2020年6月2日 19:00
ぶっとんだ不条理&ユーモアに満ちた『動物たちのまーまー』
動物のレプリカ工場で働く主人公が残業中に、絶滅したはずのシロクマを目撃、その正体を追うデビュー作『レプリカたちの夜』。エリートとして温存されすぎ、73歳でデビューしたスパイの市長暗殺の行方を見守る『ざんねんなスパイ』。現実と二重写しになるような架空の世界を舞台にした長編を発表してきた一條次郎さん。
『動物たちのまーまー』は、またも「よくまあこんなぶっ飛んだ物語を思いつくな」と感心しながら笑いが止まらない初の短編集だ。
「私はプロットを練りあげ、設計図に従って作業をしていくタイプではなくて。小さな着想の、その世界に暮らす人物や動物になってみて、その様子や日常がどんなものなのかを実際に感じられないと書けないんです。また、登場人物たち全員の声がちゃんと聞こえてこない限り、そのお話はいかにも作り話っぽくなってしまい、自分でも好きになれません。短編にしろ長編にしろ、毎回そういうところから延々と考えるので、ずいぶん時間がかかる気もします」
奇想や諧謔、言葉遊びのセンスは一條さんの十八番。
そんな趣向に富んだ7編の中で、ご本人が特に気に入っているのは、「ヘルメット・オブ・アイアン」。芥川龍之介の『杜子春』の主人公のようにうまいことやってやろうともくろむ〈おれ〉が、仙人の鉄冠子(てっかんし)