンスの精神で解答することを試みました。子どもの心と体の不思議を理解する、手助けとなる一冊。
2019年01月31日節分の季節がやってきました。豆まきをして、年の数だけ豆を食べて…と昔からの伝統行事ですが、小さい子どもがいるご家庭は誤えんに注意です。「豆って誤えんするんですか?」と思われるかもしれませんが、病院では時々見かける症状です。■子どもが豆を誤えん…どうやって起こるの?豆は丸くつるっとしていて、幼い子どもにとってはかみ砕きにくいものです。口の中に入っている時に、笑ったり、びっくりしたりした拍子にヒュッと空気の通り道(=気道)へと吸い込んでしまうことがあります。気道のほうに入りますと、むせてせき込みます。その時出てくればいいのですが、時に気管をふさいでしまったりすると、息が苦しくなり顔が真っ青になります。さらに、気管をぬけて肺に入るとせきはましになりますが、豆という異物が入ることによって肺炎を起こすこともあります。ですから、飲み込んだ直後にせき込んで、そののち、せきがましになっても安心とはいえません。しばらくして、呼吸が苦しくなったり、発熱することもあるのです。治療せき込んでいる時は、豆が外に出るのをうながすために、下を向かせて背中を叩いて出させます。気管の奥のほうに入ってしまったものは、細いカメラ(気管支鏡)でのぞいて取り出さなければならない場合がありますが、子どもに気管支鏡が使える病院や医師は限られており、麻酔も必要ですので大がかりになります。豆が肺に入って肺炎を起こした場合も、酸素投与や点滴の治療が必要になるので入院しなければならないでしょう。豆の誤嚥はなかなかやっかいですので、まずは予防が大切です。予防まずは、幼い子には食べさせないことです。米国小児科学会では、4歳以下に対して、誤えんしやすいものは避けるべきとしています(※)。4歳をひとつの目安として、まだ難しそうなら4歳より年が上でも、誤えんしやすい豆は避さけたほうがいいでしょう。節分の豆まきも工夫が必要です。豆はまいたとしても、全部回収すること。ただ、目の届かない場所、意外な場所に残っていることもあるので、小袋のまま投げる、新聞紙を丸めて豆の代用とするなどの対策もあります。節分の際は、豆まきのほかにイワシを食べる、飾るという伝統行事もありますから、子どもが小さいうちだけは、こちらだけするのでもいいかもしれません。年齢が上になって、豆をスムーズに食べられるようになった子どもでも、歩き食べなどをしていると誤えんの危険があります。例えば、歩いている途中で転んだりすると「あっ!」と声を出し、その時にヒュっと豆は気道へ。食べている時に驚いたり泣いたりして声を出すと、気道に入りやすくなります。だからといって、子どもが歩きながら食べているのを見つけても「こらっ!」と怒ったりしてはいけません。その声にびっくりしたり泣いたりして、さらに誤えんの可能性を高めてしまうからです。そんな時は、大人が怒りをしずめて「お口の中のもの、ベーしてね」と優しくさとしてください。誤えんだけじゃない!「子どもは鼻や耳にも入れる」豆を与えるのは4歳を目安にとお伝えしましたが、それ以上の年齢となる年長児などには別の注意が必要です。好奇心旺盛な子どもたちは、なぜか豆を鼻や耳の穴に入れたがります。危険なこととして教えることはもちろんですが、もしもの時は自分でとろうとせず耳鼻咽喉科に相談してください。ちなみに大人の方も誤えんに気をつけてくださいね。節分の豆を誤えんすることはあまりないでしょうが、大きな恵方巻きにかぶりついてむせ、食べたものが気管へ…ということはあります。子どもの誤えん「豆以外にも要注意」子どもは、豆以外にもいろいろなものを誤えんします。とくに、豆と同じように丸くてつるっとしたものは詰まりやすいです。例えば、お弁当の定番、プチトマト。丸くてつるっとしているために、窒息が起こりやすい食品です。小さい子どもに食べさせる時は半分にする、十字に切れ込みを入れて口の中でつぶれるようにするなどの対策をしてください。ブドウも同様に詰まりやすいので、同様に切れ込みなどを入れてください。意外と盲点なのがクランチチョコレートです。ナッツなどが含まれているので、歩き食べなどをしていると、何かの拍子に誤えんしてしまうことがありますから注意してください。子どもは、食べ物だけではなく小さいおもちゃなども口にするので、誤飲も心配ですね。3歳の赤ちゃんが口を開けた時の最大口径は約39mm。この大きさ以下なら、誤って飲み込んでしまいます。一般社団法人日本家族計画協会が作成した 『誤飲チェッカー』() は、子どもが誤飲する可能性のあるものをチェックすることができます。誤飲チェッカーがなくても、トイレットペーパーの芯は直径が約38mm大ですので、ここに入るかどうかで簡易的に誤飲の可能性があるものを調べることができます。1年に1回やってくる節分は、子どもの頃からなんとなく思い出として残っています。鬼に豆をぶつけるのが仕事だった私も、最近は鬼役として子どもたちから追い回される役に徹しています。せっかく厄を払い、福を招くイベントですので、この記事のちょっとしたチェックポイントを参考に楽しい節分にしてくださいね。参考資料※ 「Choking Prevention」healthy children.org(American Academy of Pediatrics)
2019年01月29日RSウイルス感染症は、冬に流行する(ときにほかの季節でも流行)、せきや発熱をおこす呼吸器感染症です。とくに生後3カ月未満の乳児は呼吸困難感が強くなって、入院が必要になることも多いのです。RSウイルス感染症とは、どのようなものでしょうか? 症状や診断、治療・ホームケア、感染予防のポイントなどを解説していきます。RSウイルス感染症、その症状は?最初は、せきや鼻水などの症状が数日続いたのち、発熱したり胸がゼロゼロして呼吸があらくなります。発熱は数日~1週間近く続く場合や、微熱程度の場合などさまざまです。鼻水が多いことが特徴で、のどの奥に垂れ込んできてせきこみ、夜眠れなくなってきて、さらにひどくなると細気管支炎というものをひき起こしてきます。細気管支とは、気管が左右に分かれ、さらに細かく枝分かれした部分。そこが炎症を起こすのが、細気管支炎です。細気管支がむくんだり、分泌物がたまったりしますと空気の通りが悪くなってしまい、笛のようにヒューヒューと音がなる(ぜん鳴)ようになります。空気の通りが悪いと呼吸困難感がでてきて、肩で息をしたり胸やおなかがペコペコ(=陥没呼吸。下のイラスト参照)するような症状が出てきたら酸素投与をしなければなりませんから救急受診してください。この陥没呼吸はとても重要な呼吸困難のサインで、鼻がひくひくしたり、首のところがペコペコしたりする場合も見られます。数日間の軽い風邪症状から次第に呼吸困難感が強まり、数日間の症状のピークがへて、せきや鼻水は徐々に改善に向かいます、全経過で1~2週間以上はかかるものと思ってください。RSウイルス感染症「診断・治療・ホームケア」診断症状や経過を確認し、鼻の綿棒検査で調べます。この検査は、入院患者さんと、外来では1歳未満の赤ちゃんの場合、保険適用にて調べることができます。治療・ホームケアRSウイルス感染症には、残念ながら特効薬はありません。重症化に注意して症状を緩和する治療をしながら、改善するのを待ちます。鼻水や鼻づまりがひどい場合、赤ちゃんは哺乳しながらだと息がしんどくなるかもしれませんから、休みながらこまめに与えてください。脱水にもなりやすいので、水分補給はとても重要です。鼻やせきの症状に対して内服薬の効果は乏しい一方、鼻水吸引は効果的です。鼻水をとることで、のどへの垂れ込みを減らせば、せきを減らすことができますし、鼻づまりが改善すると哺乳もしやすくなります。ちなみに気管支喘息で用いるような気管支拡張薬(吸入、貼り薬、飲み薬)の効果はあまり期待できません。空気の通り道を狭くしている分泌物は気管支拡張薬ではなかなか引かないので、改善には時間がかかるものと思ってください。発熱は1週間くらい続くこともありますし、せきも長引いて数週間におよぶ場合があります。経過中に肺炎や中耳炎を合併してくる場合、抗菌薬を使う必要も出てきます。RSウイルスと診断をうけたら、こまめに受診して小児科医に状態を確認してもらってください。とくに生後3カ月未満の乳児は呼吸困難感やときに無呼吸発作が起こる場合があり、入院治療をするケースが多いです。かわいた空気は気道に刺激が加わり、せきも出やすくなります。加湿器などで適度な湿度をキープしてください。お風呂の中は加湿されていますから、ぐったりした様子などがなければ、入浴することはむしろ良い効果があるかもしれません(注:医師により判断は異なります)。RSウイルス感染症「予防、登園・登校基準」3~5日の潜伏期間があり、発症から7~10日くらいはウイルスを出しています。インフルエンザのように登園停止基準があるわけではありませんが、せきやくしゃみ、接触により感染するため、せきこみがひどいうちは登園・登校はさけたほうが無難です。RSウイルス感染症「よくあるQ&A」最後に、RSウイルス感染症について、よくある質問をまとめました。Q. 大人も感染する?A. 大人も感染します。ただし重症化することはなく通常のせきや鼻の症状です。先に大人が風邪症状を認め、のちに子どもがRSウイルス感染症になることがよくありますので、とくに小さい赤ちゃんがいるご家庭では注意してください。Q. 繰り返しかかるの?A. 年齢があがれば重症化のリスクは下がりますが、残念ながら繰り返しかかってしまいます。Q. 予防法はある?A. 今のところワクチンは開発中ですので、予防は一般的な手洗いや、感染している人との接触を避けることです。ワクチンとは異なりますが、早産児や先天性心疾患を持つお子さんなどリスクの高いお子さんは、重症化や入院を防ぐ目的で、 米MedImmue社のシナジスに代表されるパリビズマブという抗体薬を、あらかじめうつことができます。一部の方にこのお薬の適応があるので、流行期には医師から説明があるかと思います。RSウイルスは毎年多くの人が感染して1歳までにほぼ半数が、2歳までにほぼ100%の人が感染するもので、誰もが通る道です。熱やせきも長引きなかなかしんどい感染症ですが、呼吸困難やとくに小さい赤ちゃんの重症化には注意しながらなんとか乗り切ってくださいね。参考資料※ 「シナジス投与ガイド」(提供 アッヴィ合同会社/制作 リノ・メディカル株式会社)
