女の節目~人生の選択 (15) vol.15「初めての、会社員」【24歳】
同じ場所で毎日毎日働き続けていれば、追い追いそのことにも気づいてしまう。先輩社員たちが私を息抜きへ連れ出してくれた理由もその辺りにあるのだろう。しかし、大きな大きな営みの中の小さな小さなピースの一つとして働くことは、時に喜びをもたらすこともある。私がかけたビニールシュリンクが、私が書き込んだ注文伝票が、個人名ではなく会社の名前で切った領収書が、小さな小さな一つ一つが、この社会を動かしている。私はその喜びのほうを信じて「選択」したのだ。
会社の裏口から歩いて一番近くにあるチェーンの喫茶店は、壁にそってずらりと一名掛けの席が並んでおり、店内の照明をわざとらしく暗めに落としていた。都会のオフィス街では、たまにそんな店を見かける。試用期間を終えて編集部に配属となった私は、勤務時間中に疲労が限界に達するとそこへ行き、一名掛けのソファ席で壁にもたれてコーヒー1杯分の仮眠をとった。
営業研修のときに見た、天井へ向けた顔におしぼりを乗せたまま爆睡している背広の男を思い出しながら。「金」や「銀」や「桂馬」が仕事中にどうやって休憩をとり、どうやって社会を動かすお役目から一時休場するのかは知らないが。盤側の駒台に乗ってふたたび自分の出番を待つ「歩」