おとな向け映画ガイド今週は、バラエティにとんだセレクト3本をオススメします。ぴあ編集部 坂口英明20/8/9(日)イラストレーション:高松啓二今週のロードショー公開は17本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。全国100スクリーン規模以上で拡大公開される作品は『弱虫ペダル』『思い、思われ、ふり、ふられ』『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel]III.spring song』の3本。あとの14本は中規模公開とミニシアター系の作品です。今回はその中から、おとな向けの作品3本を厳選して、ご紹介します。『ジェクシー!スマホを変えただけなのに』なんだか気詰まりな夏休み、というかたも多いでしょうから、あえて、気軽に楽しめて気分が上がる、ぶっちゃけていえば「おバカ映画」を最初にご紹介しましょう。サンフランシスコが舞台。主人公のフィルは、やわらかニュース系配信会社に勤める、不器用な独身男。かなりのスマホ依存症です。ところが、歩きスマホが原因で愛機を破損してしまい、機種変更をするはめに。購入した最新鋭のスマホには、Siriの上をいく、ジェクシーというフェロモン声の「ライフコーチ」機能がついていて、お節介な生活指導が始まります。仲間も増え、仕事もうまくいき、恋人まで出来て!、と効果はバッチリなのですが、実はこのジェクシー、ジェラシーもすごくって……。銀行のパスワードはもちろん、恥ずかしい写真だって、こっそりやった検索だって、個人情報はすべてスマホが知っています。しかも、超優秀なジェクシーはクラウド上にいるので、あらゆるデバイスを駆使してフィルにせまるのです。人工知能型OSと恋におちる、『her/世界でひとつの彼女』という映画がありました。設定は似ています。あの作品が作られたのは2013年。近未来におきるかもしれないというラブファンタジーでしたが、7年もたってみると、「ハイ、Siri」とか日常的にやってるわけですからね。ずっとリアル感あります。なんといっても、あの『ハングオーバー!』シリーズの原案・脚本を手がけた、ジョン・ルーカスとスコット・ムーアが脚本・監督。下ネタもふくめ、やんちゃなギャグやセリフは、おとなも楽しめること請け合いです。『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』このところ毎週のように、スターリン時代のソ連を舞台にした映画が公開されています。それも決して良い時代として描いているわけではありません。この映画もそんな一本。1930年代前半、ソ連の経済は好調と伝えられた裏で、ウクライナでは「ホロドモール(飢餓による殺害)」と呼ばれる飢饉が起き、死者は300万人以上にのぼったといいます。この隠蔽されている状況を取材し、世界に伝えようとした実在のイギリス人記者、ガレス・ジョーンズの物語です。力をつけてきたヒトラーにインタビューをしたこともあるジョーンズは27歳、野心と正義感に燃えるジャーナリストです。元首相ロイド・ジョージに買われ、外交顧問をつとめたこともあります。大陸の政治状況が劇的に変化しつつあることに警鐘を鳴らし、ヒトラーに対抗するためにもイギリスはソ連と組むべきだと主張しますが、耳を貸す政治家はいません。彼は、スターリンに単独インタビューを試みるため、モスクワに乗り込みます。功名のためはもちろんですが、ジャーナリストとして、大恐慌で世界中が苦しむ中でなぜソ連は繁栄を続けているか、という疑問の答えを見つけたかったからです。前半はスパイ映画のようにテンポよく進み、ウクライナに潜入してからは、まるでモノクロのドキュメンタリー映画のようなタッチで衝撃の事実が描かれます。監督はポーランドの社会派、アグ二ェシュカ・ホランド。脚本と製作を担当したのは、ホロドモールを生き延びた祖父を持つアンドレア・チャルーパ。イギリス、ポーランド、ウクライナの合作映画です。『ファヒム パリが見た奇跡』これも実話をもとにした映画です。バングラデシュから父親とふたりでフランスに亡命してきた8歳の少年ファヒムが、チェスのフランス全国大会で、ジュニアチャンピオンになるという、一見おとぎ話のようですが、いろいろな苦難や、複雑な社会背景もかいまみえる、なかなか深い映画です。母国を出た理由は、親族が反政府組織に属していたことと、ファヒムがチェスの大会で優勝したことへの妬みから、一家が脅迫を受けたため。決意した父親はそれ以上に、ファヒムの才能を伸ばしてやりたかったのでしょう。ふたりが、チェスのトップコーチ、シルヴァンと出会えたのは幸運としかいいようがありません。シルヴァンを演じているのが、フランスの名優、ジェラール・ドパルデュー。ちょっと変わり者、巨漢の熱血コーチです。ファヒム役は、やはりバングラデシュ出身の子役アサド・アーメッド。この師弟のドラマ、父子のドラマを中心に映画は進みます。心がなごむのは、彼らをとりまく大人たちや、チェス学校の級友たちの、人情といいますか、温かいまなざしと支え。ちょっとステキな話、です。
2020年08月09日おとな向け映画ガイド今週は、なかなかインパクトのある3本をオススメします。ぴあ編集部 坂口英明20/8/2(日)イラストレーション:高松啓二今週のロードショー公開は18本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。コロナ禍ではありますが、いよいよ夏休み、ファミリー向き映画も公開です。全国100スクリーン規模以上で拡大公開される作品は『映画ドラえもん のび太の新恐竜』『ぐらんぶる』『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』『EYES ON ME:THE MOVIE』の4本。あとの14本はミニシアター系の作品です。今回はその中から、おとな向けの作品3本を厳選して、ご紹介します。『ジョーンの秘密』007シリーズ「M」役のジュデイ・デンチが主演で、イギリス製のスパイ映画、それでもってこのタイトルとなると、凄腕おばあさんのスーパー・スパイものかと早合点しますが、それとは若干、趣が異なります。デンチ扮するジョーンは、80歳を越えた、ごく普通の幸せな生活を送るおばあさんなのです。そんな彼女が、MI5に逮捕されてしまいます。MI5と書きましたが、まちがいではありません。MI5(英国軍情報部第5課)通称保安局は、スパイやテロリストを取り締まるところです。007がいるのはMI6という秘密情報部で、こちらはスパイをする方なんですね。ジョーンさんが逮捕された理由は、第2次大戦後、核開発に関する軍事機密をソ連に漏洩したスパイ容疑。2000年に「核時代最後のスパイ」と報じられた実際の事件が元になっています。映画は、当局の取り調べに答える彼女の回想で綴られていきます。若き日の姿を演じるのは、ソフィー・クックソン。『キングスマン』シリーズ等、スパイ映画にご縁のある顔です。ジョーンは、ケンブリッジ大学を優秀な成績で卒業後、原子力開発機関で働くうちに才能を認められ、原爆開発という機密任務に参加していたのです……。原爆は最初に開発に成功したアメリカのマンハッタン計画が知られていますが、敵国ドイツ、連合国側のイギリス、カナダ、そしてソ連も進めていました。この各国の激しい諜報合戦と、一般市民のジョーンが国を裏切ってでもスパイになった真相が、みどころです。『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』不思議なテイストの映画です。アメリカ南部、アラバマ州の片田舎の事件。カッコいい人はでてきません。あの『ファーゴ』に似た味というか、匂いというか、がします。つまり、ヘンな人ばかりでてきます。無人島からの脱出で死体を水上スキー代りに使うというすごい発想、しかもその死体をダニエル・ラドクリフにやらせたキテレツ映画『スイス・アーミー・マン』のダニエル・シャイナート監督による新作。今、アメリカで一番元気のいいインディーズ系映画会社、A24と再びタッグを組みました。うだつが上がらない30男たち、ジークとアールとディックは、「ピンクフロイト」というアマチュア・バンドの仲間です。今日も今日とてガレージで練習、終わるといつもの馬鹿騒ぎなのですが、ディックの様子がおかしくなります。血まみれになり、気を失い…。死んだのか? ジークとアールは、そんな彼を、こともあろうに病院の玄関前に置き去りにし、結局ディックは死んでしまいます……。翌朝から警察の捜査が始まります。めったに起きない町の大事件、保安官たちはみなどこか興奮気味です。やばいふたりは、昨夜の行動を隠そうとして家族にまで嘘をつき、その嘘がさらなる面倒をひきおこす。なんでそこまで嘘を? その真相が結構インパクトあります。全編、やんちゃな子供みたいな男たちのイカれたダークな映画。ブラックコメディ好きなおとなには、たまりません。『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』インディアンとよばれた先住民が与えた、アメリカのポピュラー音楽への影響についての壮大なドキュメンタリー。彼らがいかに弾圧されてきたかも語られます。これは知らないことばかりでした。アメリカ音楽好きの人もあまりご存知ないのでは。具体的に先住民にルーツを持つミュージシャンの名前をあげた方が良いですね。ジャズ・ボーカルのミルドレッド・ベイリー(コ―・ダリーン族)、『サークル・ゲーム』などのフォーク歌手バフィ・セイント・マリー(クリー族)、ザ・バンドのロビー・ロバートソン(モーホーク族)、ジミ・ヘンドリクス(チェロキー族)……。500以上のインディアン部族がかつてあったそうです。コロンブスのアメリカ発見から530年の間に、土地を奪われ、アメリカ社会に同化させられたなかで、魂の叫びとして音楽は残りました。そのインディアン・ミュージシャンたちの歴史を1920年代からひもといていきます。タイトルになった『ランブル』は、リンク・レイというショーニー族出身のロック・ギタリストの作品。暴力行為を駆り立てるとしてインストゥルメンタルにもかかわらず放送禁止になった過激な曲ですが、ジミー・ペイジやザ・フーのピート・タウンゼントなど沢山の大物ミュージシャンにインパクトを与えています。ジミ・ヘンドリクスは、インディアンだけでなく、アフリカ系アメリカ人、スコットランド人の血も引いているといいます。アフリカ系アメリカ人とインディアン、抑圧された民族が結びついていった歴史と、それによって豊かな音楽世界が広がっていったことも観逃せません。首都圏は、8/7(金)から渋谷・ホワイト シネクイントで公開。中部は、8/15(土)から名古屋シネマテークで公開。関西は、9/4(金)からシネ・リーブル梅田で公開。
2020年08月02日おとな向け映画ガイド今週は、おとなが観逃せない!3本をご紹介します。ぴあ編集部 坂口英明20/7/26(日)イラストレーション:高松啓二今週のロードショー公開は18本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。連休後でもあり、全国100スクリーン規模以上で拡大公開される作品はなく、すべてミニシアター系の作品です。今回はその中から2本、もう1本は上映中から、ぜひ観逃さないで、という3本をご紹介します。『海辺の映画館-キネマの玉手箱』大林宣彦監督最後の作品がいよいよ公開されます。当初予定されていたのが4月10日。コロナ禍のため上映延期となったのですが、その公開するはずの日に他界されました。まさに、文字通りの遺作。しかもその内容たるや、映画で遺言を残されたとしか思えないほど、メッセージは明確で、映像表現は実験映画の精神に満ち満ちた「ぶっとんだ」ものでした。海辺の町にある古い映画館「瀬戸内シネマ」がいよいよ閉館。その最後の日のプログラムは「日本の戦争映画」オールナイト上映会です。老若男女で満員の館内。画面に見入る3人の若者は熱中するうち、スクリーンの世界、つまり日本が体験したさまざまな争いの場に入っていってしまいます。あるときは、新選組が跋扈する幕末の京都、戊辰戦争の会津、さらに日中戦争、沖縄戦、原爆投下直前の広島……。舞台は監督の生まれ故郷・尾道。代表作『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』は“尾道三部作”とよばれています。この作品は、20年ぶりにその尾道でロケをし、制作されました。劇中には、少年時代に初めて作った手描きアニメの思い出も再現されますし、監督に影響を与えた映画や、中原中也の詩の引用など、自伝的要素も盛り込まれています。同じく尾道を舞台にした『東京物語』の小津安二郎監督も登場します。その小津監督を演じているのは手塚眞。前知識がないとわかりません。そんな異色のキャスティングは、映画のいたるところにみられます。それはまるで「キネマの玉手箱」のようです。例えば、幕末の世界にとべば、近藤勇は尾美としのり、武田鉄矢が坂本龍馬、中岡慎太郎に柄本時生、西郷隆盛は村田雄浩、なんと大久保利通役は稲垣吾郎です。そしてその脇でお茶をたてているのは千利休役の片岡鶴太郎、おなじみ常盤貴子、根岸季衣、入江若葉……。きりがないのでやめますが、大林作品ゆかりの俳優たち総出演です。3時間近い大作です。パロディで茶化しながら、ファンタジックな映像を駆使し、思いのすべてをここにこめた、そんな映画作家の熱い気持ちが伝わってくる、映画史上にない映画による遺書です。『剣の舞 我が心の旋律』『天国と地獄』や『剣の舞』、運動会徒競走にかかる曲、あれ、どなたが選んだんでしょうね。聴くとやたら元気がでて、逃げ足が早くなりそうな『剣の舞』は、もともと、第二次大戦下のソ連で、アルメニアを舞台にしたバレエ『ガイーヌ』のためにアダム・ハチャトゥリアンが作曲したのだそうです。世界でも屈指の演奏回数といわれるその名曲の、誕生秘話をもとにオリジナル脚本で映画化しています。もちろんアルメニア人ハチャトゥリアンの幼年期の思い出などは背景として描かれますが、映画は『剣の舞』が作られる前後2週間に絞り込んだスト―リーになっています。戦時下、レニングラード国立オペラ劇場も地方へ疎開しています。10日後に控えたバレエ『ガイーヌ』のリハーサル中。検閲にやってきた文化省の役人から、時節柄、士気高揚のため、勇壮な曲を付け加えるように命じられます。芸術をプロパガンダの道具としか考えない理不尽な文化官僚に抗いながら、ハチャトゥリアンは、ある着想がひらめき、開幕の前夜、この曲をひと晩で書き上げるのです。実際に親しかったといわれる作曲家、ショスタコーヴィチやオイストラフも登場します。親友ふたりとの会話では、不自由な国家のなかで、どう生きるかが語られます。ハチャトゥリアンに恋するバレリーナ、同郷の従者、そして対立する文化官僚など、わかりやすいキャラの登場人物が織りなす人間模様と差し迫った時間のなかで展開する曲づくり。クラシック好きでなくても大満足のエンタテインメント映画です。首都圏は、7/31(金)から新宿武蔵野館他で公開。中部は、7/31(金)から名演小劇場で公開。関西は、8/7(金)からテアトル梅田で公開。『コンフィデンスマンJP プリンセス編』公開初日の23日、渋谷の映画館で観ました。さすがの人気シリーズ、コロナ禍対応で座席数を絞っていますが満員の盛況。映画としては2作目。前作よりさらに面白いです。長澤まさみのダー子、東出昌大のボクちゃん、小日向文世扮するリチャードというメイン3人に、アシスタントの小手伸也や「子猫ちゃん」とよばれる協力スタッフも加えたおなじみの詐欺師チームの、国際的犯罪プロジェクト。今回狙いを定めたのは、シンガポールの大富豪フウ一族の後継者争い。当主の死後、遺書に書かれていた全財産の相続者は3人の実子ではなく、ミシェルという隠し子だった―。ダー子の計画は、このミシェルをでっちあげ、遺産をいただく、というもの。その替え玉ミシェルになった、コックリ(関水渚)のシンデレラ・ストーリーでもあります。『男はつらいよ』をはじめ、愛されるシリーズものの楽しさは、登場人物のキャラクターがわかりやすく、彼らの「お約束」やフォーマットがかっちりできていること。それでいて、初めて観ても楽しめる。その点このシリーズは完璧ですし、マンネリにもなっていません。前回もそうでしたが、舞台がアジアの観光地というのも成功の秘訣と思います。シンガポールのフウ一族にしても当主役の北大路欣也をはじめ、ふたりの息子を日本人の古川雄大や白濱亜嵐が演じても無理を感じません。逆にギャグがかっていて笑えます。それにしても、長女役に台湾の元アイドル、ビビアン・スーを起用してくるとは驚きました。45歳って、信じられないキュートさ。やや悪役ですけど。執事役の柴田恭兵も渋いです。またまたでてくる日本のマフィア・赤星の江口洋介や、竹内結子、石黒賢、広末涼子といったシリーズ常連もなるほど、それぞれに見せ場あり。そして、プレイボーイの詐欺師ジェシーを演じた三浦春馬は欠かせない存在でした。とても惜しまれます。