2019年01月28日子どものお世話をしていると「子どもの体って不思議だなあ」と思うこと、たくさんありますよね。例えば、赤ちゃんの目。顔をのぞきこむと、こちらをジッと見つめているような気がしてきます。そんなときに思うのが「赤ちゃんはモノがどのくらい見えているんだろう?」という疑問ではないでしょうか。赤ちゃんの視力はどのくらいあるのか、また言葉を話せない赤ちゃんの視力をどうやってはかるのか。そうした子どもの体にまつわる疑問に回答してくださるのが、小児科医でありお茶の水女子大学名誉教授・榊原洋一先生です。今回は、榊原先生に「子どもの目」にまつわる不思議を教えてもらいました。お話をうかがったのは…医師・お茶の水女子大学名誉教授榊原洋一先生お茶の水女子大学人間発達教育研究センター教授。東京大学医学部卒業。専門は小児科学、小児神経学、発達神経学など。小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書は『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)など多数。■赤ちゃんの視力はどのくらい?――榊原先生、本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、生まれたばかりの赤ちゃんの「目」に関する疑問があります。ママなら誰しも思ったことがあると思うのですが、顔を近づけると、ジッと見つめているようなときもあるし、見ているのか、見ていないのか分からないときもあって…。赤ちゃんはどのくらいモノが見えているのでしょうか? 榊原洋一先生(以下、榊原先生):生まれたばかりの赤ちゃんは人の顔やおもちゃが目の前にきても追わない、焦点があっているように見えないので「目が見えない」と信じられていたんですね。でも、近年の行動観察などによって、目の前から大体数10cm程度のものは「ぼんやりと見えている」ことが分かってきました。――自分に近い距離にあるものは、ぼんやり見えているんですね…。榊原先生:そうです。生まれてすぐのころは近視に近い感じなのですが、生後5~6カ月を過ぎると、ぼやっとした輪郭のようなものが見えてくるようです。――生後5~6カ月くらいで輪郭のようなものが見えるようになるんですね。視力であらわすと、大体どのくらいになりますか?榊原先生:出生時の視力は0.02~0.03といわれています。それが1歳ごろになると、0.2~0.4くらいになる。そして3歳ごろには1.0以上になると考えられています。もちろん輪郭だけではなく、赤ちゃんは色も見えていますよ。■赤ちゃんの視力、どうやって調べるの?――3歳くらいで1.0くらいの視力になるんですね…! ちょっと疑問なんですが、赤ちゃんの視力ってどうやってはかっているんでしょう? 私たちが視力をはかるときは、アルファベッドの「C」がいろんな方向を向いた表を使って、Cにすき間が開いている部分を「右」「斜め左」などと伝えて視力を検査しますよね。でも赤ちゃんは言葉が話せません。一体どのような方法で調べられているのでしょうか?榊原先生:視力は「赤ちゃんならではの性質」を利用して測定されています。――赤ちゃんならではの性質…?榊原先生:そうです。赤ちゃんは何も書いていない紙より、縞模様が書いてある紙のほうをよく見つめる、という性質があるんですね。この性質を用いた視力の調べ方を紹介しましょう。まず赤ちゃんに2枚の紙を見せます。片方は灰色の紙、もう片方は縞模様が描かれた紙です(いずれも明度は同程度)。当然、赤ちゃんは縞模様の紙を長く見つめますよね。――…はい。榊原先生:そこで見せる縞模様の幅を段階的に、だんだん狭くしていくんです。各段階で縞模様の紙を見つめている時間も、それぞれ記録します。そして、灰色の紙を見つめる時間と比較してみるのです。――なるほど! その差を見ることで、視力をはかるということですね。榊原先生:そうです。当然最初は縞模様を見つめる時間のほうが長いですよね。でも縞模様の幅を狭くしていくうちに、見つめる時間が短くなってくる。大人も縞模様がどんどん細かくなっていくと、模様がだんだん見えなくなって、ただの灰色の紙のように見えてきますよね。赤ちゃんも同じで、縞模様を模様として判別しなくなってくる。縞模様を見つめる時間と灰色の紙を見つめる時間が同じになったときが、赤ちゃんの「視力の限界」を示すことになるのです。――考えた人、すごいです…!榊原先生:そうして調べたことで「新生児の視力は0.02~0.03くらい」というような具体的な数値が分かるようになったんですね。――「赤ちゃんは無地より縞模様をよく見る」という性質があるなんて、おもしろいですね…! 榊原先生:縞模様もそうですが、赤ちゃんは人の顔を一生懸命見る特性があるのも分かっているんですね。縞模様と顔を見せると、顔のほうをよく見るんです。だからお母さん、お父さんのなかには「こっちをよく見るな~」と感じる人がいるかもしれませんが、顔や目元、口元をよく見るというのは本当。実験結果でもそうした特性があることは分かっていますね。――赤ちゃんは人の顔をよく見るなと思っていましたが、それも赤ちゃんならではの特性だったんですね! ■赤ちゃんの白目「青く見えるのはどうして?」――先生、目に関することでほかにお聞きしたいのが「子どもの白目が青く見える」ことです。何か理由があるのでしょうか?榊原先生:ではまず、目の仕組みについて少し説明しましょう。白目は結膜という透明な膜でおおわれています。そして、結膜の下にはさらに強膜という膜がある。さらにその下には脈絡膜というのがあって、細い血管が網の目状に走っています。――白目の部分って、いろいろな膜が何層も重なっているんですね。榊原先生:そうですね。乳児の白目の強膜には、ある特徴があります。それは「大人と比べて厚さがとても薄い」ということです。だから強膜の下の脈絡膜を流れる血管の色が透けて見えるんです。これは静脈ですね。だから、白目の部分が青く見えるんです。――なるほど! 青く見えているのは、血管の色が透けていたからなんですね。でも大人になっても白目が青い人ってあまりいない気がします。子どもならではの現象なんでしょうか?榊原先生:大人になると、白目はやや黄色くなってきます。これは年齢とともに、肌のシミと同じ物質が沈着していくからです。――シ、シミ…! 目にも沈着するんですね(焦)。榊原先生:はい。それで、加齢と共に白目はやや黄色味がかってくるんですが、子どもの場合はまだ沈着がないので、大人に比べると青っぽく見えるようですね。小児科医である榊原先生のもとには、子育ての悩みや行動に関する相談がたくさん持ち込まれるそうです。それは、子育て経験の豊富な人がまわりにいなかったり、子育てや子どもの病気などを気軽に聞くことができなかったりする環境にある家庭が多くなっているからかもしれません。榊原先生は、そうした現状を踏まえ、子育て中の親が抱くであろう子どもの体と心に関する「答えが見つかりにくい質問」に真摯に向き合っています。今回は、子どもの「目」にまつわる疑問についてうかがいました。赤ちゃんならではの性質を知ることは新鮮であり、ちょっとした疑問も答えが分かることで「そういうことだったのか」と子どものことを理解できたような気がします。次回は、「子どもの頭はなぜ大きい?」「顔つきが変わるってどういうこと?」など、子どもの顔や頭に関する疑問について、榊原先生にお話をうかがいます。お楽しみに…!参考図書: 『大人が知らない子どもの体の不思議』 (講談社)榊原洋一著子どもと大人はどう違うのか。それは単に大きさだけの違いではありません。どうして夜泣きをするの? どうして寝相が悪いの? どうして落ち着きがないの? 子育て中に親が抱く「答えが見つかりにくい質問」にエビデンスの精神で解答することを試みました。子どもの心と体の不思議を理解する、手助けとなる一冊。
2019年01月26日お正月休みも終わって、保育園や学校、仕事が始まってすっかり通常モード。都内では連日、真冬の寒さに加えて乾燥した状態が続いたせいか、せっかくの冬休みも親子でインフルエンザにかかり散々だったという話もちらほら…。予防接種をすませていても、保育園や幼稚園、学校での集団生活ではインフルエンザを完全に防ぐことは難しいもの。流行のピーク期を迎えようとしているインフルエンザに、もしかかってしまった場合はどう対処すればいいのでしょうか? その症状や対処法、登園・登校基準をくわしく解説していきましょう。■インフルエンザ2019「患者数が急増! 警報レベルの流行地域が拡大」厚生労働省では全国約5000カ所の医療機関からの報告をもとに患者数を推計しています。発表によると、2018年12月31日から2019年1月6日までの1週間の患者数は約58.6万人(定点あたり16.30人)と、。前の週の患者数である約44.6万人(定点あたり11.17人)を大きく上回り、前週に引き続き、注意報レベルの基準値である定点あたり10人を超え、警報レベルを超える地域も拡大しています。都道府県別に見ると、岐阜県が49.12人ともっとも多く、愛知県が46.42人、北海道が33.57人と続きます。東京都など4都県では前週の報告数より減少がみられましたが、43道府県で前週の報告数より増加がみられ、まさに猛威をふるっています。年齢別では、0~4歳が約5.7万人、5~9歳が約5.0万人と全体の2割近くを10歳未満の子どもが占めています。大人と比べて子どもはかかりやすいので、注意したいですね。■インフルエンザ2019「どんな症状? どうやってうつるの?国内のインフルエンザウイルスの検出状況をみると、直近の5週間(2018年第49週~2019年第1週)ではAH1pdm09、AH3亜型、B型の順となっています。子どものクラスでインフルエンザが流行ってしまうと、なかなか防ぐ手立てはありません。ただし、予防接種を受けていればかかったとしても重症化を防げます。インフルエンザの症状や潜伏・感染期間、感染経路をおさらいしてみましょう。【症状】急激に発病し、爆発的なスピードで感染が広がります。 寒けや頭痛、高熱(39~40℃)により発病します。頭痛とともにせきや鼻水から始まる場合もあります。高熱が数日から1週間近く続きます。全身に倦怠(けんたい)感や筋肉痛がみられたり、おう吐、下痢、腹痛を引き起こす場合もあります。A型やB型などウイルスによっても症状が異なります。合併症として、脳炎、脳症、中耳炎などがあり、乳幼児は重症化しやすいので注意。けいれんや意識障害を引き起こし、後遺症が残るケースもあります。また、異常行動があらわれることがあり、子どもがある程度大きくなってからも見守りが必要といえます。【潜伏期間と感染期間】潜伏期間は1~4日、平均して2日です。感染期間は発病する1日前から3日目がピーク、7日目ごろまで続きます。低年齢児は感染が長引く傾向にあります。【感染経路】せきやくしゃみなどのしぶきによる飛まつで感染します。接触感染もあります。毎年12月ごろから翌年3月ごろにかけて流行。A型は大流行しやすいですが、B型は局地的な流行で終わることが多いとされています。■インフルエンザ2019「かかる前の予防法、かかってからの対処法」インフルエンザを防ぐためにはどうすればいいのでしょうか? また、実際にかかってしまったときはどのように対処するのがいいか、みていきましょう。【予防方法】<手洗い・うがい>飛まつ感染を防ぐためには、手洗いやうがいが効果的です。アルコール消毒もインフルエンザワクチンには効果があります。<加湿>空気が乾燥していると、気道の粘膜のバリア機能が低下し、インフルエンザにかかりやすくなります。家の中では、加湿器などを使って適切な湿度を保つように心がけるといいでしょう。目安は湿度50~60%です。