鉄道・運輸機構の主催による北海道新幹線のレール締結式が1日、北海道木古内町の新幹線木古内駅構内にて開催され、新青森~新函館北斗間149kmのレールがすべてつながった。北海道新幹線新青森~新函館北斗間の軌道敷設工事は2012年3月、渡島当別トンネル内から始まり、今年8月に湯の里信号所にて完了した。全区間のうち65%がトンネルで、高架橋が24%、切土・盛土7%、橋りょう4%。このうち、軌道を新規に敷設したのは全体の45%にあたる約67km。残りの82kmは新幹線で初となる在来線との共用区間で、新幹線規格で完成済み。新幹線と貨物列車の両方が走行できるように、3本のレールを敷いた「三線軌条」方式をとっている。この日の締結式には、来賓約90名が出席。鉄道・運輸機構の理事長、石川裕己氏は、「東京から新函館北斗まで823kmのレールがつながる。12月1日には試験走行を開始し、12月上旬には青函トンネルに新幹線が走り始める予定」と挨拶した。国土交通副大臣の西村明宏氏は、「北海道新幹線は在来線との共用区間があることから、限られた時間で工事をするなど、通常より大変な苦労があったと聞いている」と関係者をねぎらった。北海道知事の高橋はるみ氏も、「新幹線時代の到来を実感し、胸が躍る思い。札幌への早期開業に向け、関係する皆様と力を合わせて取り組んでいきたい」と述べた。続いて、来賓のうち44名が線路上に2列に並んで立ち、「えい、えい」のかけ声に合わせ、レールを固定するための締結ボルトをT型レンチで締め、レールを締結。点検確認と清めの儀を経て、テープカットとくす玉割りで記念すべき日を祝った。最後に、締結されたばかりの軌道上を、「祝 北海道新幹線新青森・新函館北斗間レール締結式」のヘッドマークを掲げた保守用のモーターカーがゆっくりと通過すると、参列者から大きな拍手が起こった。締結式が行われた新幹線木古内駅は、2面3線のホームを備えた高架駅。不規則にガラス面を設けた外観は、寄せては返す津軽海峡の波を表現しているという。駅舎内部は簡素ながら、コンコース上部に波打つように設置された木材が印象的だ。北海道新幹線用車両H5系の現地への搬入も進んでおり、すでに2編成20両が10月22日までに函館港から陸揚げされ、函館総合車両基地(北海道七飯町)にて1編成10両に連結されたという。今後は車両基地内で自走試験を行い、12月1日からの走行試験に備える。
2014年11月04日毎回、自身による選曲・構成・演出でおくられる『美輪明宏/ロマンティック音楽会』。そこには、美輪明宏の美学や思いがすべて込められている。今回はどんな歌を選び、どう届けるのか。美輪が今、伝えたいことを聞いた。『ロマンティック音楽会』と名付けているように、美輪が歌を届ける場所と時間は、いつも、ロマンにあふれている。「ロマンティシズムというのは、人間にとっての“心のビタミン”ともいうべきものです。現代は、肉体の栄養は過剰なぐらいに充足していますが、心のほうは、栄養失調がどんどんエスカレートしているように思えてなりません。『衣食足りて礼節を知る』という言葉があります。今こそその礼節の部分、つまり心のビタミンが、最も必要だと思っているんです」。美輪がそう感じるのには理由がある。「機能性や利便性、経済性ばかりを追求した結果、建物も家具も生活用品も無機質なものが増えてきました。それだけならまだしも、音楽まで無機質になっています。単調なメロディに、叫ぶような歌声……。そんな無機質なものに囲まれていたら、心がささくれ立つのも当たり前です。ですから、せめて私の音楽会では、美しく叙情的な歌詞が綴られたメロディアスな音楽を、お届けしたいんです」。なかでも今回、中心に歌いたいと考えているのは、明治・大正・昭和の時代に愛されてきた日本の歌。「まさしく、私が語りを務めさせていただいている朝ドラ『花子とアン』の時代の歌です(笑)。『ごきげんよう』という挨拶に表れているように、あの頃は、言葉遣いも美しく丁寧だった時代。夫婦や親子の間にもちゃんと礼節がありました。その古き良き時代の雰囲気を醸し出す歌をご用意するつもりです。たとえば、松島詩子さんが歌った『喫茶店の片隅で』とか、淡谷のり子さんの『別れのブルース』か『雨のブルース』。それから、シャンソンのほうでは『枯葉』。今の時代にはどこからも聴こえてこない、美しくエレガントで安らぎがある音楽ばかりです」。リクエストの多い『愛の讃歌』や『ヨイトマケの唄』も、もちろん期待できる。また、美輪のアイデアによる舞台美術の美しさも、心のビタミンになるはずだ。「ロマンに包まれ、心が安らげば、人にやさしくなれますし、ひいては戦争だって起こらないんです」。美輪が歌に込めるメッセージは、果てしなく大きい。『美輪明宏/ロマンティック音楽会』、大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティの公演は、7月22日(火)まで2次プレリザーブ先行(抽選)を受付中。東京・神奈川・埼玉・北海道公演は発売中。取材・文:大内弓子