2020年07月26日おとな向け映画ガイド今週は、おとなにこそ観てほしい3本をご紹介します。ぴあ編集部 坂口英明20/7/19(日)イラストレーション:高松啓二今週の新作本数は21本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。連休のため、23日から公開の作品もあります。うち全国100スクリーン規模以上で拡大公開されるのは『コンフィデンスマンJP プリンセス編』と『海底47m 古代マヤの死の迷宮』の2本。ミニシアター系が19本です。今回はその中から、おとなの皆さんにこそ観てほしい3本をご紹介します。『グランド・ジャーニー』渡り鳥たちと編隊を組んで、ハングライダーのような超軽量飛行機に乗った少年が、ノルウェー最北のラップランドからフランスへ、大空を渡っていく。実話をもとにした、夢のようなアドベンチャー・ムービーです。離婚した母と暮らす14歳の少年トマの夏休み。南仏の父の家に預けられ、WiFiもない環境にふてくされていたのですが、最初は超軽量飛行機への興味から、次第に父の計画に夢中になっていきます。気象学者で少々風変わりな父が熱中しているのは、絶滅危惧種の鳥に安全な「渡り」のルートを教え込もうというプロジェクト。『グース』というアメリカ映画がありました。あの設定と似ています。鳥は孵化したとき最初にみた動くものを親と思う、という習性を活かします。トマは親鳥の代わりとなり、やがて、GPSをつけた超軽量飛行機で、彼らを先導できるまでになります。少しずつ成長していくカリガネガンの雛たちが、またとんでもなくかわいらしいんです。トマが、父の書斎でみつけた『ニルスのふしぎな旅』を夢中で読むシーンがでてきます。妖怪に小人にされ、ガチョウの背中に乗ってガンたちと北をめざすというスウェーデンの児童文学。トマは、渡り鳥たちの中でちょと成長が遅い一羽に『ニルス…』にでてくる「アッカ」という名前をつけたり、自分のことを「ニルス」と名乗るシーンもでてきます。父親のキャラは、鳥類保護活動家でバードマンという愛称のクリスチャン・ムレクがモデルです。ムレクはドキュメンタリー『WATARIDORI』の制作にも関わり、この作品では脚本を執筆、飛行部分の監督も担当しています。ノルウェーの空から見下ろす雄大な森やフィヨルド。ガンたちと一体になって飛ぶトマの姿。このわくわくする映像には心踊ります。あの境界のない空を飛べたら、と夢見たことのあるあなたに、オススメします。『追龍』今、中国の国家安全法強行で世界が注目している香港。その60〜70年代は、古き良き時代、ではなく、警察と香港マフィアがつるんで汚職の限りを尽くした、驚くような暗黒の時代でした。これまで何度も映画化されたこともある、実在の人物をモデルにした、まさに実録犯罪ドラマの集大成。黒社会(香港マフィア)のボス、ン・シーホウ役にドニー・イェン、香港警察のリー・ロック役にアンディ・ラウ、現代の中国・香港映画を代表する二大スターが初共演した香港ノワールです。まるでEXILE TRIBEの『HIGH & LOW』のようなヤクザの出入りシーンから始まります。潮州の田舎からでてきたシーホウは、この騒ぎの中で腕っぷしを買われ名を売り、警察官のロックと出会います。お互いまだ見ぬ未来への野望で目が血走っていた頃。その後いくつもの修羅場で貸し借りを繰り返し、ふたりは不思議な友情を力に、それぞれの世界の「龍」となっていくのです。アクションシーンの舞台になるのが、実在した香港の九龍城砦。その再現は見事です。3万人以上が住む12階建ての崩れかけたような巨大ビルのなかは、スラム街のように入り組み、諸悪の温床だったといいます。当時の啓徳空港を発着する飛行機がビルすれすれをかすめていくなか、ダニ―・ハサウェイの『ザ・ゲットー』がバックに流れ、巨大な魔窟のなかをカメラが移動するシーンのかっこよさときたら…。監督は香港映画のベテラン、バリー・ウォンとジェイソン・クワン。2017年、今の騒ぎの前に製作された映画です。こういうアウトローたちの香港映画はこのあとどうなるのでしょうか。生死も貧富も天命次第、という孔子さんの言葉が映画のなかではでてきますが。『アルプススタンドのはしの方』おとな向け、とはいえないかもしれませんが、じんわり熱くなって、共感したくなる、今年の夏とびきりの青春映画と思います。夏の甲子園第一回戦です。公立高校、たぶん初出場。盛り上がるアルプススタンド。動員がかかって、やむなく「来た」またはワケありで、「はしの方」に座った、そんな4人の高校3年生が主人公です。ふて気味で観戦しているのは、演劇大会県予選出場をインフルエンザが原因で断念した演劇部の女子ふたり。その近くに座る元野球部の男子が、野球のルールも知らない彼女たちに声をかけます。そこに、成績優秀だけど、影のうすい帰宅部女子1名がからみます。悩み多き年頃、みなそれぞれに屈託を抱えていて、なかなか応援に熱が入りません。優勝候補を相手に勝てるはずのない試合、なんとか持ちこたえているのは、ピッチャーの園田君の活躍があるからです。4人の会話は園田君の話題が中心。が、試合の方も急展開!原作は全国高等学校演劇大会で最優秀賞を獲得した高校の名作戯曲。それをもとに、2019年に浅草九劇で舞台化されたもの。舞台とほぼ同じ出演者、脚本も同じく奥村徹也が担当、監督は、なんとピンク映画の世界では大人気の、城定(じょうじょう)秀夫です。一試合中のお話ですが、観戦スタンドとその裏の通路が舞台。撮影も甲子園よりややしょぼい地方の球場ですし、野球試合そのものは歓声と球音だけ。でもそれが、かえって効果的です。なるほどこれはアイデアです。妬み、思いやり、小さな挫折、憧れ、そして片想い……どこか思いあたる遠い日の記憶といいますか。はしっこの方の青春!を声援したい気分になります。首都圏は、7/24(金)から新宿・シネマカリテ他で公開。中部は、7/31(金)からイオンシネマ・ワンダー他で公開。関西は、7/24(金)から梅田ブルク7他で公開。
2020年07月19日おとな向け映画ガイド今週は、ド迫力!アクションと、ハートウォーミングな2本をオススメ。ぴあ編集部 坂口英明20/7/12(日)イラストレーション:高松啓二今週末に公開の新作は21本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。うち全国100スクリーン以上で拡大公開される作品が『今日から俺は!! 劇場版』の1本、ミニシアター系の作品が20本です。その中から、おとながグッとくる3本をご紹介します。『悪人伝』マ・ドンソク! 今、世界の映画界で、いちばん華のある悪漢スターではないでしょうか。ぶ厚い胸板、豪腕からくり出す強烈パンチ、ワルだけどちょっぴり愛嬌もあるマスク。彼の登場シーンは、まるでゴジラのような地響きがします。『新感染 ファイナル・エクスプレス』で人気をさらい、その後毎年4、5本の映画に出演してきましたが、これが決定打です。ヤクザのボスが何者かに襲われ、刃物でめった刺しにされるのですが、奇跡的に、というか人並外れた身体能力でなんとか助かります。当初は敵対する組の仕業と疑いますが、実は、襲ったのは世の中を騒がしている無差別殺人犯で、ボスは運悪く遭遇した被害者、貴重な目撃者だったのです。なめた真似をしやがって! とヤクザのプライドをかけ、組織を挙げての猛烈な犯人探しをはじめます。このボス役がマ・ドンソク。もうぴったりです。決して好人物ではありません。全身タトゥーの超コワモテ。冒頭から肉弾戦の連続です。蛇の道は蛇、といいます。ヤクザのノウハウを活かした独自の「捜査」を繰り広げ、犯人を追うあらくれ刑事(キム・ムヨル)とだってタッグを組みます。ヤクザ=警察の、化かし合いだらけの共同作戦はどこかユーモラスでもあります。韓国本国では観客動員300万人の大ヒット作。すでに、あのシルヴェスター・スタローンがハリウッドでリメイクを決定しています。マ・ドンソク、カメオ出演してくれないかな。『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』主人公のブリット=マリーは専業主婦。女性の就業率が80%を越えるというスウェーデンでは少数派です。63歳。結婚して40年、子供はいません。炊事、洗濯、掃除の日々。キッチンのカトラリーの中が整然としていないと気持ち悪い、毎日の家事をTO DOリストにしてそのチェックが楽しみ、という、どちらかというと仏頂面の堅物キャラクターです。そんな彼女に訪れた転機。実直だと信じていたビジネスマンの夫に、あろうことか、長年の愛人がいたのです。彼女は傷つきます。自分のこれまで生きてきた誇りや証し、それは何だったのか?そして、ひとりで生きようと思い立ちます。さて、ここからが、本番。ブリット=マリーの強みは、空気を読めないこと、忖度をしないことです。特に技能もないのですが、"ハローワーク”の係の女性にずんずん近づき、田舎町の「ユースセンター管理人」兼「少年少女サッカー・チームのコーチ」という仕事を手にします。サッカーなんて興味のかけらもなかった彼女。相手は移民の子どもたちがほとんど、町の人たちも最初は冷淡。そんなアウェー環境のなかで、堅物なキャラのまま、いかにして、独り立ちし、ハッピーなリスタートができるか。原作は大人気作家フレドリック・バックマンの『ブリット=マリーはここにいた』。ラストでこの原作タイトルの深さが生きてきます。面倒なおばさんが、だんだん愛らしくみえてくる、ハートウォーミングな映画です。ブリット=マリーを演じたのは、スウェーデンの名優、ペルニラ・アウグストです。どこかで見た顔だと思ったら、あの『スター・ウォーズ ファントム・メナス』のアナキンの母親ではないですか。『ぶあいそうな手紙』こちらはブラジルが舞台。78歳の、ちょっと気難しいおじいさんと自由気ままな23歳の女の子の、風変わりな関係と、手紙をめぐるお話です。エルネストは年金暮らしの独居老人。サンパウロに住む息子は、家を売って一緒に住もうといいますが、彼はこの思い出がつまった住まいで本やレコードに囲まれて残りの人生を過ごすつもりです。悩みの種は視力がおち、ほとんど字も読めないこと。そんなある日、故国ウルグアイに住む親友の妻ルシアから、友の死を伝える手紙が届きます。ちょっとしたトラブルが元で知り合った若い娘ビアに手紙を読んでもらい、ルシアとの文通が始まります。返事の書き出しは「拝啓」なんてぶあいそうな文言でなく「親愛なるルシア」がいいとか、ビアのアドバイスで、エルネストの手紙は次第に恋する男のものに変わっていきます。頑固親父ですが、文学の教養もあり、音楽の趣味もよく、詩を諳んずるエルネスト。若いビアと付き合いだしてからどんどん若やいでいき、ちょっと不良の彼女も素直さを取り戻していきます。そして……。ブラジル音楽のレジェンド、カエターノ・ヴェローゾの『ドレス一枚と愛ひとつ』を挿入曲に、古い港町を舞台に展開する、ジジイmeetsガールのロマンチック・ストーリーです。首都圏は、7/18(土)からシネスイッチ銀座で公開。中部は、7/31(金)から伏見ミリオン座で公開。関西は、7/31(金)からシネ・リーブル梅田他で公開。
2020年07月12日おとな向け映画ガイド今週も、これは、という3本を選りすぐってオススメ。ぴあ編集部 坂口英明20/7/05(日)イラストレーション:高松啓二今週末に公開の新作は17本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。うち全国100スクリーン以上で拡大公開される作品が『私がモテてどうすんだ』『透明人間』の2本、ミニシアター系の作品が15本です。その中から、これは、という3本をご紹介します。『バルーン 奇蹟の脱出飛行』成功するとわかっていてもドキドキする、スリリングなサスペンスタッチのドラマです。冷戦下に東ドイツから西ドイツへ、小さな子どももいるふたつの家族が、なんと手作りの気球に乗って国境を越えるという、破天荒な、でも実際にあった脱出行の映画化です。1979年、ほんの40年前のできごとです。ベルリンの壁崩壊はその10年後。捕まったら銃殺覚悟の亡命が、まだその頃あったのです。主人公のひとりは、長髪でベルボトムのジーンズを履いています。東ドイツでも『チャーリーズ・エンジェル』が隠れた人気で、話題にでてきます。インターネットの時代ではありませんが、テレビ電波は越境していたわけで、西側の生活を垣間見ることができたはず。それと比べるとかなり過酷な、息詰まる日常があったのでしょう。気球の故障で一度失敗。秘密警察に追われる中、家族のひとりが兵役を6週間後に控えている、そういった差し迫った状況での再チャレンジ。高さ32メートル、面積1,245平方メールもの気球用布地の調達と縫製、近所の目をしのぶ密かな準備、10代の子どもたちは秘密を守れるか……。いくつものハードルを劇的に飛び越える姿は圧巻です。この事件は1982年にディズニーが『気球の8人』として一度映画化。36年の時を経て、本国ドイツで作られました。今年2020年は統一から丁度20年です。『透明人間』タイトルでイメージすることを見事に裏切ってくれると思います。新趣向の“透明人間”です。なるほどこれは、不可能じゃない、かも知れないと思わせてくれます。支配的に同棲していた恋人に逃げられ、悲嘆のすえ、富豪の天才科学者が自殺。その恋人には遺言により多額の遺産が転がり込むのですが……。その後、彼女の身近で起きる怪事や、誰かにストーキングされているような感じは何?ひょっとして自殺したはずの……。気配があるその感じ、気持ち悪さを、どう説明しても周囲は信じてくれない。彼女の精神は崩れだし、そして賭けに出るのです……。SFというよりはホラーサスペンス。しかもスタイリッシュなんです。マッドサイエンティストにふさわしい冷たく、金属的な邸宅、張り詰めた映像、キレそうなヒロインを矢継ぎ早に襲う恐怖。狙われた女性の視点で描いたというのもユニーク。きっちり冷んやりさせてくれる映画です。『マルモイ ことばあつめ』日本統治下の朝鮮半島。日本語を強要され、名前さえ日本式に変えさせられた時代に、母国語を守ろうと、”マルモイ(ことばあつめ)”を続け、辞書を作ろうとした人たちがいた、という史実をもとにできた韓国映画です。物語は、辞書作りのリーダーで小さな出版社を営むジョンファン(ユン・ゲサン)と、街で彼のバッグをひったくろうとしたことからつながり、やがて同士として活躍するお調子者のパンス(ユ・ヘジン)を軸に進みます。パンスは学校に通ったことがなく、読み書きを知らない、逃げ足とムショ仲間の人脈は強く、喜怒哀楽豊かな、愛すべきキャラクターです。演じているユ・ヘジンは、韓国映画の庶民派スター。日本でいうと、『男はつらいよ』以前の渥美清さんのような感じ。40歳をすぎた彼が、辞書製作に関わりながら、文字を覚えていきます。ハングルを読めるようになると、街の看板もわくわくする楽しみに変わります。そして、初めて小説を読んで涙し、子供たちに手紙を書くのです。映画のなかでは、いくつかの韓国のことばの語源が象徴的に使われます。「言葉は民族の精神を持った器」、抑圧された時代のなかで、ことばが市井の人々をひとつにまとめていく、感動のドラマです。『タクシー運転手 約束は海を越えて』の脚本を担当したオム・ユナの監督作品。出演のユ・ヘジンや同作のプロデューサーが名を連ねています。首都圏は、7/10(金)からシネマート新宿他で公開。中部は、7/10(金)からイオンシネマ鈴鹿、7/25(土)から名古屋シネマテークで公開。関西は、7/10(金)からシネマート心斎橋他で公開。
2020年07月05日おとな向け映画ガイド今週は、かなりオトナな人が主役の3作品をおすすめ。ぴあ編集部 坂口英明20/6/28(日)イラストレーション:高松啓二今週末に公開の新作は13本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。うち全国100スクリーン以上で拡大公開される作品が『MOTHER マザー』の1本、ミニシアター系の作品が12本です。名作『アニー・ホール』のダイアン・キートンとウディ・アレン、それぞれの新作が偶然にも同日公開です。その2作品と石橋蓮司18年ぶりの主演作、という「かなりオトナな」顔ぶれによる3作品を、ご紹介します。『チア・アップ!』ダイアン・キートンは、本当にステキな歳の重ねかたをしているなあ、と思います。容姿やファッショニスタとしてのセンスはもちろんですが、出演している作品も、シリアスな方向に流れず、例えば『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』『ロンドン、人生はじめます』など、おとなのライト・コメディを楽しそうに演じてくれていて、とても憧れます。今回の作品は、製作総指揮も担当しているそうで、彼女のポジティブなパーソナリティが前面にでた、どんな世代にもパワーをくれそうな人生讃歌になっています。ある事情で、誰の世話にもならずにひっそりと暮らそうと、都会からシニアタウンに引越したマーサ(ダイアン・キートン)。でも、人が集まるところ、面倒はついてまわります。たくさんのルールがあって、年寄りらしい生活の強要に、ちょっぴり反骨精神のあるマーサはカチンときます。そんな時、お隣りに住むおせっかいでパワフルなシェリル(ジャッキー・ウィーヴァー)に後押しされ、子どものころ実現できなかったチア・ガールのクラブを作ろうと思い立ちます。集まったメンバーは超個性的。でも平均年齢は、72歳! そしてめざすは、全米チア・リーディング大会!……と、単純にストーリーを書くと、よくありがちな展開ですが、さにあらず。その行間が、面白いのです。心に刻まれるシーンもふんだんにあります。ベテラン俳優たちのウィットに富む演技で、若者との粋なつき合い方、仲間の大切さ、人生の愛おしさを教えてくれます。ぜひご覧になってみて下さい。『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』原題そのまま、何ともロマンティックなタイトル。おしゃれな看板に偽りなし。ダイアン・キートン主演で撮った『アニー・ホール』から43年。この作品も、魅惑のニューヨークがいっぱいでてくる、いかにもウディ・アレンのラブ・コメディです。アレンもことし84歳。出演はしていませんが、その瑞々しい感性はさすがです。主演は、売れっ子ティモシー・シャラメ。役名はギャツビーと、華麗です。その恋人アシュレーを演じるのはエル・ファニング。やはり今旬の女優です。ふたりはニューヨークから少し離れた大学の同級生。大学新聞の記者として、ニューヨークで高名な映画監督のインタビューをすることになったアシュレーにギャツビーが同行するのですが。実は彼の実家は超セレブなニューヨーカーで……。映画監督や、映画スター、撮影所など、映画界の裏話的な世界が次々と登場します。が、描かれ方はリアルというよりは、まるで黄金期のハリウッド映画のようで。大スターをカメラマンがとり囲み、恋の噂がマスコミの注目を集める。ラブ・コメディの舞台としてはぴったりです。#MeTooスキャンダルで追いまくられたご自身の最近の事件をカリカチュアライズしているのかも知れません。昨年ドキュメンタリーにもなった、NYセレブ御用達のカーライルホテルや、メトロポリタン美術館、もちろんセントラルパークなど、アレン映画ではおなじみのニューヨーク名所もふんだんに登場します。主役は実はこの街、といっていいかもしれません。『一度も撃ってません』いまの日本映画には珍しい、余裕すら感じられる洒落たコメディです。70年代の、例えば松田優作が出演したアクション映画や探偵ドラマのテイストもある、日本製ハードボイルドへのオマージュ。「ハードボイルドだど」とあえて茶化して作った、おとなの映画人たちの遊び心に嬉しくなりました。売れない小説家・市川進。夜な夜な渋いバーに、トレンチコート、黒ハット、薄めのサングラスで現れる、彼の裏の顔は、伝説のヒットマン、殺し屋だった……。よくある通俗的な設定ですが、さらにひねって、でも彼は「一度も撃ってません」てどういうこと?リアルなハードボイルド小説をめざす彼は、殺しの依頼を受けると、プロに下請けしてもらい、その仕事ぶりを詳細に取材して執筆する。これがリアルすぎて、かえってうそっぽい→だから売れない→だから元教師の妻の年金が頼り。夜のハードな取材で帰っても、朝のゴミ出しの仕事が待っているのです。この企画は、阪本順治監督の『大鹿村騒動記』で主演した原田芳雄(2011年7月逝去)にゆかりの飲み会が原田邸であり、そこに参加した桃井かおりが、「次は(石橋)蓮司の映画を作ってよ。だったら手弁当ででる」という発言からはじまったそうです。その場にいた岸部一徳、大楠道代、佐藤浩市、江口洋介も賛同。そして、暴力団役で柄本明、渋川清彦。他に、豊川悦司(怪演!)、妻夫木聡、柄本佑などがなるほどの役どころで出演。よくこれだけの顔ぶれが集まったなと感動します。優作映画の脚本家丸山昇一のアイデアをもとに映画化されました。日本映画ファン必見! です。
