性欲が愛する人を無意識に追い詰めていた…男性性に疑問を抱く主人公の心理を描く『一番の恋人』
にプロポーズをしたところ、冒頭のような返事をされてしまう。しかも彼女はアロマンティック・アセクシュアル(他人に恋愛感情や性的欲求を抱くことがない性質)で、好きな人を愛せないことを密かに悩んでいたのだった。
「例えばセックスで喜んでいると思っていた反応が、実は拒絶だったと知るのは、今までのことが否定されるわけですから、一番にとって相当ショックなはずですよね。かといって、それを理由に別れようとは思えないだろうから、その辺の葛藤はしっかり書かなければと思いました」
当たり前に備わっている性欲が、愛する人を無意識に追い詰めていた衝撃。一番はやがて、男としての自分を持て余すようになり、男同士の酒の席で無邪気に交わしていた下ネタなども嫌悪するようになる。
「男だけで集まると、男性性の誇示としてセックスの体験自慢とか、女性を値踏みするような話をする場面がよくあるんです。僕はあまり好きじゃないのですが、自分も男だから完全には否定できない。嫌だなと思う半面、結局片足を突っ込んでいて、逃れられないんですよね」
千凪への思いを断ち切れない一番と、周りの人のように「普通」の人生を送りたい千凪は、このまま一緒にいられるのか。