精神疾患とは?症状や診断方法ごとの種類、原因からチェック方法まで解説します
精神疾患とは?精神障害とは何が違うの?
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精神疾患とは、広義に解釈するとなんらかの脳の働きの変化により心理的な問題が生じ、感情や行動などに著しいかたよりがみられる状態のことです。この意味合いで、一般に「心の病」や「精神病」、「精神障害」などと呼ばれるものを、より医学的に言いあらわすときに使われることが多い用語です。
ですが、精神医学の領域においても「精神疾患」という言葉は、普遍的かつ確立された定義がありません。使われる場面や診断基準、医師によっても定義や概念にばらつきがあり、いまもなお見解の違いで議論が行われることもあります。
精神疾患がどのような概念を指すのか、つかわれる場面ごとの定義を見ていきましょう。
精神疾患という言葉は、mental diseaseの直訳として使われます。
精神医学の診断に使われるDSMなどではmental disorderの訳として「精神疾患」が使われることもあります。mental disorderは一般に精神障害とも訳されることがあるため、しばしば混乱を招きます。
これらの用語にはどのような違いがあるのでしょうか?
◇精神疾患(mental disease) は精神の病を指す医学用語
医学における疾患(disease)とは、特定の原因、病態、症状、経過予後などが明確に結びついている場合を指します。
しかし、多くの精神の病は原因を特定するのが難しいため、原因が不明な場合でも、病態・症状・経過・予後が特有なものであれば、疾患単位として精神疾患(mental disease)と呼ばれます。例えば統合失調症は、原因は不明ながらも代表的な精神疾患と位置づけられています。
ところが、精神的な健康を保てない状態の中には、病態が不明確で疾患とは言い切れないものもあります。そのような場合、より広義な概念である精神障害という言葉が使われることがあります。例えば「適応障害」などです。
◇精神障害(mental disorder)は症状や機能的な乱れがある状態像を指す
障害(disorder) は、ある特定の生体機能の乱れや個人的苦痛があるが,疾患 (disease)と呼ぶには、その病態がはっきりと特定されていないものをいいます。そもそもdisorderとは、「調子の乱れ」といった意味であり,これに「障害」(差し障りや害がある)という重い訳語が当てられたことが混乱を招いているとも言えますが、ここではそのことを踏まえつつも、行政用語でもある精神障害という言葉を使います。
◇『DSM』の日本語版ではmental diseaseを精神疾患と訳している
精神医学の診断に使われることの多い診断基準『DSM』では、その第4版であるDSM-Ⅳからこのmental disorderの訳語として「精神疾患」があてられました。
しかしDSMでdisorderとして紹介されているものには、狭義の精神疾患だけでなく発達障害や知的障害など疾患とはいえないものや病態が不明瞭なものも含まれています。そのため、時に精神疾患・精神障害の概念についてのあいまいさや誤解のもととなることもあり、この訳語については専門家の間でも議論が分かれています。
このように、精神医学の領域においても「精神疾患」という言葉は統一された定義がなく、使い分けについても厳密ではない場合があります。翻訳の場合は元の用語が何だったかによっても微妙にニュアンスが変わってきます。そのため、その用語がどのような意図を持っていて、どのような概念を指しているかは、その都度注意深く判断する必要があります。
http://medical-friend.co.jp/pdf/sintaikei/seisin2.pdf
参考:精神看護学2精神障害をもつ人の看護/岩﨑弥生、 渡邉博幸編集/メヂカルフレンド社
行政における「精神疾患」の定義も明確なものはありません。
医療・福祉に関連する法律や行政は、我が国も加盟するWHOが作成したICD-10(『国際疾病分類』第10版)に準拠することが多く、『ICD-10(国際疾病分類第10版)』の第5章「精神と行動の障害」に該当するものを精神疾患としています。
http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9804/txt/s0408-1.txt
参考:第2回精神保健福祉法に関する専門委員会議事録|厚生労働省HP
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/nation/4_01_00data.html
参考:みんなのメンタルヘルス