2020年06月28日おとな向け映画ガイド今週は、ミニシアター系で公開の作品から厳選!オススメの5本を。ぴあ編集部 坂口英明20/6/21(日)イラストレーション:高松啓二緊急事態宣言の解除後4週目、今週末公開の新作は14本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。うち『ランボー ラスト・ブラッド』『ソニック・ザ・ムービー』など全国100スクリーン以上で拡大公開される作品が2本。通常の本数に戻ってきました!観ものの多い中から、今回はミニシアターで上映される、おとなの映画ファンにオススメの5本を、ご紹介します。『SKIN/スキン』人種差別にからむ事件が連日報じられている今、この映画は、なぜこんなことが、という疑問への、ある答えを示しているように思います。スキンヘッドで、全身を憎悪と威嚇のタトゥーで覆い、白人至上主義で、ネオナチグループのメンバーだった男が、いかにして、その差別と暴力の泥沼からぬけだしたか、を描いたドラマ。実話の映画化です。主人公のブライオン・ワイドナーは、14歳のとき、路上生活をしていたところをネオナチのリーダー夫妻に拾われ、我が子のように育てられました。「黒人、イスラム、同性愛はアメリカから出ていけ」という過激な主張を繰り返すグループの若き幹部です。そんな彼が、三人の娘と暮らすシングルマザーのジュリーと出会い、知らなかった家族愛にふれることで、グループからの離脱を決意するのですが、これが並大抵のことではありませんでした。腹は減っていないか、いい暮らしをしたくないか……、世の中からスポイルされた若者へのネオナチのメンバー勧誘ぶりは、映画で描かれた日本のやくざの世界とよく似ています。タトゥーは生まれ持ったものではないですから、自己表現のひとつ。刻まれたその差別意識の象徴を除去するのに16カ月。入れるときより数倍痛いそうです。それでも強い意思と実行力と「愛」があれば。『悪の偶像』清廉な市議会議員の息子が犯した轢き逃げ事件から始まる、犯罪と悲劇の連鎖。韓国の新鋭イ・スジン監督による、一級のサスペンスです。事件を目撃し、現場から逃亡した被害者の新妻の存在が鍵。警察の捜査とは別に、その新妻を加害者の父(ハン・ソッキュ)と被害者の父(ソル・ギョング)が探しはじめ、事態を複雑にしていきます。韓国を代表する名優ふたりが好対照で、ドラマをひっぱっります。行方をくらますミステリアスな新妻を演じているのはチョン・ウヒ。狂気も感じられ、薄気味悪い存在、まさに熱演です。選挙戦と捜査が同時進行する展開、被害者とその妻の隠された事情、普通の人がどんどん狂気に走る予想だにしない展開、そして人間の業の深さ。韓国ノワールらしい映画です。いつも雨模様というのも含め、その独特な緊張感と陰鬱さがたまりません。『はちどり』思春期の女性の、カオスのような世界を描いた映画です。韓国の映画雑誌のベスト10では、『パラサイト 半地下の家族』につづく「第2位」という評価。38歳の監督キム・ボラは、このデビュー作で50以上の世界の映画賞を獲得した、いま注目の女性監督です。小さな体で懸命に羽を動かす、蜂なのか鳥なのかわからない存在の“はちどり”に、主人公をなぞらえた象徴的なタイトル。ウニは14歳、中学2年生。商店街で餅屋を営む両親と高校生の兄と姉、後輩女子や、他校の親友、そして彼氏、日々起こる人間関係の悩みに、親は勿論、誰も気づいてくれません。でも、やっと親身にきいてくれる塾の先生に出会うのですが……。そんなウニの日常を彼女の目線で丹念に描いています。時代は、韓国にとって激動の1994年。民主化、国際化、空前の高度成長の歪みがではじめる年。それはウニの生活とも無縁ではありません。突然来る別れ、将来の自分への不安、それでも「世界は不思議で美しい」と、ウニをそっと見守ってあげたい、そんな温かい気持ちにさせてくれる映画です。首都圏は、6/20(土)からユーロスペースで公開中。中部は、名古屋シネマテーク他で近日公開。関西は、7/4(土)から第七藝術劇場で公開。『ハニーランド 永遠の谷』今年の米アカデミー賞でドキュメンタリー賞と国際映画賞の2部門に同時ノミネートされた、注目の作品です。バルカン半島、ギリシャの上に位置する北マケドニア。電気も水道もない寒村で、盲目の母と暮らす、自然養蜂家の女性の暮らしを3年間追い続けています。「半分は蜂たちのもの、あとの半分だけはわたしが」、彼女は蜂との共生を第一に考えてきました。ところが、近所に住みだした一家が、蜂の乱獲をはじめます……。古来から連綿と、ほそぼそと続いてきた養蜂の仕事は、彼女で終わるのか。静かな、哀しみに満ちたドキュメンタリーです。『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡』ドラマで演ったら、うそでしょ、うそっぽい、やりすぎと思うにちがいない辛辣な罵声の数々。イリーナ・ヴィネルという、新体操王国ロシアを率いる伝説的な総監督に圧倒されます。2016年のリオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得した、マルガリータ・マムーンの、オリンピック直前の様子をとらえたドキュメンタリーです。その練習ぶりも、なんとも凄まじい。同じアスリートの恋人に励まされるシーンに安堵しますが、私生活でも辛いことが続いて起こるマムーン選手の精神力にも脱帽です。それにしても鬼監督の迫力がすごい。よく撮ったなあ、撮らせたな、と感心します。師弟関係を描いたということで、映画『セッション』を想起するという声がありますが、本物の迫力はあんなもんではありません。首都圏は、6/26(金)からヒューマントラストシネマ渋谷他で公開。中部は、7/31(金)から伏見ミリオン座で公開。関西は、7/3(金)からシネ・リーブル梅田で公開。
2020年06月21日おとな向け映画ガイド今週公開の作品も傑作揃い。その中からオススメ3本。ぴあ編集部 坂口英明20/6/14(日)イラストレーション:高松啓二緊急事態宣言の解除後3週目、今週末公開の新作は17本。『ドクター・ドリトル』など全国100スクリーン以上で拡大公開される作品も登場しています。映画館が日々感染防止対策の努力をしていることもあり、少しずつ活気が戻ってきました。今週も傑作揃いのなかで、これはという、おとなの映画ファンにオススメの3本を、ご紹介します。『エジソンズ・ゲーム』功成り名遂げた偉い人、実は嫌なやつだった、というのが、おとなが納得する偉人伝の真実ではないでしょうか。その点でも、この映画はよくできています。主人公の発明王エジソンは、嫌なやつなのです。でも独創的で個性的。演じているのが、ベネディクト・カンバーバッチ、このクセ多いキャラ、もうぴったりです。交流と直流、理科の時間にならったあれですが、電気の規格をどちらにするかという一大ビジネス戦争が、1880〜90年代にアメリカでありました。その一方の旗頭が、エジソン。対するは、マイケル・シャノンが演じる実業家のウェスティングハウス。中心人物ふたりがさまざまな仕掛けをもって対立します。特許訴訟、マスコミ操作、脅し、そして裏切り……。実は死刑台の電気椅子の発明もエジソンが関係していて、論議のタネになってしまうというなかなか興味深いシーンもあります。クライマックスは、1893年のシカゴ万博。19世紀末のクラシカルな世界で繰り広げられる、天才たちの知恵と駆け引きが、すごくスリリングです。『ペイン・アンド・グローリー』黒澤や小津作品など“巨匠の映画がデジタルで修復される”という最近の映画界で流行っている話題をうまくとりいれた、スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督の新作です。映画ファンならそれだけでもニヤリとしそうです。体調をくずし、映画作りから遠ざかっている高名な映画監督が主人公。アルモドバル作品ではおなじみのアントニオ・バンデラスが演じています。32年前の作品が、修復の上、シネマテークで古典として上映されることになったのですが、それは彼にとっては失敗作。発表後に封印していた作品です。でもこれがきっかけとなり、観返してみると、意外やいい出来じゃないか、と思います。そして、この作品が原因で絶交していた薬中毒の主演役者を訪ねることになります。彼と旧交をあたためながらヘロインに酔ううちに、気持ちがよくなり、子どもの頃の思い出がいくつもよみがえってきて……。アルモドバルそのものといっていい、セミリタイアした映画監督の日常。 人生を感じさせるセリフ、監督が住む赤を基調にしたインテリアの家もおしゃれです。渋いなかにも繊細さを持つバンデラスが魅力的ですし、母の思い出(演じているのは、監督とつきあいの長いペネロペ・クルス)、同性愛者である監督の原点ともいえる少年時代の性的な事件、 恋人との出会いと別れなど、ちょっといい思い出話が続きます。確かに『ニュー・シネマパラダイス』を彷彿とさせるところも。アルモドバルが肩の力をぬいて作った、過去に向かうだけでなく、明るい未来もほの見える、後味のいい映画です。『なぜ君は総理大臣になれないのか』日本の現役政治家、衆議院議員小川淳也を17年間追い続けたドキュメンタリーです。これが、めっぽう面白い! カメラの前で17年、これでいいのか、と悩み続ける代議士の、愚直なまでに真っ直ぐな姿に、政治の世界でもこんな人がいるんだと驚きます。民主党から民進党、希望の党、そしていまは無所属。このコロナ禍で、国会の質問に立ったこともあります。見たことはある、気がします。当選は5期。政府、政党の要職についたことはほとんどない、といっていいでしょう。安倍長期政権時代に入り、野党の集合離散の波にもまれていく小川氏。高松市に帰るとその説明に追われる日々が続きます。選挙になると、地元新聞社のオーナー一族の自民党議員に常に惜敗し、比例代表で復活が常。政策通、ビジョンが明確な彼ですが、政党間のヘゲモニー争いのなかでで板挟みになり力が発揮できません。理想と現実のから回りや、周囲のから騒ぎ、地方選挙の人間模様など、日本の政治の世界ならではの様々な人間ドラマもこの映画には映し出されています。この議員の暮らしぶりと謙虚な話し方は、政治家とは上から目線のえらそーな人、というイメージの真逆にあります。そうか、だから、総理大臣にはなれない、のか。首都圏は、6/13(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、ポレポレ東中野で公開中。中部は、名古屋シネマテーク他で近日公開。関西は、7/24(金)からシネマート心斎橋他で公開予定。
2020年06月14日おとな向け映画ガイド映画館再開!新作は粒ぞろいです。ぴあ編集部 坂口英明20/6/7(日)イラストレーション:高松啓二緊急事態宣言の解除を受けて、待ちに待った新作映画の公開が、6月1日から映画館で始まりました。6日までで20本、今週末12日、13日にはさらに20本以上の作品が封切られます。各館、座席間を離すなど、鑑賞方法に気を使いながらのリスタートですが、映画館のスクリーンで作品を味わうのは、やはり格別の高揚感があります。しかも今回のロードショー内容たるや、素晴らしい!のひとこと。そのなかで、これはという4本をご紹介します。粒ぞろい! オススメです。『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』オルコットの名作小説『若草物語』の4度目の映画化です。久しぶりの、オーソドックスで優雅なアメリカ映画を堪能してください。19世紀後半、ニューイングランド地方に住む四姉妹の成長と青春を描いた作品。先日、1949年版がBSで放送されていましたが、ジューン・アリソンや若き日のエリザベス・テイラーなど当時大人気のスター女優が出演する青春文芸作品でした。今回も、いま最も輝いている女優、シアーシャ・ローナンを主役の次女ジョーに、『美女と野獣』で不動の人気を得たエマ・ワトソンを長女役に起用するなど、ハリウッドの王道を行く作り。特に、シアーシャ・ローナンは観てるだけで幸せな気持ちにさせてくれます。見どころのもうひとつは、ていねいに再現されたセットデザイン、衣装やインテリア、小道具の数々。米アカデミー賞で衣装デザイン賞を受賞したのも納得です。細部にまでこころ配りのある、見事な作品です。『お名前はアドルフ?』ドイツ映画。まさにおとな向きの知的な、それでいて大笑いしてしまう、珠玉のコメディです。元はフランスのお芝居だったそうですが、ドイツで映画化すると、また意味あいが違います。舞台は、ライン川のほとりにある、現代ドイツ文学を教える大学教授のおしゃれな邸宅。妻の弟夫婦に待望の赤ちゃんが生まれるということで、お祝いの宴が始まります。ゲーム感覚で子どもの名前を当てっこしていると、とんでもない事態に。なるほど、舞台劇の映画化。すべてセリフのやりとりで進行します。名前をめぐって、哲学、歴史、文学の大論争。そのうち、それぞれの思いや秘密が吹き出して、さらに修羅場に。家の中での自粛疲れで、プチストレスに襲われていた今だからでしょうか、ここまでぶちまけられると、観終わって何故かスッキリもします。首都圏は、6/6(土)からシネスイッチ銀座他で公開。中部は、7/24(金)から名古屋・伏見ミリオン座他で公開。関西は、7/10(金)からテアトル梅田他で公開。『罪と女王』デンマークはフィンランドと並んで、世界一幸せな国といわれていますが、そんな国の、アンモラルな映画です。その辺が面白いのです。弁護士で、児童保護を専門とする女性が主人公。医者の夫、幼い双子の娘もいて、幸せな生活を送っていたのですが、やや素行の悪い、夫と前妻の間にできた17歳の少年を家にひきとったところから、ほころびが生じ始めます。彼を立ち直らせようとしているうちに、関係を持ってしまうのです。映画のすごさはここからで。過ちが発覚しそうになるや、彼女は、極めて残酷な大人の対応をし、自分の立場を守ろうとする行動にでるのです……。これまで観たことのない展開の映画です。女性監督メイ・エル・トーキーの、デンマーク・アカデミー賞(ロバート賞)作品賞など世界中で映画賞を受賞した作品です。首都圏は、6/5(金)からヒューマントラストシネマ有楽町他で公開。中部は、6/27(土)から名古屋・名演小劇場で公開。関西は、6/5(金)からシネ・リーブル梅田で公開。『コリーニ事件』大物実業家がベルリンのホテルで、銃で撃たれて死亡するシーンで始まります。犯行理由について沈黙を続ける犯人。事件の弁護をたまたま引き受けたのは新米弁護士の主人公。特に社会正義に燃え、という意識も、野心もそれほどない、普通の青年です。勝てる見込みのない裁判でしたが。調査を始めると、ある事実が浮かび上がります。それは……。ドイツのベストセラー小説を映画化した、現代のドラマですが、歴史ミステリーであり、後半は裁判劇。殺人事件が歴史を掘り起こし、戦後ドイツが隠してきた事実につきあたるこのドラマの展開はスリリングで、おとな向け一級エンタテインメントです。犯人コリーニ役は、マカロニ・ウェスタンの伝説のヒーロー、フランコ・ネロ。これがめちゃ渋いんです。
2020年06月07日WOWOWシネマでは、劇場版『ONE PIECE』の放送が決定。シリーズ最新作『ONE PIECE STAMPEDE』の独占初放送を含め、全14作品が一挙放送される。今回の放送では、原作にもTVアニメ版にもないオリジナルストーリーで展開される劇場版第1作『ONE PIECE』(’00)から、ルフィたちが世界最大のエンターテインメントシティ“グラン・テゾーロ”に隠された陰謀と街の独裁者に立ち向かう第13作『ONE PIECE FILM GOLD』(’16)までを放送。さらに、前作から3年ぶりに製作されたシリーズ最新作『ONE PIECE STAMPEDE』(’19)も放送。アニメ化20周年記念作品となる本作は、世界中の海賊が集まる“海賊万博”に招待された麦わらの一味が、伝説の海賊王の残した宝を巡ってほかの海賊と激しい争奪戦を繰り広げる様子が描かれる。また、本作の監修は原作者・尾田栄一郎が務め、ゲスト声優には、ユースケ・サンタマリア、指原莉乃、山里亮太といった「ONE PIECE」好き芸能人が参加した。『ONE PIECE STAMPEDE』独占初放送! 劇場版『ワンピース』全14作品一挙放送は6月19日(金)・20日(土)WOWOWシネマにて放送。(cinemacafe.net)■関連作品:ONE PIECEワンピースエピソード オブ アラバスタ砂漠の王女と海賊たち 2007年3月3日より全国にて公開©尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション ©「2007 ワンピース」製作委員会ONE PIECEワンピースエピソード オブ チョッパー プラス冬に咲く、奇跡の桜 2008年3月1日より全国にて公開© 尾田栄一郎 / 集英社・フジテレビ・東映アニメーション ©「2008 ワンピース」製作委員会ONE PIECE film STRONG WORLDワンピースフィルムストロングワールド 2009年12月12日より全国にて公開© 尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション ©「2009 ワンピース」製作委員会ONE PIECE 3D 麦わらチェイス 2011年3月19日より全国東映系にて公開© 尾田栄一郎/「2011 ワンピース」製作委員会ONE PIECE FILM Zワンピースフィルムゼット 2012年12月15日より全国にて公開© 尾田栄一郎/2012「ワンピース」製作委員会ONE PIECE STAMPEDE 2019年8月9日より全国にて公開©尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会
2020年06月02日映画制作会社「アイエス・フィールド」がオンライン上だけで制作する“オンラインシネマ”2作品が、「ABEMA」にて配信されることが決定。キャストも明らかになった。キャスト、スタッフ共に、誰とも接触せずオンライン上だけで制作したドラマシリーズ。オンライン上で企画からキャストオーディション、撮影・編集など全ての工程を誰とも接触せずに制作。1話完結で全4話、笑いあり、涙あり、サスペンスありのオンラインエンターテインメントとなっている。今回、「ABEMA」で配信が決定したのは2作品。グラビアアイドルやシンガーなど、若手キャストが集結している。ダークファンタジー「10年後の梨奈へ」まず1作目は、シンガー&女優として活動する村田寛奈を主演に起用した「10年後の梨奈へ」。10年前に亡くなった恋人への想いを巡るダークファンタジー作品だ。梨奈(村田寛奈)は、10年前に事故で亡くなった恋人・智哉をいまも想い続けている。ある日、梨奈は「死者に会える」というサイトを知り、疑いながらもアクセスをする。梨奈は事故で亡くなった智哉に、どうしても言いたかった秘密があった。そして智哉も――。ほかにも、ミュージカル「テニスの王子様 3rdシーズン」の平松來馬や、舞台「KING OF PRISM -Shiny Rose Stars-」の横井翔二郎、『カメラを止めるな!』で話題となった秋山ゆずきが出演している。ラブコメディ「Go!Con!」2作目は、グラビアアイドルとしての活動する高橋凛が主演する、合コンを描くその名も「Go!Con!」。歌手を目指して上京した楓(高橋凛)は、今年で29歳。モデルの仕事で食いつなぐ毎日。なんとかオーディションに合格するも、緊急事態宣言で全ての仕事が中止に。来年は年齢制限で仕事が減るのは確実。せめて恋愛だけでもと、オンラインの飲み会に参加することに。が、参加してみるとそれはアバター合コン。何も知らず開始早々、一人だけ素顔を晒す楓。しかも参加者は曲者アバターばかりで…。共演には、舞台「僕のヒーローアカデミア」の瀬戸祐介、「仮面女子」の月野もあ、女優・岩田華怜。「私の年下王子さま」の相馬理や、「月とオオカミちゃんには騙されない」の曽田陵介と、話題作の出演者も参加している。「10年後の梨奈へ」「Go!Con!」は5月22日(金)22時~配信。3作目、4作目も近日配信予定。(cinemacafe.net)