<睡眠と栄養>十分な休養と栄養バランスのとれた食事は大切です。睡眠不足になりがちな忙しいママも気をつけたいですね。<外出>インフルエンザ流行期はなるべく人混みや繁華街への外出を控えたほうが安心。やむを得ず外出する場合は、薬局やコンビニエンスストアなどで販売されている不織布(ふしょくふ)製マスクをつけるといいでしょう。なお、予防接種は受けてからウイルスに対する免疫がつくられるまで2週間ほどかかるといわれています。これからの接種では、流行のピークには間に合わないかもしれませんが、3月でもインフルエンザが流行っていることはあります。今シーズンの予防接種の受け付けは終了している場合もあるので、まずはかかりつけの病院に問い合わせてみましょう。【対処法】「もしかしたら、インフルエンザかも」と思ったら、早めに小児科を受診しましょう。多くの医療機関に鼻腔(びこう)の粘膜を採取してウイルスの有無を調べる迅速診断キットが置かれています。検査後、インフルエンザと診断された場合、発症してから48時間以内であればオセルタミビル(タミフル)などの抗インフルエンザ薬を服用することで、通常は発熱期間を1~2日短縮することができるようです。発症後48時間を過ぎている場合、服用しても十分な効果は期待できないようです。抗インフルエンザ薬を服用するかどうかは、発症してからの時間や症状により、医師が判断することになっています。日本小児科学会によると、低体重児などを除き、生後2週以降の赤ちゃんも服用できる対象になっています。なお、発症してすぐなどの理由で体内のウイルス量が十分ではない場合、インフルエンザであっても診断キットでは陰性になることもあります。 また、抗インフルエンザ薬との因果関係は不明ですが、インフルエンザにかかった小学生以上の子どもや未成年は急に走り出す、徘徊(はいかい)するなどの異常行動を起こすおそれがあり、少なくとも発熱から2日間は見守る必要がありそうです。■解熱しても登園できない?「登校(登園)基準」 学校保健安全法では、発症した後 5 日を経過し、かつ解熱した後2日を経過するまで、登校はできません。幼児においては、発症した後 5 日を経過し、かつ解熱した後3日を経過するまでが、出席停止の目安とされています。抗インフルエンザ薬を使用して早く熱が下がった場合でも、発症してから5日は登校・登園しないほうが望ましいでしょう。保育園や幼稚園、学校によりますが、登園/登校許可書の提出を求められる場合が多いようです。全国的にインフルエンザ注意報が出て、地域によっては警報レベルにまで達し、急速に流行し始めたインフルエンザ。感染を広げないためにも、手洗いやうがいなどを親子で徹底して予防をしましょう。かかってしまった場合も、早期の対応が大切ですね。参考サイト ・厚生労働省「インフルエンザ(総合ページ)」 ・日本小児科学会「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」 ・日本小児科学会「2018/2019シーズンのインフルエンザ治療方針」
2019年01月15日夜間の小児救急外来をしていますと、腹痛をうったえるお子さんが受診して、便秘が原因であることはよくあります。「便秘くらいですいません…」と申し訳なさそうにする保護者の方も多いのですが、便秘には腹痛、排便困難感、食欲低下などの症状があり、子どもにとってとてもつらいものです。ある調査結果によると、子どもの10人に1人くらいは便秘といわれています(※)。便が出れば解消することから、病院へ行くほどでもないと軽く考えがちですが、便秘は立派な病気です。しっかりと治療、予防をしていく必要があります(主に1歳以上の子どもを想定しています)。便秘のしくみ「体内で何が起こっている?」便秘はなぜ起こるのでしょうか?まれに先天的な病気などで便秘になる場合もありますが、多くはそのような特別な原因がない便秘で、「機能性便秘」と呼びます。排便の機能は個人差があり、毎日スムーズに出る子もいれば、毎日は出ない子もいます。あまりスムーズに出ないタイプの子は、便が固くなったりして排便の時に痛みをともなうようになります。痛みがあるとさらに排便を我慢して、出しにくくなるという悪循環にはまってしまい、便秘症の完成、つまり慢性的な便秘となってしまいます。便秘の症状・診断「目安は1週間で3回未満、5日以上出ない」便秘の症状としては、便がたまっておなかがはってくるので、腹痛や食欲低下、ときにおう吐を引き起こすことがあります。また、排便困難感があって、排便のときに痛そうにする、顔を真っ赤にしていきむ、トイレをいやがる、なんとなく不機嫌、おしりが切れて血が出るといった症状が起こります。診断の目安として、1週間に3回より少なかったり、5日以上出ない場合は便秘となります(※)。ただし、毎日出ていても、排便のときに痛がる場合は、便秘として治療が必要です。排便の頻度や回数だけではなく、おなかを触診して便のかたまりに触れるか、おなかのレントゲンを撮影して便やガスがたまっているかなどから総合的に診断します。便秘の治療「医師と相談しながら進める3つの手順」便秘の治療には、医師と相談しながら、次の手順で進めます。1. 浣腸:まずは一度、便秘の悪循環をリセットする必要があり、浣腸してひとまず便をだします。これは病院でできますし、ドラッグストアで浣腸を購入する方法もあります。2 .浸透圧性下剤の投与:便をやわらかくして出しやすくするお薬です。これ自体で腹痛を引き起こすことは少なく、比較的使いやすいお薬です。浸透圧性下剤には、次の2つがあります。糖類下剤:マルトース(麦芽糖)。代表的なものにマルツエキス(和光堂)。塩類下剤:酸化マグネシウム。ただし、量が多いと下痢をしますし、少ないとあまり効果がないので、医師と相談して調整しながら適切な量を決めなければなりません。3 .刺激性下剤の投与:ラキソベロン(帝人ファーマ)を代表的なものとするピコスルファートナトリウムを主成分とした薬で、腸を動かし排便させるものです。液体のお薬を水に混ぜて飲むもので使いやすいのですが、排便時に痛みをともなうことがあります。また、排便によりおしりが切れている場合は、おしりのケアも大切です。ワセリンなどで表面を保護してあげてください。便秘の予防「まずは食物繊維をしっかり摂取」便秘の予防にはまず、食事療法が重要で、食物繊維をしっかりとります。一般的に子どもの多くが食物繊維不足ですので、野菜、海藻、果物、芋類、豆類などを意識的にとってください。小学生にとっては、学校で排便することが恥ずかしいということがあるかもしれません。学校でトイレに行けず、便秘を悪化させてしまうことはよくあります。そのような場合は、家で朝、もしくは夜にトイレに行って排便するよう習慣づけるとよいでしょう。規則正しい排便には、十分な睡眠や規則正しい食事、適度に運動が大切です。もちろん、学校でトイレに行くことは決して恥ずかしくないことを教育していくこともあわせて重要です。子どもの便秘「よくあるQ&A」便秘について診察室でよくうける質問をまとめました。Q. 水分をとったら便秘が治る?A. 水分不足で便秘になる可能性はありますが、たくさん水分をとっても尿として出ていきますので、それだけでは改善しません。Q. 浣腸はくせになるからしないほうがいい?A. 浣腸は便秘の悪循環を一度リセットするものです。浣腸で出したあと、緩下剤や食事でコントロールして悪循環にはまらないようにしなければなりません。浣腸しないと排便できないという状況は、くせになっているというよりは、便秘の悪循環から抜け出せていない状態ととらえてください。Q. トイレトレーニングの時期は?A. おむつがはずれる時期は2~4歳と幅があり、個人差が大きいです。トイレトレーニングの時期が本人にあっていないと、排便はつらいものになり、便秘の原因となる可能性があります。うんちをしてスッキリすることは気持ちいいいということ教えていくためにも、子どもにとって適切な時期に開始していかなければなりません。赤ちゃんの便秘「綿棒の刺激で排便サポート」最後に赤ちゃんの便秘にも少し触れます。生後すぐは排便の力が十分ではありません。肛門の綿棒刺激をしてアシストすることでだんだん自分でも出せるようになってきます。寝た態勢では排便しにくいので、首がしっかりしてきたら支えながら座らせると「うーん」ときばりやすくなります。それでもなかなか出ない時は、浣腸をしたり、医師と相談のうえで下剤の使用を検討してください。以上、最近増えている子どもの便秘に関する対策をまとめました。規則正しく、すっきりとうんちを出すことは健康のバロメーターです。便秘は、ときにのたうちまわるほどの強い痛みを起こすこともあり、「病気」ととらえてしっかりと予防、治療していきましょう。参考資料※ 「こどもの便秘−正しい知識で正しい治療を−」(小児慢性機能性便秘診療ガイドライン作成委員会)
2019年01月14日寒い日が続き、我が子のまわりでも風邪が流行っています。みなさんはいつ頃、どのようにかかりつけ医を決めましたか?今回は、わたしがかかりつけ医を選んだポイントをまとめてみました。小児科デビューは、地元で人気のクリニック人の病院の付き添いなんてあまりしたことがなかった私。自分自身も特にかかりつけ医がいるわけではなく、ましてやまだ自分で症状の説明もできない赤ちゃんのお医者さん探しとなるとより慎重に…。息子の産まれた産院では、すぐにかかりつけ医を決めるよう指導していたので、出産後すぐ近くの小児科の場所や数、評判をチェックしていました。実は、息子の初めての小児科受診は、退院して二日後のお昼頃。検温すると、なんだか熱が高い…!リサーチしておいたなかから、急遽一番近所にある小児科に行ってみることに。急な病気の時に頭に浮かぶ病院がいくつかあるのはとても心強かったので、妊娠中や産後すぐに小児科のリサーチをしておくことは大切だなぁと実感しました。息子が診てもらった先生は、感じがよく信頼できそうな印象。新生児~低月齢のうちは病院にかかる基準がわからない新米ママの私に、「心配しすぎくらいでいいですよ」と言ってくれたのも安心できました。結局、この小児科がそのままかかりつけ医に。通うようになって後から知ったのですが、ここの小児科地元では超人気。病児保育やおでかけ広場も併設していて、地元の人の小児科検診やワクチン接種はだいたいここなんじゃないかというくらい。風邪が流行っている時期などはすごく混みますが、何人か先生がいるし、ネット予約も出来るので長時間は待ちません。どの先生も感じがよいから質問しやすいし、親身に向き合ってくれることが一番の良いところでした。立地や設備も、病院を選ぶ条件に先生の印象のほかに、病院を選ぶ基準となるのは、通いやすい立地と、院内の設備。距離が近いというだけでなく、アクセスが良い立地であることも大事。私にとっては保育園の帰りにサクッと寄れる場所にあるというのもポイントでした。また、院内の設備も病院の心遣いの表れのひとつ。月齢が低いうちは少し離れたところの待合を使わせてくれるのは、伝染する風邪が流行っている時期などには有難かったです。もちろん、オムツ替えシートも完備、清潔なキッズスペースもあり、待合ベンチの配置や院内の雰囲気は総じて心地よいものでした。