2021年5月23日 19:40
不妊女性に被害者遺族…書評家が「今年の大注目作」と絶賛の短編集とは
間違いなく、今年の大注目作。一穂ミチさんの『スモールワールズ』は、家族がテーマの短編集だ。
家族という小さな世界で生まれる大きな痛みと祝福。話題の作品集。
「毎回形式を変えて、いろんなスタイルを試してみました」
巻頭の「ネオンテトラ」は不妊に悩む既婚女性が、恵まれない家庭環境で暮らす中学生の少年と出会う話。
「普段はBLを書いているので、女の人の語りを書いてみようと思って。熱帯魚のネオンテトラの語感が好きなのでタイトルに選び、水槽や自然繁殖できないといったイメージを重ねていきました」
孤独な二人の交流の話かと思いきや、驚きの展開に。本書は予想外の景色が見えてくる話が多いが、
「オチのない小説も好きですがそれを書くには文章力が必要。
私にはまだ無理なので、小さな裏切りを入れて退屈させないようにしています」
とのこと。が、ただ驚かせるだけではなく、どれも胸を打つ内容だ。2話目の「魔王の帰還」は、キャラクターありきで書き始めたそうで、豪快な姉と小心者の弟と一人の少女の交流がキュンとさせる。残酷な童話をイメージしたという3話目の「ピクニック」は「ですます」調の文体に企みが。4話目「花うた」