2020年05月20日ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)は、ファッションアイテムだけでなく、出版物も手がけていることを知っていますか? 今回、最新刊として発売されるのは旅に纏わる4冊の書籍。『シティ・ガイド』1冊と『トラベルブック』3冊が、5月15日より刊行されます。5月15日発売の新刊「ルイ・ヴィトン シティ・ガイド」(2,500円)5月15日発売の新刊「ルイ・ヴィトン トラベルブック」バルセロナ、モロッコ、サンクト・ペテルブルグの3冊が発売(各5,400円)ルイ・ヴィトンの歴史において、書籍は常に重要なものとして捉えられてきました。創業者ルイ・ヴィトンの孫であるガストン-ルイ・ヴィトン(1883-1970)は、彼自身、熱心なコレクター兼愛書家であり、その興味の対象は文学から美術にまで多岐にわたっていたそうです。こうした伝統が受け継がれ、ルイ・ヴィトンでは、約20年間にわたり出版物が手掛けられています。現在80タイトル以上が刊行され、今回新刊が発売される「シティ・ガイド」「トラベルブック」も、これに含まれています。「シティ・ガイド」新刊では、フランスの古都ランスにスポットを当ててローンチ新刊「ルイ・ヴィトン シティ・ガイド ランス」フランスのシャンパーニュ地方のアール・ド・ヴィーブル(豊かなライフスタイル)への称賛「ルイ・ヴィトン シティ・ガイド」は、トレンドを探り当て、情報を提供し、都市の変貌をも追跡。初出版されてから20年間、ニューヨーク、ロンドンや東京をはじめ、世界の動向をリードする30都市のファッション、デザイン、コンテンポラリーアート、フード、そしてカルチャーにいたるまで、これまでのガイドブックの枠にとらわれない独自の視線で展開されてきました。フランスの古都ランス市とその周辺に特化した新刊「シティ・ ガイド ランス」では、まだ知られていない貴重な新スポットの情報を持つ経験豊かな執筆陣が、自由な感性で選ぶ“150のおすすめのアドレス”を通して、魅力溢れるシャンパーニュ地方を紹介。パリからTGVで45分の距離にあるランスは、人口から言えばフランスで12番目の都市ですが、その高い知名度がさまざまな旅人を惹き付ける人気の観光地。ランスの歴史と栄えある名声に、世界の誰もが知るシャンパーニュ地方名産の比類無き発泡ワインが重なり、ランス一帯はユニークな個性を誇ります。美しい写真が連なる本書は、パラパラと目を通すだけでも、まるでランスを旅したかのように楽しむことができる一冊です。今回紹介の「シティ・ガイド ランス」は、ルイ・ヴィトンストアおよび公式サイト(louisvuitton.com)にて販売されますが、電子版は今年の葡萄収穫までの期間限定で、モバイルアプリケーション「App store」にて無料でダウンロードができます。ぜひ、ステイホームな休日のお供にチェックしてみて。「トラベルブック」バルセロナ、モロッコ、サンクト・ ペテルブルグの3都市が新登場世界各国のアーティストが描いたイラストを通じて旅を楽しむ「トラベルブック」にも新刊が登場します。今回は、バルセロナ、モロッコ、サンクト・ ペテルブルグの3都市が新たに加わり、こちらも、シティ・ガイドと同日、5月15日より発売。臨場感溢れるバーチャルな旅を体験できる、ルイ・ヴィトンの「トラベルブック」シリーズ。本書のイラストは、著名なアーティストや新進気鋭のアーティストが手がけ、アーティスト自身が訪れた都市や国について語られる物語が綴られています。各トラベルブックには、その土地のさまざまな建物や特異な光が描かれ、過ぎて行く日々と人々の暮らしを垣間見ることができます。ルイ・ヴィトンは約20年にわたり、イラストレーターや水彩画家によって都市の冒険が描かれた「カルネ・ドゥ・ヴォワイヤージュ」シリーズを展開。「トラベルブック」は、それに続くものとして、遥か彼方の未開の地や眠ることのない都市の旅を現代的で新たな視点から捉えています。それぞれのアーティストが過去に訪れたことのない国へ旅をする。そして、そこで出会う未知なるものからのインスピレーションによって描かれる作品をまとめ、絵による旅の日記という趣旨を超えたものが「トラベルブック」シリーズです。そこに示されている創造の世界は非常に多様。世界各地からやって来たアーティストたちは、旅の中で表現方法を自由に選択し、訪れた場所をデッサン、彩色画、コラージュ、コンテンポラリー・アート、カートゥーン、あるいは漫画によって伝えます。写実的なものもあれば、抽象的なものもありますが、ルイ・ヴィトンはこうした旅から生まれた作品の原画をいくつか入手しているそうで、これらは、ルイ・ヴィトンのコンテンポラリー・アート・コレクションに加えられ、コレクションの多様性と視点をより豊かにしているそうです。今回、刊行される新たな3都市のそれぞれには、シリアルナンバーとアーティストのサインが入ったリミテッド・エディションが30部制作され、一部のルイ・ヴィトンストアにて販売。通常版は、ルイ・ヴィトンストアおよび公式サイト(louisvuitton.com)にて発売されます。また、発売日である5月15日より、ルイ・ヴィトン公式サイト(louisvuitton.com)および公式YouTubeチャンネルにおいて、本書を手がけたアーティストのインタビューも公開。ぜひ、「シティ・ガイド」と「トラベルブック」、合わせてチェックしてみて。>>この他のルイ・ヴィトンの記事はこちら
2020年05月14日人は時間を持て余すと、とりあえず掃除をする。部屋の掃除とは、いわば自分の過去を探る行為でもある。買ったことすら忘れかけていた100均ショップの便利グッズや、15年位前の吉野家の割引券とかがなぜか出てくる。気づいたら夏日だった外出自粛の大型連休。社会人になってこれだけまとまった時間があるのは初めてだ。仕事に燃え、ある時は仕事に逃げていた中年男たちは、家で慣れない大掃除をして、過去と向き合うハメになる。で、本棚の隙間から学生時代の写真なんかを見つけて思うわけだ。あいつ今なにやってんのかなあ……と。そんな2020年の5月にこそ、オススメしたい家シネマこそ『横道世之介』である。結論から書くと、この映画は個人的に人生ベスト3に入るレベルの傑作だ。2013年春の劇場公開時に3度映画館で観賞し、ブルーレイを買い年2ペースで見て、iTunesでダウンロードしたサントラは繰り返し聴いている。吉田修一の原作小説を、沖田修一監督が映画化(共同脚本には前田司郎)。18歳の横道世之介(高良健吾)が大学入学のため長崎から上京してきた1987年春から物語は始まり、16年後の2003年のある出来事に着地する。冒頭シーンで新宿駅東口に降り立ち、何もない部屋でのひとり暮らしの始まり、かったるい大学入学式、クラスメートとの出会い、年上美女への憧れ、バイト先での社会経験、夏休みの帰省、そしてラブストーリーは偶然に……という世之介の日常を追う。もしかしたら2時間40分、何も起こらない平坦で長い青春映画とがっかりする人もいるかもしれない。でも、いつの時代も意外と何も起こらないのが青春なのである。この映画は世之介であり、観客側の“過去”の物語でもある。誰もが経験するような普通の日常を、そして大人になり日々の生活の中で忘れてしまったあの頃を、染み入るようなリアルさで思い出させてくれる。入学式で偶然隣に座った奴がいつの間にか親友になってたあの感じ。あまり乗り気じゃなかった相手なのに一緒に遊んでいる内に好きになっちゃうあの恋のゲーム。なにより、学生時代は時期によって一緒にいる人間が目まぐるしく変化する。映画のあらゆるシーンで「あぁ10代の頃ってそう言えばそうだったよなぁー」の連続だ。高良健吾史上最高のハマり役・世之介、同級生の倉持(池松壮亮)、加藤(綾野剛)、小沢(柄本佑)、阿久津唯(朝倉あき)、世之介の父(きたろう)や母(余貴美子)、凄まじい存在感を発揮する川上清志(黒田大輔)。とにかく登場人物が皆魅力的で、現在の映像にCG処理を施した1987年の新宿(斉藤由貴のカセットテープ「AXIA」の街頭広告も再現)や、JR菊名駅近くの商店街をベースに丁寧に作り込んだ80年代の下北沢駅前も素晴らしい。西武の伊東勤がホームランをかっ飛ばす、お茶の間にプロ野球ナイター中継が当たり前にある風景の描写も野球ファンとしてはうれしくなる。なにより、吉高由里子演ずるお嬢様・与謝野祥子がどうしようもなく最高だ。世之介のボロアパートで初めてふたりで過ごすクリスマス。気合い入れて部屋の飾り付けをしてふたりでケーキを食べたら、とりたててやることもなくなり、コタツに入りながら絵を描く祥子。世之介が窓の外を見ると雪がちらついている。思わず外に飛び出るふたり。ここで流れる音楽は高田漣の「雪の日」。他愛のないやり取りが微笑ましくて切なくて、何度も見てしまう。映画の終盤、2003年に35歳の大人になった祥子が、ふとタクシーの中から16年前の自分たちを思い出すシーンがある。ここもうおじさんにはダメだ。泣けてしょうがない。だって、祥子に対してド下手な誘い方をする10代の世之介、あれ昔の俺らそのものだもの。必死でバカで楽しかったよねえ…なんつってもう絶対に戻ってこない人間関係と膨大な時間。もちろん今は今で仕事もそれなりで家族もいて面白いけど、ちょっと楽しさの質が違う。まあ世の中がいろいろと騒がしく現実が不安な時くらい、ノスタルジーに浸るのも悪くない。『横道世之介』はユルく楽しく切ない。なんだか無性にあの頃の友達に会いたくなる名作だ。部屋の掃除が終わったら、誰かの結婚式以来会ってないあいつらとZoom飲み会でもしようと思ったよ。
2020年05月08日レプロエンタテインメント主催の「映画をつくりたい人」を募集するプロジェクト「感動シネマアワード」のグランプリ作品6作品が決定。本プロジェクトは、heartwarming(心温まる)、be moved(心動かされる)、be inspired(鼓舞される)、be blown away(圧倒される)、soul-stirring(魂を揺さぶる)といった様々なニュアンスを持った観客の心を揺さぶる、“感動する”企画を全国から募集、製作する映画コンペティション企画。今回製作が決定したグランプリ作品は、「新進気鋭の俳優を主演にした映画の企画・プロデュース」部門からの6作品。6名の俳優から1名を主演に選び、企画概要と脚本を応募する部門となっている。6名の俳優には、「コウノドリ」「偽装不倫」『his』など近年の活躍が目覚ましい宮沢氷魚、連続テレビ小説「なつぞら」やバラエティ番組での活躍も話題になった福地桃子、「病室で念仏を唱えないでください」のうらじぬの、「初めて恋をした日に読む話」「俺のスカート、どこ行った?」の堀家一希、昨年同事務所に所属したばかりの植田雅、そして「ローファーズハイ!!」などの舞台に出演する山崎果倫。宮沢さん主演作は、現在出版社で漫画編集者として働く葛里華監督による『はざまに生きる、春(仮)』。発達障がいを持つイラストレーター・透を宮沢さんが演じ、彼と出版社に勤務する春の恋の物語を描く。福地さんを主演に描くのは、『真っ赤な星』で劇場デビューを果たした井樫彩監督による『あの娘は知らない(仮)』。熱海で小さな旅館を営む奈々(福地さん)と東京から来た俊太郎、大切な人を失ったもの同士の、遅れてきた夏休みを映し出す。そのほか、うらじさん主演作は、西加奈子原作、ふくだももこ監督・製作の『炎上する君』。堀家さん主演作は、飯塚花笑監督がゲイの高校3年生純悟と優助それぞれが、本当の愛を見つけることができるのかを描く『世界は僕らに気づかない(仮)』。植田さん主演作は、ダンサーを目指し芸大の舞踏科に通うゆっこ(植田さん)と、同じ大学の演劇科に通う元カレ・高橋との物語を描く『階段の先には踊り場がある(仮)』(木村聡志監督『恋愛依存症の女』)。山崎さん主演作は、借金に苦しんでいる映画監督志望のショウと仕事が順調な彼女・アヤ、ひょんなことで出会いショウと体の関係を持ってしまったタエコとの、3人の人間関係を描く『夢の中』(都楳勝監督『蝸牛』)が決定した。本企画プロデューサーは「最終的に6つの作品を選ぶことになりましたが、その過程で何度も悩みました。それでも今は、この6つの企画と脚本が素晴らしい映画になると信じています。今はまだテキストの“物語”が、どんな風に映像化されていくのかが今から楽しみです」と製作へ期待を寄せている。出演者コメント■宮沢氷魚この度、僕が出演する作品が「はざまに生きる、春」に決定しました。初めて脚本を読んだ時から引き込まれ、作品を手がけた葛里華さんともお話をして、彼女の熱量に感激しました。共にすばらしい作品を生み出したいと思います。■福地桃子今回参加する中で、心が動く感覚をとにかくたくさん感じたいと思いました。未知な部分への楽しみと不安と向き合いながら、良い作品になるように全力を尽したいと思っています。沢山の方に届く、残る映画を観て欲しいです..!■うらじぬの感動というものはだいたい突然やって来るような気がします。ふと耳にした音楽、目にした景色、受け取った言葉。この企画から生まれた作品達が、誰かにとって生活の中でふと出会った感動のひとつになれますようにとひっそり願いながら挑ませて頂きます。ふくだももこ監督、不束者ですがどうぞよろしくお願い致します!!!■堀家一希沢山のご応募頂きありがとうございました。今回、飯塚花笑監督の「世界は僕らに気づかない」という映画に出演させていただきます。初めて挑む役です。全力で演じていきたいと思います。よろしくお願いします。■植田雅このような機会を頂き嬉しい気持ちと同時に少し不安な気持ちもありますが、とても楽しみです。この作品を見て下さった、一人でも多くの方の心を動かせられるよう精一杯頑張りたいと思います。■山崎果倫映画には、人の人生を変える力がある。私はずっとそう信じています。そして映画は、時には自分を認めてくれて、時には叱ってくれて、言葉にできない気持ちを代弁してくれたり、自分の本当の気持ちを教えてくれたりする。そんな力がある芸術だと思っています。だから今回のこの“感動シネマアワード”では、沢山の人の心を揺らしたい。「感動」で衝撃を与えたい。自分の可能性と、映画がもつ力に、全力で賭けてみたいと意気込んでいます。(cinemacafe.net)
2020年04月21日これだけ日常に“時間”があるのはいつ以来だろうか?個人的に毎年4月になると、プロ野球を見て選手データやスポーツニュースを片っ端からチェックする作業に1日6時間近く費やしてきたが、無期限の開幕延期で先のスケジュールも立てようがない。緊急事態宣言で外出も控えたいので「いかに部屋で楽しむか」がこの春のテーマである。クリアできず放置してあったゲームをやったり(『メトロイド サムスリターンズ』とか)、懐かしの『キャプテン翼』の新作を20年ぶりくらいに読んだり(あの日向小次郎が初恋真っ只中の展開に驚愕)している。そして、ぶらり映画館で大人の「ソロシネマ」を楽しむというコンセプトだったこの連載も「家シネマ」へと一時変更。せっかくだから、これだけ時間に余裕がある今だからこそ「いつか見ようと思っていたけど乗り遅れて結局まだ見ていない」作品を楽しみたい。誰にでも名前は聞いたことあるけど今さら見るのも……みたいな映画はあると思う。とどのつまり、今さら映画体験だ。というわけでAmazonプライムビデオで物色していたら、一本の懐かしいタイトルが目についた。映画『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(以下『もしドラ』)である。言わずと知れた岩崎夏海氏が書く2010年頃の大ベストセラーで、漫画やアニメに、田中誠監督で映画化もされた。怒涛のメディアミックス展開だったので、もちろんそのタイトルは聞いたことがある。あの女子高生がよく晴れた空の真下こちらを見つめる表紙のビジュアルも覚えている。この本をきっかけにメディアにピーター・ドラッカーのブームが巻き起こったのも記憶にある。まだ世の中にスマホはそこまで普及していなかったが、電車内広告が大展開されていたのだ。ただし、だ。正直に書くと、本を読んだこともなければ、映画も結局スルーしてしまった。俺は当時ピーター・ドラッカーよりも、エドガー・ゴンザレスの方に興味があった。エドガーの二塁守備は下手でさあ……じゃなくて、当時は世の中の流行りを追う時間と心の余裕はなかった。ならば、今こそちゃんと向き合ってみよう。2020年にあえて3回りくらいした映画『もしドラ』を見る。これほど不要不急な行為はない気もするが、いざコーラとプロ野球チップスをおともに家映画である。物語は女子高生の川島みなみが、病気の親友の代わりに都立程久保高校の弱小野球部マネージャーになることから始まる。「野球部を甲子園に連れて行く」と宣言したみなみは書店で間違って買ってしまったドラッカーの名著『マネジメント』の内容に注目し、そこに書かれている教えを元に弱小野球部をマネジメントしていく。果たして強豪チームへと生まれ変わることはできるのだろうか?というシンプルなプロットを元にドラッカーの考えを紹介していくわけだが、まずドラッカー本と出会う街の書店の雰囲気がたまらなくいい。約10年前はまだこういう中規模の本屋さんが駅前に普通にあって日常に根付いていた。もはや懐かしさすら感じてしまう風景だ。主役の川島みなみ役を演じるのは当時AKB48の前田敦子。映画初主演で選抜総選挙1位にも輝いたスーパーアイドル時代というだけで引いてしまう人もいるかもしれないが、実は前田はのちの『苦役列車』の桜井康子役や『もらとりあむタマ子』の坂井タマ子役など役者としても評価が高い(2本ともマジ名作)。アイドルだから……AKBだから……みたいな先入観に縛られ女優・前田敦子を避けるのは非常にもったいないと思うわけだ。ちなみに当時のAKB48人気はまさに絶頂で、東京ドームの巨人戦でAKBクリアファイル付きチケットが販売されていたし、2012年開幕戦の巨人対ヤクルトでは国歌斉唱に登場したりしていた。そんな全盛期の格闘王・前田敦子を紹介役にドラッカーを知るというコンセプトは説明パートのテンポも良く退屈させない。もちろん野球部の定義や野球部のイノベーションの考え方はそのまま会社にも当てはまる(だからベストセラーになったわけだが)。「あらゆる組織において、共通のものの見方、理解、方向づけ、努力を実現するには『われわれの事業は何か。何であるべきかを』定義することが不可欠である」「イノベーションとは組織の外にもたらす変化なの。古い常識を打ち壊し、新しい野球部を創造することで高校野球界の常識を変える。古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものは、計画的かつ体系的に捨てていく」そして、高校野球にとって死につつあるものは「送りバントとボール球を打たせる投球」というセイバーメトリクス的な答えを導きだす。この映画の折り返し地点までの約1時間はかんたんドラッカー入門編としても秀逸だと思う。さて、ここからは野球ファンの目線になってしまうが、後半は間延びする野球の試合や青春ドラマ展開で一気にペースダウンしてしまう。これは邦画の野球映画全体に言えることだが、試合の山場の見せ方や客席のエキストラ含め寂しく、役者のプレースキルもバラつきがありすぎて感情移入するのは難しい。いまだにアメリカ野球映画の定番としておなじみの『メジャーリーグ』や『ミスターベースボール』の何が最高かと言えば、やはり野球の試合シーンの見せ方なのである。そんな中、ひとり飛び抜けて素晴らしいのが、柏木次郎役で程久保高校の捕手を務める池松壮亮だ。池松は小学生時代に野球の上手い子が九州中から集まってくる強豪チームでセンターを守るバリバリの野球少年だったという(ほぼ日刊イトイ新聞「俳優の言葉。」より)。とにかく投げる、捕る、美しいバットスイングからユニフォームの着こなしまで、ひとりだけ別次元のポテンシャルを発揮している。ぜひ傑作と噂の野球小説『ボス、俺を使ってくれないか?』(白泉社)の映像化の際には、主役の石原昌利役を演じてほしいものである。正直、本作はアイドル映画としても野球映画としてもいまいち弱いと思う。ただ、この映画が劇場公開されたのは2011年6月4日だった。あの東日本大震災から約3カ月後のことである。当時の揺らぐ社会において、人々はこれまでの働き方や組織のあり方を問われていた。あれから9年、新型コロナウイルスに揺れる今の世界だからこそ、再び自分の仕事や会社を見つめなおすきっかけになりそうな一本だ。今さらじゃなく、今こそ。お前さん、この映画を見なくていいのかい?