最近では、ワクチンや検診の予約がネットでできるかどうかも、病院選びのポイントに。具合の悪い赤ちゃんを抱えて電話するのは大変だし、診療時間外に調子が悪くなったときにもネットで予約すれば安心できます。いざという病気のときに、大型病院への連携は?また、いざという病気が判明した場合や、風邪が悪化して入院が必要な症状になってしまった場合など、その小児科がどういった大病院と連携しているかも大事です。小児科のサイトに、地域連携医の登録などが記載されていると知ることができます。息子を出産した病院は小児分野が専門の大病院で、自宅からバスで30分ほどかかりますが、救急もやっているので心配な症状の時は足を運んでいます。最新の研究も行ってるので、マイナーな病気を見逃してしまうなんて可能性も低い気がするので、地域の総合病院を知っておくのはリスクヘッジにつながると思います。かかりつけ医が、なかなか見つからない場合は?私の知人には、通っていた小児科が閉院になったり、「なんだか先生と合わない…」と感じているママも。そんなときに何よりタメになるのが、やっぱりご近所ママたちの声。児童館や地域の子育てセンター、保育園や幼稚園ママたちに話を聞いてみて。また、乳幼児家庭訪問で来た保健師に、地域のママたちが通っている小児科を聞いてみてもいいかもしれません。でも一番はやっぱり、自分と自分の赤ちゃんが、その小児科に合うかどうか。小児科難民だからっていろいろなところを転々とするのはおすすめできませんが、小さなうちは予防接種項目が続くので、数院回ってみるのも手。納得できるかかりつけ医選びのためにも、かかりつけ医が休診だったときのためにも、いくつかの小児科を知っておく方がいいと思います。保育園生活スタート、鼻水の症状は耳鼻科に!保育園入園前は、前述した小児科だけに通っていた息子。しかし、入園後は治れども治れどもちょっとした風邪をうつしあってしまい、鼻水がだらだら出ている状態が続いたことも。基本は家の自動吸引器で吸ってるのですが、あまりにひどい時は病院に行きます。鼻水の症状が強い場合は、小児科ではなく耳鼻科に連れて行くように。耳の中を細かく見たり、薬をつけたりする機械などが耳鼻科のほうが充実しているからです。こちらも、近所の耳鼻科が一児のママである先生がやっていて、子どもを診せやすかったのでかかりつけに。待合にキッズスペースもあったり、ネットで順番待ちも出来るので助かっています。小児科以外の病院にかかる場合、子供歓迎の雰囲気があると◎。風邪から中耳炎になりかけてしまったときにもすぐに見つけてくれて薬もよく効いたのでこれからも耳や鼻の症状はこちらにかかろうと思っています。最近では、なんだか耳を気にしているなと思って耳鼻科に連れて行ったらものすごく大きな耳垢が!綿棒ではとれない耳垢ってよくあることらしく、いつでも来てくださいねと言ってくれました。お子さんの様子が気になったら行ってみてくださいね。1歳を過ぎた頃から…、歯医者さんの選び方は?息子は、1歳ではじめての歯医者さんを経験。歯磨きが苦手な息子に悩んでいたので指導を受けたかったことと、フッ素塗布がきっかけです。歯医者さんは口の中を長時間診るため、こどもが嫌がってしまうと診察にらないので、お医者さんとの相性はとっても大事。赤ちゃん慣れしていて優しい先生のところに通うことにしました。それでもやはりグズりますが、なんとか診察できています。小児専門歯科もたくさんありますが、虫歯や病気などでない場合は、検診やフッ素塗布がメインなので、近所で通いやすく雰囲気の良い歯科で十分かなと思います。病院へ行く時の注意点!診察時の吐き戻しの心配があるので、診察の30分~1時間前までには食事や授乳を済ませておきましょう。熱を測ったり、防寒やマスクも忘れずに。病院へいくときは、保険証、乳児医療証、診察券、お薬手帳、この4点セットは、母子手帳ケースにまとめて!それと子どものことに気を取られて忘れがちですが、感染予防にママ用マスクも必須です。キッズスペースや絵本がない病院では、おもちゃや絵本があると待ち時間に退屈させずに済みます♪着替えやオムツなども適宜持参して。子どもが風邪や病気、ケガなどでつらいときにママが焦ってしまっては本末転倒。信頼できるかかりつけ医さんにを見つけて、親子で安心して診てもらえるといいですね。
2019年01月11日冬になるとノロウイルス胃腸炎が流行して、下痢やおう吐で小児科を受診する子が増えます。今回は、下痢やおう吐の対策、ノロウイルス胃腸炎を中心に解説していきます。ノロウイルス胃腸炎の症状は? 診断、治療は??ノロウイルス胃腸炎とは、どんな病気なのでしょうか? その症状や合併症、診断のポイント、治療についてご紹介します。ノロウイルス胃腸炎、その症状は?ノロウイルスはおう吐を主な症状として下痢、腹痛、発熱を認め、冬に流行しやすい胃腸炎です。子どもが感染すると、そこから大人にも感染することが多く、家族内で流行することも珍しくありません。数日間の症状ですが激しいおう吐などから脱水になってぐったりしてきたり、おしっこが出なくなったりします。この合併症に注意ノロウイルス胃腸炎の合併症として、けいれんを起こす「胃腸炎関連けいれん」があげられます。これは、ノロウイルス以外の胃腸炎でも起きるものですが、熱性けいれんとは異なり、熱がなくても起こる症状で、数秒~数分の短いけいれんを反復するという特徴があります。熱性けいれんとは治療薬が異なるので、けいれんが見られた時には医師に胃腸炎症状があるかないかを伝えることはとても重要です。ノロ、それとも? 医師の診断ポイントおう吐にはじまり、下痢症状をともない、数日の胃腸症状ののち改善し、周囲でも流行しているようならノロウイルス胃腸炎の可能性が高いと医師は診断します。ノロウイルス胃腸炎の場合、おう吐から始まることが多いですが、おう吐=ノロとは限りません。実は、おう吐=ノロと考えるとほかの疾患を見逃すことになり、思わぬ落とし穴があります。例えば、髄膜炎や心筋炎などでもおう吐の症状があります。ノロウイルス胃腸炎かどうかの診断については、便の検査はあるものの必須ではなく、保険診療での検査も3歳以下や65歳以上の高齢者のみと制限があります(子どもと高齢者は悪化しやすいため)。そのため、便の検査は補助的に用いて、基本的には診察や経過で総合的に医師が判断します。特効薬はなし! ノロウイルス胃腸炎の治療特効薬はありません。下痢としてウイルスが体内から出ていけばだんだんと改善しますので、症状のある数日間、脱水にならないようにしのぐことが最も重要です。薬としては、症状を緩和させるために整腸剤や、漢方薬の五苓散などが使用されます。オーエスワン/OS-1(大塚製薬)など経口補水液による脱水対策が大切ですが、飲めない場合は点滴を考慮します。これらはノロウイルスに特別な治療ではなくて、ほかの胃腸炎でも同じ対症療法です。つまり検査でノロウイルスを確認しなくても治療は可能で、おおまかに胃腸炎ということがわかればそのあとの治療は一緒です。そのため、ノロウイルス胃腸炎かどうか検査するためだけの受診は必要ないといえます。どちらかというと、そのおう吐がほかの病気ではないこと、胃腸炎であることを確認することを一番の目的としたほうがいいでしょう。受診するか、しないか…その目安は?受診するかしないか迷った時は、脱水傾向があるかどうかが目安になります。つまり、水分がとれずぐったりしている、尿が少ない、口がかわいている、などの症状です。脱水の症状があれば、点滴が必要になる可能性があるからです。逆に言えば、脱水の心配がなく水分がとれているようであれば、無理をして受診をしなくても家でしばらく様子をみてもかまわないでしょう(注:医師により判断は異なります)。もちろん不安だったり、ほかの病気の心配があれば受診したほうがベター。ただ、ある程度元気で、脱水の症状が出ていなければ、ホームケアで自然と治っていく病気であるといえます。一番こわい脱水症状を防ぐ「吐き気がある時の水分摂取」ポイントは症状が強い数日間、ここをいかに経口補水でしのぐかです。よく、おう吐するから飲ませないと考える場合があるかもしれませんが、おう吐して水分が少ない状態でさらに経口摂取を絞れば、すぐに脱水になってしまいます。飲ませ方には、ちょっとしたコツがあるので、以下の手順ですすめてみてください。脱水症状を防ぐ水分の取り方1.おう吐直後はすぐまたもどしてしまうので、水分は飲ませないほうがいいでしょう。30分くらい時間をあけます。2.吐き気がおさまったタイミングで、水分を一度口に含ませてみてください。スプーン1さじでかまいません。3.1さじ飲めたら、2さじ、3さじと段階的に様子をみながら水分量を増やしていきます。吐かない程度に少量づつ体に水分をいれていけば、脱水を予防できます。※もし、1さじも受けつけない、数さじでもおう吐するようであれば、病院での点滴を考えたほうがいいでしょう。飲ませる水分は、アクアライト(アサヒグループ食品)など乳児用イオン飲料や、オーエスワン/OS-1などの経口補水液がいいでしょう。ナトリウム(電解質)や糖分が入っていないと、血液中のナトリウムが少なくなったり、低血糖によって倦怠感(けんたいかん)を感じたり、時にけいれんを起こす可能性があります。飲み物はできる限り、電解質や糖分を含むものにしてください。経口補水液が飲みにくいという場合、軽症であればりんごジュースなどと半々で割って飲みやすくしてから与える方法もあります(※)。家族への感染を食い止める! 予防法とホームケア親が感染すると看病を含め2倍、3倍のしんどさになります。下痢、おう吐の処理は手袋をして、可能であればビニールエプロンを使って感染対策をしてください。寝具におう吐すると後片付けが大変なので、ペットシーツなどをしいておくのも一つの方法です(我が家も一度ひどい目にあいました…泣)。子どもがおう吐しそうになったときすぐに受けることができるよう、洗面器やボウルにビニールをかぶせておくと便利です。もし出かける場合はおう吐に備えて、紙袋+ビニール袋や、着替え(親の分も)、手をふくウェットティッシュなど用意しておくことをおすすめします。予防には、手洗いが基本です。できるだけ流水でウイルスを洗い流しましょう。ノロウイルスは飛びやすいので、いろいろなところに付着しているため、ほかの人がさわる可能性のあるところは極力さわらず、どこかさわったあとは手を洗うようにしてください。アルコール消毒は効果が乏しいので、ハイター(花王)といった次亜塩素酸ナトリウム配合の商品で除菌するのがおすすめです。ドラッグストアにはノロウイルス対策と書いていても、成分がアルコールという場合があります。買う時の参考にしてくださいね。参考資料※ Effect of Dilute Apple Juice and Preferred Fluids vs Electrolyte Maintenance Solution on Treatment Failure Among Children With Mild Gastroenteritis: A Randomized Clinical Trial.
