自伝映画ではない、“個人的な映画”としての『マリッジ・ストーリー』
《text:山崎まどか》
『マリッジ・ストーリー』が今季の賞レースにおける注目作なんて、何だか不思議な気がする。それはこの映画がベリー・ノア・バームバックとしか言いようがないものだからだ。
すなわち、1.ノア・バームバック自身のライフ・ストーリーを感じさせるものであり 2.ニューヨークの映画人らしい嗜好に溢れた映画であり 3.とても“個人的”な作品。ノア・バームバックは自身の体験から映画の題材を紡ぎ出すが、監督自身の弁によると、彼の映画は「自伝的ではないが個人的」な作品だという。バームバックの映画を追うことは、彼の人生の出来事を追体験するのと同時に、彼の物語の中に自分の体験を見出すことだ。
まずは1.“ライフ・ストーリー”から『マリッジ・ストーリー』を見てみよう。前作『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』(2017)には、2019年の3月に亡くなった父ジョナサン・バームバックを入院させた時のことがフィードバックされていたが、今回はアダム・ドライバー演じる演出家のチャーリーとスカーレット・ヨハンソン扮する女優ニコールの関係に、かつて夫婦だったノア・バームバックと女優ジェニファー・ジェイソン・リーを重ねる人も多いだろう。