2020年04月10日おとな向け映画ガイド今週のオススメは、韓国冷血犯罪もの、山田孝之が父親役!?、スーダンに映画の灯を! この3作品。ぴあ編集部 坂口英明20/3/30(月)イラストレーション:高松啓二今週末に公開される映画は、3月30日時点で13本(ライブビューイング、映画祭を除く)。こういうつらい時期の公開ですが、実は、話題作、佳作ぞろいです。この中から2本と、近日公開の1本を、おすすめしたいおとな向き映画としてご紹介します。万事解決して、皆様が御覧になれますように。『暗数殺人』このところハズレなし。韓国映画の傑作です。暗数殺人、統計にでてこない、闇から闇に葬られた殺人。当然あるんでしょうね。そのひとつが、ある事件をきっかけに明るみになったという実話の映画化です。現代の釜山。恋人殺人事件の容疑者が、刑事に別の殺人の犯行をほのめかします。虚言癖のある男なので、多少疑いながら調べてみると、自白の場所に白骨死体が。が、事件が表面化すると、彼は「死体を運んだだけ」ととぼける。そんな繰り返しでつぎつぎと明らかにされる殺人。ふてぶてしく、かわいげもない容疑者の意図は何か?刑事にとっては手柄をたてるチャンスであり、反発をしながらも、どんどん深みにはまっていき……。役者がいいです。刑事役にキム・ユンソク。『チェイサー』や、一昨年公開の『1987、ある闘いの真実』でも警察所長を好演していました。犯人役はチュ・ジフン。TVドラマ『宮 ~Love in Palace』や、映画でも『神と共に』など話題作に多く出演しているイケメン俳優です。悪魔的といいますか、いったいこの顔で何人殺したのだ、不気味なつらがまえです。ユンソクの部下役、チン・ソンギュも、私注目の役者です。今年公開の『エクストリーム・ジョブ』では刑事でありながら唐揚げ作りの天才というキャラで笑わせてくれました。今回は真面目一方ですが。『ステップ』かぶりものも全裸も辞さない、闇金や勇者ヨシヒコとか変わった役を演じる印象が強い山田孝之が父親健一役で、妻に先だたれてからの娘美紀との10年を描く感動の物語。ってありかと、思いましたが、ありでした。シングルファーザーの暮らしがていねいに描かれます。2歳半の娘を保育園に預け、会社へ。営業から時間の自由がきく総務に回してもらい、周りに迷惑がかからないように仕事をてきぱきこなし、娘を迎えに行き、食事の支度をし……。やがて小学校に入学し、卒業するまでの、さまざまなエピソード。「ステップ」は一歩、一歩ずつという意味でしょうか。原作は重松清の小説です。監督・脚本は飯塚健。代表作『荒川アンダー ザ ブリッジ』とはだいぶ雰囲気がちがいます。もちろん父娘の話が中心ですが、まわりの大人たちの描き方がとてもていねいです。私は、國村隼演じる義理の父親に感情移入して観ました。娘の夫、もう実の息子のような主人公と孫への愛情の表し方。國村さんはこういうの実にうまいですね。昔、ウイスキーのCMで家族の絆をテーマにしたシリーズに出ていましたが、あれを思い出しました。母役の余貴美子、健一の同僚役広末涼子、保育士の伊藤沙莉、それぞれに見せ場があります。健一の上司で、いつでも営業にもどってこいよ、と声をかけてくれる営業部長役岩松了もいいなあ。いつも誘ってくれるお昼ごはんが、ちょっとせこくて。『ようこそ、革命シネマへ』スーダン出身の若い監督スハイブ・ガスメルバリによる、ドキュメンタリーです。かつてのスーダンでは、映画は人気の娯楽で、自国製の作品もあったのですが、1989年に軍事クーデターが起き、その後、映画制作は禁止され、映画館も閉鎖されました。79年生まれのガスメルバリ監督は、留学先のフランスで映画にめざめ、そこで過去の「スーダン映画」に初めてふれます。帰国した監督は自国での作品制作をめざし、そんななかで、4人の年老いた映画人に出会います。いずれも1960〜70年代に外国で映画を学び、制作集団「スーダン・フィルム・グループ」を設立したこの国の映画の父、たちです。軍事独裁政権で表現の自由を奪われ、散り散りになっていた仲間たちは、その後再会し、ほそぼそと野外上映会をしたりして、スーダンにもう一度映画の灯をともそうと、活動をしていたのでした。カメラは、その4人が、首都ハルツーム近郊で廃墟と化していた映画館、その名も「革命シネマ」を再建しようと奮闘する姿を追っていきます。70歳前後、さまざまな苦難をへて、それでも失わなかった4人の映画の夢。映画館が修復されたら掛けようと決めた作品は、クエンティン・タランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者』、というのが泣かせます。首都圏は、4/4(土)から渋谷・ユーロスペースで公開。中部は、4/18(土)から名古屋シネマテークで公開。関西は、第七藝術劇場他で近日公開。
2020年03月30日おとな向け映画ガイド“世界一貧しい大統領”を描いた2本と、異文化トラブルを笑いとばすフレンチコメディが今週のオススメ。ぴあ編集部 坂口英明20/3/23(月)イラストレーション:高松啓二今週末に公開される映画は13本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国約100スクリーン以上で拡大上映されるのは『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III.spring song』のみ。予定されていた春休み映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』『ソニック・ザ・ムービー』『3年目のデビュー』は公開延期になりました。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が12本。この中からの2本に4月公開の1本を加え、今週のオススメしたいおとな向き映画をご紹介します。『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』イギリスBBCが、その質素な暮らしぶりを「世界一貧しい大統領」と評したウルグアイの元大統領、ホセ・ムヒカ。彼の半生をテーマにしたドキュメンタリーが相次いで公開されます。それぞれ視点が違っていて、いつか並べて上映しても面白いと思える2本です。先に公開されるこの作品は、旧ユーゴスラビア出身のエミール・クストリッツァが監督。『パパは、出張中!』でカンヌ国際映画祭パルム・ドール賞を獲得したのをはじめ、ベルリン、ヴェネチアを制した巨匠は、トラクターを運転する大統領がいるときいて関心を持ち、2014年から撮影を開始、翌年の退任式後までムヒカ大統領に密着しています。愛車はボロボロのフォルクスワーゲン・ビートル、給料の9割は貧しい人々のために寄付をし、時間の許す限りトラクターに乗り、小さな畑で農業に精をだす。愛嬌のある顔をした好々爺。実は、若いときは極左反政府ゲリラで、銀行強盗もしたことがあるツワモノです。クストリッツァ監督とマテ茶を回し飲みしながら、にこやかに語ります。確かに、青年時代の写真をみると、精悍で歴戦のゲリラ兵士といった感じ。軍事独裁政権により、13年間も収監され、不屈の精神が培われたといいます。1985年に軍事政権が倒れた時、49歳で解放され、以後政治家として活躍、94年に下院議員になります。2009年には大統領選に出馬し、当選。10年から大統領職を務めました。在任中は、貧困率を劇的に下げるなど施策を次々と実現、国民から圧倒的支持を受けた5年間でした。青春の思い出を語るのですが、話はいささか物騒です。かつてのゲリラ活動の現場に立ち「45口径を手に銀行に入るのは最高だ」といい放つサングラス姿は、まるでフィルムノワールのギャングです。かと思うと、好きなタンゴのことを「挫折を知ったあとで好きになる歌だ」とつぶやく詩人です。夫人は元ゲリラの同志。愛の歴史も語られます。ホセ・ムヒカ、愛称は「ぺぺ」。84歳、「その顔に歴史あり」です。首都圏は、3/27(金)からヒューマントラストシネマ有楽町他で公開。中部は、3/28(土)から名演小劇場で公開。関西は、3/27(金)からテアトル梅田で公開。『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』続いて、4月10日に公開されるこの作品は、フジテレビのディレクター、田部井一真監督による日本のドキュメンタリーです。ムヒカさんと日本との意外な関係を、2016年に来日した時の映像と、ウルグアイ現地でのインタビューなどで描いています。そもそも、ムヒカさんの存在が世界で知られるようになったのは、2012年、リオデジャネイロで行われた国連持続可能な開発会議でのスピーチ。「私たちは発展をするためにこの地球上にやってきたのではありません。幸せになるためにやってきたのです。……行き過ぎた消費主義こそが地球を傷つけ、さらなる消費を促しています」。大量消費社会をやさしい口調で問いただす発言が、世界に反響をよんだのです。演説をもとに日本では子供向けの絵本が作られ、なんと50万部を超えるベストセラーになりました。このことがきっかけとなり、来日にもつながるのですが、ムヒカ元大統領と日本との縁はそれだけではありませんでした。ウルグアイでインタビューした田部井監督に「日本にはとても感謝をしているんだ」ときりだし、日本について話しだします。ウルグアイには、日本人の移民が多くいて、菊の花などの栽培をしていました。彼の家の近くにもそういう農家があり、困った時に花の苗を分けてもらったこともあったそうです。2016年4月、夫人とともに来日したムヒカさんが、行きたいと希望したのは、広島。原爆ドームを見終わって「未来に向けて記憶しよう。人間は同じ石でつまづく唯一の動物だと歴史が示しているのだから」と記します。楽しみにしていたのは若者との対話。「人生でいちばん大事なことは成功することでなく、歩むことだ、転んでも再び立ち上がることだ」と、語りかけます。全編を通し、力強いメッセージがつまった映画です。首都圏は、4/10(金)からシネスイッチ銀座他で公開。中部は、4/10(金)からセンチュリーシネマで公開。関西は、4/17(金)から梅田ブルク7他で公開。『最高の花婿 アンコール』フランスの大ヒットコメディ。2014年に作られた『最高の花婿』の続編です。ロワール地方のお金持ち一家。両親は敬虔なカソリックで保守的。にもかかわらず、美しい4人姉妹は全員、外国人と結婚してしまいます。長女はアラブ人と、次女はユダヤ人と、三女は中国人と。四女の相手がやっと同じ宗教のカソリックときかされ、安心したのですが、実はコートジボアール出身の黒人で……、前作はそんな大騒動でした。と、ここまで頭に入れていれば、第1作を観ていなくても充分楽しめます。あれから4年。花婿それぞれの故郷を訪ねる旅行から帰国した両親を囲み、みやげ話を聞こうと家族が集まります。ややコンサバな父の毒舌は相変わらずです。が、きいている花婿たちには、それを笑いとばす余裕もありません。仲のいい彼らはみな同じような悩みを抱えていました。それは、住んでいるパリの「異文化ハラスメント」。例えば、四女の夫、役者のシャルルは「黒人に振られる役はヤクの売人ばっかり。マシなのは『最強のふたり』のあいつだけさ!」とご不満です。で、彼がいきなり思いついたのが、インド行き。ツテもないのに、ボリウッドでスターになろうという計画です。義兄の3人もそれぞれ、フランス脱出を考えています。それを知った父と母。愛しい孫たちの顔が見れなくなるなんて耐えられません。花婿たちをフランスに引き留める大作戦が始まります……。フランスは「人種間混合結婚数」が世界一。20%近くが異民族・異人種・異宗教間での結婚、というデータがあります。ヨーロッパの他の国は3%前後ですから、その多さが窺えます。この映画の面白さは、人種や文化のちがいを茶化したり、皮肉ったり、それを陰湿なハラスメントでなく、当人の前でやるところ。そんな本音トークが受けた理由でしょうね。しかし愛があるんだな。幸せな気分になれること請け合いの映画です。首都圏は、3/27(金)からYEBISU GARDEN CINEMAで公開。中部は、4/18(土)から伏見ミリオン座で公開。関西は、4/17(金)からシネ・リーブル梅田他で公開。
2020年03月23日おとな向け映画ガイド「悪カワヒロインアクション」と「三島由紀夫vs東大全共闘秘蔵映像」が今週のオススメ。ぴあ編集部 坂口英明20/3/16(月)イラストレーション:高松啓二今週末に公開される映画は13本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国約100スクリーン以上で拡大上映されるのは『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』『一度死んでみた』『弥生、三月ー君を愛した30年ー』の3本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が10本です。この中から、おすすめしたいおとな向きの2作品をご紹介します。『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』いやあ、あなどっておりました。恐るべしハーレイ・クイン、面白いです。スーパーマン、バットマンまではわかるけど、最近のマーベル・コミックとか、DCコミックスとか(あ、これはDCです)、キャラクターものありすぎでよくわからんなという人にも、かなり親切な作りになっています。おとなにもやさしい、「悪カワ」ヒロインの痛快アクションです。観終わって気分がスカッとします。ハーレイ・クインは、あのジョーカーの元彼女。実は精神科医で、ジョーカーは患者だったのですが、恋人になってしまい、といったこれまでのいきさつは、最初にハーレイがアニメを使って紹介してくれます。ジョーカーの庇護下で好き勝手やってたのに、別れた途端、町の悪党どもがみんな手のひら返しで……。なかでも最強の敵は、サイコで残忍なブラック・マスク。路上暮らしの少女、カサンドラが盗んだダイヤをめぐって、ふたりはブラック・マスクに追われることになります。キュートなのにクール、服やメイクもぶっとんでいて、腕っぷし(というか蹴りか)も強い。ちょっと狂気もはらんで、暴力的。武器はショットガンにドでかいハンマー。ハーレイのキャラクターがなんとも楽しいです。住まいは、ダウンタウンにある謎の中国料理店の上。ごたごたとしたポップなインテリアに、ペットはハイエナの「ブルース」です。ハーレイを演じているのは、前作の『スーサイド・スクワッド』と同じマーゴット・ロビー。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のシャロン・テート役、そして『スキャンダル』ではアカデミー賞助演女優賞ノミネートと、のりにのっている女優です。実は、一匹狼のハーレイが、行きがかり上、タフな女性3人と手を組み、最後はチームになります。それぞれのキャラクターがまた凄いんです。クラブの元歌手で、その声が凶器というブラック・キャナリーとか。この女性陣がサブタイトルの「BIRDS OF PREY (猛禽類)」なわけです。監督は中国系のキャシー・ヤン。スーパーヒーロー(ヒロイン)映画を演出した初のアジア人女性となりました。バトルの前にバストのガードを考えたり、ファイトの途中で髪留めの貸し借りがあったり、男性監督じゃ気づかない細部のこだわりというか、ちょとした気の使いかた、テンポのよさ、この監督うまいです。『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』今から50年前に三島由紀夫と東大全共闘が激論を交わした討論会のフィルム、こんなものが残っていたのかと驚くTBS秘蔵の映像に、新たな取材を加えて作られた貴重なドキュメンタリーです。三島由紀夫は、当時、若者向け雑誌『平凡パンチ』の「オール日本ミスター・ダンディ」という人気投票で、ダントツの1位(2位三船敏郎、3位伊丹十三)だったと、紹介されます。ノーベル賞の候補である大作家というだけでなく、映画に出演したり、マスコミにもよく登場する人気者でした。討論会が行われたのは1969年5月13日。東大安田講堂事件の数カ月後です。前年には新宿南口が炎上した新宿騒乱事件があり、学生運動はますます過激化。繰り返されるデモでは、ヘルメットにゲバ棒の新左翼が投石と火炎瓶で機動隊と激突していました。そういう空気のなか、行動右翼として、つまり敵とみられていた三島由紀夫が東大全共闘から招かれ、駒場キャンパスへ論争に乗り込んだのです。驚くのは、会場に集まった1000人の学生や壇上の全共闘メンバーを相手に、知識をひけらかして論破してやろうとか、馬鹿にするような態度は一切なく、真摯に意見に耳を傾けているところです。逆に全共闘の方が、超うえから目線で、えらそうです。それにしても、三島が、前年に楯の会という私兵のような集団を組織し、この討論会の翌年には、市ヶ谷の自衛隊で軍服を身にまとい、切腹自決するという最期を知っているだけに、いまにしてみればと、意味深長な発言もあります。論争そのものはやや難解ですが、内田樹さん、小説家・平野啓一郎さん、社会学者・小熊英二さん、瀬戸内寂聴さんのコメントがあり、理解が深まります。実際に討論に参加した元全共闘の闘士たち、三島を師と仰ぐ楯の会メンバー、現場に立ち会ったジャーナリストへのインタビューなど、秘話満載です。内田樹さんは「スクリーン越しにこの映画からいやおうなく吹きつけてくるのは1969年の『時代の空気』である。『政治の季節』の空気である。」と記しています。熱い! あの頃の熱気、熱情がびしびし伝わってくる映画です。
2020年03月16日おとな向け映画ガイドグザヴィエ・ドラン新作と夢のような農場の実話、が今週のオススメ。ぴあ編集部 坂口英明20/3/09(月)イラストレーション:高松啓二今週末に公開される映画は17本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国約100スクリーン以上で拡大上映されるのは『貴族降臨-PRINCE OF LEGENDー』1本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が16本です。この中から、おすすめしたいおとな向きの2作品をご紹介します。『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』いまや、ネットの時代になって、絶滅危惧種的な存在かもしれませんが、ファンレターが重要な役割を担っています。世界が注目する映画監督のひとり、グザヴィエ・ドラン、待望の新作です。ドランは、子供の頃、レオナルド・ディカプリオに夢中で、ファンレターを書いたことがあり、そんな思い出をモチーフに作られたそうで、ちょっとノスタルジックな味もある映画です。タイトルバックの前、いわゆるアバンタイトルが、いかにも意味深にまとめられ、物語が始まります。2006年、ニューヨーク。テレビの人気俳優ジョン・F・ドノヴァンが29歳で謎の死を遂げます。そのショッキングなニュースが流れた時、ロンドンでは、11歳のルパートが自分宛ての手紙のことでお母さんを責めています。彼は子役、母はいわゆるステージ・ママです。11歳の少年の手紙の相手は、その人気俳優でした。なぜ彼らは100通を超える秘密の文通をしていたのか。ドノヴァンにとっての少年はどんな存在だったのか。10年の時を経て、21歳の若手俳優になったルパートが、ドノヴァンとの思い出を書いた著書『若き俳優への手紙』について、語りはじめます。ドラン作品ではおなじみのテーマ「母と子」も、やはり映画の大切な要素です。ルパートの母親役はナタリー・ポートマン、ドノヴァンの母親役はスーザン・サランドン、これにドノヴァンのマネジャー役でキャシー・ベイツ、とアカデミー賞受賞&ノミネートの女優たちが脇を固めています。さすがに名優たち、監督の脚本力も加わって、見事に「キャラ立ち」しています。ドノヴァン役はTVの人気者キット・ハリントン。11歳のルパート役ジェイコブ・トレンブレイは、天才子役!です。神童といわれたドラン監督も30歳。アップを多用し、時に70ミリフィルムを使い、構図もすべて自分で決めるという映像や、音楽の使い方など、いたるところに才器を感じます。冒頭、少年が手紙をなくした母を問い詰めます。「インクの色は何色だったの?」。インクの色、匂い……、手紙が伝えるのは文だけではありません。『ビッグ・リトル・ファーム理想の暮らしのつくり方』こんなときこそ、自然の無限の可能性を感じ、とてもポジティブな気持ちになれる、このドキュメンタリーをオススメします。ロサンゼルス郊外、ジョンとモリーという若い夫妻が、2010年から8年間で作りあげた「理想の」農場のお話です。妻は野菜を中心とした料理研究家でブロガー、夫は野性生物番組の監督・カメラマン。マンション暮らしだったのですが、殺処分から救ったワンちゃんと暮らし始めたのがきっかけとなり、農場経営を決意します。動物と共生し、あらゆる食材を伝統農法で育てるのがモリーの夢。それを実現しようというわけです。最初は相手にされなかった資金集めも、話題が話題を呼んで、なんとか成功。東京ドーム約17個分もあるロス郊外の農地を手にします。そこからの奮闘。一部始終をジョンがカメラに収めていきます。まずは、死んだ土壌を生き返らせるところから。ここに伝統農法のプロ、アラン・ヨークという仙人のような人物がサンダルをはいて登場します。そして、仲間の協力も得て、まるで「ビフォー・アフター」のように土地が劇的に変わり、野生植物の楽園と化していきます。が、難問は続出します。果樹園の樹にアブラムシが大量発生したり。でも、それはどこからともなくやってきたてんとう虫が食べてくれます。そう、そんな風に、自然の難題は自然が解決してくれると彼らは身を持って気づいていくのです。ときに、コヨーテがニワトリを襲います。ジョンは、銃で駆除すべきか、苦渋の選択で悩むのですが……。製作・監督・脚本・撮影監督はジョン・チェスター自身。トロント映画祭、サンダンス映画祭など多くの国際映画祭で「観客賞」を受賞した作品です。生きとし生けるものが共生しあうこと、意味のない命はない、そんなことを痛感します。若い人たちに観てもらいたいなあ。首都圏は、3/14(土)からシネスイッチ銀座、新宿ピカデリー他で公開。中部は、3/28(土)から伏見ミリオン座他で公開。関西は、4/3(金)からシネ・リーブル梅田他で公開。