2014年07月18日3年ぶりに上演される美輪明宏版『愛の讃歌』~エディット・ピアフ物語~。3月、都内某所で行われている稽古場に潜入し、作・演出・美術・衣装を手がける美輪明宏、そして、キャストの木村彰吾とYOUに、この作品にかける思いを聞いた。美輪明宏版『愛の讃歌』チケット情報『愛の讃歌』はフランスを代表するシャンソン歌手、エディット・ピアフの人生を描いた物語。毎年舞台公演を行っている美輪が、今年この作品を選んだのは、たくさんの熱いリクエストがあったからだ。それらの声には、美輪が描く真実のエディット・ピアフと、美輪が歌う真実の『愛の讃歌』に触れたいという思いが含まれている。「これまでに映画や舞台で描かれたピアフは、無知でわがままで淫乱で、といった姿ばかりです。でも、私が調べたピアフはまったく違います。レイモン・アッソーという詩人に知識・教養を叩き込まれ、『愛の讃歌』の作詞もした芸術家なんです。その詞も、みなさんがよく耳にされる訳詞ではなく、“空が落ちてきたって、地球が割れたって、あなたのためならどんなことだってする”というような、スケールが大きく哲学的な内容です。その本当のピアフを私は描きたいと思っているのです」と美輪は語る。真実のピアフを描くための稽古は厳しい。台詞のなかのひとつの言葉の抑揚にも、繰り返し美輪の注意が入る。3年前の公演で、美輪が演じるエディット・ピアフの妹、シモーヌ・ベルトーを演じたYOUも「稽古が終わると、もう脳みそが大変なことになってます」と苦笑。2006年に続いてピアフの最後の恋人、テオ・サラポを演じる木村彰吾も「美輪さんに褒められることはまずありません。この間も、神の領域の芝居ができたって言ったら、『カミはカミでも紙くずね』って言われました」とユーモアを織り交ぜて話す。しかし、ずっと以前から美輪の舞台を観ていたYOUにとって『愛の讃歌』は、「出演せずに観ていたいぐらい大好き」な作品。木村も、「登場人物が全員やさしくて、こんなに愛のある舞台はない。出演できることが誇りです」という。木村が演じるテオが登場するのも、美輪明宏版『愛の讃歌』ならではだ。その思いを美輪が最後にやさしく語ってくれた。「ピアフに『愛の讃歌』を書かせた最愛の人、マルセル・セルダンを飛行機事故で亡くしてどん底に陥るまでしかほかの作品では描かれませんが、茫然自失のピアフをテオが救うところまで私は描いています。その無償の愛をこの作品で提示することで、不毛な愛がはびこる今の世の中に、本当の愛情とはそういうぬくもりのあるものなんだということを伝えたいんです」。公演は4月12日(土)から5月5日(月・祝)まで東京・新国立劇場 中劇場にて。その後、岡山、福岡、大阪、静岡、長崎、愛知、青森、宮城、新潟、神奈川でも公演。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2014年04月04日昨年公開された『かぐや姫の物語』をプロデュースしたスタジオジブリの西村義明氏が3月21日(金・祝)、東京・新宿バルト9でトークショーを行った。ジブリ新時代を担う存在として注目され、夏公開のジブリ新作『思い出のマーニー』も手がける西村氏ってどんな人?この日は「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」が特別企画した3夜限定の上映会「これが出発点だ。」の“第1夜”で、高畑勲監督の記念すべき長編アニメ初作品『太陽の王子 ホルスの大冒険』(’68)がニュープリント版で上映された。同作に加えて、宮崎駿監督の初期代表作である『ルパン三世 カリオストロの城』(’79)、『風の谷のナウシカ』(’84)もスクリーンに復活。どれも現在のジブリを語る上で欠かせない、文字通りの“出発点”だ。西村氏は1977年、東京生まれ。アメリカ留学後の2002年、スタジオジブリに入社した。