楽しみながら判断力をつけさせるメニューや考えて動けるようにする声かけはある?
未就学〜小学6年までを指導している。まずはサッカーというスポーツを楽しんでもらうことを前提に、年代が進むにつれ考えて動くプレーを身につけさせたい。おすすめのメニューや声かけはある?とのご相談をいただきました。
今回も、これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが練習メニューや声かけをアドバイスします。(取材・文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<<試合ばかりで練習がつぶれる。技術は試合だけで身に付くの?練習を削ってでも試合を重視するべきか教えて
<お父さんコーチからの質問>
こんにちは。
街クラブで未就学児から小学6年生までを教えています。
年代ごとに教えなければいけないことはあると思いますが、まずはサッカーというスポーツを楽しんでもらう事と、学年が進むにつれて、考えて動くプレーを身につけさせたいと思っています。
楽しくやりながら、状況を判断して動けるチームにする練習や、自分で考えて動けるようになることを意識させるために伝えるべき言葉(説明)などがあれば教えてください。
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
サッカーというスポーツを教えてあげることが肝要です。そして、それをなるべく早く、低学年でも、幼児からでも伝えてください。
小さいときは、体格や運動能力の違いが大きいため、他の子より少しできる子がひとりでドリブルをしてゴールを奪う。ボールを持ち続ける。そんな場面がよく見られます。
ですので、子どもたちには最初にこう声掛けしてください。
「サッカーってみんなでパスをつないで協力してゴールを奪うスポーツですよ。誰かひとりだけが頑張るスポーツではないよ。もしひとりの子の力で点が取れたとしても、それはいいチームじゃないよ」
そのことをまずわかってもらったうえで、みんなの力を結集して点を取るためにはどうするか、を伝えていきます。
「味方を助けるためにどこへ動く?」
「パスをもらうためには?」
「得点するためには、どこに行く方がチャンスになる?」
そういうところからスタートしましょう。
ボールを持っている子は周りをまず見ること。どこにパスすれば点を取れるか、ゴールに近づけるか考えること。相手がやってきて、ボールを取られそうになるかもしれないので、そうなる前に助けてくれる人がいるとしたら誰を使うかを考えましょう。
そんな順番でサッカーを学んでもらいます。みんなが味方を使うことを考えられるようになれば、みんなにパスがいきます。そうすると、断然サッカーが楽しくなります。
ゲームでない練習、例えば「とりかご」をするときは、10本パスを回すと得点がもらえる。そんなふうに、ちょっとした仕掛けをします。単なる練習にせず、そんなふうにやるだけで子どもたちは大喜びします。
みんなにパスが来るから楽しい。そんな感覚をぜひ身に付けさせてください。
そこまでもっていくには、最初の段階では流れを止めて説明する必要があります。学年が下がれば下がるほど、ゆっくり説明します。
「はい、ストップ。いま、こんなところにみんないたよね。そこにいてパスはもらえますか?」
そんな問いかけをして考えさせます。
これは、文句とか叱るといったことではありません。
スペインでは、質問することを「フィードバック」という言い方をします。このフィードバックでどんな言葉を使うかがとても重要です。
例えば「どうしてそんなところにいるの?」は、それは間違ってますよ、と否定することになります。大人なので「いいポジション」は1か所ではないことを理解していますが、具体的にいうといったいどんなポジションなのかをわかってもらう必要があります。
FCバルセロナの育成で「いいポジション」とは、「それは自分とボールの間に相手選手がいないから線が引けるね」というふうに説明しています。そのうえで、そこに「顔を出しなさい」と声をかけるわけです。
と同時に「でも、ボールに線を引けるところはいっぱいあるよね。
このように、ボールをもらえるポジションはいっぱいあります。どこが正しいか、は誰にも決められないと私は思います。
しかしながら、日本の指導者は、「もう少し右だよ」と言って一歩の差を指摘するコーチは少なくありません。
フリーズさせて(プレーを止めて)「そこじゃもらえないでしょ。あと1メートル動かなきゃ」とアドバイスします。
中田英寿さんが現役時代、試合中も誰もいないスペースにスルーパスをよく出していました。味方が反応せず、外に出たり、相手に取られるのですが、それでもそのスペースがあるよと仲間に伝えたかったのだと思います。