2020年03月09日おとな向け映画ガイド『ジュディ 虹の彼方に』『星屑の町』が今週のオススメ。ぴあ編集部 坂口英明20/3/02(月)イラストレーション:高松啓二今週末に公開される映画は18本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国約100スクリーン以上で拡大上映されるのが『仮面病棟』『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』『ジュディ 虹の彼方に』の3本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が15本です。当初8日に公開予定されていた『映画ドラえもん のび太の新恐竜』は公開延期となりました。この中から、おすすめしたいおとな向きの2作品をご紹介します。『ジュディ 虹の彼方に』ラストで泣きました。 映画はこれでなくては! まさに感動必至の作品です。ジュディ・ガーランドの最晩年を描いています。子役時代の『オズの魔法使』はミュージカル映画の象徴ともいえる1本、その中で歌った『虹の彼方に(オーバー・ザ・レインボー)』が不朽のスタンダードソングになりました。ショービジネスに燦然と輝くまさに星のような存在です。が、そういうひとに限って、実人生は、そんなに恵まれていないんですね。1954年に『スタア誕生』(最近レディー・ガガがリメイク)に主演。アカデミー賞では本命視されながら、最優秀主演女優賞を逸し、女優から歌手に軸足を移したとされています。60年代はショービジネスの第一線で活躍、カーネギー・ホールでの名パフォーマンスなど、レコードでも名盤を残しています。この映画が描く1968〜69年は、ジュディが47年の人生を終える直前。長年の酒と薬、金銭問題、愛する子どもたちとの別離など、心身ともに疲れ果てていたといいます。最後の舞台はロンドンのナイトクラブ「トーク・オブ・ザ・タウン」での長期公演。このロンドン時代を中心に物語は進みます。ジュディ役を演じたレネー・ゼルウィガーに圧倒されます。『ブリジット・ジョーンズの日記』で、アラサーの悩める独身女性を演じた、ややふっくらした印象の強いあの女優さん。その後『シカゴ』ではアカデミー賞主演女優賞にノミネート、『コールドマウンテン』では助演女優賞を受賞した実力派。この作品でも、女優魂というか、相当の練習を積まれたのでしょう。吹き替え無しで歌い、ジュディが憑依しているかのようです。クラブで歌う『トロリー・ソング』『カム・レイン・オア・カム・シャイン』などのスタンダード・ナンバーの楽しいこと……、そして感動の『虹の彼方に』。レネーはこの作品で、ジュディがなしえなかったアカデミー賞最優秀主演女優賞受賞を果たしています。ちょっといいエピソードが心に残りました。ジュディが、舞台がうまくいかず、打ちひしがれて、もう世界に自分の味方はいないと絶望した夜。「出待ち」のファンが彼女を救います。ショーに通いつめる中年のゲイのカップルです。彼らのもてなし、というか心配りがどれほど力になったか。LGBTQコミュニティでは、ジュディと『虹の彼方に』がシンボル的な存在であるといいます。『星屑の町』こちらもショービジネス!ですが、うって変わって、売れないムード歌謡コーラスグループ「山田修とハローナイツ」の歌と涙の人情喜劇。シリーズ化し、25年も演じられてきた、下北沢あたりじゃ評判の、舞台の映画化です。例えば、内山田洋とクール・ファイブのように、前川清のバックでわわわわーとコーラスをつけている人たち、いますよね。どこか謎の存在でありますが、かれらに着目したアイデアが面白い。舞台と同じメンバーが出演、これがまた実に絶妙のキャスティングです。映画を観る前の予備知識として、グループ結成のいきさつを書いておくと。元大手レコード会社社員の山田修(コント赤信号の小宮孝泰)が、担当の演歌部門が縮小になったのを機に、それなら自分でとこのグループを作りました。メンバーは、行きつけのスナックのマスター(同じく赤信号のラサール石井)、そして店の客(渡辺哲と有薗芳記)。これに大阪ミナミからボーカルの大平サブローが参加し、グループが誕生。さらに、博多の焼き鳥屋の親父(でんでん)が、グループの経済的な救世主となり、途中から加わります。以後、解散と再結成を繰り返し現在にいたる、というわけです。東北巡業、といっても温泉の余興がほとんど。今回は山田修の故郷、東北の田舎町、廃校になった小学校で公演です。主催は山田の弟(菅原大吉)が率いる町の青年団。ゲストというか前座歌手で「キティ岩城」(戸田恵子)もやってきます。公演前日に行ったスナックで、歌手志望の愛ちゃんにまとわりつかれ、すったもんだあり…。愛ちゃん役はのん。久しぶりの映画出演です。彼女がグループに加わってからの展開はちょっとした「スター誕生」風。かっこよくいえばショービジネス・エンタテインメントですが、どこかしょぼいのが逆に魅力です。大平サブローが歌う『宗右衛門町ブルース』『中の島ブルース』『ほんきかしら』や、グループのオリジナル『MISS YOU』。戸田恵子が歌う『手紙』など、昭和歌謡がたっぷり味わえます。すべて歌詞が字幕になってでます。のんちゃんが歌う『新宿の女』『恋の季節』はよく考えた選曲ですね。脚本は、お芝居のときから、演じる役者の個性を活かす「当て書き」で書かれています。小宮はいかにも気が弱そうだし、一見コワモテだが優しい渡辺、謎がありそうなでんでん、すねものの有薗。なかでもラサール石井が傑作です。舞台での大平との関西弁の漫才のようなやりとりなんて、最高です。
2020年03月02日おとな向け映画ガイド今週のオススメはこの4作品。ぴあ編集部 坂口英明20/2/24(月)イラストレーション:高松啓二今週末に公開される映画は24本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国約100スクリーン以上で拡大上映されるのが『野性の呼び声』『スケアリーストーリーズ 怖い本』『劇場版「SHIROBAKO」』『しまじろうと そらとぶふね』『初恋』の5本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が19本です。この中から、おすすめしたいおとな向きの4作品をご紹介します。『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』年老いた美術商、成功とはいいがたい彼の人生の終盤に、大きなチャンスが巡ってきます。オークションの下見会で見つけた小さな肖像画。署名がないので安価ですが、これは隠れた名画に違いない、72歳の主人公オラヴィは、その絵画にひと目で魅了されます。調べていくうちに、この絵は19世紀ロシアを代表する画家レーピンの作品だ、と確信します。もしそれが事実で、真相を知るのが彼だけならばひと財産、ですが。証拠がなければ二束三文。さて、最後にして最大のディールは……。フィンランドの首都ヘルシンキを舞台にした現代の物語です。旧市街で小さな美術店を営むオラヴィ。オークションの落札価格さえインターネットで調べられる時代ですが、彼の商売道具はタイプライターと昔ながらの紙のカード。家族も顧みず、絵画に没頭した人生。娘との確執もあり、孤独なひとり暮らしです。ギャラリーをたたむことになるかもしれないという経済状況。朝、ベーカリーでブリオッシュを一つ買うのが毎日のささやかな楽しみです。そんな彼の店に、疎遠だった孫がやってきます。問題児のため学校の職業体験課題の引受先がなく、祖父を頼ってきたのです。店番をさせると意外や商才もあり、オラヴィの調査の大きな力になってゆきます。何か小さな希望がみえてきます。クラシカルな主人公の顔と風体、帝政ロシア領時代の雰囲気を残す街の景観、それが相まって、しみじみとした趣を感じさせる映画になりました。ちなみに、彼のいきつけというベーカリーは、エクベリという老舗です。ガイドブックによればヘルシンキ最古だそうです。孫の教育のために訪れるミュージアムは、アテネウム美術館。国宝級の美術品が撮影に使われています。絵画をめぐるミステリー、スリリングなオークション、ヘルシンキの街のたたずまい、そして家族の絆。観終わったあとも気分良く映画館を出られる素敵な作品です。首都圏は、2/28(金)からヒューマントラストシネマ有楽町他で公開。中部は、2/28(金)から名演小劇場で公開。関西は、3/6(金)からシネ・リーブル梅田他で公開。『野性の呼び声』子どもの頃に読んだことがあるひとも多いかと思います。日本製アニメになったこともあります。勇敢で、誇り高い名犬バックの半生を描いた、ジャック・ロンドンの古典名作、久々の映画化です。バックの父はセント・バーナードで、母は牧羊犬のスコッチ・シェパード。19世紀末のアメリカ、カリフォルニアの判事の家で生まれました。賢くていたずら好きのお坊ちゃん犬。それが、小金稼ぎの悪党に捕まり、ゴールドラッシュのカナダにそり犬として売り飛ばされてしまいます。雪を知りません。夜の雪原でどう寝たら良いか、ましてそりを引くなんて、わけがわからない。そんな世間知らずのバックが、多くの苦難と経験を積んで、強くたくましいリーダー犬になっていきます。そしてソーントンという、傷心の旅を続ける男と巡り合います。演じているのがなんとハリソン・フォード(感動のキャスティング!)。大自然のなかでともに生き、強い友情で結ばれていきます。前半は、高貴な生まれの主人公が、低い身分に落ち、さまよい苦しんだのち尊い存在になるという、日本でいえば貴種流離譚のようなストーリー。後半は、信頼という絆でつながった「ふたり」の、壮大なアドベンチャーです。原作は何度も映像化されていますが、今回は、これまでのような人間目線とは異なり、原作と同じように、バックの立場でその半生を描いたのが特徴です。それを可能にしたのがCG。実際の動物を調教して撮影するのでなく、アニメでもない、新しい表現スタイルです。シルク・ド・ソレイユでパフォーマーだったテリー・ノータリーが、犬の身振り手振りを四足で演じ、それをCG化した上、実写映像を多く溶け込ませたハイブリット。子どもの頃のやんちゃさ、苦難の日々の不屈さ、ソーントンとのおだやかな日々、成犬としてのりりしさ。実写版『ライオンキング』にも驚きましたが、リアルに表現される主人公バックは、喜怒哀楽、とても表情豊かです。『黒い司法 0%からの奇跡』アメリカ南部アラバマ、黒人死刑囚の冤罪を晴らそうと活躍する弁護士の物語。実話を元にした映画です。日本ならインデペンデント作品となるタイプの、とてもシリアスなテーマですが、マイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・フォックスという人気の俳優が主演し、ワーナー・ブラザースが配給したメジャー映画。全米では12月のホリデーシーズンに公開された珠玉のエンタテインメント作品です。時代は1988年。ハーバート・ロースクールを卒業したエリート弁護士ブライアン(ジョーダン)は、あえて南部で、冤罪被害者を救済する活動に飛び込みます。最初に手がけたのが、死刑囚ウォルター(フォックス)の事件です。18歳の白人女性が殺害され、ウォルターの無実を立証する黒人の証人が多くいるにもかかわらず、白人男性の曖昧な証言だけで下された死刑判決。調べていくうちに、犯行を裏付けた証言は司法取引によりでっちあげられた偽証とわかります。まだ根強く残る人種差別意識、白人社会の反感のなか、無罪という正義を勝ち取ることができるか、可能性「0%からの奇跡」を描いています。『アラバマ物語』(1962年)という名作映画がありました。黒人青年の白人女性への暴行容疑をめぐる裁判劇。弁護にあたるグレゴリー・ペックは、アメリカの良心を体現したヒーローでした。この原作に描かれたのが、ほかならぬアラバマ州モンロービル。まさに『黒い司法』の舞台なのです。『アラバマ物語』の記念館があり、街の自慢なのですが。本質はなにも変わっていないという皮肉。この映画に登場する他の冤罪被害者の事件が解決したのは、つい最近という事実に慄然とします。だからこそ、今でも活動を続けるブライアン・スティーブンソン氏のこの映画が公開される意味は大きいのです。『PMC:ザ・バンカー』2024年、アメリカ大統領選挙当日、南北朝鮮の軍事境界線を越えて、北朝鮮のKINGが亡命をしてくるという荒唐無稽なポリティカルアクションです。さすが韓国映画。大胆、です。略語が多いので解説しながら紹介します。映画の中心になるのは、PMC(Private Military Company=民間軍事会社)の多国籍傭兵部隊です。CIAから依頼された彼らのミッションは、DMZ(DeMilitarized Zone=軍事境界線)の地下30メートルに作られたバンカー(シェルターのようなもの)で開かれる南北秘密会議の咳から北側の要人を誘拐すること。CIAの企みは、その要人が持つ情報で北の核武装を解除し、選挙で劣勢の現職大統領支持率を一気にあげ、勝利に導こうというもの。当初の計画では10分で片がつくはずでした。ところが、会談前にソウルに北からスカッドミサイルが打ち込まれ、しかもあろうことか、会場に現れたのは北側の最高指導者!ここからは、地下要塞での壮烈バトルです。地下のバンカーには南北双方のエリアが存在し、高級ホテル並のスイート・ルーム、いくつもの会議室、トンネルでセクターがつながっています。ここで、13人の傭兵隊と、中国に雇われた別のPMCが入り乱れての凄まじいサバイバルを繰り広げるというわけです。この臨場感がすごいんです。傭兵部隊の隊長は『神と共に』のハ・ジョンウ。多国籍部隊ですので、アメリカ、メキシコ、ラトビアなど、様々な人種のツワモノが登場します。ドラマの重要な役割をになう、KINGの主治医役で『パラサイト 半地下の家族』のイ・ソンギュンが出演しています。首都圏は、2/28(金)からシネマート新宿他で公開。中部は、2/28(金)から岐阜・大垣コロナシネマワールドで、愛知は近日公開。関西は、2/28(金)からシネマート心斎橋で公開。
2020年02月24日おとな向け映画ガイド今週のオススメはこの3作品。ぴあ編集部 坂口英明20/2/17(月)イラストレーション:高松啓二今週末に公開される映画は23本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国約100スクリーン以上で拡大上映されるのが『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』『チャーリーズ・エンジェル』『スキャンダル』『ミッドサマー』の4本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が19本です。この中から、おとな向きの、ぜひご覧いただきたい3本をご紹介します。『名もなき生涯』同調圧力があったり、正しいことをいうことすら考えてしまう昨今、この作品が公開される意味は大きいと思います。第二次大戦時、ナチスに併合されたオーストリアで、ヒトラーに忠誠を誓わないという意思を貫き、最後は処刑された実在の農夫を描いた映画です。監督は、数少ない作品のほとんどが秀作というテレンス・マリックです。主人公のフランツ・イェーガーシュテッターは、ドイツ国境に近いオーストリアにある小さな村の農夫です。敬虔なキリスト教徒で、妻と3人の娘とつつましくも平和な暮らしを営んでいたのですが、戦争はこの山あいの寒村まで押し寄せてきます。召集されたフランツは、罪なき人は殺せない、と兵役を拒否するのです。彼は逮捕され、ベルリンに送られ、裁判にかけられます。頼りの教会も「祖国への義務を優先すべき」と彼の主張にあえて耳を貸さず、孤独な戦いを強いられます。夫をはげます妻もまた、村八分状態で苦難の日々が続きます。同じ時代が背景の『サウンド・オブ・ミュージック』に似た山と谷、豊かな自然が舞台です。監督の初期作品『天国の日々』を彷彿とさせるおだやかな日々の描写で始まります。農場や平原、山腹、現存する教会や聖堂などでロケし、自然光で撮影された映像、鳥のさえずり、牛や羊の鳴き声、教会の鐘など、撮影時の環境音と静謐な音楽は、まさにテレンス・マリックの世界です。そんな平穏な村の空気は、やがて険悪でギスギスしたものに変わっていきます。「今、世界はこの映画で描かれた時代に逆戻りしている。この歴史から何も学んでいないとしたらあまりにクレージーだ」というのが、監督の主張です。フランツの存在は、1970年代に当地を訪れたアメリカ人研究者が見出すまで、まさに「名もなき者の生涯」だったそうです。『Red』Red、赤は危険信号の赤でしょうか。赤い糸、レッドカード、真っ赤なルージュ、朝焼け、燃えたぎる血の色……。または、一線を越えていく決断の象徴?吹雪の夜、街道沿いのボックスで思いつめたように塔子(夏帆)が電話をしているシーンで始まります。かたわらに鞍田(妻夫木聡)。通り過ぎていったトラックの荷台から、赤い布切れが、風に舞い、白い雪道に落ちます。そしてふたりは、無言のまま凍てついた道に車を走らせます。それはまるで「道行き」のようです。このただならぬ緊迫感。映画は、この夜間走行と回想が交互に描かれていきます。育ちのいい商社マンの夫、可愛い娘がいて、夫の両親と同居する住まいは郊外の大きな戸建て。何不自由のない専業主婦・塔子が、10年ぶりにかつて愛した鞍田と再会し、彼の勤める設計事務所で働き始めます。生き生きと仕事に精をだすうちに、実は気詰まりな姑との関係、気は良いけれど自分本位な夫(間宮祥太朗)との生活に疑問が生まれ、距離を感じ始めます。シングルマザーに育てられた自分は、幸せな家庭という幻想を求めていただけなのか?本当の自分はどこに?相手の鞍田もまた、ある秘密をかかえています。そして、ふたりは再び恋の深みにおちてゆきます。島本理生の原作を三島有紀子監督が映画化。ハードなラブストーリーであり、女性の自立の映画でもあります。散りばめられたキーワードや、印象的な映像、気になるセリフ、音楽と音、個性的な役者たち……、観終わっていろいろなことが、記憶に残りました。前作『幼な子われらに生まれ』では不思議な集合住宅が、話題になりました。今回は鞍田の住む、建築家らしい住居が彼の孤独を表現しているかのように使われています。塔子の母役・余貴美子や、職場の同僚役・柄本佑のセリフも彼女の生き方を変える役割を果たします。劇中に流れるジェフ・バックリィの『ハレルヤ』、心に響きます。作者はレナード・コーエン。「愛はマーチのような威勢のいいものじゃない……」、そんなフレーズもある名曲です。『スキャンダル』全米を代表するニュースチャンネル、FOXニュースで起きた、たった3年前の「スキャンダル」を、会社のロゴや関係者の実名までもそのまま使い、内幕を映画にしてしまう。こんなことができちゃうんですね。しかも、社会派というより、ハリウッドの三大女優が熱演する、つまりハラハラどきどきのサスペンスなのです。局内部の描写や、人間模様が見ものです。ドナルド・トランプが共和党の大統領候補として選挙運動中だった2016年。FOXニュースの人気キャスター、メーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)が彼の女性蔑視発言を攻撃します。トランプ支持の局上層部はその報道ぶりに好意的ではありません。そんな折、かつてメーガンと局のトップキャスターを争ったグレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)が、局のCEOロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)をセクハラで訴えます。ケリーもかつてロジャーから同じような行為をされたことがあるのですが、MeTooと名乗ることはしません。もうひとり。メーガンの座を狙うケイラ(マーゴット・ロビー)がロジャーに接近、同じく性的な行為を迫られています。ケイラは何人かの体験を組合わせて作られた架空の人物ですが、メーガンとグレッチェンは実在しています。特にメーガンは、ご本人とかなり似ています。この作品で、今年度アカデミー賞メイクアップ賞を受賞したカズ・ヒロ(辻一弘)の特殊メイクの産物です。また、シャーリーズ・セロンとマーゴット・ロビーは賞は逸しましたが、それぞれ、アカデミー賞主演女優、助演賞候補でした。普通こういうテーマは圧力でつぶされることが多く、この作品も撮影入り2週間前に制作会社が突然降りるという危機がありました。それにも関わらず、その3日以内に新たな制作・配給会社をみつけ、撮影にこぎつけられたのは、プロデューサーでもあるセロンの情熱と力だったそうです。なんともかっこいい映画人。『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』『グリンゴ/最強の悪運男』に続き、出演作の日本公開は今年すでに3本目。いま絶好調の女優です。
