ソロシネマ宅配便 第14回 草なぎ剛が演じる“究極の普通さ” - 映画『台風家族』
さて、そんな草なぎ剛が主演したのが映画『台風家族』(2019年)だ。10年前に銀行で2,000万円を強盗した両親の葬儀のために、鈴木家の4人きょうだいが10年ぶりに葬儀屋を営んでいた実家に集まる。とは言っても、逃走したまま行方は分からず、死体も盗んだ金も見つかっていないが、きょうだいで財産分与を行うための形式的な葬儀である。
長男の鈴木小鉄(草なぎ剛)は妻・美代子(尾野真千子)と娘・ユズキ(甲田まひる)の3人で実家に帰る。長女の麗奈(MEGUMI)や三男の千尋(中村倫也)ら他のきょうだいに対して、「預金や保険もたいした金額じゃない。遺産はこの家と土地だけ」なんつって場を仕切り、少しでも多くの遺産を手に入れようと仕掛ける。
そう、夢を諦めた小鉄はあらゆる仕事が長続きせず、交通事故でむち打ちになるくらいツイてなく、自分に卑屈で銭ゲバでナチュラルに“普通のクズ”である。
別に躊躇なく人を刺すとか、日常的に強盗をやるとかそういういかにも映画的な分かりやすいヘビーなクズじゃない。
どこにでもいる、普通のクズだ。でも、不思議と草なぎ剛が演じると不快感はない。実はちょっといい奴なんじゃねえかと観る側に絶妙に思わせるクズなのだ。