時を遡る連作集『あわのまにまに』 少しずつ明かされていく、ある家族の風景とは
どんな時もマイペースな母親、23歳も年上の兄シオン、母と仲がいいのか悪いのかよくわからない叔母、祖母のお葬式で泣きくずれていたおばあさん…。少女の目を通して見ても、この家族にはなにか歴史や秘密がある、と思わせる。そして章を追うごとにいのりの妹やその夫など視点人物が変わり、家族の秘密が少しずつ明かされていく。
重要な真実は明かすが細部の事実は伏せて想像力をかき立てまくる、スリリングな読み心地だ。そのなかで、ファッションや食べ物の流行の変化がわかるのも読みどころ。
「1989年以前のことは自分もよくわからなくて、林真理子さんの当時のエッセイや田中康夫さんの『なんとなく、クリスタル』を読んだり、向田邦子さんの昔のドラマを見たりしました。DCブランド全盛だったり、私の世代ではすっかり馴染みのあるベーカリー『ドンク』が特別視されていたりと、いろんな違いが見えてきて面白かったです」
なかでも切実に伝わってくるのは、女性観、ジェンダー観の変化。
「たとえば『源氏物語』などを読むと、男の人はなぜこんなに女の人に貞淑を求めるんだろうと感じるんです。
きっと子供が生まれた時に、男性は本当に自分の子かわからないから、それゆえ女性を監視し監禁しているのかなと思う。