女の節目~人生の選択 (15) vol.15「初めての、会社員」【24歳】
しかし私は、10年と言わず、許されるなら定年退職するまで、この会社に勤めたいと思っていた。「と金」には「と金」の強さがある。それは私自身が最も苦手とするタイプの強さだった。定められた華美すぎない服装。10分前出社。朝礼での報告・連絡・相談。相手の階級に合わせて使い分ける言葉遣い。使途を明確にして経費で落とす領収書。
空気を読んでこなす雑用。
これは「会社員」というよりは「社会人」の基本かつ暗黙のルールなのであるが、ほっといたらそんなもの私には一生身につかないことは、火を見るよりも明らかだった。手のつけられない放蕩息子を寄宿学校へ預ける親のように、私は私自身を早く「会社」に預けてしまいたかった。きっと「会社」なら、私の最も弱い部分をビシバシ鍛え上げてくれるだろう。一番身近な大人にみちあふれ、大学出たての私に圧倒的に足りない強さを、授けてくれるに違いない。つまり、私は私なりに、疑いの余地なく弁護士を志していたファザコンの幼馴染と同じように、身近なサラリーマンの働く姿を尊敬していた、ということである。
個性を没し、自分を捨てて、会社組織の中で「歯車」として働くことは、つねに苦しみを伴う。