見ていると、日本は低学年でパスを使うゲームや練習をほとんどやらせません。メニューが個人技術、クローズドスキルに偏っている気がします。
「ゲームをたくさんやらせましょう」という話をすると、ゲームではスキルが上達しないのではないかと不安そうです。それなのに、試合になると練習していないことを要求したりします。子どもは戸惑います。
スペイン在住の育成コーチでJリーグ理事でもある佐伯夕利子さんがフェイスブックで発信している3~5歳くらいの練習動画と彼女の文章に驚かされたことがあります。
小さな幼児が、どんどんパスを回してゴールを奪っていました。俗な言い方ですが「サッカーになっている」わけです。
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
佐伯さんは「3歳児には3歳児なりの考え方がある」と書いています。だんごになることもある。成長段階ではそうなることを理解しなくてはいけません。
「年少さんだからだんごでも仕方ないよね。年中になるとこんなふうになったらいいかな」
そんな展望を指導者が持っておく。そのうえで、ゆっくりとサッカーの本質を伝えていきます。コーチたちがゆっくりと問いかけをしながらやります。決して「だんごはサッカーじゃない」といった言い方はしません。
「みんなここにいるけど、どうかな?味方もいるし、相手もいるよ。とられないところってどこかな?」
そんなやり取りを佐伯さんたちはいっぱいしてきたと思います。
3歳は3歳なりに意見がある。すぐに答えをいうのでなく、ダメでしょではなく。
「ぼくはここがいいと思った」と言えば、「オッケー。なぜそこがいいのかな?」と常に彼女たちスペインのコーチはやさしく対話します。常にやさしいのです。
日本のコーチの指導は性急に見えます。とても急いでしまう。育て急ぐのか、勝ち急ぐのか。両方かもしれません。
ぜひそのような哲学的な部分も見直しながら、ゆっくり指導してください。
池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
今回も、これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが練習メニューや声かけをアドバイスします。(取材・文:島沢優子)
<<試合ばかりで練習がつぶれる。技術は試合だけで身に付くの?練習を削ってでも試合を重視するべきか教えて
<お父さんコーチからの質問>
こんにちは。
街クラブで未就学児から小学6年生までを教えています。
年代ごとに教えなければいけないことはあると思いますが、まずはサッカーというスポーツを楽しんでもらう事と、学年が進むにつれて、考えて動くプレーを身につけさせたいと思っています。
楽しくやりながら、状況を判断して動けるチームにする練習や、自分で考えて動けるようになることを意識させるために伝えるべき言葉(説明)などがあれば教えてください。
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
サッカーというスポーツを教えてあげることが肝要です。そして、それをなるべく早く、低学年でも、幼児からでも伝えてください。
■全員がプレーに関わった実感を持てると楽しくなる
小さいときは、体格や運動能力の違いが大きいため、他の子より少しできる子がひとりでドリブルをしてゴールを奪う。ボールを持ち続ける。そんな場面がよく見られます。
ですので、子どもたちには最初にこう声掛けしてください。
「サッカーってみんなでパスをつないで協力してゴールを奪うスポーツですよ。誰かひとりだけが頑張るスポーツではないよ。もしひとりの子の力で点が取れたとしても、それはいいチームじゃないよ」
そのことをまずわかってもらったうえで、みんなの力を結集して点を取るためにはどうするか、を伝えていきます。
「味方を助けるためにどこへ動く?」
「パスをもらうためには?」
「得点するためには、どこに行く方がチャンスになる?」
そういうところからスタートしましょう。
ボールを持っている子は周りをまず見ること。どこにパスすれば点を取れるか、ゴールに近づけるか考えること。相手がやってきて、ボールを取られそうになるかもしれないので、そうなる前に助けてくれる人がいるとしたら誰を使うかを考えましょう。
そんな順番でサッカーを学んでもらいます。みんなが味方を使うことを考えられるようになれば、みんなにパスがいきます。そうすると、断然サッカーが楽しくなります。
ゲームでない練習、例えば「とりかご」をするときは、10本パスを回すと得点がもらえる。そんなふうに、ちょっとした仕掛けをします。単なる練習にせず、そんなふうにやるだけで子どもたちは大喜びします。
