ソロシネマ宅配便 第15回 稲垣吾郎、『半世界』で見事に演じる“39歳中年男”のリアル
なにせ、ディテールがいちいち丁寧で、見ているこっちの心のずっと奥の方を刺激する。中年男3人が夜の海辺であの頃のようにだべって、なぜかおしくらまんじゅうをしながら歌うのは大事MANブラザーズバンドの「それが大事」だ。いやぁたまんない。
独身の光彦は酒に酔っ払って、「なんでこの街は風俗も映画館もねぇんだよ!」なんて叫ぶが、関東の田舎町に育った俺もその気持ちは痛いほど分かる。そうだった、どこにも逃げ場所はない。恐ろしく閉じられていて、けど腹が立つくらい居心地がいい瞬間もある。だから、人はそんなしがらみを捨て都会に出るのだ。
○■“39歳のおっさん”を見事に演じる稲垣吾郎
とにかく全編を通して主人公の稲垣吾郎が絶妙にいい。
中年の現実に直面する“39歳のおっさん”を見事に演じきっている。自分の考えは基本正しいと信じていて、ときに雑だ。公務員を望んだ親の反対を押し切り、跡を継いだ炭焼きの稼ぎは年々減る一方で、ホテルへ営業に行く際はスーツすら着ない。子育ては妻に頼りっきりで、息子の好きな食べ物を聞かれても「う、うどん……かなぁ」なんつってぼんやりとしたことしか答えられない。
かと思えば、親身になって友人を助け、なんだかんだ不器用に妻を愛し、彼女が隠れてタバコを吸っているのを知りながら言えなかったりする一面もある。