2022年5月24日 19:10
早見和真「手応えを感じた」 愛媛での凄惨な事件に向き合い描いた『八月の母』
記事の中には、彼女は10代の子どもたちに愛情をかけていたというコメントもあった。いい母親になりたいという憧れと、母になる以外の生き方が許されないような空気と。その鎖に女性たちはがんじがらめになり、連鎖していき、事件は起こさないけれど苦しんでいる女性にはたくさん会ってきました」
物語は、とある家族の仲睦まじさを描くプロローグがまず置かれ、続く第一部で、愛娘エリカを授かった喜びに満たされる越智美智子の幼少期の回想から始まる。1977年8月から時系列に沿って、第一部は美智子とエリカの、第二部はエリカとその娘の陽向や愛華、エリカの団地に出入りする紘子たちの関わりが描かれていく。
閉塞感のある土地で、女性に生まれてしまったことの因果。3世代の女たちは、そこから抜け出そうとあがくのだが…。やがて、歪な愛憎が暴走した事件が起きる。
「社会通念って、女性たちを縛ると同時に、あきらめたり流されたりすることの言い訳にも使えてしまう。
愛媛で生まれて育って『ここしか知らない』と言う人と話していて、言葉が通い合わないと感じたことも多かったんですよね。絆や結びつきって肯定的に描かれることが多いけれど、この作品には、決別や分断から生まれる希望を託してみたいと思った。