2018年12月31日いよいよ本格的な冬の到来。子育て中の親のみなさんは、風邪やインフルエンザ対策として子どもに予防接種や手洗いうがいの徹底、お部屋の湿度管理、除菌など忙しくされているのではないでしょうか?しかし、あらゆる対策を施しても、学校や幼稚園など集団で過ごしている子どもたちはどうしても感染してしまいますよね。「混雑した小児科を受診するより、内科で受診したほうが早く済むかしら……」「坑インフルエンザウイルス薬や抗菌剤ってどのように処方されているの?」など、みなさんも疑問を抱いたことがあるはず。今回は、そんな「小児科についての疑問」や「小児科から一般内科への移行年齢と処方薬」についてのお話です。■ 小児科は0歳児から成人まですべての患者が対象!0歳児のころから予防接種や定期健診を始め、お世話になることが多い小児科。tkc-taka / PIXTA(ピクスタ)小児とは一般的に15歳くらいまでを指すそうですが、子どもの風邪や肌荒れ、心身症まで診てくれるなどの守備範囲の広さから、小児科は親にとっては強~い味方。筆者としてはなるべく長くお世話になりたいくらいですが、子どもが成長すると「小児科は小さい子どもが多いから、なんとなく恥ずかしい」などという感情が芽生え、一般内科に移行する子どもが多いようです。しかし、小児科について定められた年齢制限はないそう。実は筆者も、子どもの予防接種ついでに30代にして小児科を受診した経験があります。小児病棟には、高校生や成人の患者さんが入院することも珍しくはなく、0歳児から成人まですべての患者が対象と考えていいようです。Graphs / PIXTA(ピクスタ)■ 小児科医と一般内科医でまったく違う”移行期間”小児科受診に定められた対象年齢はないということは分かりましたが、”小児科から一般内科への移行期間の目安”について、医師たちはどう考えているのでしょうか。「株式会社アンテリオ」は、過去1か月間に小児患者(15歳以下)を10名以上診療した医師を対象に「小児患者の受診」について調査を実施しました。小児科から一般内科への移行時期の目安となる年齢についてのアンケート結果を見てみると……、最も多い回答は、一般内科医は「12歳(中学校入学)ごろ」、小児科医は「15歳(高等学校入学)ごろ」となりました。なんと小児科医と一般内科医では、移行期間の目安に3歳もの差があることが判明!両者の回答を見てみると移行期間は12歳~18歳頃と幅広く、一般内科への移行は親やお子さんが判断されても問題はないようにうかがえます。kou / PIXTA(ピクスタ)■ 薬の処方方針は年齢によって違う?次に、小児科医の坑インフルエンザウイルス薬の処方方針を見てみましょう。”1歳未満の新生児・乳児に対してはほとんど処方しない”と回答した医師が17%いるものの、ほとんどの医師がどの年齢の患者に対しても坑インフルエンザウイルス薬を投与しているという実態が明らかになりました。6歳まではドライシロップ(粉薬)が多く処方されていますが、6歳を超えると薬の選択肢が増え、10歳以上になると吸入薬が約6割。tkc-taka / PIXTA(ピクスタ)年齢に合った剤型が処方されているようです。更に、厚生労働省で適正使用を求められている”抗菌剤”の使用について見てみると、かぜ症候群(主に上気道症状、発熱等)に対する抗菌剤の使用については、小児科では「ほとんど処方しない」とする医師の割合が85%。その一方で、一般内科では「積極的に処方する」と「患者側の希望により処方する」とする医師数を合計すると半数にのぼることがわかりました。抗菌剤は中耳炎や気管支炎、肺炎、扁桃炎など細菌による病気を早く治すためや、重い病気から命を救ってくれるものでもありますが、普通の「かぜ」であればウイルスが原因のため効きません。普通のかぜのときに予防のために抗生物質を飲むことは、体内の菌のバランスが壊れ耐性菌(抗生物質が効かない菌)ができてしまうこともあるのです。中耳炎に対しては、ペニシリン系抗菌剤を使う医師の割合が、一般内科よりも小児科の方が高いため、小児科医師の抗菌剤の適正使用に前向きな姿勢がうかがえました。tadamichi / PIXTA(ピクスタ)いかがでしたか?子どもの場合は細菌感染なのかウイルス感染なのか判断が難しい場合があります。抗生剤が処方された場合は、用法と容量、内服日数を必ず守り、飲みきるようにする。そして自己判断による抗生剤の内服や、中途半端な抗生剤の使用の中止はお子さんの将来にとってよくありません。薬の処方について不明な点は、診察の際に質問されることをオススメいたします。【参考】※小児患者の受診に関する調査小児科医師が考える「小児科卒業」の目安は15歳医療従事者への簡易Web調査「TenQuick」で調査※小児科医へのよくある質問-大分大学医学部※「抗微生物薬適正使用の手引き 第一版(ダイジェスト版)」を作成しました-厚生労働省
2018年12月22日咳は子どもには頻繁に起こる症状で、咳込んだり眠れなかったりして見ていてつらいものです。子どもが咳込むとき、家でしてあげられることは? 受診のタイミングは? と悩むことも多いのではないでしょうか。今回はそんな咳の症状や改善方法について解説します。咳をする仕組みって何??まず咳の仕組みはどのようなものでしょうか。息を吸うと空気が口や鼻から入って、のど、気管を通って肺にいきます。この通り道を「気道」といいます。この気道に細菌やウイルス、タバコの煙やアレルギー物質、食べ物などの「異物」が入ってくると、それらを外に出そうとして「咳反射」が起こります。食事中にむせると咳が出ますが、これは異物としての食べ物が気道に入ってくることで反射的に咳が出ているのです。このように咳は異物を外に出すための生理的な反応といえます。咳の原因って何??では、咳の原因にはどんなものがあるでしょうか?基本的には、気道を通る異物すべてということになります。主な原因は以下です。感染症による咳いわゆる風邪(上気道炎)は気道にウイルスや細菌が侵入して咳を引き起こします。また鼻水がでてきて、のどに垂れ込んでくることでも咳を起こします(=後鼻漏:コウビロウ)。自分で鼻をかむことができない子どもたちにとって、後鼻漏は咳の原因として大きなものです。また風邪により痰がからんでくると、それを出すために生理的な反応として咳がでます。誤嚥(ごえん)による咳食べ物や唾液が気管に入ってしまうことで咳を引き起こし、ときに肺炎を起こすこともあります。胃食道逆流(いしょくどうぎゃくりゅう)による咳胃液の逆流により胃液が気道に入って咳を引き起こします。食後や、仰向けの態勢で逆流は起こりやすくなります。気管支喘息による咳もともと気道が過敏な状態であるために、アレルギー物質やタバコの煙などの気道に入ってきた刺激に対して咳が出やすい状態になっています。受診のタイミングは? 咳で困ったときの判断基準ではこのような場合受診のタイミングはどうすればよいでしょうか? 緊急性のあるものとそうでないものがありますが、以下のような呼吸困難を伴うものは緊急性があり、早く受診したほうがいいでしょう。百日咳とくに3ヶ月未満の赤ちゃんはまだ予防接種をうけていないため重症になりやすいです。コンコンコンコンと連続的に咳をして、顔を真っ赤にして苦しそうにヒューっとうなります。※1 動画参照仮性クループのどの奥のほうにある声門の下が腫れるもので、犬が吠えるようなケンケンした咳を特徴として、呼吸困難を認めます。※2 動画参照一方、風邪の咳は1~2週間ほどで落ち着くことが一般的で、緊急性はないのですが、それ以上続く場合は肺炎や喘息など他の原因が隠れている場合があり、受診したほうがいいでしょう。肺炎の有無の確認にはレントゲン撮影が必要です。咳の特徴としては気管支喘息の場合、日中はそれほどでなくても朝や早朝、運動後などに咳き込むことが多く、肺炎など感染症によるものは、日中と夜の咳のギャップは少ない傾向です。…では治療はどのようなものがあるでしょうか。気管支喘息や百日咳、クループなどは病気ごと個別の治療があり受診が必須ですが、一般的な風邪の咳の治療であれば、ご家庭でできるものもあります。風邪の場合、咳をして異物を出すことで自然に治っていきますから、必ずしも病院で咳止めをもらわなくていいと考えます。咳にはさまざまな治療がなされますが、医学的には「一定の効果があるもの」と「効果が乏しいもの」とが混在しているというのが現状です。以下にまとめてみました。■咳の改善に一定の効果が期待できるもの(1)鼻水吸引:鼻を吸引することが後鼻漏に効果的です。小児科や耳鼻科でもできますが、電動鼻吸引器を購入して自宅で何度も吸うとより効果的です。寝ているときに垂れ込みやすいので、寝る前に吸うとよいでしょう。下記の通り、書籍「小児の咳嗽診療ガイドライン」(日本小児呼吸器学会)にも鼻水吸引が効果的だと記載されています。乳児の後鼻漏は咳嗽のみならず喘鳴や吸気性呼吸困難、無呼吸などの随伴症状をきたしたり、哺乳力低下や不機嫌などの全身症状を合併することもある。鼻汁吸引はこれらの症状の改善にも有用である出典: 小児の咳嗽診療ガイドライン / 日本小児呼吸器学会 P85 (2)ヴィックスヴェポラッブ®:ドラッグストアでも購入できる塗り薬のヴィックスヴェポラッヴは夜間の咳を鎮める効果があるというデータがあります。※3(3)ハチミツ:ハチミツにも咳を鎮める効果があるというデータがあります。ただし、ボツリヌス症の危険性があるため1歳未満の子どもには与えないでください。※4痰切りのお薬も一定の効果があるというデータがあるため使用を考慮していいかもしれません。また乾燥した空気は気道への刺激となる可能性があり、部屋は加湿したほうがいいでしょう。■咳の改善に効果が乏しいもの(1)鼻水のお薬:よく鼻水のお薬として抗ヒスタミン薬が処方されていますが、これはアレルギー性鼻炎のお薬ですので風邪の鼻水への効果は期待できません。後鼻漏の咳には抗ヒスタミン薬より鼻吸引がいいでしょう。(2)気管支拡張薬のテープ:ホクナリン®やツロブテロール®などのテープは気管支喘息のお薬ですので、咳を鎮める効果は乏しいです。咳の時は、わが子にも患者さんにもこのような対策をしています。ちなみにわが子は風邪の時咳き込んで嘔吐しやすいので、寝床にタオルやゴミ袋を用意しています。だんだんと寒くなり風邪が流行する季節になってきました。咳の時にはこれらのポイントを参考にしてくださいね。参考資料※1 Whooping Cough/Indian Health Service ※2 KidMed/Croup: What Parents Need to Know to Breathe Easier ※3 NCBI/Vapor rub, petrolatum, and no treatment for children with nocturnal cough and cold symptoms. ※4 NCBI/Honey for acute cough in children.
2018年12月06日小児科は、大きな泣き声が聞こえてきて、それだけで子どもにとっては怖いところに思ってしまいます。ムスメちゃんは、意外にも優しい先生やおもちゃに心奪われて、ずっとニコニコしていたそう。しかし、注射されたとたん…。「病院が怖い~」と泣いて困っているママ必見のお話です。ムスメとちゅうしゃ近所の小児科に、0歳の頃からずっとお世話になっています。初めて受診した時、ムスメは優しい看護師さんや先生、魅力的なおもちゃの数々にすっかり心奪われずーーっとニコニコしていました。診察が始まってもニコニコ、おなかを出して聴診器を当ててもらってもニコニコ。しかしひとたび注射器の針が腕に刺さると「だまされた!」と言わんばかりの形相でギャン泣きでした。まあそりゃそうですよね…その後はすっかり病院が怖くなってしまったようで、何度も何度も予防接種に来るたびにその恐怖は勢いを増し…1歳の頃はもう病院に入っただけで泣くようになっていました。当然診察中はさらに大暴れで、必殺大人の腕力で押さえつけてチクッとやってもらう日々。隣で看護師さんがおもちゃの音を鳴らしてくれても、先生の優しい笑顔や声も、何もムスメに届く事はありませんでした…。1歳半を過ぎて予防接種が終わると病院にかかる頻度はだいぶ減りましたが、それでも風邪をひいたりしたときに受診するとビクビク。注射がなくても病院は怖い…うーん、わかるよ、わかる。消毒液のニオイとか、なんか痛いことされそうな気がしてくるカチャカチャ音とか、ほかの子の阿鼻叫喚とかね…。私自身病院大嫌いだったので、子どもを怖がらせないために「大丈夫だよ~」と努めて明るく振る舞っていても、内心は過去の恐怖がよみがえってきて一緒にビクビクしていました。笑この頃には少しずつ言葉がわかるようになってきていたので、「病院怖いね、でも病院行くとバイキンやっつけてくれるお薬もらえるからね…あとシール(お薬の服用チェック用)ももらえるよ!」などと説得しながらときどき足を運んでいました。そして今年もインフルエンザの予防接種のシーズンがやってきました。ああ嫌だなぁ…今年も泣くんだろうな…と思いきや、スッと椅子座ってパッとおなか出してアーンするではありませんか。え? 泣かなくていいの今日?注射なしの期間が長かったせいか、看護師さんが注射器を出しても気付かず、なんなら刺されても数秒気づかず、3秒後くらいに少し痛がって終了でした。アンタ…成長(?)したわね…!先生と看護師さんの見事な連携にただただ感謝するのでした。
