2022年1月7日 18:10
訳ありげな気配漂うものの…男女のささやかな絆を描く物語『あなたに安全な人』
亡くなった両親が住んでいた東北の家に戻り、いまは一人暮らしをしている妙。水回りの不具合を見てもらおうと便利屋の青年、忍を呼ぶ。雑用で妙の家に呼ばれるうち、ふたりの距離は少しずつ縮まる。もっとも、ひと回りほど妙が年上で、恋愛や友情などとは程遠い。それでもふたりのささやかな連帯に希望がにじむ。木村紅美さんの『あなたに安全な人』は、そんな物語だ。
「これまで書かれたことのない関係が書けていたらいいなと思います」
妙と忍とが交互に語りを務める。どちらも東京近郊からのリターン組というだけでなく、他にも共通点がある。
元教師の妙は夏休みに、忍はデモの警備をしているときに、それぞれ事件が起きて人が死に、「自分はその死に関わっているのではないか」という負い目を背負うことになったのだ。近所では東京からの移住者が不審な孤独死をしたばかりで、コロナ禍でのその出来事もまた、彼女たちの感情をかき乱す。
「『そんなつもりはなかったけれど、もしやあのとき、自分はあの人を傷つけてしまったのではないか』という罪悪感を持ったり、『この人を傷つけたい』という衝動にからめ取られたりって、わりと誰にでもある経験のような気がします。