たくましくてまぶしい…母親の死という喪失から出発して、生き始める少年の物語『あのころの僕は』
内から湧き出る思いを、言葉を選びに選んで編んでいく。繊細で美しい文章表現で、早くも多くのファンをつかんでいる小池水音さん。
5歳の少年がつかんでいく生の感触。喪失という体験に光を当てる。
最新刊『あのころの僕は』は、母親の葬式に参列している5歳の〈僕〉こと〈天(てん)くん〉の記憶の断片から始まる。彼は母と死に別れ、4つの家を行き来して過ごしている。おもちゃやパジャマ等はそれぞれの家に用意され、〈母親がいなくなった空白に流れ込むようにして〉あふれるほど愛を差し出される〈僕〉の、落ち着かない日常と戸惑いが綴られていく。
「彼は、母親がいなくなって何が起きているんだろうと必死で理解しようとする。
かつ父親の顔色を見てふるまいを定めたり、叔母や祖父母などの家をぐるぐる回っても聞き分けています。けれども本人ですらつかみきれていないレベルで感じているだろうもやもやは、作者の僕もすべてわかるわけではなくて。なので、彼の内で渦巻いている何かを尊重して書きたいとは意識していました。同時に、子どもに何かを与えることで喪失を埋めたことにして自分を保とうとする大人たちが大勢いて、そういう景色は、子どもにとっては重いだろうなとも感じていましたね」