女の節目~人生の選択 (14) vol.14「初めての、就職」【23歳】
大手出版社と違って小さいところは話が早くていいなぁ、と思った。十数通目の履歴書を送った先で、同時に受けていたのは児童書の出版社と、刊行物の多い大手化粧品メーカーの宣伝部。この三つ全部に落ちたら、就職活動は中断して何か別の道を探ることに決めていた。
決めた途端に、京橋の出版社は次の電話を掛けてきた。やっぱり小さいところは話が早くていい。一次面接のときと同じ、渋い声の男性だ。今度は大変マイルドな口調で、しかも半笑いだった。ちょっと待て、これは内定の連絡じゃないのか、なんでこのオッサンはこんな大事なときに半笑いかよ、と訝りながら、恵比寿駅へ続く道すがら、壁の隅に寄って必死で用件を聞き取ろうとする。
「あのね、あなた、健康診断の尿検査で引っかかってましてね……うん、おしっこです。今から言う診療所に行って至急、再検査を受けてもらえませんか/ 一応、その検査結果が出てから、皆さんへ合否連絡となりますから。みんな、あなた待ちなんですよ、うん、あなたの尿待ち」
慌てて再検査を受け、あっという間に内定が出たわけだが、「あのときはさー、岡田くんの尿待ちでさー、俺も参ったよー! 我が娘のようにハラハラしましたよ!」