しかし厚生労働省・文部科学省など担当省庁ごとや、法律などの文脈により定義や概念が異なる場合もあります。精神疾患に含まれる具体的な疾患・障害もそれぞれで異なる場合があり、『ICD-10』の第5章と完全に一致しているわけではありません。また「精神疾患」と「精神障害」の明確な区別もされていない状況です。
例えば、精神障害者保健福祉手帳は、第5章には該当しないてんかんとアルツハイマーが交付対象である一方、第5章に該当する薬物依存や知的障害は交付対象ではありません。厚生労働省の患者調査などの統計結果でも、「ここでの精神疾患には、ICD-10で「精神及び行動の障害」に分類されるもののほか、てんかん・アルツハイマー病を含みます。」とされています。
「疾患」とは、狭義には原因や経過などが明らかになっている場合を指します。しかし、精神疾患の場合、多くは未だ原因などが解明されてないため、診察などでは精神の病一般という意味で、「精神疾患」「精神障害」のどちらも用いられることが多いようです。
このような状況においては、なにが精神疾患でなにがそうでないかということの線引きを正確にすることはできません。
この記事では、心や脳のはたらき、または発達の過程における問題により引き起こされる、思考、行動、感情のコントロールにおける医療の介入が必要な状態全般について、「精神疾患」という言葉を用いて説明していきます。
精神疾患の種類(分類)
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精神疾患にはどのような種類があるのでしょうか?精神疾患の分類する方法には、大きくわけて2つあります。こころの病を原因から分類する病因論に基づく伝統的診断と、症状から分類する操作的診断です。それぞれの診断方法ごとに分類・名称が異なります。
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E6%93%8D%E4%BD%9C%E7%9A%84%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%9F%BA%E6%BA%96%EF%BC%88%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%AE%EF%BC%89
参考:操作的診断基準(精神疾患の)
両者にはそれぞれ長所もあれば短所もあるので、現在日本では多くの医師が伝統的診断と操作的診断を併用しています。以下において、それぞれの診断方法における精神疾患の分類と種類を紹介いたします。
■伝統的診断における分類
19世紀後半、ドイツの医学者クレぺリンは他の身体疾患と同様に、精神疾患を原因別に外因性精神疾患、心因性精神疾患、内因性精神疾患の3つに分類しました。とはいえ、心因性と内因性の区別は極めて曖昧で、明確な区別は難しいとされています。
◇外因性精神疾患
脳器質的な病変、ないし身体の病変によって生じるもの
例:脳腫瘍、脳外傷、パーキンソン病、アルツハイマー病、感染症(神経梅毒など)、内分泌疾患など
◇心因性精神疾患
心理的な内面の葛藤あるいはその人をとりまく環境からくるもの
例:解離性障害、強迫性障害、ストレス関連障害など
◇内因性精神疾患
脳の機能異常に基づくが、明白な原因が同定されていない、何らかの遺伝的な素因が関与していることが想定される疾患
例:統合失調症、双極性障害など
ちなみに、クレぺリンは統合失調症と躁うつ病(双極性障害)を二大精神病としました。
http://amzn.asia/89JiL37
参考書籍:『精神病』/笠原嘉著/岩波書店/1998年
伝統的診断のメリットとして、精神症状に苦しむ本人やそのご家族に病気について説明する際、原因から説明すると理解してもらいやすい点が挙げられます。
一方、デメリットとしては、診断する医師により診断名が異なりやすいことがあります。また、診断名が異なるということは、その病気の研究が進まないなどの問題もあります。
■比較的新しい操作的診断基準に基づく分類
現在普及しているアメリカ精神医学会のDSM-5などは、原因的な面は考慮せず、症状だけから分類した診断基準(操作的診断基準)です。
この操作的診断基準を用いた診断のメリットは、基準が細かく明確であることから医師間で診断名の食い違いが少ないことや、福祉職、法律家などの多職種における共有言語となることなどが挙げられます。同じ基準で協力者を集めることにより、疾患の研究が進むことも期待されます。
一方、デメリットとしては、症状のみによる診断名であり、疾患の本質が考慮されていないこと、医師から患者や家族への説明がわかりにくくなる、診断基準の改訂により診断名が変わることもある、などの問題点があるとされています。