2018年11月25日最初のきっかけは上の子の咳。元気でしたが元々喘息があるので念のため小児科を受診。特に検査などはなく、薬をもらって帰宅。その後数日で元気になりました。そして数日後、当時2ヶ月半だった末っ子四男が咳をしはじめました。上の子同様、普通の風邪がうつってしまったんだろうとこの時までは思っていました。その日に小児科を受診。すると検査の結果RSウイルスに感染していることが判明。その時は熱もなく、咳もあまりひどくなかったことから一旦帰宅し、翌朝再度受診するように言われました。そして夜。眠れてはいるけどどうも咳がひどくなってきている気がする…。朝まで様子を見るのは恐い気がして夜間の救急を受診。こういうときの母親の直感とはよく当るもので、そのまま即入院になりました。最初は付き添い入院。病院到着後、すぐにモニターと酸素と点滴がつけられました。小さな体にたくさんの管を付けられて辛そうにする四男を見ながら、私はただただ抱っこすることしかできず…。RSウイルスは3~4日が一番ひどくなるそうで、結局ICUに入ることになりました。ICUは付き添い入院ができません。生後間もないのに初めて離れる事になってしまいました。3日間酸素マスクを付けられ、大きなベッドで眠る四男を見るたびに泣きそうになりながら連日通いました。その後、一般病棟に移動。再び付き添い入院に。看護師さん曰く、今年はRSウイルスが大流行していて、例年よりもかなり多くの3ヶ月未満の赤ちゃんが入院していると言っていました。その後無事に退院した四男。RSウイルスにかかると喘息のリスクが高くなると言われました。今も念のため、咳をしだすと早めに小児科へ行くようにしていますが、幸い今も喘息にはなっていません。お恥ずかしながら、5人目にして初めてRSウイルスの怖さを知った私(たまたまなのか、上の子達はだれも乳児期にRSに感染したことがありませんでした)。『RSウイルスは何度も感染するが、幼児さんくらいだとただの風邪のような症状で治るパターンが多く、知らない間に下の子にうつしてしまう…というケースが多いです』と先生が仰っていました。今ではすっかり元気な四男ですが、当時は本当にヒヤヒヤしました。
2018年11月21日前回はインフルエンザの概要と予防法についてお話しました。では実際にかかった、もしくはかかったかもしれない時はどうすればよいでしょうか?検査のタイミングは?流行期に発熱があると、「インフルエンザかも?」と心配になり受診されると思いますが、まずインフルエンザウイルスの迅速検査(鼻綿棒)は発症から24~48時間が望ましいということを押さえておいてください。※1中には、「まだ発熱したところなので検査できません」と検査を断られた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。それは発熱してから時間が経過しないとインフルエンザ検査の意義が乏しいからです。例えば、発熱してから2時間後に受診して検査結果が陰性だった場合でも、感染しているのか、していないのか判断できません。あまりに短時間の検査では空振りが増えてしまいます。仮に発熱してからすぐに検査をしても、陰性の場合は翌日熱があれば再検査することになり、大きな負担となります。また受診した待合室などでインフルエンザやあるいは他の感染症をもらってしまう可能性があり、発熱してすぐの受診はリスクが高いと考えられます。インフルエンザの検査は必須ではない実は診断に検査は必須ではありません。鼻綿棒の検査感度も100%ではないため、流行期に発熱、関節痛や寒気などの症状があり、診察上疑わしい場合は検査せずにインフルエンザと診断することがあります。(注:医師により判断は異なります)。治療薬の特徴は?インフルエンザと診断された場合、さまざまな抗インフルエンザ薬がありますが、ウイルス増殖を抑制して発熱の期間を短くすることが期待できます。ウイルスが増えきってからでは効果が乏しいため、抗インフルエンザ薬は発症から48時間以内の投与が原則となります。主なお薬の特徴と副作用主なお薬の特徴と副作用、使い所についてまとめました。■タミフル®(オセルタミビル)内服薬で1日2回、5日間飲みます。1歳未満でも使用可ですが、主な副作用として嘔吐(24.3%)や下痢(20.0%)といった消化器症状があります。※2 以前は10代のお子さんでタミフル®によると思われる異常行動が心配され、厚生労働省から投与を控える措置がなされていました。しかし異常行動はインフルエンザそのものによる症状であり、タミフル®とは直接関係ないことから、今後、措置は見直される方針です。■リレンザ®(ザミナビル)吸入のお薬で1日2回、5日間吸入します。確実に吸うことができれば効果的ですが、吸入薬なので5~6歳以降でないと難しいものです。■イナビル®(ラニナビル)リレンザ同様吸入薬ですが、1日吸入してその後効果が1週間持続する便利な薬です。しかしその反面、吸入に失敗すると(例えば吸入後咳き込むなど)効果が十分得られなくなってしまうというデメリットもあります。※吸入薬のリレンザ、イナビルに共通して言えることですが「乳糖」が添加されているため、牛乳アレルギーの場合は稀にアレルギー症状が出る場合があり注意しなければなりません。■ゾフルーザ®(バロキサビル)平成30年3月から発売された最も新しいお薬で、1回の内服で治療が終了する点がメリットです。今シーズンの流行で使用が増えると思われますが、新しい薬のため医師の使用経験が少ないということが一つのデメリットです(私もまだ使用していません)。■ラピアクタ®(ペラミビル)唯一の点滴のお薬です。1歳未満も使用できます。脳症や肺炎など入院治療が必要な場合や、基礎疾患のために内服や吸入ができない場合などに選択されます。点滴のため使用できる医療機関は限られている点に注意してください。また漢方薬の麻黄湯を使うこともあります。上記の抗インフルエンザ薬とは作用ポイントが異なりますが、治療効果のエビデンスがあるため使用を考慮していいと思います。併用も可能です。※3インフルエンザのお薬はさまざまあり、医師や施設によっても方針が微妙に異なります。ここにあげた情報を参考にしつつ、治療方針は担当医とご相談ください。ホームケアと再受診のタイミングインフルエンザにだけ特別なケアはなく、基本的には発熱時の対応と同じです。( 第3話 、 第4話 参照)。倦怠感が強く食欲が落ちるので水分をこまめに取り、脱水の対策をしてください。タミフル®の消化器症状が出た場合は受診して薬の変更を考慮します。発熱が続く場合には肺炎や中耳炎などの合併症を伴ってきているかもしれませんし、「ぼーっとする」「わけのわからないことを言う」などの症状がある場合は、脳症の可能性があり受診した方がいいでしょう。インフルエンザは倦怠感が強く受診そのものも負担となりますので、この記事を読んで、受診すべきなのか?タイミングはいつがよいか?などの目安にしていただけたら幸いです。参考資料※1 Performance characteristics of a rapid immunochromatographic assay for detection of pandemic influenza A (H1N1) virus in children. ※2 タミフル添付文書 ※3 A randomized, controlled trial comparing traditional herbal medicine and neuraminidase inhibitors in the treatment of seasonal influenza. 2018/2019シーズのンインフルエンザ治療指針(日本小児科学会)
2018年11月16日発達障害がある子どもと家族がつむぐ物語を聴き、記したい知的障害のある自閉症児の成長記録を書くことは長年の私の願いでした。私はこれまでに、先天性染色体異常によって短命という運命にある障害児の記録や、自宅で人工呼吸器を付けている子の記録を書いてきました。もちろん、障害の重さに「軽重」などありません。それぞれのご家庭が大変な思いを抱えています。ただ、知的障害児には体が元気であるという特徴があります。私のクリニックにも何人もの知的障害児が来ます。その子たちは、クリニック中を走りまくったり、大きな声を上げたりで、母親の神経は休まらないように見えます。社会との接点が多く、そのたびに衝突をくり返す知的障害のある子の親には、寝たきりの重症児を持つ親とはまた違った種類の苦労があるのだろうと私は以前から思っていました。さらに自閉症という障害は、社会的な障害と言えます。他者とのコミュニケーションが難しかったり、強いこだわりのために社会の中で大きなトラブルを抱えたりするからです。Upload By 松永 正訓私は、知的障害のある自閉症児がどういう生活をしているのか、具体的に知りたいと思っていました。そんな時に出会ったのが、立石美津子さんです。立石さんは幼児教育に関する著者・講演家です。そして知的障害のある自閉症の息子さんをシングルマザーとして18年育てています(取材・執筆時は17歳)。以下、立石さんのことを母と、お子さんの名前を勇太君(仮名)と書きます。私は、聞き書きという形で母から見た勇太君との17年を、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)という本にまとめました。本稿ではこの本を書いたことで、私自身が学んだことを書いてみたいと思います。我が子を、ありのまま受け止めるまで予測をしていたこととは言え、母は我が子の障害を簡単には受け入れませんでした。こどものこころ診療部の専門医に、2歳の勇太君のことを「知的障害を伴う自閉症」と診断された時、母は医師に対して強い怒りの気持ちを向けます。そして同時に我が子に対して「こんな子は要らない」と拒否感すら持ちます。母は自分の親から英才教育を受けて育ったため、勇太君にも英才教育を施していました。勉強ができて、いい学校に行って、いい会社に入って、いい家庭を築くことは、母にとっての夢だったのです。しかしこの夢はよく考えてみれば、私たちの誰もが心の中に抱く夢です。そういう意味では「普通」の夢です。「普通」であることを否定されそうになった母は、医師の診断を誤診だと考え、ドクターショッピングに走ります。5つのクリニックや病院を回った末に、母は自閉症という診断を認めざるを得なくなります。しかし、だからと言って勇太君の未来を諦めてしまうわけではありません。2つの施設に通って療育を受けるのです。けれども、勇太君を「普通」の子にすることはできませんでした。療育の成果はありましたが、勇太君はあくまでも知的障害を伴う自閉症児なのです。保育園に通う勇太君はみんなと同じ行動が取れません。一列に並んで同じ格好をして歌を歌う子どもたちと離れ、勇太君は一人で絵本を眺めています。その姿を見て、母は絶望的な気持ちになります。この気持ちから母はなかなか抜け出すことができず、抗うつ剤を服用することになります。ではなぜ、母は我が子の障害を受容できたのでしょうか?それは偶然ある日、精神科病院の鉄格子の向こうに小学生くらいの子どもが佇んでいるのを窓の外から見てしまうからです。その病院は、適切な育児を受けなかったためにストレスが昂じ、うつ病や統合失調症を併発してしまった自閉症児が入院していることで知られていました。母は見知らぬ少年の姿を見て、ようやく我が子が「普通」に生きていくことを諦めるのです。子どもではなく、親自身が変わる障害児を授かる親の心理的変遷を分析した専門家の報告は多数ありますが、ある学者は、障害児の誕生を親にとっての「期待した子どもの死」と見なしています。死の受容というのは、決して簡単なことではありません。最終段階の受容とは「諦め」であると言えるでしょう。しかしながら、障害児を育てるためには「諦め」の先があるはずです。つまり「障害を生きる」という人生が待っているのです。このためには、今まで持っていた古い価値観を捨てて、新しい価値基準を構築し、我が子に対して「あなたは、あなたのままでいい」と承認する必要があります。この作業は、まさに「普通」であることの呪縛を断ち切り、世間並みという横並びの生き方と決別し、我が子にとって最も幸せな生き方を理解し、寄り添い、伴走することが重要になります。