「若気の至りで映画を作ってやりたいと思っていたが、何をしたらいいのか分からなかった」そうで、入社当初は「著作権や法務を扱う部署で、ひたすら契約書のファイリングをしていた」のだとか。その後、『ハウルの動く城』『ゲド戦記』『崖の上のポニョ』の宣伝に参加し、高畑監督に多大な影響を与えた50年代の仏アニメ『王と鳥』(’06年に日本公開)で宣伝プロデューサーを務めた縁で、高畑監督と出会った。ちょうどこの時期、『かぐや姫の物語』は準備段階にありながら、ほとんど前進が見えない状況だったという。そこでスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが白羽の矢を立てたのが、西村氏。そこから『かぐや姫の物語』が完成するまでの苦闘の8年が始まった。「初めて高畑さんにお会いしてから、監督をお願いするのに1年半。脚本はさらに1年半かかった。ところが出来あがった脚本は、上映時間が3時間半もあって…」と西村氏。さまざまな試行錯誤を経て、当初183ページあったシナリオは、138ページにまで絞られたそうだ。絵コンテの段階になっても、高畑監督のこだわりはノンストップで「ある日突然、高畑さんが『なんで竹が光るんですか?光源はどこですか』って(苦笑)。その答えが出るまで、絵コンテが6週間止まってしまった」(西村氏)。映画は2013年7月、宮崎駿監督の『風立ちぬ』と同日公開される予定だったが、最終的には同年11月23日に全国封切りされた。「最初から無理だったんでしょうね。製作が遅れるなか、夏に公開するか、企画そのものを中止するか決断することになった。鈴木さんに『企画を中止にし、製作にかかった数十億円をドブに捨てる権利を僕にください』と伝えた。すると鈴木さんは『お前が始めたことだからな。いいよ、ドブに捨てても』って…。最終的には4か月遅れで、高畑さんとも意見が合致しましたが。高畑さんは初めて納得してくれましたね。そもそも(『風立ちぬ』との)同時公開には納得していなかったですし」(西村氏)。目下、夏の全国公開に向けて、最新作『思い出のマーニー』の完成を目指している。メガホンをとるのは、『借りぐらしのアリエッティ』で長編デビューを飾った米林宏昌監督。こちらは、演出面でジブリ新時代を担う存在だ。西村氏は「全然、順調じゃないです!夏には公開しますけど。米林監督は現実的で、現状の中で最大限の力を発揮する人。朝10時から翌朝4時まで頑張っています」と現状報告した。そんな西村氏が考えるスタジオジブリ作品の魅力とは?「ピクサーやドリームワークスと違うのは、夢だけじゃなく、悪夢も描いているところ。例えば『となりのトトロ』が夢なら、『火垂るの墓』が悪夢。過去のあやまちや現実に、目を背けてはいけないとアニメーションで訴えるのはジブリしかないと思う」(西村氏)。(photo / text:Ryo Uchida)
2014年03月22日12月13日公開の映画『ゼロ・グラビティ』の公開直前イベントが10日、都内で行われ、第4回国民的美魔女コンテストでグランプリを獲得したタレントの西村真弓が出席した。世界43カ国で興行ランキングNo.1を獲得し、全米週末興行ランキング3週連続第1位を記録するなど、すでに全世界で600億円を突破する興行成績を収めたサンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー主演の本作。この冬最大の話題作がいよいよ日本で公開されるとあって、この日は"ハリウッド最強の美魔女"のサンドラ・ブロックにちなみ、第4回国民的美魔女コンテストでグランプリに輝いた西村真弓を招いたトークショーが行われた。西村は「終わった直後に無気力になるというか、『はぁ~終わっちゃった~』という感じで、非常に孤独と向き合う作品だと思います。サンドラ・ブロックの演技は、演技というより1人の人間性というか、女性が持っている強さを感じさせてくれました」と本作の感想を述べ、同じ美魔女と呼ばれているサンドラ・ブロックを「一言で言うと49歳には見えないですよ。お茶目な女性ですが、作品に向かう姿勢はお茶目から想像できないぐらいに真摯に受け止めている女性だと思います」と絶賛した。観客が女子高生ということで、美魔女の秘訣も伝授。「美の秘けつは、実は目に見えないことだと思います。目に見えないことをいかに大切にするか」と外見の美しさよりも内面の美しさを強調。コンテストでは"ランジェリー美魔女"と謳われたが「17歳から下着にはこだわっていました。人に裸とか身体を見てほしくないと思う人もいると思いますが、体型変化は誰にでも起きます。身体の身体に合ったものをつければ、20年後に必ず差が出ますよ。自分に合ったランジェリーを身につけることが大事です」と女子高生たちにリアルなアドバイスを送った。映画『ゼロ・グラビティ』は、12月13日より3D/2D同時公開。
