2021年3月3日 20:00
『愛の不時着』並みの熱狂!…『嵐にしやがれ』でも話題の作家による『クイーンズ・ギャンビット』レビュー #4
ベスが、マナー違反をしてまで勝ちにこだわったのは、彼女にとって、チェスの対局が、ある部分で「仕事」になってしまったからだろう。ベスは、ジョルジ・ギレフを「いままでで最高の相手」と認める。
勝利しても浮かない表情のベスがロビーで目撃するのは、ピアノを弾いている養母アルマの姿だ。あがり症の彼女が大勢の人の前で華麗にピアノを演奏している。
「あがり症じゃなかったの?」
「楽しんで弾くぶんには平気なの」
ここでも、自分の得意なことを趣味にするという選択が描かれている。
チェスの大会を追って、アルマとベスは豪華なホテルを渡り歩く生活をしていた。
ふたたび薬物に手を出すベス
得意なことを仕事にする道は厳しく、時には汚いことにも手を染めてしまう。だがベスはその道を選んだ。
選んだにもかかわらず、ベスは、宿敵ボルゴフに負ける。
「弱点がなかった」
大敗だ。追い打ちをかけるように、養母が肝炎で亡くなってしまう。
ふたたび精神安定剤に手を出してしまう。薬局で、緑の薬を差し出されたベスは、スペイン語でこう言う。
「もっと」
もっと厳しい道がベスの歩む先に続いている。
文・米光一成(ゲーム作家)