2021年3月29日 20:40
家がなく仕事を求めて移動する孤独…“現代のノマド”描くアカデミー賞最有力作
そもそもファーンが車上生活を始めることになったのも、夫と共に暮らしていた町そのものが企業の破綻によって消滅してしまったから。夫亡き後、たった一人で仕事を求めて移動する彼女は、とても孤独に見える。
そんなファーンを支えているのは、自分への誇り。代用教員時代の教え子の少女に、「先生はホームレスになったの?」と尋ねられ、自分はハウスレスだと答える姿は印象的だ。ホームレスとハウスレスは、全然違うのだと。
そう、ファーンが出会うノマド仲間も、ハウスレスを選んだ理由はさまざまながら、誰も自分を不憫だなどと思っていない。むしろ、家賃や家のローンから解放されたことを喜ぶ者もいれば、人生に悔いを残さないための選択である者もいる。そんなノマド仲間役で、原作にも登場する本物のノマドたちが本人役で出演。
ジャオ監督は、過酷な現実をたくましく生きる彼らにアメリカの開拓者精神を感じているようで、その思いは、皮肉にも夫が不動産業で成功しているファーンの姉の言葉にもうかがえる。
とはいえ、こちとら定住してナンボの農耕民族。しかも老後に不安しかないフリーランスの身としては、ファーンがクルマを走らせる広大なアメリカ西部をとらえた詩的な映像に心洗われてばかりはいられない。