障害を持った子どもを変えようとしてはいけない。それは無理なことです。親自身が変わらなくてはいけないのです。「普通」という条件付きの愛から、無条件の愛へ私は聞き書きを進めるうちに、知的障害のある自閉症児を受容し育てるということには、健常児の子育てにつながる課題があることが見えて来ました。私の知人のお子さんの中には、いじめに遭って登校拒否になった子、病気によって友人との関係が作れず高校を中退した子、両親の不仲から問題行動に走った子など、難しい生き方をしている子が多数います。いえ、そこまで深刻でなくても、勉強が苦手だとか、親友ができないとか、進学や就活に失敗したとか、生きづらさを抱えている子どもはいくらでもいます。そうした時に私たちが考えることは、せめて世間並みという「普通」の基準から滑り落ちないことではないでしょうか?しかし「普通」にいくらしがみついても、そこから脱落し、違った道を歩まざるを得ないのも、また人生ではないでしょうか?「普通」ではない人生。それってそんなに惨めなものでしょうか?「普通」でなくても、親から見れば我が子は何物にも替え難い唯一無二の存在です。親が我が子に対し、「この世には、あなたと同じ人はいない」と気付いた時に、「普通」でなくてもその生き方でいいのだと肯定することができます。Upload By 松永 正訓最初は「こんな子は要らない」と勇太君を拒否した母は、今では勇太君を溺愛しています。なぜ変わったのでしょうか?それは我が子を愛するのに最初は「条件」が付いていたからです。可愛い子、頭のいい子、人より優れた子、そういう子どもが欲しかった。つまり条件付きの愛だったのです。しかしその愛はやがて「無条件の愛」に変わっていきます。人は育てる中で、初めて親になっていくのです。親は自分の子どもをありのまま愛する能力を少しずつ育てていけるのだと私は思います。本書を最後まで読んで頂くと、母には勇太君の未来に関して明確な目標を持っていることが分かります。それはグループホームを作ることです。これは夢ではありません。勇太君が幸せに人生を歩んでいくために、成し遂げなければいけない目標なのです。目標を設定して生きるその道のりは、決して容易ではないかもしれませんが、生きがいのある充実したものではないでしょうか?学び多き、多様な社会障害児がやがて大人になって、最終的に就労するとか、税金を納めるとか、それはどちらでもいいことだと私は個人的に思っています。障害の程度に応じて働けばいいのであって、呼吸器の付いた寝たきりの子には労働は不可能です。けれども、障害児が生きることで、いや、ただ存在することだけで私たちは多くの学びと気づきを得ることができます。私たちの社会には、色々な人がいます。ああいう人、こういう人、ああいう人生、こういう人生。それぞれにカラーがあり、全体として豊かな色を作り上げています。そうした多様な社会にこそ学びがあります。単一な社会から得るものは何もありません。そうした多様性の大事さに多くの人が気付きながらも、その重要性は本当の意味で今の社会にまだ根付いていないように見えます。障害児が生きやすい社会になっていくためには、もう少しだけ時間が必要な気がします。立石さん親子の生きる姿は、そうした閉塞感に風穴を開ける一陣の風になる可能性があると私は感じました。この世の中で最も弱い人たちを守ることで、私たちは幸せになれるのではないでしょうか。簡単なことではないかもしれませんが、私たちの意識が少しずつ変わっていけば、そういう社会が来るかもしれません。そうなることを信じてみようと私は思っています。2018年9月10日、医師・松永正訓氏が立石さん親子を取材、書き上げたルポルタージュが発刊。発達障害がある子と母の、幼児期から今までに渡る育児について綴られています。松永クリニック小児科・小児外科立石美津子さんのページ
2018年11月09日毎年、冬から春にかけて流行することが多い水ぼうそう。2014年にワクチンが定期接種化される前までは、日本国内で年間約 100 万人が水ぼうそうにかかり、約 4000 人が重症化から入院し、約 20 人が死亡していたという怖い感染症です。幼稚園や保育園のころに感染したというママも多いのでは?赤ちゃんや小さな子どもがかかるとどうなるのでしょうか? 症状や予防方法などをくわしく見ていきましょう。■ワクチンの定期予防接種「乳幼児の患者数が激減!」水ぼうそうと聞くと、幼いころに感染してつらかった…という経験を持つママも少なからずいるでしょう。日本で水ぼうそうのワクチン接種(任意)が始まったのは1987年のこと。その後、2012年に日本小児科学会からワクチンの2回接種が推奨されるようになり、2014年10月に国が接種を強くすすめる定期接種ワクチンになりました。一定の月齢に達した子どもなら、基本的に無償で接種することができます。国立感染症研究所によると、全国約3000の小児科の定点あたり、報告数(年間)は2005年~2011年まで66.1人~88.1人でした。しかし、2012年から減少し始め、定期接種化後の2015年には大幅に減って2011年の約3分の1にまでなりました。なかでも1歳~4歳の占める割合が2005年~2011年までは約70%だったのに対し、2016年には約40%にまで減少しています。患者数が大きく減ったのは、ワクチンの定期接種化が大きな要因のようです。■水ぼうそう「どんな症状? どうやってうつるの?」症状は軽くなりますが、ワクチンの接種が1回だと水ぼうそうにかかることがあります。感染すると、どんな症状が出るのでしょうか?【水ぼうそう 症状】全身、とくに顔から首にかけて、かゆみを伴う発疹や発熱があります。発疹は最初のころが紅斑(赤い発疹)で、その後は丘疹(小さな発疹)、水疱(すいほう)、膿疱(のうほう、うみのある水疱)、かさぶたの順に進行していきます。発熱はしない場合もあります。脳炎や肺炎、皮膚の細菌感染など合併症があります。白血病や免疫抑制治療を受けている子どもは死亡にいたることがあります。大人は重症化しやすい傾向にあります。免疫の低下している妊婦はとくに注意が必要です。【水ぼうそう 潜伏期間と感染期間】潜伏期間は14~16日間と比較的長いのが特徴。感染期間は発疹が現われる1~2日前から、すべての発疹がかさぶたになるまで。【水ぼうそう 感染経路】空気感染します。せきやくしゃみなどのしぶきによる飛まつ感染や接触感染、母子感染(胎内感染)もあります。水疱や膿疱にはウイルスがいるため、触れないように気をつけます。かさぶたの中にはウイルスは存在しません。■水ぼうそう予防「ワクチンは2回接種が基本!」ワクチンが定期接種化されたことで、乳幼児の患者数は減っていますが、それ以前の任意接種時代にはワクチン未接種の人が比較的多くいます。年齢の大きな子どもの患者数はあまり減っていないようなので、上に歳の離れたきょうだいがいる場合などは気をつけておきたいですね。ワクチンは1回の接種で重症化を防げますが、しっかりと免疫をつけるために2回接種がすすめられています。【水ぼうそう 予防方法】1歳以上3歳未満の子どもは、1回目を受けてから3カ月以上あけて2回接種します。感染力が強いため、1歳になったらすぐ接種するようにしましょう。費用の負担はありますが、日本小児科学会では3歳以上でも2回目の接種を受けることを推奨しています。【水ぼうそう 登校(登園)基準】学校保健安全法により、すべての発疹がかさぶたになるまで出席停止とされています。1回かかってしまうと、症状がおさまるまで1週間くらいかかる水ぼうそう。働いているママにとっては、インフルエンザ同様に頭を悩ませる感染症です。1回しかワクチンを接種していない場合は、忘れずに2回接種して確実に防ぎたいですね。参考サイト: ・国立感染症研究所「水痘ワクチン定期接種後の水痘発生動向の変化」 ・日本小児科学会「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」
2018年11月05日今年は秋なのにも関わらず、インフルエンザで学級閉鎖が各地で起こっていますね。そして、よりインフルエンザが流行する季節になってきました。今回は、ワクチンや治療法、ホームケア、診断などについて2回にわたって特集します。インフルエンザにならないために、どんなことに気をつければよいのでしょうか?インフルエンザはどんな病気?まず突然の高熱に始まり、のどの痛み、頭痛、関節痛、倦怠感などの全身症状のほか鼻水や咳などの呼吸器症状、ときに嘔吐や下痢などの消化器症状もあります。発熱は数日間続きますが、自然に解熱して1~2週間ほどで元気になります。注意すべき特徴として二峰性(にほうせい)の発熱があります。二峰性とは、熱が数日続き、一旦解熱したあと、再度発熱して合計1週間ほど熱が続くものです。インフルエンザは再発熱のパターンをとることもあり、一旦熱が下がっても安心とはいきません。インフルエンザの合併症インフルエンザの症状には幅があり、普通の風邪と全く区別がつかない程度のこともあれば、ぐったりして重症感が強い場合もあります。ときに中耳炎や熱性けいれん、肺炎やインフルエンザ脳症など多彩な合併症があり、肺炎や脳症にはとくに注意が必要です。【肺炎】急速に呼吸困難が進行する場合があり、肩で息をしたり呼吸があらくなっている時は救急受診が必要です。【インフルエンザ脳症】毎年50~200人がインフルエンザ脳症になり、死に至ることもあります※1。異常言動、異常行動、ぼーっとしている、けいれんなどの症状がみられますが、同じような症状を認める熱せん妄( 第3話参照 )や熱性けいれんと区別が難しい場合があります。脳症の場合は意識障害が続いたり、短時間で悪化傾向になり、これらの特徴がみられた時は迷わず救急受診してください。予防接種は打ったほうがいい? インフルエンザQ&Aこのようにインフルエンザには重い合併症もあるため、ワクチンで予防することが重要です。それでは、ここでワクチンについての疑問について確認していきます。Q赤ちゃんでは効果が低い? 何ヶ月からうてる?現状のインフルエンザワクチンは生後6ヶ月から接種可能で、乳幼児に対する有効性については概ね20~60%の発病防止効果があったと報告されています。※2(厚生労働省インフルエンザQ&Aから引用)Qインフルエンザワクチンはいつうてばよい?ワクチンの効果は時間が経過するほど効果が低下し5ヶ月間で減弱します。よって10月~11月のうちに接種を開始すれば流行期に入る12月までに効果が得られ、流行が終わる頃まで効果が続きます。Q鶏卵アレルギーだとうてない?インフルエンザワクチンに含まれる鶏卵成分は数ng/mlときわめて微量(1ng=10億分の1g)のため、ほとんどの場合安全に接種ができます。重症度にもよるため、卵アレルギーと診断されている場合は担当医と相談してください。※3Q妊娠、授乳中でもうてる?妊娠授乳中でもワクチン接種は可能です。とくに妊娠中は症状が重くなるおそれがあり、また妊娠中のワクチン接種は生まれてきた赤ちゃんのインフルエンザ予防にも役立つため積極的に接種してください。※4子どものインフルエンザを予防するには、まず周囲の大人がしっかり打って感染源にならないことが大切です。もちろん、パパも一緒に接種してくださいね。Qワクチンを打ってもかかることはある?残念ながらワクチン接種をしていてもかかることがあります。ワクチン以外の予防方法を駆使して、できるだけかからないようにしましょう。インフルエンザの予防方法インフルエンザワクチンを打つ以外の予防方法もあります。日々の生活の中でできることを書いてみることにします。(1) 咳エチケットに注意し、マスクをする(くしゃみや咳などから感染します)(2) 手洗いやアルコール消毒をする(咳やくしゃみをうけた手にはウイルスが付着しています)(3) 加湿器を使用して湿度50%~60%に保つ(乾燥すると感染しやすくなります)(4) 栄養と睡眠を十分にとる(風邪を含め全ての基礎になります)(5) できるだけ人混みを避ける(流行期はとくに感染の確率が高くなります)なお、家族の誰かが感染した場合は避けることがなかなか難しいのが現実です。24~48時間ほどの潜伏期間ののち発症します。流行を広げないためには登校停止期間をしっかり守って外出をさけることが大切です( 第4話参照 )。インフルエンザは稀に死亡する可能性がある病気のため、わが子がかかった時にはもしもの場合の不安を感じると思います。「もしかしてインフルエンザ脳症かも?」と疑い、判断できない時は受診をためらう必要はありません。インフルエンザにかかると、時に重症の経過になる場合があります。その可能性を防ぐためには予防が一番ですので不安感を軽減する意味でもワクチン接種をお勧めします。次回は実際にかかったあとの受診のタイミングや治療法、ホームケアについて説明します。参考資料※1 インフルエンザ脳症について ※2 インフルエンザQ&A ※3 日本ワクチン産業協会:予防接種に関するQ&A集※4 産婦人科診療ガイドライン2017 <2019年9月11日 修正>記事内の参考文献を修正いたしました・「Efficacy of trivalent influenza vaccine against laboratory-confirmed influenza among young children in a randomized trial in Bangladesh.」を削除・「Protective Effect of Maternal Influenza Vaccination on Influenza in Their Infants: A Prospective Cohort Study.」を「産婦人科診療ガイドライン2017」に変更いたしました。
