2022年1月7日 18:10
訳ありげな気配漂うものの…男女のささやかな絆を描く物語『あなたに安全な人』
そうした負の感情から目を逸らさず、書いていきたいと思いますね」
互いの苦境や本音を打ち明け合ったりもしないため、ふたりの間に漂うのは、ただ訳ありげに思える気配だけ。それにうっすら気づきつつ、問い詰めたりしないその距離感が好ましい。実際、妙と忍の交流は、ときにユーモラスにさえ映る。
そんなふうに、木村さんの小説はいつもどこか人間が本質的に持つ寂しさと滑稽さがないまぜになって進む。実は、20代のころから『楢山節考』で知られる深沢七郎が好きだと聞いて、合点がいった。
「『みちのくの人形たち』という短編集が特に好きです。東北の村での間引きなど暗い因習についての物語ではあるんですが、私は、そこにむしろ生きる気力をもらったんですね。死んでいたかもしれない、生まれていなかったかもしれないと思うことで、逆に生きることを受け入れることができたというか」
本書からも、そうした逆説的なたくましさをもらえる気がする。
『あなたに安全な人』意味深なタイトルは、木村さん自身が好きな韓国の現代文学の影響や、安全という言葉の持つ危うさから考えついたものだとか。河出書房新社1837円
きむら・くみ1976年、兵庫県生まれ。