くらし情報『【カツセマサヒコのショートショート】あなたはいらない。指だけ欲しい。』

2022年8月10日 19:00

【カツセマサヒコのショートショート】あなたはいらない。指だけ欲しい。

Lサイズのポテトの群れから、硬くて短いそれと、長くて柔らかいそれを一本ずつ並べて、彼女は言った。

「どっちが好き?」
「ああ、こっち」

俺は迷わず、硬くて短い方を指差した。ふにゃふにゃと長く柔らかいポテトでは、食べ応えが感じられないから。
その答えを予測していたのか、「やっぱりね」と、彼女はため息まじりに返した。それから、「私はこっち」と、長くて柔らかい方を指差す。

「私たち、本当に合わないね」
「相性診断か。心理テストかと思った」
「ポテトで心理テストは無理でしょ」
「いや、硬くて短い方を選んだあなたは芯がしっかりしているでしょう、みたいな」
「長くて柔らかい方を選んだあなたは心が柔軟で寛容でしょう、とか?」
「お前が柔軟なわけないだろ」
「そっちに言われたくないよ」

長くて柔らかいポテトが、端から少しずつ彼女の口内に消えていく。その唇や指先は、ポテトの油でヌルヌルと光っていて、妙にエロかった。

あれが、彼女と行った最後のファストフード店だった。それから二ヶ月もしないうちに、俺たちはまた些細なこと(たとえば玄関の靴は揃えて置けとか、汚れるから立って小便をするなとか、食器のしまい方が雑だとか、コンセント挿しっぱなしをやめろとか、ゴミ出しの日を覚えろとか、電気つけっぱなしで寝るなとか、服を畳んでからしまえとか、最初に説明書を読めとか、そういう本当に些細なことだ)

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