みんなにパスが来るから楽しい。そんな感覚をぜひ身に付けさせてください。
自分が出したパスが通ると楽しくなる。それがゴールにつながればもっと嬉しい。もちろんゴールを決めてもうれしいのですが、そこにコミットしたという実感を全員が持てることが一番重要です。
■FCバルセロナの指導で定義される「いいポジション」とは
そこまでもっていくには、最初の段階では流れを止めて説明する必要があります。学年が下がれば下がるほど、ゆっくり説明します。
「はい、ストップ。いま、こんなところにみんないたよね。そこにいてパスはもらえますか?」
そんな問いかけをして考えさせます。
これは、文句とか叱るといったことではありません。
スペインでは、質問することを「フィードバック」という言い方をします。このフィードバックでどんな言葉を使うかがとても重要です。
例えば「どうしてそんなところにいるの?」は、それは間違ってますよ、と否定することになります。大人なので「いいポジション」は1か所ではないことを理解していますが、具体的にいうといったいどんなポジションなのかをわかってもらう必要があります。
FCバルセロナの育成で「いいポジション」とは、「それは自分とボールの間に相手選手がいないから線が引けるね」というふうに説明しています。そのうえで、そこに「顔を出しなさい」と声をかけるわけです。
と同時に「でも、ボールに線を引けるところはいっぱいあるよね。
できれば、ボールよりも前(ゴールに近いほう)でパスをもらうことを推奨します。ボールを下げないように指導します。例えば、「ボールより前に線が引けるところはどこ?」という言い方をします。
このように、ボールをもらえるポジションはいっぱいあります。どこが正しいか、は誰にも決められないと私は思います。
しかしながら、日本の指導者は、「もう少し右だよ」と言って一歩の差を指摘するコーチは少なくありません。
フリーズさせて(プレーを止めて)「そこじゃもらえないでしょ。あと1メートル動かなきゃ」とアドバイスします。
そうではなくて、スペースに出せばいいので、そういう練習をすればいいのです。やりながら互いに理解を深めていけば、悪いポジションにいることがわかってきます。
中田英寿さんが現役時代、試合中も誰もいないスペースにスルーパスをよく出していました。味方が反応せず、外に出たり、相手に取られるのですが、それでもそのスペースがあるよと仲間に伝えたかったのだと思います。
見ていると、日本は低学年でパスを使うゲームや練習をほとんどやらせません。メニューが個人技術、クローズドスキルに偏っている気がします。
「ゲームをたくさんやらせましょう」という話をすると、ゲームではスキルが上達しないのではないかと不安そうです。それなのに、試合になると練習していないことを要求したりします。子どもは戸惑います。
スペイン在住の育成コーチでJリーグ理事でもある佐伯夕利子さんがフェイスブックで発信している3~5歳くらいの練習動画と彼女の文章に驚かされたことがあります。
小さな幼児が、どんどんパスを回してゴールを奪っていました。俗な言い方ですが「サッカーになっている」わけです。
■育て急ぐのか、勝ち急ぐのか......。日本と海外の指導者の違い
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
佐伯さんは「3歳児には3歳児なりの考え方がある」と書いています。だんごになることもある。成長段階ではそうなることを理解しなくてはいけません。
「年少さんだからだんごでも仕方ないよね。年中になるとこんなふうになったらいいかな」
そんな展望を指導者が持っておく。そのうえで、ゆっくりとサッカーの本質を伝えていきます。コーチたちがゆっくりと問いかけをしながらやります。決して「だんごはサッカーじゃない」といった言い方はしません。
「みんなここにいるけど、どうかな?味方もいるし、相手もいるよ。とられないところってどこかな?」
そんなやり取りを佐伯さんたちはいっぱいしてきたと思います。
3歳は3歳なりに意見がある。すぐに答えをいうのでなく、ダメでしょではなく。
「ぼくはここがいいと思った」と言えば、「オッケー。なぜそこがいいのかな?」と常に彼女たちスペインのコーチはやさしく対話します。常にやさしいのです。
日本のコーチの指導は性急に見えます。とても急いでしまう。育て急ぐのか、勝ち急ぐのか。両方かもしれません。
ぜひそのような哲学的な部分も見直しながら、ゆっくり指導してください。
池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。