『ドクター・スリープ』が描き直すことに成功した 「シャイニング」の本当の意味
一つは、「アルコール依存症の父親に怯える妻と息子」というキングの幼少期の実体験に基づく物語の骨子が、ジャック・ニコルソンのエキセントリックすぎる演技もあって後景に追いやられてしまったこと(例えば、原作での妻のキャラクターは映画のように「受け身」の女性ではない)。もう一つは、作品のタイトルにもなった息子ダニーの持つ力「シャイニング」(特別な力)が、冒頭でも述べたようにおざなりに描かれているところだ。キングにしてみれば、映画『シャイニング』は「自分(息子)と母(妻)を脇に追いやって、憎らしい父親(主人公)ばかりに焦点を当てた作品」ということになるわけだ。
原作「シャイニング」が発表されたのはキングがまだ20代だった1977年のことだが、後に彼はこのタイトルが、ジョン・レノンがプラスティック・オノ・バンド名義で発表した「インスタント・カーマ」(1970年)の歌詞からのインスピレーションであったことを明かしている。つまり、《Well we all shine on / Like the moon and the stars and the sun》(そう、僕らはみんな輝くことができる/月のように、星のように、太陽のように)