2013年12月11日78歳のいまも歌に、舞台に、世の悩める仔羊たちの相談にと活動を続ける、美輪明宏。そんな彼の魅力のすべてを伝える、NHKの特集番組「真夏の夜の美輪明宏スペシャル」が8月21日(水)に放送されることが決定。本番組にて宮沢りえが出演していることが明らかとなった。今年5月に、三谷幸喜が脚本・演出を務めた舞台「おのれナポレオン」で、天海祐希に代わり、見事に代役を務めた宮沢さん。本番組では、美輪さんが宮沢さんに伝えるのは「人生開運の法則」だ。今回、初めて美輪さんの自宅を訪問し、対談を敢行。今秋、彼女は野田秀樹演出の舞台「MIWA」で美輪明宏役を演じる予定だ。「どうやって美輪さんを演じれば?」――三輪さんの教えは、演技論・役者論を超えて人生論まで深まり、宮沢さんは感極まって涙を流す場面も…。一方、スタジオでは彼の人生をふり返りながら、盟友・黒柳徹子とのトークも。テレビの創成記に青春を送った2人が共に生きた“日本の青春時代”が明かされる。さらに、1968年に主演して以来、彼のライフワークともいえる舞台「黒蜥蜴」。その制作の舞台裏を半年もの間追った、芸術家・美輪明宏の素顔、また7月に故郷・長崎で音楽会を開く彼を追い、被爆した少年時代そして後の「ヨイトマケの唄」誕生の秘密にも迫っていく密着ドキュメンタリーも収められている。特集番組「真夏の夜の美輪明宏スペシャル」はNHKにて8月21日(水)22:00~放送。(text:cinemacafe.net)
2013年08月20日俳優の西村雅彦率いる「ドリス&オレガコレクション」の第6弾公演『地球の王様』が、10月26日、東京・シアター1010にて開幕した。初日前日の25日にはマスコミ向けに公開リハーサルが行われた。『地球の王様』チケット情報脚本を手がけるのは、「ドリス&オレガコレクション」への参加はこれが4度目となる金子茂樹。また映画『沈まぬ太陽』やドラマ『やまとなでしこ』などで知られる若松節朗が、初の舞台演出に挑戦している。物語はウィルスの感染により、世界中の人々が死に至る事件が勃発したことからはじまる。生き残った6人の日本人たちは、時に衝突しながらも、富士山の山小屋で穏やかな日常を過ごしていた。そんなある日、宇宙飛行士を名乗るひとりの男が山小屋に現れる。彼はウィルスが蔓延する前に宇宙へと旅立ち、地球に戻ると、生命反応が確認出来るのは今この場にいる7人だけになっていたと言う。人類存亡の危機に直面した7人。彼らは残された人類のリーダーとなるべき、“地球の王様”を決めようとするのだが……。“人類再生”という壮大なテーマを掲げながらも、そこに登場するのは食品会社の社員と清掃員という、いわゆるフツーの人々。だからこそ彼らは、嫌味な上司に対して愚痴をこぼすこともあれば、恋愛を巡ってすったもんだも巻き起こす。とても“地球の王様”に選ばれる者とは思えない、身勝手で情けない、でも妙に愛おしい、小市民たちの実像が浮き彫りになっていく。しかしそこに一石を投じるのが、“宇宙飛行士”というトップレベルの肩書きを持つ男の存在。ウィルスさえ無ければ、彼とほかの6人の人生が交わることは恐らく一生なかったであろう。しかし地球上に残された人類は、この7人の男女のみ。そんな状況のなかで彼ら彼女らがどんな決断を下すのか、非常に興味深いラストが待っている。カンパニーを引っ張るのは、やはりベテランの西村。クセのある中年男のなかに見え隠れする、悲哀とかわいらしさを体現させたら、この人の右に出る者はいないだろう。宇宙飛行士役の永井大は、自尊心の強い男ならではの表と裏の顔を使い分け、真骨頂を見せる。ほかに岡田義徳、大塚千弘、浅利陽介、高橋ひとみといった実力派が脇を固め、清掃員役の片桐仁が、独特の空気感と間で客席の笑いを誘っていた。近年の世界の状況を考えれば、この物語が現実になる日もいつか来るのかもしれない。だがそんななかでも生きていく、人間の図々しいほどのたくましさを、この舞台に見た気がした。公演は兵庫、宮城、大阪、福岡と各地を巡演する。なお、東京公演は11月14日(水)から25日(日)まで紀伊國屋サザンシアターにて上演。チケットは一部を除き発売中。取材・文:野上瑠美子
