女の節目~人生の選択 (15) vol.15「初めての、会社員」【24歳】
恵まれた家庭に育った勉強のできる女の子が「尊敬する父のちょっと上を行く、けれども父の轍からはハミ出さない」キャリアを築く。あるいは偉大なる父に反発してイエを飛び出し、きっかり180度逆の道を歩むことで激しく自己主張する。それに比べてうちは、私は、なんだか冴えないな、という気がしたのは、父親がどこにでもいるサラリーマンだったからだ。満員電車で会社勤めする父、子育てに専念する主婦の母、三人の子供、ローンを組んで中古で買ったマイホーム。
「サラリーマンの子は、ほとんどがサラリーマンになる。彼らは父の背中を見て、サラリーマンになるのが当たり前と思って育つからだ。かくて世の中にはサラリーマンがどんどん増えていく」。起業したとある知人は、よくそう言って笑う。
企業に雇われ組織に従う「社畜」に対し、かなり棘のある言い方だ。「変ですよね、医者や政治家と違って、世襲するメリットなんかないのに……」と力無く笑い返す私もまた、サラリーマンの娘であるサラリーマンだった。幼馴染は本当に父と同じ法学部の推薦枠を取った。どこかしらの医学部へ入った友達にはやっぱり医者の娘が多かった。進学先を決めると同時に将来就く職業の専門性まで自動的に決まる彼女らは、趣味嗜好とその場のノリで学部を選択した私とはまるで別種の生き物と思えた。