2019年11月13日 19:20
女性の人生に寄り添う猫の短編集 唯川恵の新作『みちづれの猫』
確かに、幼い頃に家を出た父親が病に倒れる「最期の伝言」など、どの話も形を変えながらも、死の影が見える。
「自分が年を重ねるとやっぱり死は身近になる。それに動物を飼うことはつねに死を意識することでもあり、私も犬の死を経験して身に沁みました。そのなかで、野生の猫たちを見ていると、新しい命が生まれたりすっと姿を消して入れ替わっていっている。生きることと死ぬことは背中合わせだなと感じていたんです」
生まれる話もある。「陽だまりの中」では、田舎に一人で暮らす女性のもとに、死んだ息子の子どもを妊娠しているという女性が現れる。と同時に、つがいで子猫たちの世話をする猫たちも登場。
「うちの近所に本当にいるんですよ(笑)。
ボスとヒメと名付けた猫たちがいて、ヒメの子どもたちをボスがずっと可愛がっている。そこから発想した話です」
他には猫を祀るお祭りや、娘がアレルギーのために飼えない母子など、生身の猫が登場しない変化球も。
「もともと猫というより猫に関わる人たちを書こうと思っていましたし、従来の猫短編集とはちょっと違うものにしたかったんです」
いろんな世代の女性のいろんな生き方が描かれ、関東近辺のいろんな土地が出てくる点も魅力。