2012年10月26日第144回芥川賞を受賞した西村賢太氏の同名小説を、『天然コケッコー』『マイ・バック・ページ』などを手掛けた山下敦弘監督が映画化した『苦役列車』が 7月14日、全国で封切られ、西村氏と山下監督をはじめ、主演の森山未來、共演する高良健吾、前田敦子(AKB48)、マキタスポーツが東京・丸の内 TOEIで初日舞台あいさつに立った。その他の写真三畳一間に住み、日雇い労働にすがる19歳の青年役に森山を迎え、実力派俳優の高良と、映画オリジナルのヒロインを演じるAKB48の前田が脇を固める本作。原作は壮絶な自身の過去をベースに書き綴った“私小説”だが、西村氏は完成した映画をさまざまなメディアで公に酷評し、大きな話題と熱い議論を巻き起こしていた。舞台あいさつでもその言動に注目が集まったが、この日は「ご覧いただき、ありがとうございます。小説家として終わりかけたときに執筆した思い入れのある作品。妙に図々しさとしぶとさがある小説なので、その部分に皆さんが共鳴してもらえたら、こんなにうれしいことはない」と観客への感謝に終始した。それでも山下監督と言葉を交わすことはなく、いまだ埋められない“距離感”が見て取れたのも事実。今後、両者の確執がどのようにクリアされるか、さらに注目を集めそうだ。山下監督は「毎日、日替わりで面白い人がやってくる、まるでイベントのような現場だった」と多彩なキャストが集結した現場を振り返っていた。主演の森山は「昨日、急に十二指腸あたりが痛くなって、まさかの『体調不良で舞台あいさつ欠席』になるところだった」と同日、公開初日を迎えたライバル作『ヘルタースケルター』に主演する沢尻エリカを連想させる第一声で客席の笑いを誘い、高良は「憧れの山下組で、素敵な経験ができた」と感激しきりの様子だった。また、先日21歳になったばかりの前田は「ぜひ、同世代の人たちに見てほしい」とアピールしていた。『苦役列車』公開中取材・文・写真:内田 涼
2012年07月17日受け手のコンディションを見極め、それにふさわしい最善の方法で、もてなす。といってもレストランのことではない。供されるのは、音楽会。観客を迎えるのは、美輪明宏だ。秋にスタートする『美輪明宏/ロマンティック音楽会』を前に、選曲はもちろん、舞台美術から照明、衣裳まですべてに目を配る美輪が、現時点での構想を語った。美輪明宏/ロマンティック音楽会の公演情報まずは受け手の現在。美輪は世間をどう見ているのだろうか。「今は、ロマンもヘチマもありません。テレビを観ても、低次元のお笑いや、女性タレントのセックス談義。テレビマンの品性は、落ちるところまで落ちています。それに、政治も経済もどこもかしこも、いいところがない。一服の清涼剤が必要なときだと思います」。殺伐とした社会に生きる人々を癒す特効薬、それは“美”だ。今回は「もっと徹底して耽美的な世界を提供したい」と美輪は言う。「いつもは、政治批判や時事評論みたいなお説教がましいことも話したりしていましたけど、今度はそういうのはやめて、きれいな話や美しい話をしたいと思います」。また舞台美術については、「アールデコやアールヌーヴォーは使ったので、いっそのこと四次元にしたらどうかと思って。よく、天国に行って戻った方が、“お花畑のようだった”って言うでしょう? それを再現したいんです」と無邪気な笑顔で話す。曲のチョイスも気になるところだ。「会う人ごとに“どんな曲が聴きたい?”ってリサーチしています。“『ヨイトマケの唄』がなければ、あなたはいないも同然”という友人がいる一方で、『愛の讃歌』は朝と晩に聴きたいという方がいたり。今回は、自作の『うす紫』や、ピンク・マルティーニも録音した『黒蜥蜴の唄』もプログラムに入れるかもしれません」。「1900年代初頭の美が極められた時代を実感として知る最後の世代として、次に伝えていかなければならない使命が私にはあります」。そう語る美輪があふれるほどの愛を注ぎ込んだステージは、“心のビタミン”とも“命の洗濯”とも称され、リピートする観客が後を絶たない。『美輪明宏/ロマンティック音楽会』は、東京・ル テアトル銀座 by PARCOにて9月10日(月)から30日(日)まで開催。チケットぴあでは、7月8日(日)の一般発売に先がけ、7月5日(木)20:00までインターネット先着先行プリセール(座席選択可能)を受付中。東京公演の後、全国ツアーを予定している。
2012年06月26日