女の節目~人生の選択 (15) vol.15「初めての、会社員」【24歳】
将棋の駒でいうと「金」とか「銀」とか「桂馬」とか。
私は「歩」の娘で、モラトリアム期間にほっといたらやっぱり自然と「歩」に育ち、このままコツコツ進んで、成れたら「と金」になる、という人生なんだなと思った。職業に貴賎があるとは思わないが、駒によってレアリティは違う。使い方、使われ方、活躍の仕方、場に出る数、資格の有無も違う。しかしパッと見て最弱であるはずのこの駒が、「歩のない将棋は負け将棋」などとも言われる。出版社へ新卒入社し、サラリーマンになりたての私の気概は、まぁ、だいたいそんな感じだった。
○もしも空気が読めたなら
一張羅のスーツを着て入社式へ出向き、数日間の眠たい座学を経て、身体を動かす最初の仕事は、書店研修だった。「とにかく動きやすい服装で来てください」と言われた通り足元はスニーカーで、エプロンを掛けて店頭で働いた。
カリスマ書店員が何をもってカリスマと崇められているのか間近で観察しつつ、激務で腰を壊したベテランに代わり無数の段ボール箱を運び、裏の在庫置場でベストセラーコミックの新刊にビニールシュリンクをかけ続けてナチュラルハイになる日々が約一ヶ月続いた。
いったい自分がどこに就職したのか忘れかけた頃にお迎えが来て、次は倉庫での研修期間だった。