アジアの作家たちによる“奇跡のアンソロジー”も! 押さえておきたい小説界の新潮流
三浦:それはたしかにそうですね。登場人物と同じ状況に陥ったときに自分ならどうするかと考えたり、思いがけない価値観と出合うのも小説を読む醍醐味のひとつですからね。
吉田:ディストピア小説って、いま三浦さんがおっしゃったように「自分ならどうする?」ということや倫理観を突き付けられる思考実験の要素が強いですよね。その意味で、安野貴博さんの『サーキット・スイッチャー』もおすすめです。誰かの犠牲が避けられない状況で、自動運転を担うAIは命の重さをどう判断するかという、これまたトロッコ問題がテーマですが、ハリウッドばりのアクション・スリラーで、何より素晴らしいのは最後に希望を見出していること。ディストピア的想像力をキックする、「ホープパンク」「ソーラーパンク」といった海外SFの潮流とのリンクを感じました。
三浦:私はディストピアでは、川野芽生(めぐみ)さんの『無垢なる花たちのためのユートピア』を推したいです。気鋭の歌人である川野さんの初の小説集ということで話題になっていますが、歌人というフックなしに単純にすごい才能の作家が現れたなと。
とくに印象的だった一編「卒業の終わり」は、ある秘密を抱えた女学園を舞台に、主人公がどう生きていくかや女性性を問う物語。