2017年5月10日 21:00
【シネマモード】思いつくまま撮影できる時代だからこそ…人々を惹きつける写真家ロベール・ドアノーの魅力を知る
そして、自らの分を知り、芸術家ではなくあくまでも職人であることを貫いた人。ありきたりのものや人の中にある輝きを見出すことを愛し、その瞬間が訪れるまで歩き、探し、待つ、努力の人だったのです。そして、その努力や苦労は決して作品ににじませない。でも、その裏側こそが、彼の作品の魅力の土台となっていたのです。むしろ、あの瞬間が計算によって実現していたこと、そしてそれでもなお、あの瞬間が真実となり、ロマンティックなパリという世界観を映し出す確かな細部となっていたことに驚いたのです。
私たちは、これまでになく写真と密接な関係を持つ時代に生きています。常にカメラが内蔵されたスマートフォンを持ち歩き、思いつくまま撮影し、それをSNSなどにアップロードし、人と感情を共有しています。だれもがカメラマンだと言える時代かもしれません。
でも、職人になれる人はひと握り。技術や写真の出来以上に、ドアノーを写真家たらしめたのは、1秒への執念だったのかもしれません。ドアノーが生きたフィルムカメラの時代には、大きなメモリを内蔵するデジタルカメラが主流のいまでよりも、1枚の重みが違っていたことでしょう。皆、どれほどの緊張感を持ってシャッターを押していたことか。