また、もともと操作的診断基準は患者ではなく医療機関側の都合からつくられたこともあり、個々の患者のための診断、治療に有用ではないという批判もあります。
なお、現在ある診断基準はどれも暫定的で不完全なものなので、脳科学の進歩などにより確定的な診断基準が完成されることが期待されています。
◇DSM-5の分類
ここでは、DSM-5における精神疾患の分類(種類)を紹介いたします。
・神経発達症群/神経発達障害群
・統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群
・双極性障害および関連障害群
・抑うつ障害群
・不安症群/不安障害群
・強迫症および関連症群/強迫性障害および関連障害群
・心的外傷およびストレス因関連障害群
・解離症群/解離性障害群
・身体症状症および関連症群
・食行動障害および摂食障害群
・排泄症群
・睡眠-覚醒障害群
・性機能不全群
・性別違和
・秩序破壊的・衝動制御・素行症群
・物質関連障害および嗜癖性障害群
・神経認知障害群
・パーソナリティ障害群
・パラフィリア障害群
・その他の精神疾患群
・医薬品誘発性運動症群およびその他の医薬品有害作用
・臨床的関与の対象となることのある他の状態
DSM-5に関しては、以下のリンクをご参照ください。
精神疾患の症状は?
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精神疾患の症状には様々な種類がありますが、そのほとんどは精神疾患でない一般の人でも経験するよくあるものです。ちょっとした気分の落ち込みや漠然とした不安感を経験したことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
疾患であるかどうか医師の診断によって決まるのは、症状の組み合わせと症状の程度、そして症状が続いている期間です。また疾患名ごとにそれぞれの度合いや組み合わせは異なります。
以下において、精神疾患の代表的な症状の一部を紹介します。
症状それ自体は健康な人にも生じうるものであって、これがあるから精神疾患だ、ということではありません。あくまでも参考程度にとどめていただき、もし少しでも不安になった場合は専門機関に相談するようにしましょう。・抑うつ気分:つらい・悲しい・憂鬱・むなしいなどの気持ちになり、気力がでない状態。
・幻覚:実際には刺激や対象が無いのに、それについて生じている知覚のこと。幻聴が代表的だが、幻視、体感幻覚などもあり、幻聴にもさまざまな種類がある。
・妄想:根拠が無い非合理で訂正不能な思いこみ。本人は妄想とは認識しにくい。
・離人:自分が自分であるという実感がしない、あるいは外界と自分との間に奇妙な隔たりを感じてしまう状態。
・強迫:止めたい気持ちがありながらも、一方でそれをやらなければ気が済まないようにも感じ、同じ思考や行為を繰り返してしまうこと。
精神疾患をチェックする方法はあるの?
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全ての精神疾患をご自身でチェックする方法はありませんが、うつ病などの個々の病気を評価する尺度はあるので、以下にいくつか紹介いたします。
以下に紹介するチェックリストは、何点以上なら病気であると判断するものではないので注意が必要です。あくまでも、その傾向があるということを示すだけなので、チェック結果の意味づけは医師と話し合う必要があります。
チェックをして不安に思った場合は、自分で即断せず、チェック結果を持って医療機関に相談しましょう。
■CES-D うつ病(抑うつ状態)自己評価尺度
CES-Dは一般人がご自身でのうつ病を発見する目的で米国国立精神保健研究所により開発された自己評価尺度です。
質問項目は20問で所要時間は10-15分、対象年齢は15歳からとなっています。(以下のリンクをご参照ください)
http://seseragi-mentalclinic.com/cesd.html
CES-Dによるうつ病症状の簡易チェック|せせらぎメンタルクリニックHP
■ストレスセルフチェック
以下のリンクでは厚生労働省がストレスチェックを実施する際に推奨する「職業性ストレス簡易調査票フィードバックプログラム」に基いて制作されたテストが簡単に行えます。職場でのストレスレベルを約5分程度で測定することができます。(以下の厚生労働省「職業性ストレス簡易調査票フィードバックプログラム」に基づいて、制作された「5分でできる職場のストレスチェック」をご参照ください)
https://kokoro.mhlw.go.jp/check/
「5分でできる職場のストレスセルフチェック」|こころの耳HP
精神疾患の原因は?遺伝との関係はあるの?