2020年02月17日おとな向け映画ガイド今週のオススメはこの4作品。ぴあ編集部 坂口英明20/2/10(月)イラストレーション:高松啓二今週末に公開される作品は15本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国100スクリーン以上で拡大上映されるのが『1917 命をかけた伝令』『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』『影裏』の3本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が12本です。この中から、おとな向きの映画4作品をご紹介します。『1917 命をかけた伝令』今日、10日に発表された米アカデミー賞。作品賞は惜しくも逃しましたが、撮影賞、視覚効果賞、録音賞を受賞したイギリス映画です。本国では、英アカデミー賞作品賞、英国作品賞を受賞しています。1917年、第一次世界大戦のヨーロッパ西部戦線を舞台にした戦争映画です。『西部戦線異状なし』やキューブリックの『突撃』でも描かれましたが、塹壕(ざんごう)の戦い。延々と続く壕で対置する持久戦です。その塹壕からドイツ軍がなぜか撤収。このチャンスにイギリス軍は1600人の部隊で追撃を決めます。ところが総攻撃開始の前日に、退却は罠であることが判明。このまま進めば1600人は全滅必至です。しかし最前線への通信が遮断されてしまい、作戦中止の指令が届きません。頼りは直接文書を届ける伝令のみ。命じられたのは若いイギリス兵ふたり。兵士でごった返す自軍の壕を抜け、撤退した敵の壕に飛び込み、野を越え、川を越え……リミットは明朝。とにかく走る、のです。この作品の評判が高い理由は撮影方法。普通、映画はカットとカットを編集でつなぎますが、この映画は、伝令兵士の行動を、最初から最後までワンカットで追い続けます。次々とおきるアクシデント、敵の攻撃……。カメラとともに観客も伴走しているかのように、一部始終を目の当たりにするわけで、その緊張感たるや大変なものです。119分、息つく暇もありません。監督は、第一次大戦に参戦した祖父から伝令の体験を聞かされたというサム・メンデス。ミッションを命じるエリンモア将軍役でコリン・ファース、最前線で伝令を受け取るマッケンジー大佐役をベネディクト・カンバーバッチが演じています。主役のスコフィールド上等兵役のジョージ・マッケイは当然ながら出ずっぱりです。『影裏』今更ながら、役者の力を感じます。震災前後の岩手・盛岡を舞台にした男ふたりの友情、というか、不思議な人間関係を描いた映画です。主演の綾野剛、松田龍平が芥川賞受賞の原作をはるかにしのぐ存在感です。不慣れな盛岡に転勤となった今野(綾野)が、職場の同僚・日浅(松田)と親友といってもいい仲になるのですが、日浅は突然、転職。そのあたりからふたりの関係がぎくしゃくしてきます。そして大震災。日浅は釜石に出張に行っていたようですが、行方不明に。消息を探し始めた今野は、隠されていた日浅の一面を知ることになります。「知った気になるなよ。お前が見ているのは、ほんの一瞬、光があたった所だけだ」といっていた日浅。彼は一体何者なのか。謎めいた役を演じたら松田龍平ほどぴったりくる役者はいません。彼にBL的な思いも少しあり、しだいに翻弄される今野役、綾野剛もいい佇まいです。ふたりが釣りを楽しむ緑あふれる盛岡の清流の美しさ、震災後の不安な雰囲気……、美術や撮影スタッフの仕事ぶりにも拍手、です。監督は、NHKの大河ドラマ『龍馬伝』や映画『るろうに剣心』シリーズの大友啓史。盛岡の出身です。『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』本当にあった話です。21世紀初頭のアメリカ。『サラ、神に背いた少年』という小説がベストセラーになりました。作者はJ・T・リロイ。女装の男娼だった経験をもとに書いたといい、カバーをみるとミステリアスな美少年です。セレブやアーティストからも支持され、時代の寵児となったこのリロイなる美少年作家、実は存在せず、40過ぎのローラという売れない女流作家の創造物でした。写真も適当にみつけたものでした。が、ローラが、写真のイメージそのままの、中性的な魅力を持つ女性サヴァンナをみつけ、彼女にリロイを演じさせると、これが大成功。サヴァンナは見事になりすまし、パリで堂々と記者会見をしたり、ハリウッドで映画化されるとカンヌ映画祭に現れたりと大ブレイク。ところが、2006年、ニューヨーク・タイムズの報道でこの嘘が暴かれてしまい……。この事件は、ローラを中心に描いた『作家、本当のJ・T・リロイ』というドキュメンタリー映画にもなっていますが、今回の作品は、リロイを演じたサヴァンナが書いたノンフィクションをもとに、彼女も製作に加わって作られています。誰かになりすますことの背徳的な魅力と、罪悪感というよりバレたらどうなるのかという恐れと、バレてもいいやという開き直った行動、わかるような、わからないような。サヴァンナ役のクリステン・スチュワートは、近く公開のリブート版『チャーリーズ・エンジェル』にも出演。ローラを演じたローラ・ダーンは、『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』で紫色の髪をしたホルド提督を演じてました。ブルース・ダーンの娘です。首都圏は、2/14(金)から新宿シネマカリテ他で公開。中部は、3/7(土)から伏見ミリオン座で公開。関西は、2/14(金)からテアトル梅田で公開。『山中静夫氏の尊厳死』末期の肺がんで余命3カ月を宣告された山中静夫氏が、故郷の山を見ながら死んでいきたいと、信州・佐久の病院を訪ねます。浜松にある雑貨屋の婿養子となり、長く郵便配達の仕事をしてきました。それは真面目な初老の男性です。妻は、見舞うのに車で2時間もかかる病院への入院は反対でしたが、これまで、文句ひとついわなかった実直な夫が初めて自分の強い意思をみせたことで、同意します。山中さんの生まれた在所は、もう限界集落になっていて近所のおばあさんが一人住んでいるだけ。実家もすべて死に絶え、廃屋寸前になっています。ここで、山中さんには「やっておきたいこと」があったのです……。山中静夫役は中村梅雀。もうひとりの主役は主治医の今井医師。津田寛治が見事に演じています。次から次へと患者を見送る日々、今井医師は、山中さんを看取ったあと、うつ病を発症してしまいます。「個室にしますか、相部屋にしますか」ときかれ、山中さんは「何が何でも個室。最後くらい人に気を遣いたくない」と色をなして主張します。それで与えられた角部屋の浅間山が見える個室。思い残すことはそれほどなく、朝な夕なにふるさとの山をみて、ていねいに対応してくれる先生がいて。ある意味考えられる理想の死に方かもしれません。首都圏は、2/14(金)からシネスイッチ銀座他で公開。中部は、3/21(土)から名演小劇場他で公開。関西は、3/20(金)からシネ・リーブル梅田他で公開。
2020年02月10日おとな向け映画ガイド今週のオススメはこの3作品。ぴあ編集部 坂口英明20/2/3(月)イラストレーション:高松啓二今週末に公開される作品は22本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国100スクリーン以上で拡大上映されるのが『ヲタクに恋は難しい』『犬鳴村』『劇場版 騎士竜戦隊リュウソウジャーVSルパンレンジャーVSパトレンジャー/魔進戦隊キラメイジャー エピソードZERO スーパー戦隊MOVIEパーティー』の3プログラム。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が19本です。この中から、今回は、片肘はらずに気楽に観ていただき、あー面白かった!と映画館をあとにできる、そんなおとな向きの映画3作品をご紹介します。『グリンゴ/最強の悪運男』『グリンゴ』はスペイン語で「よそもの」の意味。手塚治虫の漫画のタイトルで同名のものがありました。意味は同じですが、もちろん無関係です。サブタイトルの「最強の悪運男」は、何をやってもついていない主人公ハロルドのこと。でも、彼がなぜ最強かってところがポイントです。ハロルドは、シカゴの製薬会社で働く風采のあがらないサラリーマン。友人リチャードに拾われ、彼が経営する会社に入ったものの、この友人がケチでジコチュー、ひそかに会社を売りに出して、いいとこ取りを計画中で、ハロルドはポイ捨てされる運命にあります。しかもあろうことか、妻はそのリチャード社長と浮気中です。会社には共同経営者かつ社長の愛人エレーンという重役がいて、彼女は彼女で色気を前面におしだす欲の塊。しかもなにやら画策中。悪運男、最低男、性悪女、と見事にキャラ立ちした3人が揃いました。社長の悪巧みのために3人はメキシコ出張にでかけるのですが、旅先でハロルドが誘拐され、会社に法外な身代金の要求がとどきます。でも実はこれ、自分の悪運に嫌気がさしたハロルドの一世一代の狂言で……。人の良さそうなハロルド役にこれまでキング牧師を演じたこともあるデヴィッド・オイェロウォ。社長リチャードは『スター・ウォーズ』シリーズではルークの叔父役だったジョエル・エドガートン。そして、男とみると舌なめずりをくりかえすビッチ役は、おなじみシャーリーズ・セロンです。彼女はこの映画のプロデューサーも兼ねています。のりのりでフェロモンをまきちらしてます。ごく普通の人間がなにかのきっかけで、どんどん事件に巻き込まれていく、いわゆる「巻き込まれ型サスペンス」。話はエスカレートしていき、この三人以外にも悪玉、善玉、おかしなキャラクターが次々登場します。最高なのが、ギャングの麻薬組織のボス。ビートルズの熱狂的なファンで、抗争相手を捕まえるや、ビートルズのベスト・アルバムを尋ね、彼の趣味とちがうと銃で殺してしまいます。さて、彼がきらいなアルバムとは?何だったと思います?とりあえず私はセーフ。彼には殺されずにすみます。『グッドライアー 偽りのゲーム』今週登場の謎解きミステリーは、この作品です。ポスターなどのビジュアルでは、白いコートのヘレン・ミレンと黒いスーツのイアン・マッケランが対照的に表現されています。それでこのタイトルですから、この名優ふたりによるだまし合い、「コンゲーム」ものと想像できます。まさにそれ。予測を裏切らない名人芸、見せ場たっぷりのエンタテインメントです。今からおよそ10年前のロンドン。ベテラン詐欺師ロイは、流行り始めたネット交際サイトで、最近夫に先立たれた資産家ベティと知り合います。ロイのいかにも紳士然とした外見、そつのない会話。世間しらずの上流夫人は彼の魅力にどんどんはまっていきます……。ロンドンのおしゃれで粋なお年寄りのデート。ベティがロイにトップ・ハットを見立てるセント・ジェームズストリートの帽子店「ロック&カンパニー」や老舗デパートの「フォートナム・アンド・メイソン」など、有名店も登場します。ロイ役のイアン・マッケランは、『ロード・オブ・ザ・リング』の魔法使いガンダルフでおなじみ。高名なシェイクスピア役者です。かたや、米アカデミー主演女優賞を受賞した『クィーン』のエリザベス女王を始め、誇り高き女性役ならこの人、ヘレン・ミレン。彼女が演じるベティは、ノーブルで、一見世間知らず風ですが、芯は強そうです。ロイがいかに百戦錬磨とはいえ、詐欺師の手にやすやすとかかるとは思えません。後半は、予想を越えた、そうくるか、という展開でした。お楽しみに。『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』旅の映画、ロードムービーも、毎月様々なテーマの作品が公開されます。何かを目指す旅、追う旅、追われる旅、さまよう旅……。この映画は、夢に向かう旅です。アメリカ南部、ジョージア州サバンナ郊外。身寄りのないダウン症の青年ザックは受け入れ先がなく、州指定の老人施設で暮らしています。彼の夢は、プロレスラーになること。親しくしてくれるカールじいさん(懐かしやブルース・ダーン!)の部屋で、憧れのレスラー、ソルトウォーター・レッドネックが開いたレスリング道場勧誘のビデオカセットを繰り返し見て、いつかこの学校に入るのだ、と考えています。そしてある夜、窓枠にはめられた鉄格子をすり抜け、施設をパンツ一丁で逃げ出します。ふとしたことで出会い、旅の仲間となったのが、漁師のタイラー。カニ漁の漁場のトラブルで命を狙われています。ふたりは逃避行ですから、道なき道を行くことになるのです。基本は歩き。時にヒッチハイク、手作りのいかだ……。途中から、ザックを探す施設の看護師エレノアも加わり、ついに、レスリング道場のある町にたどりつくのですが……。ささやかな映画作りから始まったのだそうです。実際にダウン症で、役者志望のザック・ゴッツァーゲンが、「映画スターになりたい」という夢をふたりのクリエイターに語り、彼らがザックを想定したオリジナル脚本を書き、テスト映像を作ったところ、3人の熱と、ザックの存在感にうたれた独立系のプロデューサーが出資を決めました。アメリカ南部の地方映画祭で観客賞をとったものの、全米公開最初の映画館数は17館。それがSNSなどの評判で6週後には1490館まで広がり、大ヒットとなりました。映画そのものも、まさに夢の実現でした。彼らの旅は、どこか『ハックルベリー・フィンの冒険』を連想させます。めげない、恐れをしらない、ザック君を見ていると、何か元気をもらえる。そんな映画です。
2020年02月03日おとな向け映画ガイド今週のオススメはこの4作品。ぴあ編集部 坂口英明20/1/27(月)イラストレーション:高松啓二今週公開される作品は18本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国のシネコン等で拡大上映されるのが『AI崩壊』『バッドボーイズフォー・ライフ』『嘘八百 京町ロワイヤル』『前田建設ファンタジー営業部』『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』の5本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が13本です。この中から、おとなの映画ファンにオススメしたい4作品をご紹介します。『男と女 人生最良の日々』あの不朽の名作『男と女』の50年後を描いた映画です。主人公ジャン・ルイは海辺の瀟洒な老人ホームで余生を送っています。年輪を重ねた顔は多少枯れた感じではありますが、おしゃれでチャーミングなおじいさんです。が、そろそろ意識があいまい。思い出すのは、50年前に出会い、恋におち、別れたアンヌという女性のことばかりです。ある日、いつものように庭のベンチに腰かけていると、年老いているけれど気品があって美しい女性が声をかけます。「こんにちわ、座っていいかしら?」ふたりは話しはじめます。……施設のこと、子供のこと、老いた男の話は、何度も行きつ戻りつし、かつて愛した女性に、またたどり着きます。「あなたみたいに美しい女性だった」。彼女が長い髪をかきあげると、「すてきなしぐさだ。彼女もそうしていた」……。いつもいつも思い出すアンヌが目の前にいるのに、なかなか気が付かないジャン・ルイ。それが『男と女』50年ぶりの再会シーンです。ジャン=ルイ・トランティニャンとアヌーク・エーメ、監督はクロード・ルルーシュ、そして音楽はフランシス・レイ。かつてのスタッフ、キャストが再集結しました。冬のドーヴィル海岸、はしゃぐ子供たち、犬を連れて散歩する男、バックにかかるあのスキャット・コーラス。雨の高速道路、夜明けのパリ。彼女のもとへひた走るジャン・ルイの車……。50年前の映像が思い出とともによみがえります。フランシス・レイはこの作品のために新曲を作り、映画完成のあと、この世を去りました。「君はいつだって、俺の川がたどり着く終着地……」新しいシャンソンがヴァース(導入)のように使われ、ダバダバダ……につながります。まるで、「映画みたい」といいたくなるような、うっとりとさせてくれる映画です。『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』1月は毎週良質なミステリーが登場します。なかでもこの作品が一番、かと。よくできたプロット、ミステリアスな舞台背景、そして個性的で芸達者な役者たち、楽しませてくれる条件がそろっています。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017年)のライアン・ジョンソン監督が「ミステリーの女王アガサ・クリスティーに捧げたい」とオリジナル脚本で長年の夢に挑戦した、王道を行く「Whodunit(犯人探し)」映画です。ニューヨーク郊外にある豪邸。世界的なミステリー作家ハーランが、85歳の誕生パーティーの夜、謎の死を遂げます。屋敷は深い森の中にある1890年代に建てられたゴシック建築。ハーランの膨大なナイフコレクションがインテリアの中心です。その夜、屋敷にいたのは、長女夫妻と息子、次男夫妻と息子、亡き長男の妻と娘、年老いたハーランの母、そして専属看護師です。この家族の間には、膨大な財産と版権などのビジネスをめぐるいさかいがあります。事故死か、他殺か?そこに名探偵の登場。警察も一目をおく高名な探偵を演じているのは「007ジェームズ・ボンド」のダニエル・クレイグ。謎の人物からの依頼を受けて捜査に加わったという設定です。ハーラン役は大御所、クリストファー・プラマー。長女役にジェイミー・リー・カーティス、その息子をクリス・エヴァンスが演じています。お膳立てはよし。捜査が進み、次々と明らかになる事実。そして、意外な結末……。そうだよ、観たかったのはこういうの、といいたくなる、おとな向きエンタテインメントです。『淪落の人』香港では日曜になると、街なかの、例えば歩道橋の脇とか、そこかしこにダンボールをしいて、日本でいうとお花見の宴会のように、何人かで飲み食いをしている光景を目にします。普段は住み込みで働くフィリピン人のメイドさんたちが、たまの休みに仲間と過ごす憩いの場です。そんなメイドさんと、雇い主である中年の香港人とのハートウォーミングな心の交流の物語です。雇い主のリョンを演じているのは、ジョニー・トー作品などのハードボイルドからホラームービーまで、守備範囲の広いアンソニー・ウォン。建築現場で働いていたのですが、突然の事故で半身不随となり、その補償金でほそぼそと暮らしています。妻とは離婚、アメリカに留学している息子とスカイプで会話をし、彼の成長だけが生きがいというやや気難しい中年男です。そこに紹介者を通じてやってきたのが、フィリピン人のエヴリン(クリセル・コンサンジ)です。人生は終わったと絶望した男と、写真家の夢を諦め、出稼ぎを選んだ女。言葉もわからず、なかなかうちとけないふたりですが、すこしずつ片言の英語でおたがいの心を通わせるようになっていきます。淪落の人、って「(女性などが)堕落して身を持ちくずすこと」(新明解)と辞書には随分な意味が書かれていますが、このタイトルは、白居易の『琵琶行』という詩からとっているのだそうです。左遷され失意のなかで、やはり人生のどん底にある琵琶の奏者と出会い、天涯淪落の人同士、縁を大切にすべき、と詠った一節です。新人監督のオリヴァー・チャンが、香港の「劇映画初作品プロジェクト」の資金援助を受けて、オリジナル脚本を映画化。香港のアカデミー賞といえる香港電影金像奨でチャン監督が最優秀新人賞。脚本に魅せられてノーギャラで参加したという、主演のアンソニー・ウォンは主演男優賞を獲得しています。良い後味の残る、ウェルメイドな香港映画です。首都圏は、2/1(土)から新宿武蔵野館で公開。中部は、2/1(土)からシネマスコーレで公開。関西は、4/3(金)からシネ・リーブル梅田で公開。『アメリカン・ドリーマー』1970年前後のカルトヒーロー、デニス・ホッパーの関連映画公開が続いています。12月には、そのドキュメンタリー『デニス・ホッパー/狂気の旅路』と、監督第2作『ラストムービー』、そして2月は、1日から『アメリカン・ドリーマー』と大ヒット作『イージー・ライダー』、28日は出演作『地獄の黙字録』が劇場で上映されます。ハリウッドの異端児、鬼才、狂気の芸術家、自由な生き方をめざすヒッピー……、デニス・ホッパーという存在は謎めいて、悪の魅力にあふれています。ジェームズ・ディーンの『理由なき反抗』『ジャイアンツ』に出演した2枚目スターでしたが、60年代はマリファナやドラッグにひたる生活。それをそのまま映画にしたような『イージー・ライダー』(1969年)で監督業に手を染め、一躍注目の人となります。この『アメリカン・ドリーマー』は、監督第2作『ラストムービー』の撮影を終え、編集作業に入っている頃のデニス・ホッパーをとらえたドキュメンタリーです。何も隠すことはない、とカメラの前でマリファナを吸い、バスタブで3Pに熱中し、裸で町を歩く……。どこまでが狂気で、どこまでが正気か? どうやら、狂気のアーティスト、デニス・ホッパーを演じているふしも見え隠れします。大成功のあと、次回作に過大な期待をかけられていることへのプレッシャーがそうさせているとも見えます。いかにも70年代の空気が横溢した作品です。全米の大学キャンパスで上映されたものの、ネガフィルムは焼失。存在する1本のプリントからデジタル化された幻のフィルム。日本ではこれが初の一般公開です。首都圏は、2/1(土)からユーロスペースで公開。『イージー・ライダー』も日本公開50周年記念として、同じ映画館で公開されます。中部、関西は現在未定。