2018年10月22日風しんが大流行の兆し――。ニュースで見かけたという人も多いはず。胎児に影響を及ぼすリスクが高いため、妊婦は特に注意が必要だと言われています。そもそも、風しんはどんな病気なの? 風しんにかからないようにするためにはどうすればいいの? もし子どもがかかってしまったら保育園や幼稚園、学校にはいつから通えるの?風しんについて、くわしく解説しましょう。■風しん「感染者数は昨年1年間の約10倍!」最も多い東京都国立感染症研究所は10月10日、今年に入ってからの風しん患者累積報告数10月3日時点で952人になったことを発表しました。既に昨年1年間の感染者数と比べて約10倍になっており、大流行した2013年の前兆と似たような状況になっています。都道府県別では東京都(307人)や千葉県(195人)、神奈川県(108人)が多く、埼玉県や愛知県が続いています。首都圏を中心に全国的に広がりを見せています。風しんというと、子どもがかかる病気と思われがちですが、感染者の約9割が大人。男性の数は女性の約5倍で、ワクチン接種経験のない30~40代の男性が患者の中心なのです。そこで心配になるのが、妊婦への感染です。 日本産婦人科医会 と“風しんゼロ”プロジェクト作業部会(厚生労働省)は、「妊娠20週までの妊婦が風しんにかからないように」「妊婦が風しん患者に接触することがないように」注意を呼びかけています。妊婦が風しんに感染すると、胎児にも感染して、難聴や心臓の病気、白内障などの障がいを持って生まれてくる「先天性風しん症候群」にかかる可能性があります。妊娠初期であるほど、その確率は高くなります。日本小児科学会によると、妊娠1カ月以内の妊婦が感染した場合、生まれてきた赤ちゃんに先天異常が現れる確率は50%以上。実際に2012年、2013年の大流行の際には、2012年から2014年にかけて45人の発症が確認され、残念ながら11人の赤ちゃんが亡くなりました。妊婦や妊娠の可能性がある女性本人はもちろんのこと、周囲の人も本当に気をつけたいですね。■風しんの症状は? どうやってうつるの?【症状】発熱と同時に淡紅色の発しんが全身に現れます。首(頚部・けいぶ)や耳の後ろの部分にリンパ節の腫れがみられます。発熱に気づかないケースもあります。3,000人に1人の割合で血小板減少紫斑病を、6,000人に1人の割合で急性脳炎を合併します。妊婦の感染によって胎児が耳、目、心臓の精神運動発達の遅れを伴う先天性風しん症候群を発症することがあります。大人が発症すると、高熱や発しんが長引いたり、関節痛があるなど子どもよりも重症化するケースがあります。15~30%の人は感染しても症状があまり現れず、自覚症状のないまま免疫がついていると言われています(*)。【潜伏期間と感染期間】潜伏期間は平均して16~18日。感染力があるのは、発しんが出る7日前から、発しんが現われて7日目ごろまでです。【感染経路】くしゃみやせきなどのしぶきによる飛まつ感染、接触感染、母子感染(胎内感染)によって感染します。風しんの感染力はインフルエンザより強く、1人の患者が免疫のない5~7人にうつす可能性があります(*)。■風しん予防には周囲の協力が必須! 妊婦はどうすればいい?【予防方法】予防接種を受けることで風しんを予防できます。子どもは定期接種で2回受けます。1歳の間にMRワクチン(麻しん風しん混合ワクチン)1回目、小学校入学前の1年間で2回目を接種します。大人は年代によっては未接種や1回接種の人も多くいます。厚生労働省によると、昭和54年4月1日以前生まれの男性はワクチンの定期接種を受ける機会が一回もなかった世代なので、特に注意が必要です。また、昭和54年4月2日から昭和62年10月1日生まれの男女もワクチンの接種率が低く、風しんの免疫がない人が多い世代です。生年月日別のワクチン接種状況は以下から確認できます。 風しんワクチン 年齢別接種状況 費用はかかりますが、大人もワクチン接種を受けられます。自治体によっては妊娠を希望する女性やその配偶者への助成があることも。自分が妊婦で夫や一緒に住む家族がワクチン接種を受けていない可能性があれば、迷わず接種をすすめましょう。【妊婦の対策】すみやかに風しんの抗体検査を受けて免疫の有無を確認しましょう。抗体値が陰性あるいは低かった場合は、なるべく人混みを避け、家族や周囲の人にも確認しておきましょう。妊婦や妊娠の可能性がある女性はワクチンを接種することができません。また、国立感染症研究所によると、これから妊娠を考えている女性はワクチン接種後、約2カ月間の避妊が必要です。【登校(登園)基準】風しんの予防接種を受けていても、100%かからないわけではありません。もしかかってしまった場合は、有効な治療薬はないため、対症療法を行います。子どもがかかった場合、発しんが消えるまで保育園や幼稚園、小学校は出席停止になります。大流行の兆しを見せている風しん。厚生労働省では2020年までに風しんを排除することを目標に掲げています。まずは子どもの予防接種のスケジュールをきちんと守り、パパやママ自身も備えておくと安心です。特に妊婦や妊娠の可能性のある女性、これから妊娠を考えている女性はパパ(夫)や周囲にも呼びかけて、万全の対策をしておきましょう。*= 厚生労働省「風しんの感染予防の普及・啓発事業」より 参考サイト: ・日本小児科学会 ・日本産婦人科医会 ・日本小児科学会「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」
2018年10月10日タバコを吸うことや、受動喫煙が体に悪いということは多くの人が知っていることです。では、子どもにとっては具体的にどのような影響があるのでしょうか。これまでにたくさんの研究があります。(1) 乳幼児突然死症候群のリスクの上昇 (2) 咳や痰の症状の増加 (3) 気管支喘息を発症しやすい (4)肺がんの原因となる(5) 中耳炎になりやすくなる 参照サイト:National Center for Biotechnology Information上記のように、さまざまなリスクが科学的に証明されています。肺がんや気管支喘息など呼吸器系に関するものはご存じの方が多いと思いますが、乳児突然死症候群や中耳炎のリスクも上昇させるものです。気管支喘息は発症だけでなく、家にタバコを吸う人がいると発作のコントロールが難しくなります。受動喫煙だけでなく、誤飲事故の危険もあり、子どもの異物誤飲で最も多いのはタバコです。※1 ジュースの缶を灰皿がわりに使用することで、タバコの成分が溶け出し、それを誤って飲んでしまうと大量のニコチン摂取となり危険です。また、最近流通している加熱式タバコはスティックが2.5cmほどと小さく、子どもがちょうど口に入れやすい大きさのため、誤飲事故が増えています。※2受動喫煙や誤飲事故など、タバコは子どもにとって危険が多いものですので、ご自身の子ども、またはお孫さんができたら、子どものためにも禁煙が大切です。「外でタバコを吸ってるから大丈夫」は本当なのかしかし小児科医が、喫煙している保護者に禁煙をお勧めしても「外で吸ってるから大丈夫です」などの理由で断られることも多いのが現状です。本当に大丈夫なのでしょうか?Q1 外で吸っているから大丈夫?外で吸ったとしても喫煙者の服や髪の毛に有害物質が付着しているため、家の中に運んでしまっています。家で吸わなくとも、喫煙者の肺の中には有害物質が残存し、呼気の中には有害物質が含まれているため、外で喫煙したとしても、受動喫煙をしていると言えます。Q2 換気扇の下で吸っているから大丈夫?換気扇の下で吸ったとしても、その煙が全て室外に排出されるわけではありませんから、受動喫煙を防ぐことはできません。※3Q3 空気清浄機を使ってるから大丈夫?タバコの有害物質をすべて除去することはできません。このことは空気清浄機の商品ページなどにも記されています。有害物質の多くは気体成分であり、粒子成分にのみ有効な空気清浄機では効果は乏しいと考えられます。Q4 加熱式タバコは煙が出ないから大丈夫?現在のところ安全であるという科学的根拠はありません。まだ加熱式タバコは使用されてから日が浅く、受動喫煙についての十分なデータがありません。ゆえに多くの国でまだ加熱式タバコは販売されていませんし、WHO(世界保健機構)も加熱式タバコは規制すべきもとのとしています。※4タバコを吸ってすぐに肺がんになるわけではありません。10年、20年と吸い続けて発症するので、時間がたたないとはっきりしたデータはとれないと考えられます。現状では加熱式タバコの健康への影響はよくわからないものとしてとらえるほうがいいでしょう。ただ、煙は出ないとしてもタバコを吸って吐いた息の中には有害物質は含まれています。煙がでないからこそ、傍で吸っていても気づかず避けることが難しいという面もあるため、健康に影響がないというデータが出る可能性は極めて低いと考えます。やめられない理由はコカインやヘロインに次ぐ依存性禁煙することは健康面のほか金銭面などでもメリットが大きいため、タバコを吸う人のうちおよそ3割が禁煙したいと考えていますが※5、それでもなお禁煙できないのはなぜでしょうか?それはタバコ(ニコチン)には「依存性」があるからです。依存性とはタバコがなくなるとイライラしたり落ち着かないなど離脱症状の出やすさのことで、麻薬であるコカインやヘロインに次ぐ強力なものです。※6そのため、自力で禁煙することは極めて難しく、たとえ禁煙できなくても必ずしも本人がだらしないからというわけではありません。子どものため、自分のため、どうしたら禁煙できる?タバコの害がどれだけ子どもにとっても悪いものか分かったとしても、禁煙できない方たちがいるのは確かです。紙巻きタバコから加熱式タバコに変更したら、少なくともそこには受動喫煙を気にしている「芽」のようなものあるという見方もあります。責め立てて芽を潰してしまうよりは、その芽に水を与えて育て、加熱式タバコもいずれやめることができるようにサポートが必要です。周囲のサポートを得るには、医療機関で開設されている禁煙外来を受診するのが一番の近道です。家族より第三者の意見のほうが受け入れやすい場合もあり、専門家のアドバイスや治療を受けることができます。ニコチンを急に切ると離脱症状がでますから、段階的に減量するために禁煙治療薬が用いられます。禁煙外来は全国で1万6000施設以上にあり治療が可能で、中には土日に受診できる禁煙外来やオンライン診療もあります。※7 家族に喫煙者がいると、子どもがタバコを吸い始める可能性が上がります。家族の喫煙は連鎖するため、禁煙をすることはいま子どもへの健康への悪影響を減らすことができるだけでなく、将来的に子どもや孫の世代がタバコを吸う可能性を減らすこともできます。以前、私が医学生のころ出会った、タバコが原因となる慢性の肺障害の肺気腫であろう男性のことを コラム に書いたのですが、この方も病気を患っているであろうにも関わらず、タバコがやめられない様子でした。喫煙の連鎖を断ち切るという財産を子ども達や孫、その次の世代にまで残す、この記事を一つのきっかけにしていただけたら幸いです。参考資料※1 命を落とすこともある!子どもの誤飲事故 <独立行政法人国民生活センター> ※2 日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 ※3 How should parents protect their children from environmental tobacco-smoke exposure in the home? <家庭内の環境たばこ煙曝露から両親を守るにはどうすればよいですか?> ※4 Heated tobacco products (HTPs) information sheet<加熱タバコ製品(HTP)インフォメーションシート> ※5 平成 28 年 国民健康・栄養調査結果の概要 <3.禁煙意思の有無の状況> ※6 タバコは薬物である<日本禁煙学会> ※7 禁煙治療に保険が使える医療機関情報最新版
2018年10月08日