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病因論にかわって出てきた精神疾患が生ずる様々なメカニズムのうち、ほとんどの精神疾患にあてはまるといわれているのが、ストレス脆弱(ぜいじゃく)性モデルです。
すなわち「その人の病気へのなりやすさ(脆弱性)と、病気の発症を促す要因(ストレス)の組み合わせにより、精神疾患は発症する」という仮説です。
ここでいう脆弱性とは、遺伝などの先天的な要素と、どのような環境でどのように対応してきたかという後天的な要素により決まるといわれています。
一方、ストレスには家庭や職場、学校における人間関係だけでなく、戦争、災害、親族の死などがありますが、個人により何にどの程度ストレスを感じるかは異なります。
思春期という、身体が急激に変化する時期は思春期であること自体がストレス因にもなりえます。
同じストレスを受けた場合でも、精神疾患を発症する人としない人がいるのは、その人がもつストレスへの脆弱性が低いか高いかによると考えられます。
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参考書籍:『新・精神保健福祉士養成講座〈1〉精神医学』/日本精神保健福祉士養成校協会 編/中央法規/2009年
◇遺伝のしくみ
遺伝には、親から病気の遺伝子を受け継ぐ場合と、親から正常な遺伝子を受け継ぎながら子どもの代で遺伝子に変異が起こる場合(突然変異)があります。
また、ひとことに「遺伝」といっても、突然変異によるもの、メンデルの遺伝法則に従って遺伝する単一の遺伝子の異常と、複数の遺伝子が作用した上に環境要因も加わり発症する多因子遺伝に分けられます。
精神疾患のなかでも遺伝が関与するものは、多因子遺伝によるものと考えられています。
◇遺伝だけが発症を左右するわけではない
脆弱性(病気のなりやすさ)には遺伝も関係しますが、環境も大きな要因の一つです。精神疾患のなかでも遺伝の影響が強い統合失調症でさえ、遺伝だけが発症の原因というわけではありません。
実際、双生児を対象にして、「一方が統合失調症を発症した場合にもう一方が発症する確率」を調べた研究では、遺伝子が完全に一致する一卵性双生児でも48%、遺伝子が通常の兄弟と同じ程度に異なる二卵性双生児の場合は17%という結果が出ています。
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参考:『分裂病の起源』ゴッテスマン/著内沼幸雄・南光進一郎/監訳
この結果は、遺伝の影響だけが発症原因ではないことを意味すると同時に、その人を取り囲む環境が発症に関係する場合もあることを示しています。
自分の病気の原因を探し求めても、解決につながるとは限りません。仮に、遺伝や、親の育て方などの環境が関与していることがわかったとしても、それが今更変えられないものであるなら、そこにとらわれていても解決にはつながらないのです。
過去ではなく未来に向かい、今何ができるのかを考えることが必要なのかもしれません。
まとめ
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◇ご自身がこころの不調に悩んでいらっしゃる方へ
精神疾患の経過は人によって様々です。もし仮に一般的に重い病気とされているものに罹っていたとしても、必ずしも自分も同じ道を辿るわけではありません。
今はネットなどで色々な情報を調べることは出来ますが、悲観的になりすぎないことが必要です。ご自身が精神的な不調に長らく苦しまれているのなら、少し勇気をだして一度医療機関を受診することをおすすめします。
自分だけでは分からなかった解決策が見えてくるかもしれません。
◇ご家族がこころの不調に悩んでいらっしゃる方へ
家族がこころの不調で悩んでいると、周りの人、とりわけご家族は責任感を感じてしまうこともあるのではないでしょうか。
しかし、精神疾患の原因は複合的なもので、決して一つではありません。たとえ家庭内に少し問題があったとしても、それだけが唯一の原因ではないのです。
ご自身を責め過ぎず、疲れを感じた場合は休むことも必要です。一人で抱え込まないためにも、医療機関や福祉サービス、家族会などに救いの手を求めましょう。