2020年01月27日おとな向け映画ガイド今週のオススメはこの4作品。ぴあ編集部 坂口英明20/1/20(月)イラストレーション:高松啓二今週公開される作品は20本(ライブビューイング、映画祭を除く)。100スクリーンを超える全国のシネコンで拡大上映されるのは『キャッツ』『サヨナラまでの30分』の2本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が18本です。この中から、おとなの映画ファンにオススメしたい4作品をご紹介します。『風の電話』岩手県東部、大槌町に住む庭師が海辺の高台にある自宅の庭に建てた電話ボックス。『風の電話』とよばれています。置かれた電話は繋がっていません。他界した従兄ともう一度話をしたいとの思いで作った、象徴的なボックスです。その後震災がおき、家族や知り合いを亡くした人たちが、この電話のことを知り、天国へ想いを伝えようと訪れるようになりました。その姿がテレビなどで報道され、話題になりました。年間3万人が訪れる鎮魂の場所です。この電話をモチーフに映画が作られました。主人公は、大槌で罹災、家族をすべて失い、呉の叔母の家に身を寄せる高校生ハル。映画は、叔母の入院でパニックのようになったハルが、突然故郷をめざし、ヒッチハイクで始める旅の物語です。計画もない、いきあたりばったりの旅。その途上で出会った大人たちとの交流が、自分はひとりぼっちだ、と絶望していたハルの心を癒していきます。彼らは様々な事情をかかえて生きていて、他人のことなどかまっているひまなどないのですが、ハルの様子をみて、思わず声をかけ、手を差し伸べてくれます。演じているのは、三浦友和、西島秀俊、西田敏行といったベテランの役者たち。諏訪敦彦監督は、役者が台本通りにセリフを読むのではなく、状況を理解した役者が自分の言葉で話す「即興芝居」というスタイルの映画作りをする演出家です。それに応えた、名優たちに、存在感、リアリティを感じます。食事のシーンが多いのも面白いです。悲しいことは多いが、人はまず食べなきゃ生きていけないのです。そして主演、ハル役のモトーラ世理奈が素晴らしい。最初は言葉少ないメソメソした孤独な少女ですが、次第に他者との関係性にめざめていきます。ゆっくりと、自分の言葉でぽつりぽつりと話しはじめます。ロードムービーのように、旅をしながらの撮影だったそうです。終盤近く、10分近い長いモノローグは、この旅の中で彼女自身が人間として成長したかのような、心の叫びが感じられ、圧巻です。『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』年明けから、たて続けにおとな向けのミステリー映画が公開されます。いずれも仕掛けが凝っています。例えばこの作品。世界的なベストセラー小説の出版にからむミステリーサスペンスです。大人気シリーズの最終章出版に向けて、フランスの豪邸に世界9カ国から翻訳家が集められます。携帯もパソコンも没収、ロシアの富豪が作った核シェルターのような密室に、いわゆる「缶詰め」状態にされ、翻訳にとりかかります。原稿も毎日20ページ分しか渡されません。そんな徹底した秘密保持策にも関わらず、本の一部が流出、犯人から法外なお金を要求する恐喝メールが版元に届きます。犯人は9人の中にいるというわけです。大ベストセラー『ダ・ヴィンチ・コード』、その4作目『インフェルノ』の出版に際し、アメリカの出版元が各国の翻訳家を秘密の燃料庫に隔離して翻訳作業を行ったという出版秘話にヒントを得ています。この缶詰めに、アジアの翻訳者は対象外だったようです。映画では、中国からも参加、イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、ロシア、デンマークから高いギャラで集められます。それぞれ個性的であり、お国柄も違えば、仕事の仕方も異なります。本の内容を知るのは彼らと、作者、そしてこの異常な環境を考えついた出版社の社長だけ。やがて内輪もめが始まり、犯人探しが始まり、思いもつかない展開が……。密室ミステリーの一種ですね。お楽しみに。『イーディ、83歳はじめての山登り』人生を変えてしまう映画とは、実はこういう作品なのかもしれません。30年間介護した夫に先立たれ、ひとりになった83歳のイーディ。身辺整理をしていて、昔父からもらった山の絵葉書を見つけ、山登りか、それもいいなと思いますが……。この年ではとても無理だろうと悩む彼女が吹っ切れたのは、馴染みのフィッシュ&チップスの店での会話でした。「追加の注文には遅い?」と聞く彼女に、「何も遅すぎることはないさ」。店員のこの言葉で彼女はにっこり微笑むのです。マンガなら、頭の上にランプが灯った感じです。ロンドンからスコットランド・インバネス行きの夜行列車に乗り、めざすはスイルベン山。絵葉書に父の自筆で「この変な山に登ろう」と書いてあった山です。イーディを演じるのは、舞台出身の大女優シーラ・ハンコック。綿密なトレーニングを積み。撮影に臨んだとのこと。高齢の役者にとっては大変なチャレンジだったと思います。遅すぎる、ということはない、どんな世代にとっても。一歩踏み出したい人への応援歌のような映画です。首都圏は、1/24(金)からシネスイッチ銀座で公開。中部は、3/7(土)から伏見ミリオン座で公開。関西は、3/20(金)からテアトル梅田で公開。『彼らは生きていた』日本では2月14日(金)に公開される『1917 命をかけた伝令』という第1次大戦を舞台にした戦争映画が評判です。このドキュメンタリーの日本公開が急遽決まったのは、その関連作品とみなされて、のようです。確かにこの2本を観ると、第1次大戦の理解は倍加どころではありません。なんともすさまじい、戦争の記録です。戦争勃発は1914年。映像の世紀は始まっています。戦争の一部始終は映像として残っています。イギリス帝国戦争博物館に保存された数千時間に及ぶそういう戦争の記録映像をデジタル修復、1本の映画にまとめたのは『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督です。フィルムは、傷を取り除き、現代の1秒24フレームに修正し、動きがスムーズになり、着色も加えています。100年前に観たのとは比較にならないリアルさだと思います。サイレント画像に、BBCが収録保存していた退役軍人のインタビュー音声素材、再現音も組み合わせて構成。戦争終結100周年記念行事として、2018年のロンドン映画祭で上映されました。開戦が伝わると、熱病にかかったように軍を志願する10代の少年たち、それを煽るのは宣伝ポスターや国全体の好戦ムードです。彼らは。あまり考えもなく軍隊に入り、軍服に身を包み、軍事訓練に励みます。表情は楽しそうで、どこかピクニック気分です。それが、フランスに派遣され、ドイツと対置する西部戦線に送り込まれたあたりから、微笑みは消え、悲惨な様相を呈してきます。広大な塹壕を堀り、そこをベースにした小競り合いでしかばねを重ねていきます。敵の狙撃により隣にいた戦友の首がふっとび、腕が、足がなくなっていきます。遺骸はそのままにされ、死臭がただよう、この世の地獄です。近代戦の装備がどんどん登場します。まだ飛行機の戦いは主ではありません。戦車が現れ、毒ガスも使われます。毒ガスにどう対処したか、聞くと絶句します。壮絶な、まさに壮絶な戦争です。首都圏は、1/25(土)からシアター・イメージフォーラムで公開。中部は、2/22(土)から名古屋シネマテークで公開。関西は、2/14(金)からテアトル梅田で公開。
2020年01月20日おとな向け映画ガイド今週のオススメはこの3作品。ぴあ編集部 坂口英明20/1/13(月)イラストレーション:高松啓二今週公開される作品は21本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国のシネコンで拡大上映されるのは『記憶屋 あなたを忘れない』『ラストレター』『リチャード・ジュエル』『ジョジョ・ラビット』の4本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が17本です。この中から、おとなの映画ファンにオススメしたい3作品をご紹介します。『リチャード・ジュエル』衰え知らずの巨匠、クリント・イーストウッドの新作。今回も実話に隠れた真実を描いています。1996年アトランタ五輪開催時におきた爆破事件で一時犯人に疑われ、社会的に糾弾された男をとりあげ、彼の名誉を映画で回復しようという、いかにもイーストウッドらしい男気あふれる映画作りです。しかもこれが見事なエンタテインメントになっています。主人公リチャード・ジュエルは、33歳。ごく普通の警備員です。警察官にあこがれている、正義感にあふれた、いささか空気がよめない人。ちょっとした不正にも一言口をはさむし、武器コレクターです。小太りで、およそモテそうにない風体。善良なのに、ややアブナイ感じに見えてしまいます。野外で開かれた五輪関連イベント会場で、彼はベンチの下におかれた爆発物を発見、必死になって避難を誘導し、爆発の被害を最小にとどめた功績者でした。新聞やテレビでも話題となり、ヒーローに祭り上げられます。ところが、数日後、FBIが彼を容疑者に擬しているという地元紙のスクープ記事がでて、そこから彼はメディアと国民からバッシングを受けることになるのです。FBIの執拗な捜査や尋問も続きます。まさか、彼にとって正義で憧れるFBIが、犯人でない自分を疑うはずがない、という思い込み、勘違いが事態をどんどん悪くしてゆき……。もはや彼の無実を信じてくれるのは、知り合いの、権威を嫌うブライアント弁護士と母のふたりだけという窮地に立たされます。ジュエルを演じたポール・ウォルター・ハウザーがいかにもイノセントで、らしい雰囲気です。彼の弁護士ブライアント役に『スリー・ビルボード』でアカデミー賞を受賞したサム・ロックウェル。母親役のキャシー・ベイツはこの作品で各映画賞にノミネートされています。善良な普通のひとに突然飛びかかってくる、いまのことばでいえば炎上リンチ。SNS時代の今、これをつきつけてくるイーストウッドにうなります。『ジョジョ・ラビット』ヒトラーとナチスをユーモアで風刺した、ポップなコメディにして、ヒューマンドラマの傑作。ゴールデングローブ賞は逸しましたが、米アカデミー賞有力候補といわれる一本です。ナチスが青少年教育、というか、洗脳のために作ったヒトラーユーゲント。そこに所属する男の子ジョジョの日常を描いています。彼は、母とふたり暮らし、10歳です。自分に自信がなく、例えば、ユーゲントキャンプで自己紹介がちゃんとできるか、悩みます。そんなときに、力強く励ましてくれるのが、彼の空想上の友達、ヒトラー君です。キャンプで、うさぎを殺すという課題を実行できず「うさぎのジョジョ」とあだ名をつけられたときも、どこからともなく現れ、「うさぎは勇敢でずる賢く強いんだ」と激励してくれます。そんな彼の日常に、大事件が巻き起こります。ある日、家の天井裏で、ユダヤ人の少女を発見してしまうのです。どうやら、奔放な母が、かくまっていたらしいのですが……。ヒトラーの時代を描いて、ここまで翔んだ映画は少ないと思います。監督は、『マイティ・ソー バトルロイヤル』のタイカ・ワイティティ。母はユダヤ系、父はマオリ系(ポリネシア)のニュージーランド人ですが、劇中、ヒトラーを演じているのは彼です。ジョジョ役のローマン・グリフィン・デイビスが無垢で一途、茶目っ気もたっぷりあってかわいいんです。ゴールデン・グローブ賞では主演男優賞候補でした。アカデミー賞もいけるかも。大人の役者では、なんと、サム・ロックウェルがユーゲントの教官役で出演しています。母親役にスカーレット・ヨハンソン。タイトルバックに流れるのが、ビートルズの『抱きしめたい』(ドイツ語版)です。これがぴったり合って、一気にジョジョの世界にひきこまれてしまいます。『私の知らないわたしの素顔』知的で美人、大学教授というキャリア、でも50歳を越え、若さと美貌を失いつつあるひとりの女性が、Facebookで仮想恋愛に夢中になっていくという異色のサスペンスロマンスです。主演は『真実』で是枝裕和作品にも出演したジュリエット・ビノシュ。現代フランスを代表する女優です。ビノシュ扮するクレールは、長く連れ添った夫の不倫が原因で子供とも別れ、いまやパリの高層マンションでひとり暮らし。そんなある日、若い恋人につれなくされ、Facebookの友達申請まで拒否されます。腹を立てた彼女は、彼の友達アレックスに目をつけ、24歳のセクシーな女性になりすまして、SNSフレンドになることに成功します。だてに文学教授をやってきたわけではありません。巧みな彼女のコメントにアレックスが惹かれていきます、そしてクレールも夢中になって、電話で声を交わし、テレフォン・セックスをするところまで発展するのですが……。恋の行方は? バーチャルの恋が「リアル」にどう影響をあたえる? ふたりは会うのか会わないのか? 興味津々です。そして、クライマックスには、彼女の心の真実を見ることになります。恋するクレールがどんどんキレイに見えてきます。ジュリエット・ビノシュ、さすがです。首都圏は、1/17(金)からBunkamura ル・シネマで公開。中部は、2/14(金)から伏見ミリオン座で公開。関西は、2/21(金)からシネ・リーブル梅田で公開。
2020年01月13日おとな向け映画ガイド今週のオススメはこの3作品。ぴあ編集部 坂口英明20/1/6(月)イラストレーション:高松啓二今週公開される作品は17本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国100スクリーン以上ののシネコンで拡大上映されるのは『フォードvsフェラーリ』『カイジ ファイナルゲーム』の2本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が15本です。この中から、おとなの映画ファンにオススメしたい3作品をご紹介します。『フォードvsフェラーリ』ル・マン24時間耐久レースを舞台にした、男たちの壮絶なドラマ。1960年代後半、全盛だったフェラーリに対抗してフォードが挑戦、数年かけて勝利を手にした、その実話を描いています。フォード社のヘンリー・フォード2世、後に社長となるリー・アイアコッカなど、登場人物はほとんど実名です。中心になるのは、マット・デイモンが演じるカーデザイナーのキャロル・シェルビーと、クリスチャン・ベイルが演じる伝説のレーシングドライバー、ケン・マイルズ、このふたりです。フォードは堅実な自動車メーカーで、カーレースなんぞ縁がなかったのですが、トップの鶴の一声でル・マン参戦を決めます。フェラーリ買収に失敗した意趣返しと、ブランドのイメージチェンジを図るためです。プロジェクトのリーダーを命じられたアイアコッカは社外からふたりを起用します。キャロルは心臓病でレーサーをリタイアした後、自ら率いるシェルビー社でル・マンに挑戦する野心家デザイナーです。彼がコンビを組んだケンも妥協をしない頑固かつ無鉄砲なドライバー。この大企業と野武士チームは当然あつれきをうむのですが、そんなことはおかまいなしに、アルチザンの道を突っ走るふたりの破天荒な挑戦が、ドラマをぐいぐい引っ張ります。米アカデミー賞候補確実と思います。ドラマ部分だけでなく、カーレースの映像がすごいんです。1965年当時のレーシングカーは、いまやミュージアム展示品。実際に走らせるために高性能のレプリカを用意しました。ル・マンのレーストラック、観覧席もすべて再現しています。実際のレースシーンの多くはドライバー目線の高性能の車載カメラや、別のカメラ車両を使って撮影されています。もちろんカークラッシュなどCGも使われているのでしょうが、この驚くような臨場感はいままで経験したことがありません。IMAXなど、できたら大画面で観るのがオススメです。キューウィーン……と炸裂し、画面を吹っ飛んでいくエンジン音の迫力も、これまでにない魅力です。ScreenXという左右のスクリーンにも映像を投影する、視野270度の3面マルチプロジェクションでの上映や、シートが動く4DX、その両方装備の上映予定の館もあります。カーレースマニアならずとも、この興奮はたまりません。『フィッシャーマンズ・ソングコーンウォールから愛をこめて』実際にイギリスであった、船乗りコーラスバンドの奇跡ともいえる成功物語を映画化した作品です。2019年にイギリスで公開され、動員100万人を越える大ヒットを記録したといいます。ヒゲ面のむくつけき男たちが主人公。『フル・モンティ』のような、おじさんたちの崖っぷちからのサクセスストーリーかと思われるかもしれませんが、もう少し大らかな人生賛歌です。舞台はイギリス南西部大西洋岸、コーンウォール地方にある港町、ポート・アイザックです。この町の漁師たちは歌が好き。ワーク・ソングというんですか、漁をしながら、18世紀から続く伝統の舟歌を歌います。このコーラスバンド「フィッシャーマンズ・フレンズ」は、1995年にチャリティのために結成されました。2010年にメジャーデビュー。CD売上が、トラディッショナルフォーク部門でトップを記録、2011年2月にはBBCラジオの賞を獲得、国内で大規模ツアーを行うまでになります。プロデューサーなど登場人物の設定は変えてありますが、レコード会社との契約や、Youtubeであがった映像で全国的な人気になったことなど、ほぼ実際にあったことです。映画は、このバンドを見つけたロンドンの音楽プロデューサー、人のよさそうなダニー(ダニエル・メイズ)の、奮闘と恋のドラマになっています。バカンスでやってきて、町の広場で歌うその素朴な歌声に魅了された彼ですが、一筋縄ではいかない海の男たちの説得と、一方で、まさかの舟歌を売り出そうというのですから、音楽業界の猛者たちをどう納得させるか、が見どころです。おもちゃのような家が点在する小高い丘に囲まれた、小さな入り江の港町。男たちが集まるパブ……。イギリスらしい風情もそこかしこに。おやじたちは普段着も絵になりますが、ロンドンにおめかしして行くときの、髭面にサングラス、ピーコートにセーター、ジーンズ。いかにもイギリスの船乗りファッション。とってもおしゃれです。『マザーレス・ブルックリン』エドワード・ノートンが監督、脚本、製作、主演したフィルム・ノワール。ジョナサン・レセムによる小説を映画化、時代設定を1999年から1957年に変えています。ブルース・ウィリス、ウィレム・デフォー、アレック・ボールドウィンと、渋い役者を並べた、渋い探偵映画です。主人公ライオネルは、ニューヨークの私立探偵。トゥレット症候群と強迫性障害という病気を抱えています。突然顔をしかめたり、意味不明の言葉や、卑猥な言葉を発したりします。すべて自分ではコントロールできないことですが、聞いたほうは驚きます。聞き込み中に、本音に近いことを言ってしまい、相手が過剰反応して逆に捜査が進むというメリットもあります。並外れた記憶力の持ち主。そんなキャラクターです。孤児院からブルース・ウィリス扮するフランクに引き取られ、育てられ、仕事も彼から教わって。タイトルはそんなライオネルの出自からとっています。ある日、フランクが事件を捜査中に殺害され、彼はその犯人を追うことに。この映画でひとつの注目は音楽です。1957年のニューヨーク。ハーレムのジャズクラブが頻繁に登場します。ノートンは友人であるウィントン・マルサリスに協力を依頼、彼の全面的なバックアップを得て、クラブを再現しています。マルサリスは舞台裏だけでなく、実際の撮影でもオールスターバンドのひとりとして、トランペットを吹き、マイルス・デイヴィスを思わせる演奏を披露しています。映画は2時間24分とやや長いのですが、おかげでこのクラブシーンはたっぷりあります。この作品も、良い音響設備のある映画館がオススメです。
2020年01月06日おとな向け映画ガイド1月第1週、今週のオススメはこの3作品。ぴあ編集部 坂口英明19/12/30(月)イラストレーション:高松啓二お正月第1週。公開される作品は9本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国のシネコンで拡大上映される作品はなく、すべてミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品です。この中から、おとなの映画ファンにオススメしたい3本をご紹介します。『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』アメリカ大統領選に挑戦する国務長官とスピーチライターのラブストーリーです。映画のチラシには「男女逆転シンデレラストーリー!」とあります。国務長官役になんとシャーリーズ・セロン。その恋のお相手はややダサめのお兄ちゃん、例えていうと、過激なドキュメンタリーで知られるマイケル・ムーアがひげをはやし、少しやせた感じ。黒縁メガネ、丸い顔、服は無頓着、言葉は早口なうえ、話せば悪口雑言。この組み合わせが意表をつきます。うまくいったら、彼は大統領の夫。ファースト・レディ、ではなく、なんていうのでしょう、そういう存在になるのです。エリートコースを歩み、国務長官まで上り詰めたシャーロット(シャーリーズ・セロン)。片や、フレッド(セス・ローゲン)は潜入取材も辞さない突撃ジャーナリストで、会社をケンカ離職したところ。このふたりが、偶然、久しぶりに、あるパーティーで再会します。実は幼馴染で、年上の彼女は彼のベビーシッターをやったことがある、という関係。フレッドにとっては初恋の人です。もちろん片思いですが。大統領選に備え、専用のスピーチライターを探していたシャーロットは、フレッドの起用を思い立ちます。それが大成功。彼の得意なトゲのある文章、きついジョークは抑えめに、少女の頃の理想とか、夢見たことなど、フレッドのスピーチ原稿にはシャーロットが忘れかけていた自分自身のアピールポイントが巧みに織り込まれていたのです。彼は見事に役をこなしていきます。環境問題に対応するため、世界を飛び歩く激務に、側近として同行し、そして……。シャーロットにいいよるプレイボーイなカナダ首相、頭が空っぽとしか思えない米大統領、金髪のメディア王など、VIPをカリカチュアライズした登場人物にも笑えます。ホリデー・シーズンぴったりの、気楽に観られ、後味もいいラブコメです。『エクストリーム・ジョブ』本国で歴代興行収入NO.1の刑事アクションです。爆笑コメディ、といってもいいかもしれません。こういう映画がでてくるのも、韓国映画が元気な証拠です。国際麻薬犯罪組織を追う捜査チーム。かなり個性豊かな面々が、ドジな失敗を繰り返すなか、やっと敵のアジトをつきとめます。道路をはさんだ向かいにあるチキン料理屋で、客を装い張り込み捜査を始めます。この店、客がほとんどこない閑古鳥状態ですが、時々その組織の事務所が出前を頼むという、捜査には絶好の場所。にもかかわらず、突然、経営危機で店をたたむと主人から打ち明けられてしまい……。年下のライバルチームに差をつけられている中、何とかこのチャンスを逃したくない捜査班コ班長は、この店を買い取るという大胆な策にでます。といっても数々の失敗実績で捜査費はでない。苦肉の策で、なんと、退職金を担保に金を借り、この店の経営を引き継いでしまうのです。チーム全員が店員となって、偽装営業をはじめるのですが。チームのひとり、マ刑事があみだしたチキンのタレが絶品で、このチキン店が大当たり!決しておちゃらけたドタバタ・コメディというだけではありません。班長は、警察本部にいる上司からのプレッシャーや、ライバルの他部署とのあつれき、妻からのお小言、といまや悲しみの中間管理職。でも、タフなんです。演じているのはリュ・スンリョン。韓国映画ではおなじみの顔です。チキン店が繁盛した立役者、マ刑事役のチン・ソンギュは、チキン料理人はひょっとして天職かと悩むところがかわいいキャラ、イ・ハニ扮する伝法な女性刑事もこういったチームには欠かせません。『さよならテレビ』東京のポレポレ東中野でお正月に公開されるドキュメンタリーには傑作が多いんです。『人生フルーツ』は2018年1月2日にここ1館で封切り、全国120館まで上映館を広げ、大ヒットしました。その前年は、やくざの親分がライフスタイルと意見を語る『やくざと憲法』を公開。今回のこの作品も2作同様、東海テレビの製作、テレビニュースの放送現場を描いた問題作です。取材されてみて初めて取材される側の気持ちが理解できる、といいますか。「カメラ回すなよ」「気になって仕方がない」とか、報道局内でも撮影されることへのハレーションはありますし、場合によったら恥部もさらけだす覚悟も必要です。よくここまで描けた、社内の理解が得られたな、と驚くテレビの自画像です。視聴率は他局から抜かれっぱなし、もっと数字を取れるネタを集めてこいとゲキを飛ばす報道部幹部。一方で、「働き方改革」を報道するテレビ局がブラック企業と非難されてはと、残業はできるだけ減らせ、という。ジャーナリストである前にサラリーマンである矛盾。そういう業務合理化対策で雇用契約された若い派遣スタッフ、同じく短期契約のディレクター、夕方のニュースのメインキャスターに起用された局アナの3人を中心に、テレビ局報道部が描かれます。取材現場だけでなく、日々の編集会議の模様や、放送事故の現場まで、生放送でのミス、トラブルなど自らを潔よくさらけ出しています……。決してハッピーでも予定調和でもない結末。これからどうなるんだテレビは!、という叫びが聞こえてきます。東海テレビ開局60周年記念として放送された番組に、新たな映像を加えて再構成した映画です。中部地区だけの放送だったため、うわさの番組となり、録画映像が業界人の間で相当出回ったといいます。貴重な映像です。首都圏は、1/2(木)からポレポレ東中野で公開。中部は、1/2(木)から名古屋シネマテークでで公開。関西は、1/4(土)から第七藝術劇場他で公開。
2019年12月30日